介護職員の数が、統計開始以来初めて減少に転じました。
厚生労働省が2024年12月に公表した介護サービス施設・事業所調査によると、2023年10月時点の介護職員数は212万6,000人で、前年度比2万8,000人(1.3%)の減少となりました。
一方、要介護(要支援)認定者数は2023年度の705万人から2024年度に720万人へと15万人増加しており、職員が減少する中で介護需要は増加するという「逆転現象」が起こっています。
厚生労働省はこの危機に対応するため、5つの柱による総合的な介護人材確保対策を打ち出しており、2026年6月には臨時介護報酬改定(期中改定)を実施して月1.9万円の賃上げを実現する予定です。この記事では、経営層向けに、厚労省の対策内容と、施設が2026年度改定を最大限に活用するための実装ロードマップを紹介します。
厚生労働省が示す介護職員不足の危機度
統計初の職員数減少と需給ギャップの拡大
介護職員数の減少は、業界全体の危機を象徴しています。具体的には以下の推移があります。
2022年度:215万4,000人 → 2023年度:212万6,000人 → 2024年度:212万6,000人(予測)
この3年間の停滞・減少に対し、要介護認定者は毎年約5~10万人増加し続けており、職員1人あたりの負担が急速に増加しています。
厚生労働省の第9期介護保険事業計画に基づく推計によると、2026年度には約240万人の介護職員が必要とされているにもかかわらず、現在の伸びペースでは約215万人程度にとどまり、約25万人(10.4%)の不足が見込まれています。
さらに深刻なのは、2040年度には約272万人(現在比+57万人)の職員が必要とされている一方で、現在のペースでは約215万人にとどまる見通しで、その時点での不足は約57万人(21%)に達する見込みです。
地域・施設規模による不足度の差
厚労省が公表した都道府県別データによると、不足の深刻度に大きなばらつきがあります。
都市部(東京・神奈川・埼玉):
2026年度の必要数に対する不足率が12~15%と特に深刻。訪問介護事業所の競争が激化し、人材獲得競争が厳しい地域です。
地方都市部(愛知・大阪・福岡):
不足率が8~12%で、都市部ほどではないが人材確保の課題が顕著。
過疎地域:
必要数自体が少ないため相対的な不足率は低いが、絶対数での職員確保が困難で、サービス提供体制の維持が危機的状況にある地域も存在。
この地域差が、今後5~10年で施設の経営存続を左右する要因となります。
厚生労働省が打ち出す5つの介護人材確保対策
厚生労働省は、
(1)介護職員の処遇改善、
(2)多様な人材の確保・育成、
(3)離職防止・定着促進・生産性向上、
(4)介護職の魅力向上、
(5)外国人材の受入環境整備など総合的な介護人材確保対策に取り組む方針を示しています。
対策1:処遇改善加算の拡充(2026年6月施行予定)
最も直接的な対策が、処遇改善加算の拡充です。
2026年度改定での賃上げ目安:
介護従事者全体への月1.0万円(3.3%)の賃上げに加えて、生産性向上・協働化に取り組む事業者の介護職員に月0.7万円(2.4%)の上乗せがあり、合計で月1.7万円(5.7%)の賃上げが実現します。
さらに、職場環境改善に充てた場合、月額0.2万円分の上乗せも検討されており、最大月1.9万円(6.3%)の賃上げ効果が見込まれています。
対象サービスの大幅拡大:
これまで処遇改善加算の対象外だった、訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅介護支援(ケアマネジャー)、地域包括支援センターが新たに対象に加わることが検討されており、介護職員以外の従事者の待遇改善も進みます。
施設経営者の対応ポイント:
2026年6月の改定施行までに、現在の加算取得状況を把握し、生産性向上・協働化の取り組みを開始することが、加算率の上昇に直結します。
対策2:多様な人材の確保・育成(通年)
厚生労働省では、介護分野への介護未経験者の参入を促進するため、介護に関する入門的研修の実施を推進しており、令和7年度は国通知に基づく研修と自治体独自研修が全国で実施される予定です。
入門的研修の活用:
都道府県福祉人材センターが無料で実施する介護入門的研修(約12時間)を活用することで、未経験者の参入障壁を大幅に下げられます。
認証評価制度の活用:
「人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度」は、職員の人材育成や就労環境等の改善につながる介護事業者の取組について、都道府県が基準に基づく評価を行い、一定の水準を満たした事業者に対して認証を付与する制度です。この認証を取得することで、求職者への信頼度が向上し、採用応募が増加する傾向があります。
外国人材受け入れの体制整備:
特定技能「介護」制度により、来日後3年勤務しながら介護福祉士試験に挑戦できる仕組みが構築されており、2025年度からは訪問系サービスでの受け入れも拡大されました。
対策3:離職防止・定着促進・生産性向上(継続)
「介護現場における多様な働き方導入モデル事業」では、リーダー的介護職員の育成を行うとともに多様な働き方、柔軟な勤務形態を介護事業所にモデル的に導入することを通じて、効率的・効果的な事業運営の方法についての実践的な研究を行い、その成果を全国に展開することとしております。
具体的施策:
・週2~3日勤務などの柔軟な勤務形態導入
・夜勤負担の軽減(夜勤回数の削減、夜勤手当の引き上げ)
・ケアプランデータ連携システムへの対応による記録業務削減
対策4:介護職の魅力向上(情報発信)
「介護のしごと魅力発信等事業」では、イベント、テレビ、SNS等を活かした取組を通じて、全国に向けた情報発信を行うことにより、多くの方々が、福祉・介護の仕事について新たに関心を持ち、理解を高めるとともに、その仕事の魅力を感じられるようにすることを目的としています。
施設経営者も、この国の取り組みと連動した情報発信を行うことで、採用効果を高められます。
対策5:外国人材の受け入れ環境整備(2025年度~)
特定技能制度の拡大に伴い、受け入れ側の体制整備を国が支援する施策が拡充されます。
施設経営者の2026年度改定対応ロードマップ
PHASE 1:今月から3月末までの準備「加算取得状況の把握と要件確認」
実施項目:
・現在の処遇改善加算等の取得状況を把握
・2026年度改定で対象となる新サービス(訪問看護など)がないか確認
・生産性向上・協働化の取り組み内容を検討開始
優先度:最高
PHASE 2:4月~6月の実装「生産性向上・協働化の取り組み開始」
2026年6月の改定施行までに、生産性向上・協働化の取り組みを開始することが、加算率上乗せの条件になります。
具体的取り組み:
・ケアプランデータ連携システムへの対応準備(訪問・通所サービス向け)
・記録業務の効率化(ICT導入、紙媒体からデジタルへの転換)
・複数施設との連携体制の構築(協働化)
期中改定対応のポイント:
2026年6月改定時点で、生産性向上・協働化に取り組む「予定」であることを明示できれば、改定初年度から上位区分の加算を算定できる可能性があります。
PHASE 3:7月~12月の強化「処遇改善の実装と職場環境整備」
月1.9万円(最大)の賃上げが実現した段階で、その効果を現場に浸透させます。
実施項目:
・賃上げの内訳を職員に分かりやすく説明
・キャリアパスと資格手当の再整理
・管理職向けハラスメント研修の強化
・職員の1on1面談による定着促進
PHASE 4:2027年1月以降の継続「定着促進と次期改定への準備」
2026年度改定の効果を検証しながら、長期的な人材確保体制を構築します。
よくある質問(FAQ)
Q1:現在、処遇改善加算を取得していない施設は、2026年改定でどうなりますか?
A:2026年度改定では、介護職員等処遇改善加算への一本化により、より多くの施設での取得が可能になる見込みです。ただし、要件確認は急務です。都道府県福祉人材センターや介護保険関係機関に相談し、申請要件を早期に確認することをお勧めします。
Q2:生産性向上・協働化の取り組みが難しい場合は?
A:ケアプランデータ連携システムへの対応、記録業務の効率化など、段階的な取り組みでも加算の上乗せ要件に該当する見込みです。完璧さより「取り組み姿勢」と「改善実績の可視化」が重要です。
Q3:過疎地域など人材確保が極めて困難な場合は?
A:過疎地域向けの特別加算(小規模事業所加算など)の拡充や、複数施設での共同研修・共同採用の枠組みが厚労省で検討されています。地域の福祉人材センターや自治体に相談し、地域全体での対応モデルを構築することが現実的です。
Q4:外国人材の受け入れを検討していますが、2026年度改定との関係は?
A:外国人材は、定着後3年で介護福祉士取得が期待でき、長期的な人材確保として有効です。2026年改定での賃上げを実現できれば、外国人材の採用定着率も向上します。
Q5:訪問介護事業所が新たに対象になる「新加算」はありますか?
A:2026年度改定では、処遇改善加算の一本化と加算率引き上げが主要な変更となり、訪問介護事業所に特別な新加算は予定されていません。ただし、ケアプランデータ連携システム対応による生産性向上が評価される見込みです。
まとめ
介護職員の統計初の減少は、業界全体への警告信号です。しかし同時に、厚生労働省が強力な支援施策を打ち出す「最後のチャンス」でもあります。
2026年6月の臨時改定で月1.9万円(最大)の賃上げが実現し、多様な人材確保施策や外国人材受け入れ制度が拡充されるという環境の中で、今から準備を進める施設は、3~5年後に「人材が確実に確保できる施設」へと変わります。
厚労省の5つの対策を理解し、PHASE別ロードマップに沿って実装することで、人材不足の危機を乗り越えることができます。最初の一歩は「現在の加算取得状況把握」です。
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