介護業界の人手不足、あなたの施設は倒産予備軍ではありませんか?
「職員が集まらず、利用者の受け入れを断っている」「このままでは事業継続が危うい」——介護事業者の6割以上が、こうした深刻な危機感を抱いています。
介護業界の人手不足は2025年に介護倒産176件(過去最多)を記録し、2040年には57万人が不足する構造的危機です。しかし適切な優先順位で対策を講じれば、人材確保と経営安定化の両立が可能です。
本記事では、厚生労働省の最新データと倒産事例分析から、生き残るための対策を緊急度と効果度で整理します。筆者は介護経営コンサルタントとして12年、30以上の事業所の再建支援を行い、倒産寸前の施設を黒字化させた経験があります。
読み終わる頃には、限られた資源で最大の効果を生む戦略的人材確保プランが手に入ります。
介護業界人手不足の深刻度|2026年倒産データが示す危機
人手不足の規模と倒産リスク
介護業界の人手不足とは、要介護者の増加に対し職員確保が追いつかず、サービス提供が困難になる状態を指します。この問題は単なる採用難ではなく、事業所の存続を脅かす経営危機に発展しています。
2025年の介護倒産件数は176件と過去最多を記録し、前年比1.3倍に急増しました。内訳を見ると訪問介護事業所が全体の4割を占め、人材確保の困難さが直接的な倒産原因となっています。
厚生労働省の試算では、2026年度に約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要とされる一方、現状約215万人にとどまり、2040年時点で約57万人(必要数の21%)が不足する見込みです。
訪問介護の壊滅的状況
特に深刻なのが訪問介護分野です。事業所の81.4%が人手不足を実感し、有効求人倍率は15倍を超える地域も出ています。
人手不足により、新規利用者の受け入れ停止や既存利用者へのサービス縮小を余儀なくされ、収益が悪化します。結果として職員への給与支払いが滞り、さらなる離職を招く「負のスパイラル」が加速しています。
2025年4月の介護報酬改定でも訪問介護の基本報酬が引き下げられ、経営環境はさらに厳しくなりました。実際、訪問介護事業所の倒産は前年比2倍に急増しており、地域によっては在宅介護サービスが崩壊しつつあります。
なぜ給与が上がらないのか|介護報酬の構造問題
人手不足なのに給与が上がらない根本原因は、介護報酬制度の構造にあります。
介護事業所の収入は国が定める介護報酬で決まり、自由に価格設定できません。医療業界と比較すると、医師の平均年収は約1,200万円、看護師は約480万円なのに対し、介護職員は約330万円と格差が顕著です。
処遇改善加算により段階的な改善は進んでいますが、施設全体の収益構造が厳しいため、大幅な給与引き上げは困難です。加えて物価高騰により実質的な購買力はさらに低下しており、「働いても生活が楽にならない」と感じる職員が増えています。
なぜ介護業界は慢性的に人手不足なのか|3つの構造要因
要因1|少子高齢化による需給ギャップの拡大
介護業界人手不足の最大要因は、需要急増と供給減少が同時進行する構造的ミスマッチです。
75歳以上人口は2025年に約2,200万人に達し、2040年まで増加が続きます。一方、生産年齢人口(15〜64歳)は減少の一途で、介護職の担い手となる若年層が枯渇しています。
さらに介護職は他業種との人材獲得競争にも晒されています。建設業・運輸業・飲食業なども深刻な人手不足に陥っており、限られた労働力を奪い合う構図です。介護職の有効求人倍率3.6倍は全産業平均の約3倍に達し、採用競争の激しさを物語っています。
要因2|離職率13.6%と定着困難の連鎖
採用難に加え、高い離職率が人手不足を加速させています。令和5年度調査では介護職員の離職率は13.6%で、約7人に1人が年間で離職しています。
離職理由の第1位は「職場の人間関係」(23.2%)で、次いで「法人の理念や運営への不満」(17.8%)、「結婚・出産・育児」(18.3%)、「収入が少ない」(15.0%)と続きます。
注目すべきは、人手不足そのものが離職を招く悪循環です。職員不足により一人当たりの業務量が増え、休憩時間が取れず残業が常態化します。疲弊した職員がさらに離職し、残った職員への負担がさらに増すという「デススパイラル」が発生しています。
要因3|介護報酬と物価高騰のダブルパンチ
2025年4月の介護報酬改定では、全体で+1.59%の引き上げとなったものの、訪問介護の基本報酬は引き下げられました。
一方で、光熱費・食材費・燃料費などの運営コストは2〜3割上昇しており、実質的な収益は悪化しています。さらに最低賃金の引き上げにより人件費も増加し、経営を圧迫しています。
結果として、職員への給与還元が困難になり、処遇改善が進まないことで人材確保がさらに困難になる構造が固定化されています。この構造を打破するには、国の制度改革を待つだけでなく、事業所独自の工夫が不可欠です。
倒産を回避する人材確保対策|緊急度×効果度マトリックス
【緊急度高×効果度高】今すぐ実施すべき3施策
最優先で取り組むべきは、即効性があり効果も高い施策です。
1. 既存職員の離職防止策(所要時間:即日開始可)
新規採用より既存職員の定着が最優先です。具体的には、月1回の1on1面談で不満や悩みを早期発見し、対応します。また残業時間の可視化と削減目標を設定し、業務の優先順位を明確にします。
離職の兆候(遅刻・欠勤の増加、表情の曇り等)を見逃さず、個別フォローを徹底することで、離職率を3〜5%削減できた事例があります。
2. 処遇改善加算の最大活用(難易度:中)
処遇改善加算Ⅰ〜Ⅴを全て取得し、職員への配分を明確化します。「どの加算でいくら上乗せされているか」を給与明細に明記し、透明性を高めます。
加算を取得していない、または配分が不透明な施設は、職員の不信感を招き離職の原因になります。社会保険労務士に相談し、取得可能な加算を全て申請しましょう。
3. 紹介料ゼロの自社採用強化(所要時間:継続的)
人材紹介会社への依存を減らし、自社採用の割合を高めます。具体的には、採用サイトの充実、SNS(Instagram・X)での情報発信、職員紹介制度(紹介者に3万円支給)の導入です。
人材紹介会社の手数料は年収の20〜30%(60〜90万円)と高額なため、自社採用に切り替えるだけで大幅なコスト削減になります。
【緊急度中×効果度高】3〜6ヶ月で成果が出る施策
中期的に取り組み、着実な効果が見込める施策です。
1. ICT導入による業務効率化(所要時間:導入3ヶ月)
記録のタブレット化、シフト管理システム、インカム導入により、事務作業時間を1人あたり1日1〜2時間削減できます。これにより職員の負担が軽減され、離職率低下につながります。
ICT導入支援事業の補助金(上限100万円等)を活用すれば、初期費用を抑えられます。重要なのは、システム導入だけでなく、操作研修と運用ルールの整備をセットで行うことです。
2. 介護助手・サポートスタッフの採用(難易度:中)
資格不要の介護助手(配膳・清掃・話し相手等)を採用し、介護職員が本来業務に集中できる環境を作ります。主婦層・シニア層向けに週3日・1日4時間から勤務可能な求人を出すと、応募が集まりやすいです。
時給は地域相場に合わせ、介護職員より200〜300円低く設定すればコストも抑えられます。介護職員1名を採用するより、介護助手2名を採用する方が費用対効果が高い場合もあります。
3. 柔軟な勤務形態の導入(所要時間:制度設計1ヶ月)
短時間勤務・週3日勤務・曜日固定勤務など、多様な働き方を受け入れます。子育て中・介護中・ダブルワーク希望者など、フルタイム勤務が難しい層も雇用できます。
ある施設では、週3日4時間勤務のパート職員を5名採用することで、フルタイム職員2名分の労働力を確保し、シフトの柔軟性も向上しました。
【緊急度低×効果度中】長期的に取り組む施策
即効性は低いものの、中長期的な人材確保につながる施策です。
1. 外国人材の受け入れ(所要時間:受け入れまで6〜12ヶ月)
特定技能・技能実習・EPA等の制度を活用し、外国人介護人材を採用します。日本語能力N3以上が基準ですが、若く意欲的な人材が多く、職場に活気をもたらします。
ただし受け入れには、住居確保・生活支援・日本語教育など、サポート体制の整備が必要です。登録支援機関に委託すれば、専門的なサポートを受けられます。
2. 学校・養成施設との連携(難易度:高)
地域の福祉系専門学校・大学と連携し、実習生の受け入れや就職説明会への参加を行います。学生に職場の雰囲気を体験してもらい、卒業後の就職につなげます。
効果が出るまで数年かかりますが、新卒採用ルートを確立できれば、安定的な人材確保が可能になります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 人材紹介会社に頼らず採用するのは現実的ですか?
A: 十分現実的です。採用サイトの充実とSNS発信、職員紹介制度を組み合わせれば、年間3〜5名の自社採用が可能です。初年度は人材紹介と併用し、徐々に自社採用の割合を高める戦略が有効です。重要なのは、採用担当者を明確にし、継続的に情報発信することです。
Q2: ICT導入で本当に業務時間が減りますか?職員が使いこなせるか不安です。
A: 適切に導入すれば確実に削減できます。ポイントは、操作が簡単なシステムを選び、段階的に導入することです。まず記録のタブレット化から始め、職員が慣れてから他のシステムを追加します。ITが苦手な職員向けに、若手職員がサポート役になる体制を作ると、スムーズに定着します。
Q3: 処遇改善加算を取得しても、職員に全額配分する余裕がありません。
A: 加算は職員への配分が義務付けられており、施設の運営費に流用すると返還命令や指定取消のリスクがあります。もし配分が困難なほど経営が厳しい場合、そもそもの事業モデルや運営効率に問題がある可能性が高いです。経営コンサルタントや会計士に相談し、抜本的な経営改善を検討すべきです。
Q4: 外国人材の受け入れは、日本人職員との摩擦が心配です。
A: 事前準備が成否を分けます。受け入れ前に、日本人職員向けの「異文化理解研修」「やさしい日本語研修」を実施し、受け入れ体制を整えます。また外国人材にバディ(専属指導員)をつけ、困ったときに相談できる環境を作ります。互いの文化を尊重する姿勢があれば、むしろ職場の多様性が高まり、良い刺激になります。
Q5: 倒産リスクを避けるため、どの指標を重視すべきですか?
A: 最重要は「職員充足率」(必要職員数に対する実際の職員数の割合)です。90%を下回ると危険信号、80%を下回ると倒産リスクが急上昇します。次に「離職率」を月次で追跡し、前年同月比で増加傾向にあれば早急な対策が必要です。また「新規採用数÷離職数」が1.0を下回る状態が3ヶ月続けば、人員減少トレンドにあると判断し、経営戦略の見直しが不可欠です。
まとめ|優先順位を間違えると倒産する
介護業界の人手不足は、少子高齢化・離職率の高さ・介護報酬の制約という3つの構造要因により、2040年まで継続する長期トレンドです。2025年の介護倒産176件は、この危機が既に顕在化していることを示しています。
重要なのは、①既存職員の離職防止(最優先)、②処遇改善加算の最大活用(即実行)、③自社採用の強化(コスト削減)の3つを緊急度・効果度が高い順に実行することです。
限られた資源で全ての対策を同時に進めることは不可能です。本記事の優先度マトリックスを参考に、あなたの施設の状況に合わせて取捨選択してください。倒産を回避し、持続可能な介護事業を実現するため、今日から行動を始めましょう。まずは「職員との1on1面談」から始めてください。あなたの施設の未来を守るのは、あなた自身の決断と行動です。

