危機感とスピードが全社変革を動かした
経営教育大手のグロービスが、生成AIを活用した組織変革と教育イノベーションの両輪で存在感を示している。
2025年、同社はIT・デジタル変革リーダーを表彰する「CIO 30 Awards Japan 2025」において「Leadership Award」を受賞。
単なる生産性向上にとどまらず、新たなプロダクト創出を見据えた全社規模のAI推進が評価を受けた形だ。
受賞の背景には、2025年に掲げた全社方針「AI/Global/Innovation」に基づく大規模な組織再編がある。
その中核となったのが、「AI戦略会議」という全社横断型の意思決定機関だ。
それまで各部門でバラバラに進められていたAI活用を一元化し、議論と意思決定の場として機能させた。
ミッションごとにワーキンググループを設置し、各部門の代表が参加する「現場起点」のアプローチで課題を拾い上げ、1〜2か月という短期間で体制を整えた。
この取り組みの結果として、全社のAI利用率は40%程度から92%へと大きく伸長した。
「独自LLMは作らない」——選択と集中がもたらした成果
全社展開を急ぐ中でも、グロービスは重要な判断を下している。
当初社内で挙がった「独自の大規模言語モデル(LLM)を構築すべきではないか」という意見に対し、慎重な議論を経て、既存技術の活用を選択した。
自社でゼロからモデルを作るよりも、質の高いデータ整備と既存技術の組み合わせにより、学習体験をいち早く受講生に届け、フィードバックを積み重ねることの方が現時点では高い価値を生むと判断したためだ。
「本当に自分たちがやるべきことは何か」を問い直した結果、グロービスが提供すべき独自の価値に集中できたと担当者は振り返る。
開発においても「大きなシステムをいきなり構築するのではなく、小さく試して当てていく」ミニマムな仮説検証サイクルが功を奏した。
AI×教育の研究10年——積み上げてきた独自技術
グロービスのAI活用は、2025年に始まったわけではない。
同社は2016年頃から研究準備を進め、2017年にはAIと経営教育の融合を専門に探求する「グロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)」を設立。
以来、約10年にわたって研究と実装を繰り返してきた。
具体的な成果として、2021年には自社開発の自然言語テキスト解析エンジン「GAiDES」を用いたレポート採点支援システムで特許を取得。
翌2022年には、AIを使った記述式学習システム「GAiL」で新たな特許を取得し、AIによるフィードバックを活用した学習環境を実現した。
現在このGAiLは「GAiL-3.0」へと進化し、動画とAIで学ぶMBA単位「ナノ単科」における会話型AI演習に活用されている。
学習者はAIとのディスカッション形式でリアルタイムのフィードバックを受けながら、知識の定着と実践的活用を同時に図ることができる。
ChatGPTの登場(2022年秋)を機に開発スピードは一気に加速。
所長を務める鈴木氏は「以前は”いつかできるだろう”と思っていたことが、自分たちの手でここまで安定した品質で実現できるとは正直想定できていなかった」と語る。
AIによるディスカッション機能は、研究所の設立当初から掲げていた構想の実現に近づいている。
「代替」から「新創造」へ——AIが開く教育の次の地平
AIは現在、主に「人間がこれまで担ってきた役割の代替」として機能しているが、グロービスが見据えるのはその先にある段階だ。
AIによって初めて実現可能になる、新しい教育体験の創出である。
方向性は大きく二つある。
一つは「より精緻な個別化」。
学習者のキャリアや行動履歴、長期的な文脈をAIが把握することで、「その人だけのためのカリキュラム」が現実味を帯びてくる。
もう一つは「AIが介在するソーシャルな学び」だ。
グループディスカッションにAIが適切な役割で参加することで、従来はメンバーの属性に依存しがちだった学習体験の質を、人為的にコントロールすることが可能になる。
実際のサービスで得られたデータも示唆に富む。
学習者へのアンケートでは、ディスカッション型では「理解の深まり」、ロールプレイ型では「新たな視点の獲得」や「視野の拡大」が特に評価された。
つまり学習タイプによって「深める体験」と「広げる体験」が明確に分かれており、コンテンツ設計の重要性が浮かび上がる。
また、AIとのディスカッションに30分近く集中して取り組む学習者が多数いたことも、新たな発見だったという。
「場に来ないと学べない」からの脱却——”ジャストインタイム”学習の構想
グロービスが描く学びの未来像は、「アプリを開いて学ぶ」という従来の形式を大きく変えるものだ。
GmailやSlackといった日常の業務ツールとAIをつなぎ、例えば「明後日の役員プレゼンに向けて、このポイントだけ今復習しませんか」といった形で、状況に即した学びを自然に提案・提供する——そんな「学びのエージェント」を常に傍に置くコンセプトである。
リアルであれオンラインであれ「特定の場に来ないと学べない」という既存の教育構造から脱却し、仕事と学習の境界線をなくしていく。
学ぶ側にとっては、必要なときに学び、深めたくなったら本格的なコンテンツへとアクセスできる。
こうした”ジャストインタイム”な学習体験が、サービスの在り方そのものを変えていく可能性を秘めている。
これからのリーダーに求められるもの
AIが普及する時代において、グロービスが重視するのは「問いを設定する力」と「判断する倫理観」だ。
実行の多くをAIが担えるようになるからこそ、「何を解決したいのか」「何を実現したいのか」を自分自身で定められるかどうかが問われる。
そして出来上がったものが本当に誰かの役に立つのかを見極める、人間ならではの感性も不可欠だとする。
「発生した課題を解く」のではなく、「解くべき課題を自ら設定する」思考へのシフト。
複数のAIを使いこなしながら大きな成果を生み出す、新しい働き方への適応。
こうした変化は一部のリーダーだけでなく、あらゆるビジネスパーソンに求められていくとグロービスは見る。
約30年にわたって培ってきた教育メソッドをAIにどう組み込むか——これがグロービスにとっての次なる大きな挑戦だ。
その答えは、作って試し、フィードバックを得て改善するというサイクルの中でのみ見えてくると、研究者も開発者も口を揃える。
参照元: PR TIMES STORY(株式会社グロービス)
https://prtimes.jp/story/detail/qb6QpOI7mar (2026年2月4日 公開)

