使われないツールを見直す3視点|廃止か再設計か

導入したのに使われていないクラウドツールを、利用実態・業務上の必要度・やめるコストの3視点で判定する方法。低利用でも必要度が高いものは廃止ではなく再設計が正解です。年1回の棚卸しを仕組みにする手順まで整理します。

使われないツールを見直す3視点|廃止か再設計か

この記事は、複数のクラウドツールを導入してきた福祉法人の経営者・管理者に向けて、導入したものの使われなくなったツールをどう扱うかを整理するものです。契約は毎年更新され、費用は発生し続けているが、現場で開かれているかどうか誰も把握していない。この状態を年1回の判定で整理する方法を扱います。

結論から言えば、「使われていないから解約する」という判断は半分しか正しくありません。使われていない理由が運用設計の欠落にある場合、解約は紙と口頭に戻る決定になります。まず理由を分け、それから残すか捨てるかを決める順序が必要です。

なぜ導入したツールは使われなくなるのか

導入は決定されるが、運用は決定されない

ツールの導入は、稟議や理事会で明示的に決定されます。一方で「誰がいつ何のために開くのか」は、多くの場合決定されずに現場に委ねられます。この非対称が、使われないツールを生む最大の要因です。決定されていない事柄は、忙しい現場では実行されません。

導入時に多いのが「まず使ってみて、良ければ広げよう」という進め方です。試行として妥当ですが、試行の終了条件を決めていないと、試行のまま数年が経ちます。導入段階で起きやすい詰まりのパターンは福祉のAI導入が失敗する5パターン|回避策つきで整理しています。

入口が複数あると、どれも使われない

連絡がチャットとメールと口頭の3系統で流れている職場では、チャットツールの利用率は上がりません。情報を取りに行く場所が複数ある状態では、職員は最も確実な手段(結局は口頭)を選びます。ツールの機能ではなく、その情報がそこにしか無いかが利用率を決めます。

人が替わると使い方が引き継がれない

福祉の職場は職員の入替わりがあります。導入時に説明を受けた職員が異動・退職すると、使い方は誰にも引き継がれません。手順書が無い、あるいは初期設定時のものから更新されていない場合、新任職員はそのツールの存在自体を知らないまま業務を覚えます。

見直しの3つの視点

視点1:利用実態を推測ではなく数で見る

最初にやることは、印象を排除することです。多くのクラウドサービスは、管理者画面で最終ログイン日やアクティブユーザー数を確認できます。まずここを見ます。数が取れないツールについては、担当者に「直近1か月で開いたか」を聞くだけでも十分な情報になります。

このとき合わせて確認したいのが、契約しているライセンス数と実際に使っている人数の差です。退職者のアカウントが残ったまま課金されているケースは珍しくありません。この確認だけで固定費が下がる法人は少なくありません。

視点2:業務上の必要度を、代替手段の有無で判断する

「必要かどうか」は主観になりやすいため、判断の仕方を決めておきます。使いやすい基準は「このツールが明日止まったら、業務は何で代替されるか」です。答えが「紙と口頭に戻る」であれば必要度は高く、「特に何も変わらない」であれば低い。この問いは、機能の多寡ではなく業務への埋め込み度合いを測ります。

視点3:やめるコストを見る

3つ目は、廃止する側のコストです。中に蓄積されたデータの取り出し方、保存義務がある記録が入っていないか、他のツールとの連携が切れないか。この確認を飛ばして解約すると、後から必要になった記録が取り出せないという事態が起こります。データの持ち出し可否は導入時に確認しておくべき項目でもあり、選定基準の考え方は非営利割引のストレージ比較|選定5つの視点で扱っています。

2軸で4象限に振り分ける

「使われていない」の中身を2軸で分ける同じ低利用でも、必要度が高いか低いかで打ち手は正反対になる 業務上の必要度 高 業務上の必要度 低 A 必要なのに使われていない原因は運用側。手順・権限・入口の設計を直す打ち手:再設計して残す・入口を1つに寄せる(通知はここだけ)・担当者と代替者を指名する・使う場面を業務手順に埋め込むここを廃止すると、紙と口頭に戻るだけ B 必要で、使われている見直しの対象ではない。ただし依存先として管理する打ち手:契約と権限を点検・退職者アカウントが残っていないか・データの持ち出し手段があるか・料金プランが実人数と合っているか止まったときの代替手段を決めておく C 必要でなく、使われていない導入時の想定が外れた。残す理由を探す段階ではない打ち手:期限を決めて廃止・中のデータの引き揚げ先を決める・解約日と最終利用日を記録に残す・なぜ外れたかを1行で書き残す記録を残さないと同種のツールを再び買う D 必要でないが、使われている現場が自主的に使っている。統制と実用の両面を見る打ち手:公認するか、置き換える・個人情報が入っていないかを最優先で確認・有用なら法人契約に切り替える・不可なら代替と移行期限を示す禁止だけを通知すると水面下に潜る 判定は年1回、同じ2軸で。前回どの象限だったかを併記すると、動いたツールが見える。

Aは廃止候補ではなく再設計候補

最も判断を誤りやすいのがA象限、つまり必要度は高いのに使われていないツールです。ここを利用率だけで見て解約すると、法人は業務の型を失い、以前の非効率に戻ります。必要なのは、入口を1つに寄せる、担当者と代替者を指名する、業務手順書の中に使う場面を書き込む、という運用側の手当てです。

とくに効くのが入口の一元化です。「この連絡はこのツールにしか流さない」と決め、例外を作らないこと。移行の進め方は拠点間の情報共有をクラウド統一|移行5手順を参考にしてください。

Cは期限を決めて廃止し、理由を残す

C象限は廃止で構いません。ただし、必ずなぜ想定が外れたのかを1行で書き残すことをおすすめします。この記録がないと、数年後に担当者が替わったとき、同じ用途のツールをまた導入します。「現場に担当を置かずに導入したため定着しなかった」といった一文が、次の判断を守ります。

Dは禁止通知だけで終わらせない

法人として契約していないツールが現場で使われている場合、最優先で確認するのは個人情報が入っていないかどうかです。そのうえで、業務上有用であれば法人契約に切り替える、不可であれば代替手段と移行期限を示す。禁止だけを通知すると、利用は水面下に移り、把握できなくなります。

年1回の判定を仕組みにする

契約更新月ではなく、年度の決まった時期に

点検を契約更新月に合わせると、ツールごとにばらばらの時期に判断することになり、法人全体の重複や整合を見られません。年度の決まった時期に全ツールを一覧にして、同じ2軸で判定するほうが実務的です。

一覧に残す項目は6つで足りる

ツール名、用途、契約ライセンス数、実利用者数、業務上の必要度、今回の判定と前回の判定。この6項目を1行にした表を法人で1枚持ちます。前回の判定を併記しておくと、「A象限に2年連続で入っているツール」が見え、運用の手当てが実際には行われていないことが分かります。

判定者を管理部門だけにしない

必要度の判断は、現場の管理者を入れずに行うと精度が落ちます。逆に現場だけに任せると、慣れているものを残す方向に寄ります。管理部門と現場管理者が同じ表を見て、必要度の欄だけを現場が埋める形が、実務上のバランスが取りやすい進め方です。

まとめ

使われなくなったツールの見直しは、費用削減の作業ではなく、業務の型を維持するための作業です。利用実態を数で見て、必要度を代替手段の有無で判断し、やめるコストを確認する。この3視点で4象限に振り分ければ、再設計すべきものと廃止すべきものが分かれます。そして判定の結果と理由を残すことが、次の導入判断の質を決めます。

よくある質問

Q. 利用率が低いツールは、とりあえず解約してよいのではないですか?
A. 業務上の必要度が高いにもかかわらず使われていない場合、原因は運用設計にあります。解約すると業務は紙や口頭に戻り、以前の非効率が復活します。必要度が低いことを確認してから廃止する順序が安全です。

Q. 見直しの頻度はどれくらいが適切ですか?
A. 年1回、年度の決まった時期に全ツールをまとめて判定する形が実務的です。契約更新月ごとに個別に判断すると、法人全体での重複や整合を確認できません。

Q. 廃止すると決めたツールで、まず確認すべきことは何ですか?
A. 中に保存義務のある記録が含まれていないか、データを取り出せる形式でエクスポートできるか、他のツールとの連携が切れないか、の3点です。解約日と最終利用日を記録に残しておくと、後の照会に対応しやすくなります。

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