この記事は、保育所・認定こども園・児童養護施設・障害児通所支援など「保育士を雇う施設」を運営する法人の経営者と、採用実務を預かる管理者に向けたものです。テーマは、採用時に法律で義務づけられている確認手続きが、現場でどれだけ抜けているかという話です。
ニュースの要点:回答施設の約4割で確認義務が果たされていなかった
こども家庭庁は2026年7月31日、同庁ウェブサイトの「児童生徒等に対し性暴力等を行った保育士への厳正な対応について」のページで、「保育士特定登録取消者管理システムの活用等に関する調査」報告書(令和8年8月)を公表しました。同庁の新着情報では2026年8月4日付でも更新が告知されています。
調査は令和8年(2026年)1月1日時点。対象は109,520施設・事業所で、回答は36,423件(回答率33.3%)でした。結果の要点は次のとおりです。
- ユーザー登録:回答のあった施設のうち、登録済み83.5%(30,413件)、未登録16.5%(6,010件)
- 活用状況:回答のあった施設のうち「常に活用している」46.7%、「活用していないケースがあった」11.6%、「全く活用していなかった」13.9%、「採用機会がなかった」17.0%、「未登録」10.8%
- 保育所・認定こども園に限ると「常に活用している」55.5%、一部未活用12.7%、全く未活用13.1%
こども家庭庁は報告書概要で、「回答が得られた保育所・認定こども園の約3割で、システムの活用が正しくされていなかった(全ての施設・事業所については約4割)」と総括しています。
もうひとつ見逃せない数字があります。システムを活用したと回答した21,212施設のうち、107施設(0.5%)が実際に「特定登録取消者」に該当する者に行き当たっていたという点です。制度が空振りしているのではなく、確認すれば止まる採用が現実に存在しています。
背景:2024年4月から始まっている「調べてから採る」義務
このシステムは、令和4年改正児童福祉法(令和4年法律第66号)に基づき、児童生徒性暴力等を理由に保育士登録を取り消された者などの情報を国がデータベース化したものです。令和6年(2024年)4月1日から稼働しており、保育所等が保育士を任命し、または雇用しようとするときは、システムを活用することが義務づけられています(こども家庭庁「保育士特定登録取消者管理システムについて(概要)」)。
ここで経営者が誤解しやすいのが対象範囲です。調査対象を見ると、保育所・認定こども園だけでなく、小規模保育・事業所内保育・病児保育・一時預かり、児童養護施設、乳児院、児童心理治療施設、福祉型/医療型障害児入所施設、児童発達支援センター・児童発達支援事業、放課後等デイサービス、母子生活支援施設、一時保護施設、女性自立支援施設などが幅広く含まれています。「うちは保育所ではないから関係ない」という整理は成り立ちません。
そしてこの調査結果は、こども性暴力防止法(令和6年法律第69号)の施行を目前に控えたタイミングで出ています。同法の施行期日は令和8年12月25日と政令(令和7年政令第439号)で定められており、対象事業者には犯罪事実確認や安全確保措置などが求められます。既存のシステム活用すら4割が抜けている状態のまま、より広範な確認義務が上乗せされる——これが今の位置関係です。
図解:2つの確認義務と採用フローの関係
事業所の実務で押さえる3点
1. 「知らなかった」が最大の原因。周知の責任は法人側にある
システムを活用していなかった9,274施設が挙げた理由のトップは、「義務づけられていることを知らなかったため」で4,673件(複数回答)。未登録の6,010施設では「登録の方法がわからなかったため」2,234件、「義務を知らなかったため」2,228件が並びます。
つまり、現場が確認を面倒がっているのではなく、そもそも義務の存在と手順が伝わっていないという構図です。これは施設長個人の落ち度というより、法人本部から各施設へ制度改正情報を流す経路が機能していないことの表れと見るべきでしょう。制度改正のたびに現場が置き去りになる法人は、人材確保をめぐる国の議論でも触れられるとおり、採用そのものの競争力にも影響が出ます。
2. 「派遣だから」「パートだから」「知人だから」は理由にならない
報告書の自由記述には、未活用の理由として次のような回答が並んでいます。
- 派遣採用があり、派遣会社の方で確認するものと思っていた
- 雇用形態がパートや派遣など正規雇用でなかったため不要だと思った
- 雇用される者が知人であり、どのような人物か分かっているため不要だと思った
- 特定免許状失効者管理システム(教員向け)を活用すればよいと思っていた
これらはいずれも、義務の対象を自己流に狭く解釈した結果です。法令上の義務は「保育士を任命し、または雇用しようとするとき」に課されており、雇用形態や人物の既知・未知で例外が設けられているわけではありません。採用チェックリストに「例外なくシステム確認」の1行を入れるのが、最も安く効く対策です。
3. 引継ぎの断絶が最大の運用リスク
自由記述で目立つもう一つの類型が、「人事異動での引き継ぎ漏れ」「採用責任者異動時のシステムに係る引継ぎが不十分であった」「登録を失念していた」です。こども家庭庁の説明資料では、機微な個人情報を扱う性質上、システムを利用できる者は施設または法人の採用責任者に限定されています。裏を返せば、採用責任者が代わった瞬間に確認が止まる設計上のリスクを抱えているということです。
ここは業務フローと記録の問題であり、属人性を減らす仕組みづくりの話に直結します。個人情報を扱う手続きである以上、情報セキュリティ基本方針の中に「誰が・いつ・何を確認し・記録をどこに残すか」を位置づけておくと、担当交代時の穴が塞がります。
今すぐやること/今後の注視点
今週中にできることは3つです。
- 自法人の全施設について、システムのユーザー登録の有無を棚卸しする。登録済みでも、採用責任者が現任者になっているかを併せて確認します。
- 2024年4月1日以降に採用した保育士について、確認を行ったかを遡って点検する。抜けがあった場合の対応は自治体の指導監査担当に相談するのが確実です。
- 採用フローの文書に確認タイミングを明記する。確認すべきタイミングは「内定を出そうとするとき」であり、入職後ではありません。
今後の注視点としては、こども家庭庁が調査結果を踏まえた対応として挙げている次の項目が重要です。手順を説明した動画による周知、登録方法・活用タイミング・留意事項をより分かりやすく示した資料の作成、「保育士による児童生徒性暴力等の防止等に関する基本的な指針」の見直し、FAQの更新、そして「ここdeサーチ」でのシステムユーザー登録状況の見える化です。
最後の「見える化」は、経営に直接跳ね返る話です。全国の教育・保育施設情報を閲覧できるサイトで登録状況が公開されれば、未登録であることが保護者や求職者から見えることになります。これは指導監査上の指摘という次元を超えて、施設選びの判断材料になります。児童発達支援や放課後等デイサービスのように地域での信頼が集客に直結する事業ほど、影響は大きくなるでしょう。
なお、基本指針の見直しやFAQ更新は「今後の対応」として示された段階であり、改定内容が確定したものではありません。続報は一次情報で確認してください。
よくある質問
Q1. システムの確認は、いつ行えばよいのですか。
A. 調査票の設問文では「保育士を任命し、又は雇用しようとする(採用内定を出そうとする)とき」と表現されています。入職手続きの段階ではなく、内定を出す前に確認するのが制度の想定です。
Q2. 保育所以外の施設も対象になりますか。
A. 今回の調査対象には、児童養護施設、乳児院、障害児入所施設、児童発達支援センター・児童発達支援事業、放課後等デイサービス、母子生活支援施設、一時保護施設、女性自立支援施設などが含まれています。保育士を任命・雇用する施設であれば、保育所以外も対象です。
Q3. こども性暴力防止法が施行されれば、このシステムは不要になりますか。
A. 報告書で示された今後の対応には「こども性暴力防止法の仕組みとの連携」による周知が挙げられており、既存システムを廃止するとは記載されていません。両者は根拠法も確認対象も異なるため、現時点では併存を前提に準備するのが妥当です。制度の具体的な運用は一次情報で確認してください。
出典
- こども家庭庁「児童生徒等に対し性暴力等を行った保育士への厳正な対応について」内『保育士特定登録取消者管理システムの活用等に関する調査 報告書』(令和8年8月/ページ掲載2026年7月31日、2026年8月4日更新告知)https://www.cfa.go.jp/policies/hoiku/tokuteihoiku
- こども家庭庁「こども性暴力防止法」https://www.cfa.go.jp/policies/child-safety/efforts/koseibouhou
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