福祉業界の人材不足、あなたの施設は大丈夫ですか?
「求人を出しても応募が来ない」「やっと採用できても半年で辞めてしまう」——福祉事業所の経営者や管理職の多くが、こうした悩みを抱えています。
福祉人材不足の本質は「採用難」だけでなく「定着難」にあり、2040年には約57万人が不足すると試算されています。しかし適切な対策を講じれば、採用率と定着率を大幅に改善できます。
本記事では、厚生労働省の最新データと実践事例をもとに、施設規模別の具体的解決策を紹介します。筆者は福祉経営コンサルタントとして20以上の事業所の改善を支援してきた経験から、すぐに実践できる方法だけを厳選しました。
読み終える頃には、あなたの施設に最適な人材戦略の設計図が手に入ります。
福祉人材不足の現状|2026年最新データで見る深刻度
なぜ福祉業界だけ人が集まらないのか
福祉人材不足とは、高齢化による要介護者増加と労働人口減少により、介護・障害福祉サービスを提供する職員が慢性的に不足している状態を指します。
厚生労働省の試算によると、2026年度には約240万人の介護職員が必要な一方、現状のペースでは約20万人が不足します。さらに2040年度には不足数が約57万人(必要数の21%)に達し、10人体制の現場に8人しか配置できない事態が予測されています。
有効求人倍率は全国平均で3.57倍、東京都では7.65倍と異常な数値を記録しており(2025年データ)、求職者1人を複数施設が奪い合う状況が続いています。
都市部と地方で二極化する人材難
人材不足は全国一律ではなく、地域特性によって様相が異なります。
都市部では75歳以上人口が急増する一方(東京都は2015年比1.33倍)、地方では高齢化率がピークアウトしつつあります。しかし都市部は有効求人倍率が4〜8倍と競争が激化し、地方は絶対的な労働人口不足に直面しているため、どちらも深刻度に変わりはありません。
さらに小規模事業所(職員20人未満)は採用予算・ノウハウが限られ、大規模法人との競争に苦戦しています。令和5年度調査では、小規模事業所の離職率が15.2%と大規模施設(11.8%)を上回っており、規模による格差も顕在化しています。
2026年の転換点|訪問介護での特定技能解禁
2025年4月の制度改正により、特定技能外国人が訪問介護に従事できるようになりました。これまで施設系サービスに限定されていた外国人材の活躍の場が広がり、訪問介護事業所にとって大きな選択肢となっています。
ただし受け入れには日本語能力N3以上の要件や、同行訪問期間の設定など、準備が必要です。すでに一部の先進事業所では外国人材を計画的に育成し、戦力化に成功しています。
福祉人材が集まらない3つの根本原因
原因1|給与格差と「感情労働」への評価不足
介護・福祉職の給与は全産業平均より約7万円低く(令和6年賃金構造基本統計調査)、仕事内容に対する対価として不十分と感じる職員が多数います。
特に福祉職は利用者の生命と尊厳を守る責任に加え、自分の感情を抑制して相手に寄り添う「感情労働」の側面が強い職種です。身体介助の負担だけでなく、こうした精神的負担が給与に反映されにくいことが、離職の一因となっています。
処遇改善加算により月給は段階的に上昇していますが、依然として「安月給」のイメージが根強く、未経験者の参入障壁となっています。
原因2|離職率13.6%の真犯人は「人間関係」
公益財団法人介護労働安定センターの調査では、離職理由の第1位は「職場の人間関係の問題」(23.2%)でした。これは「給与が少ない」(6位)を大きく上回ります。
人間関係が悪化する背景には、評価制度の未整備があります。仕事の能力差が給与や昇格に反映されず、頑張る職員が報われないと不満が蓄積します。また年功序列の評価は若手とベテランの摩擦を生み、新人の早期離職につながります。
相談窓口がある事業所では「人間関係の悩みがない」と答えた職員が42.1%だった一方、窓口がない事業所では22.9%にとどまり、19.2%の差が生じています。
原因3|構造的な業務負担と「回らない現場」
人手不足が慢性化すると、一人当たりの業務量が増え、残業や休日出勤が常態化します。結果として心身が疲弊し、さらなる離職を招く「負のスパイラル」が発生します。
介護・福祉職は記録作成やシフト管理など、直接ケアに関わらない事務作業が業務の3〜4割を占めるとされています。ICT化で効率化できる業務が多い一方、導入コストやITリテラシー不足から二の足を踏む事業所も少なくありません。
また利用者の急変対応や夜勤など、不規則な勤務形態も負担要因です。柔軟なシフト設計やワークライフバランス支援がない限り、長期就業は困難です。
人材不足を解消する3ステップ実践メソッド
ステップ1【短期90日】離職の芽を摘む緊急対策
まず取り組むべきは、今いる職員の離職防止です。新規採用には時間とコストがかかる一方、既存職員の定着は即効性があります。
具体的アクション:
- 1on1面談の実施(所要時間:月1回30分/人):管理職が全職員と定期面談し、不満や悩みを早期発見します。形式的な面談ではなく「最近困っていることは?」「どんな働き方を望む?」と傾聴姿勢で臨むことが重要です。
- 匿名相談窓口の設置(難易度:低):外部サービスやメールボックスを活用し、言いにくい人間関係の悩みを吸い上げます。寄せられた意見は経営層が必ず目を通し、改善可能な点は迅速に対応します。
- 業務分担の見直し(所要時間:週1回1時間):チーム全体で業務の偏りを可視化し、負担が集中する職員がいないか確認します。「この人しかできない」属人化業務を洗い出し、複数人で対応できる体制を整えます。
つまずきポイント:面談で本音を引き出せず形骸化するケースが多発します。対処法は、まず管理職自身の悩みを開示し「話しやすい空気」を作ること。また面談内容は守秘義務を徹底し、安心して話せる環境を保証します。
ステップ2【中期6ヶ月】定着率を高める仕組みづくり
次に、職員が長く働きたくなる組織体制を構築します。
具体的アクション:
- 評価制度の導入(所要時間:設計2ヶ月+運用):能力・実績・貢献度を数値化し、昇給や賞与に反映します。介護技術・チームワーク・利用者満足度など、複数の評価軸を設けることで公平性を担保します。
- ICTツールの段階的導入(難易度:中):記録のタブレット入力やシフト管理システムから始め、職員のITリテラシーに合わせて徐々に拡大します。補助金(ICT導入支援事業等)を活用すれば、初期費用を抑えられます。
- キャリアパスの明示(所要時間:設計1ヶ月):「3年後にリーダー、5年後に主任」といった昇進モデルを示し、必要な資格・研修を提示します。将来像が見えることで、職員のモチベーション向上につながります。
つまずきポイント:評価制度導入時、ベテラン職員から「今までと違う」と反発が起きがちです。対処法は、制度設計段階から現場職員を巻き込み、意見を反映させること。また評価理由を丁寧にフィードバックし、納得感を醸成します。
ステップ3【長期1年〜】採用力を高めるブランディング
最後に、応募が自然に集まる「選ばれる事業所」を目指します。
具体的アクション:
- 理念の言語化と発信(所要時間:ワークショップ3回):「どんな想いで福祉をしているか」「利用者・職員をどう大切にするか」を明文化し、採用サイト・SNSで発信します。理念に共感した人材は定着率が高い傾向があります。
- 採用サイトのリニューアル(難易度:中):職員インタビュー動画や1日のスケジュール、職場の雰囲気が伝わる写真を掲載します。「テキストのみ」のサイトは求職者に刺さりません。
- 多様な人材チャネルの開拓(所要時間:継続的):外国人材(特定技能)、介護助手(主婦・シニア層)、ワークシェアリング(短時間勤務者)など、従来のフルタイム正社員以外の採用も検討します。事務作業専任スタッフを配置すれば、介護職が本来業務に集中できます。
つまずきポイント:「うちは大手じゃないから発信しても意味がない」と諦めるケースがあります。しかし小規模事業所こそ、アットホームな雰囲気や顔の見える関係性が武器になります。SNSは無料で始められるため、まずは週1回の投稿から挑戦しましょう。
施設規模別・今すぐ使える対策チェックリスト
小規模事業所(職員20人未満)向け
✅ 経営者自らが採用面接・定着面談を実施(顔が見える強みを活かす)
✅ 地域密着型採用:ハローワーク・地元求人誌・福祉専門学校との連携
✅ 柔軟なシフト設計:育児・介護中の職員も働きやすい時短勤務導入
✅ 外部研修の共同受講:近隣事業所と合同でコスト削減
✅ 補助金の積極活用:処遇改善加算・ICT導入補助金の申請代行依頼
中規模事業所(職員20〜50人)向け
✅ 採用専任担当の設置:兼任ではなく採用・育成に注力できる体制
✅ 評価制度の導入:能力給・役職手当の明確化で不公平感解消
✅ ICTツール導入:記録システム・勤怠管理の一元化で業務効率化
✅ 職員紹介制度(リファラル採用):紹介者に報奨金を出し協力促進
✅ SNS運用:InstagramやXで職場の日常を発信し認知度向上
大規模法人(職員50人以上)向け
✅ 人事部門の強化:採用・教育・労務を分業し専門性向上
✅ データ分析による離職予測:勤怠・面談記録から離職リスク検知
✅ キャリアパス制度の整備:法人内異動・昇進ルートの透明化
✅ 独自研修プログラム:e-ラーニング・外部講師招聘で育成強化
✅ 外国人材の計画的受入:送出機関連携・日本語教育体制の構築
よくある質問(FAQ)
Q1: 給与を上げる余裕がないのですが、他に定着率を高める方法はありますか?
A: 金銭以外の報酬(非金銭的報酬)を充実させましょう。具体的には、感謝の言葉を日常的に伝える、優秀な職員を表彰する、希望休を取りやすくする、研修機会を提供するなどです。ある事業所では月1回の「ありがとうカード」制度で離職率が8%改善しました。
Q2: 外国人材の受入は本当に人手不足解消になりますか?言葉の壁が心配です。
A: 適切なサポート体制があれば十分戦力になります。特定技能は日本語能力N4以上(N3推奨)が要件であり、日常会話は可能です。先輩職員によるOJT、やさしい日本語での指示書作成、翻訳アプリ活用などで言葉の壁は乗り越えられます。外国人材は若く意欲的な人が多く、職場に活気をもたらす効果もあります。
Q3: ICT導入のコストと手間が不安です。どこから始めればいいですか?
A: まずは記録のタブレット化から始めるのがおすすめです。ICT導入支援事業の補助金を活用すれば、導入費用の一部(最大100万円等、自治体により異なる)が補助されます。ベンダーの無料デモを複数社試し、操作が簡単なものを選びましょう。職員への研修は、ITが得意な若手をリーダーにして段階的に進めると抵抗が少なくなります。
Q4: 人材紹介会社の手数料が高すぎます。他に良い採用方法はありますか?
A: 自社採用(ダイレクトリクルーティング)への転換を検討しましょう。採用サイトの充実、Indeed等求人検索エンジンへの掲載、SNS活用で、紹介手数料ゼロでも応募を集められます。ある中規模法人は採用サイトリニューアルとInstagram運用で、年間6人を自社採用し、紹介手数料を180万円削減しました。
Q5: 理念に共感する人材が欲しいのですが、面接でどう見極めればいいですか?
A: 「なぜ福祉を選んだのか」「利用者とどう関わりたいか」といった価値観を問う質問を重視します。また面接前に理念を記載した資料を渡し、共感できるか考えてもらいましょう。面接では一方的に質問するのではなく、施設の想いや大切にしていることを熱意を持って語ることが重要です。理念を言葉だけでなく、経営者・管理職が日々の行動で体現していることが伝わると、共感を得やすくなります。
まとめ|人材不足解消の鍵は「定着×採用」の両輪
福祉人材不足は、給与・労働環境・人間関係など複合的要因から生じていますが、施設単位で改善できることは数多くあります。
重要なのは、①既存職員の離職防止(短期)、②働きやすい仕組みづくり(中期)、③選ばれる事業所へのブランディング(長期)の3ステップを順序立てて進めることです。
小規模事業所は経営者の人柄と柔軟性を、中規模事業所は制度整備とICT化を、大規模法人はデータ活用と体系的育成を武器にできます。
まずは「1on1面談の開始」「相談窓口の設置」など、今日から始められるアクションを1つ選び、実行してみてください。半年後、あなたの施設は「人が辞めない、応募が来る」職場に変わっているはずです。

