この記事は、追加の予算をかけずに事務負担を減らしたい福祉法人の経営者・管理者に向けて、毎回同じ内容を人が送っている連絡を自動化する方法を整理するものです。対象は、シフト提出の催促、月初の号令、フォーム受信の通知といった定型連絡です。
自動化というと大きな投資が必要に思えますが、この種の連絡に限れば無料の範囲でかなりの部分が動きます。要点は、ツールを機能で比べるのではなく、その連絡が何をきっかけに発生しているかで選び分けることです。
まず「定型連絡」を棚卸しする
自動化できるのは、判断が入らない連絡だけ
自動化の対象になるのは、送る内容と送るタイミングが事前に決まっている連絡です。逆に、状況を見て文面を変える連絡、相手の反応に応じて内容が変わる連絡は対象外です。この線引きを最初にしておかないと、「自動化したが結局手で直している」状態になります。
棚卸しの手順は単純です。管理者が1週間に送っている連絡をすべて書き出し、それぞれについて「毎回ほぼ同じ文面か」「送るタイミングは決まっているか」を判定します。両方に当てはまるものだけが候補です。多くの事業所で、週に5〜10件は該当するものが見つかります。
連絡の起点は3種類しかない
候補が出たら、次に起点で分類します。時刻が起点のもの(毎週月曜、毎月1日)、誰かの入力が起点のもの(フォームが送信された)、内容によって宛先や処理が変わるもの。この3つで、実務上のほぼすべてが分類できます。
起点別に手段を選ぶ
系統1:時刻が起点なら Google Apps Script
すでにGoogleのサービスを使っている法人であれば、追加費用なしで使えるのがGoogle Apps Scriptです。スプレッドシートやフォームに付随する形でスクリプトを書き、時間主導型のトリガーで定時に実行させます。毎週月曜の朝にシフト提出の依頼メールを送る、月初にその月の予定表を関係者へ配る、といった用途に向きます。
制約も公開されています。Googleの公式ドキュメントによれば、トリガーの合計実行時間は個人アカウントで1日90分、Google Workspaceアカウントで1日6時間、1回の実行時間は両者とも6分、メールの送信先数は個人アカウントで1日100件、Google Workspaceアカウントで1日1,500件とされています(出典: Google「Quotas for Google Services」、2026年8月確認)。定型連絡の用途であれば、この範囲で不足することはまずありません。
注意点は、スクリプトが特定の職員個人のアカウントに紐づいてしまいやすいことです。作成者が退職するとスクリプトごと動かなくなります。法人共有のアカウントで作成するか、少なくとも所有者を複数にしておく必要があります。
系統2:入力が起点なら Zapier の無料プラン
フォームの送信をきっかけに通知を飛ばす、といった連携にはZapierが使えます。公式の料金ページによれば、無料プランでは月100タスク、トリガー1つとアクション1つの2ステップ構成、データの確認間隔は15分とされています(出典: Zapier公式 Pricing、2026年8月確認)。
月100タスクという上限は、ヒヤリハット報告や見学申込のような発生件数の限られた連絡であれば十分です。一方、日々の記録に連動させるような使い方には足りません。件数の少ない、しかし見落とすと困る連絡に絞って使うのが、無料枠での正しい使い方です。フォーム側の作り方はGoogleフォームでヒヤリハット報告|無料5手順で解説しています。
確認間隔が15分である点も、事前に共有しておくべき仕様です。緊急連絡の手段としては使えません。緊急時は電話、記録として確実に残したいものは自動通知、という役割分担を明示しておきます。
系統3:条件分岐が必要なら Make の無料プラン
内容に応じて宛先を変えたい、複数の表に同時に書き込みたい、といった分岐を含む処理では、Makeの無料プランが選択肢になります。公式の料金ページによれば、無料プランは月1,000クレジット、実行間隔は最短15分、同時にアクティブにできるシナリオは最大2つとされています(出典: Make公式 Pricing、2026年8月確認)。
シナリオ2本という制約は、実は運用上ちょうどよい歯止めになります。無料の範囲で無理に増やすより、最も効果の大きい2本を選ぶという制約下で運用したほうが、管理できる状態が保たれます。
福祉現場で自動化する前の3つの注意
注意1:個人情報を通す連絡から始めない
最初に自動化するのは、利用者の氏名や状態が含まれない連絡に限ります。シフト提出の催促、会議日程の通知、備品発注の依頼といった内部の事務連絡です。外部サービスを経由する仕組みである以上、利用者情報を流す場合は委託先の監督や安全管理措置の観点から別途の検討が必要になります。
この線引きを曖昧にしたまま便利さを優先すると、後から止めることになり、現場の信頼を損ないます。最初から「このルートには利用者情報を載せない」と決めて設計するほうが、結果的に長く使えます。
注意2:作った人しか直せない状態にしない
無料の自動化で最も多い失敗が、詳しい職員が1人で作り、その人が異動・退職して誰も触れなくなることです。仕組みが動いているうちは問題が表面化せず、壊れたときに初めて「誰も分からない」と判明します。
防ぐには、作った内容を1枚のメモにしておくことです。何をきっかけに、何を、誰に送っているか。設定はどのアカウントのどこにあるか。止めたいときはどうするか。この4項目で足ります。運用が回らなくなったツールの扱い方は使われないツールを見直す3視点|廃止か再設計かも参考になります。
注意3:止まったことに気づける形にする
自動化の怖さは、静かに止まることです。無料枠の上限に達した、連携先の仕様が変わった、権限が切れた。いずれの場合も、多くは何も通知されないまま連絡が届かなくなります。
対策として実務的なのは、月1回、管理者宛てに「今月も動いています」という確認用の通知を1本流しておくことです。それが届かなければ止まっていると分かります。あるいは、受け手側の業務手順に「毎週月曜に届く依頼を受けて提出する」と書き込んでおけば、届かないこと自体に誰かが気づきます。職員向けの案内をまとめる場所についてはGoogleサイトで職員ポータル|無料で作る5手順で扱っています。
まとめ
定型連絡の自動化は、大がかりな投資ではなく棚卸しから始まります。判断の入らない連絡を洗い出し、時刻が起点か、入力が起点か、分岐があるかで手段を選ぶ。無料の範囲でも、Google Apps Script、Zapier、Makeという3系統でかなりの部分が動きます。ただし、個人情報を通さない、属人化させない、止まったことに気づける形にする。この3点を守ることが、便利さを続く仕組みに変える条件です。
よくある質問
Q. 無料プランの上限に達したらどうなりますか?
A. サービスによって挙動は異なりますが、上限に達した時点で処理が実行されなくなるのが一般的です。多くの場合、現場には何も通知されないまま連絡だけが届かなくなります。月1回の稼働確認通知を仕込んでおくか、業務手順の側に「届くはずのもの」を書いておく対策が有効です。
Q. 利用者の記録に関する連絡も自動化してよいですか?
A. 外部サービスを経由する構成である以上、利用者情報を扱う場合は委託先の監督や安全管理措置の観点からの検討が別途必要になります。まずは個人情報を含まない内部の事務連絡から始め、範囲を広げる場合は法人としての整理を先に行ってください。
Q. 3つのうち、どれから始めるのがよいですか?
A. すでにGoogleのサービスを使っているなら、追加費用がかからないGoogle Apps Scriptによる定時通知が最も始めやすい選択です。外部サービス間の連携が必要になった段階でZapier、条件分岐が必要になった段階でMakeを検討する、という順序が無理がありません。
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