あなたの施設も人手不足で現場が回らなくなっていませんか?
「今日も欠勤者が出て、夜勤シフトが埋まらない」「新人が3ヶ月で辞めてしまった」——介護現場の管理者や主任の多くが、こうした危機的状況に直面しています。
介護現場の人手不足の本質は「離職理由第1位が人間関係(23.2%)」であり、給与より職場環境の問題が深刻です。しかし適切な対策を講じれば、90日で離職率を半減させた施設も実在します。
本記事では、厚生労働省データと現場改善事例から、施設規模10〜30名の中小事業所でも実践できる具体的手法を紹介します。筆者は介護施設の主任として15年、計8施設の人手不足改善に携わった経験から、即効性のある方法だけを厳選しました。
読み終わる頃には、明日から実行できる改善プランが手に入り、3ヶ月後には職場の雰囲気が変わります。
介護現場の人手不足とは|2026年最新データで見る実態
人手不足の定義と深刻度
介護現場の人手不足とは、利用者へのケアを提供するために必要な職員数が確保できず、既存職員の業務負担が過重になっている状態を指します。
厚生労働省の試算では、2026年度に約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要な一方、現状のペースでは大幅に不足します。特に訪問介護分野では55.2%の事業所が「大いに不足している」と回答しており、採用困難率は88.5%に達しています。
有効求人倍率は全産業平均1.3倍に対し介護職は3.6倍、一人の求職者を複数施設が奪い合う状況が常態化しています。
現場が抱える3つの危機
人手不足が慢性化すると、現場では以下の危機が連鎖的に発生します。
第一に、一人当たりの業務量が増え、休憩時間が取れず残業が常態化します。ある施設では職員10名体制が8名に減った結果、一人あたりの担当利用者が1.25倍に増加し、記録業務が勤務時間外に押し出されました。
第二に、新人教育の時間が確保できず、OJT不足のまま現場に配置されるため、ミスや事故のリスクが高まります。結果として新人が自信を失い、3ヶ月以内に離職する悪循環が生まれます。
第三に、職員の疲弊が蓄積し、利用者への声かけが減り、ケアの質が低下します。これが家族からのクレームにつながり、さらに職員のストレスが増幅します。
小規模施設ほど深刻な格差
施設規模による人手不足の格差も顕著です。令和5年度調査では、職員20人未満の小規模事業所の離職率が15.2%なのに対し、100人以上の大規模施設は11.8%でした。
小規模施設は採用予算が限られ、求人広告費や人材紹介手数料の負担が重く、大手法人との競争に苦戦します。また一人が休むと代替要員の確保が困難なため、残された職員への負担集中が激しくなります。
さらに研修体系や評価制度の整備が遅れがちで、「頑張っても報われない」と感じた若手職員が大手施設へ転職するケースが後を絶ちません。
なぜ介護現場だけ人が集まらないのか|離職を生む3大原因
原因1|職場の人間関係が23.2%でトップ
介護労働安定センターの調査によると、介護職を辞めた理由の第1位は「職場の人間関係の問題」(23.2%)で、「収入が少ない」(15.0%)を大きく上回ります。
人間関係が悪化する背景には、以下の構造的問題があります。まず、仕事の能力差が給与や評価に反映されない不公平感が蓄積します。よく働く職員とそうでない職員が同じ給与では、前者の不満が爆発します。
次に、上司のマネジメント能力不足があります。具体的には「思いやりのない言動・パワハラ」「業務指示が不明確」「意見を聞かない」といった問題が報告されています。
また、ケアの方針に関する職員間の意見対立が放置され、派閥化するケースもあります。「利用者の自立を重視する派」と「安全を最優先する派」が対立し、互いに批判し合う職場では、新人は板挟みになり居場所を失います。
原因2|給与と仕事負担のギャップ
介護職の平均給与は全産業平均より約7万円低く(令和6年賃金構造基本統計調査)、仕事内容に見合わないと感じる職員が多数います。
特に介護職は、身体介助の肉体的負担に加え、利用者や家族の感情に寄り添う「感情労働」の側面が強い職種です。自分の感情を抑えて笑顔を作り続ける精神的疲労が、給与に反映されていません。
さらに夜勤や早番・遅番などの変則シフトにより、生活リズムが不規則になり、家族との時間が取れない負担もあります。処遇改善加算で段階的な改善は進んでいますが、依然として「介護=安月給」のイメージが若年層の参入障壁となっています。
原因3|事務作業が業務の3〜4割を占める非効率
介護現場では、直接ケアよりも記録作成・シフト管理・報告書作成などの間接業務が業務時間の3〜4割を占めます。
例えば、日々の介護記録を手書きで作成し、それを月次でまとめて報告書にする作業は、一人あたり月20時間以上を要します。この時間があれば、利用者と向き合う時間や休憩時間に充てられるはずです。
また紙ベースの業務は情報共有に時間がかかり、「申し送りノートを読んだか確認する時間」がさらに発生します。ICT化で効率化できる余地は大きいものの、導入コストやITリテラシー不足から二の足を踏む施設が多いのが現状です。
明日から始める人手不足解消5ステップ|90日改善プラン
ステップ1【即日〜1週間】緊急シフト穴埋め術
まず取り組むべきは、今ある急な欠員への対応力強化です。
具体的アクション:
- 応援体制リストの作成(所要時間:2時間):パート職員・登録ヘルパー・近隣施設の応援可能者をリスト化し、連絡先と対応可能時間帯を一覧にします。スマホですぐ見られる形式(Excelやスプレッドシート)で管理します。
- シフト柔軟性の確保(難易度:低):職員に「月2回まで短時間勤務OK」「前日までの希望休受付」など、柔軟な働き方を提示し、急な対応への協力を得やすくします。
- 業務の優先順位明確化(所要時間:1時間):人手不足時に「省略できる業務」「翌日回しできる業務」をリスト化します。例えば定例会議の延期、書類作成の簡略化などです。
つまずきポイント:「全部重要」と考え優先順位をつけられないケースが多発します。対処法は「利用者の安全・健康に直結するか」「法令で義務付けられているか」の2軸で判断すること。それ以外は柔軟に調整可能です。
ステップ2【1週間〜1ヶ月】人間関係の見える化
次に、離職の最大原因である人間関係の改善に着手します。
具体的アクション:
- 匿名アンケートの実施(所要時間:準備1時間+回収):「職場で困っていること」「改善してほしいこと」を5段階評価+自由記述で聞きます。Googleフォームなら無料で匿名実施可能です。
- 1on1面談の開始(所要時間:月1回30分/人):管理者が全職員と個別面談し、業務の悩み・人間関係の不満を傾聴します。「最近困っていることは?」「どんな職場にしたい?」と質問し、否定せず聞くことが鉄則です。
- 感謝の見える化(難易度:低):休憩室に「ありがとうボード」を設置し、職員同士が感謝を付箋で貼る仕組みを導入します。月1回の朝礼で読み上げ、認め合う文化を作ります。
つまずきポイント:面談で本音を引き出せず形骸化するケースがあります。対処法は、まず管理者自身の悩みを開示し「話しやすい空気」を作ること。また面談内容の守秘義務を徹底し、安心して話せる環境を保証します。
ステップ3【1〜2ヶ月】業務効率化の小さな改善
ICT導入の前に、ローコストでできる業務改善から始めます。
具体的アクション:
- 記録テンプレートの統一(所要時間:設計3時間):よく使う文言を定型文化し、記録時間を半減させます。例「食事全量摂取、水分○ml摂取。排泄○回。表情良好」など。
- 申し送り時間の短縮(難易度:中):口頭申し送りを10分に限定し、詳細は共有ノートで確認する方式に変更します。これだけで一日あたり職員全体で2時間捻出できます。
- 清掃・洗濯の外部委託検討(所要時間:業者選定2週間):介護職が行う必要のない業務を外部委託し、本来業務に集中できる時間を増やします。月額5万円程度で実現可能です。
つまずきポイント:「今までのやり方を変えたくない」というベテラン職員の抵抗が起きます。対処法は、試験運用期間(1ヶ月)を設けて「やってみてダメなら戻す」と約束すること。変更のメリット(時間短縮分を休憩に充てられる等)を具体的に示します。
ステップ4【2〜3ヶ月】評価制度の簡易版導入
公平な評価が人間関係改善の鍵です。
具体的アクション:
- 評価項目の設定(所要時間:設計1ヶ月):「介護技術」「チームワーク」「利用者対応」「業務改善提案」の4軸で5段階評価します。各項目に具体例を明記し、評価基準を透明化します。
- 半期評価とフィードバック(難易度:中):半年ごとに評価を実施し、一人30分の面談で結果を伝えます。良い点を3つ、改善点を1つの比率で伝え、次回の目標を設定します。
- 評価結果の処遇反映(所要時間:給与設計2週間):評価に応じて次年度の昇給幅を変動させます(例:S評価5千円、A評価3千円、B評価1千円)。小さな差でも「見られている」実感が重要です。
つまずきポイント:評価者によって甘辛のバラツキが出ます。対処法は、評価者研修を実施し、評価基準のすり合わせを行うこと。また評価結果を複数人でチェックし、極端な評価を調整します。
ステップ5【3ヶ月】採用チャネルの多様化
最後に、新規採用の間口を広げます。
具体的アクション:
- 介護助手の採用(所要時間:求人作成1週間):主婦層・シニア層向けに、資格不要の「配膳・清掃・話し相手」などの業務に特化した短時間パートを募集します。時給は地域相場に合わせ、週3日4時間からOKとします。
- SNS発信の開始(難易度:低):InstagramやXで、職場の日常・職員インタビュー・利用者の笑顔(許可済)を週1回投稿します。スマホだけで運用可能で、費用ゼロです。
- 職員紹介制度の導入(所要時間:制度設計1週間):職員が知人を紹介し採用に至った場合、紹介者に3万円の報奨金を支給します。友人・元同僚など、信頼関係のある人材が獲得できます。
つまずきポイント:「うちは小さいから発信しても意味がない」と諦めるケースがあります。しかし小規模施設こそ、アットホームな雰囲気や顔の見える関係性が武器になります。「施設長が毎朝利用者に挨拶」「誕生日は手作りケーキ」など、温かいエピソードを発信しましょう。
予算5万円でできる|小規模施設向け人手不足対策
無料ツール活用術
予算が限られる小規模施設でも、工夫次第で大きな改善が可能です。
Googleフォーム(無料)で職員アンケートや勤務希望調査を実施し、紙の削減と集計時間の短縮を実現できます。LINE公式アカウント(無料)でシフト変更や緊急連絡を一斉送信すれば、電話連絡の手間が削減されます。
Canva(無料版)で採用ポスターや施設紹介資料を作成すれば、デザイン外注費ゼロで魅力的な広報物が作れます。YouTube(無料)で施設紹介動画を公開すれば、求職者に職場の雰囲気が伝わりやすくなります。
補助金・助成金の賢い活用
介護現場のICT導入や職員処遇改善には、各種補助金が用意されています。
ICT導入支援事業(自治体により異なる)では、タブレット・記録ソフト・インカム等の導入費用の一部(上限100万円等)が補助されます。介護職員処遇改善加算は、給与改善の原資として活用でき、要件を満たせば職員一人あたり月額数万円の加算が得られます。
キャリアアップ助成金は、職員の資格取得費用や研修費用の一部を補助します。これらの制度は申請手続きが複雑なため、社会保険労務士や自治体の相談窓口を活用することをおすすめします。
近隣施設との協力体制
単独で解決できない課題は、地域で連携して乗り越えます。
近隣の同業施設と「人材応援協定」を結び、急な欠員時に職員を融通し合う仕組みを作った地域もあります。また合同採用説明会を開催すれば、会場費や広告費を分担でき、コスト削減と認知度向上の両立が可能です。
研修も共同開催すれば、外部講師の費用を折半でき、他施設職員との交流でモチベーション向上も期待できます。地域包括支援センターや介護事業者協議会を通じて連携の輪を広げましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 人間関係の改善に取り組んでも、性格の合わない職員同士はどうすればいいですか?
A: 配置転換やシフト調整で接触機会を減らしつつ、共通の目標(利用者満足度向上等)に焦点を当てます。個人的な好き嫌いではなく「利用者のために協力する」という視点を繰り返し伝え、プロ意識を醸成します。それでも改善しない場合は、一方または双方への個別指導や、最終的には異動・退職勧奨も検討します。
Q2: ICT導入の予算がありません。何から始めればいいですか?
A: まず無料ツール(GoogleフォームやLINE)から始め、効果を実感してから補助金申請を検討します。初期投資ゼロで業務効率化を体験し、「これは使える」と職員が実感すれば、有料システム導入への抵抗も減ります。補助金は自治体の介護保険課に相談すれば、申請サポートが受けられます。
Q3: 新人が3ヶ月で辞めてしまいます。何が原因でしょうか?
A: 多くの場合、OJT不足と孤立感が原因です。対策として、入職1ヶ月は必ず先輩がマンツーマンで指導し、2ヶ月目から徐々に独り立ちさせます。また週1回の新人面談で不安や疑問を聞き取り、早期にフォローします。「分からないことは何でも聞いていい」という心理的安全性を作ることが最重要です。
Q4: 介護助手を採用しても、介護職員の負担は減らないのでは?
A: 適切に業務分担すれば大きな効果があります。介護助手には配膳・下膳・清掃・シーツ交換・利用者の話し相手など、資格不要の業務を担当してもらいます。これだけで介護職員は身体介助や記録に集中でき、一人あたり1日1〜2時間の業務時間が捻出できた事例もあります。重要なのは、明確な役割分担と相互尊重の文化です。
Q5: 職員紹介制度の報奨金3万円は高すぎませんか?
A: 人材紹介会社を利用すると年収の20〜30%(60〜90万円)の手数料がかかるため、3万円は格安です。むしろ採用に至らなくても、紹介してくれたことへの感謝として5千円程度のクオカードを渡す施設もあります。職員が「自分の友人に勧めたい職場」と思える環境作りこそが本質であり、報奨金はそのきっかけです。
まとめ|人手不足は90日で改善できる
介護現場の人手不足は、人間関係・給与・業務効率の3つの課題が複合的に絡んでいますが、現場レベルで改善できることは数多くあります。
重要なのは、①緊急対応力の強化(即日〜1週間)、②人間関係の見える化(1週間〜1ヶ月)、③業務効率化(1〜2ヶ月)、④評価制度導入(2〜3ヶ月)、⑤採用多様化(3ヶ月)の5ステップを順序立てて進めることです。
小規模施設は予算や人員が限られますが、無料ツール・補助金・地域連携を活用すれば、大手に負けない改善が可能です。特に「職員が友人に勧めたくなる職場」を作ることが、最強の採用戦略になります。
まずは「応援体制リストの作成」「匿名アンケートの実施」など、今日から始められるアクションを1つ選び、実行してみてください。小さな一歩の積み重ねが、3ヶ月後には「人が辞めない、応募が来る」職場へと変化させます。あなたの施設の改善を応援しています。

