介護士の人手不足、あなたにとっては追い風です
「施設は慢性的に人手不足で、毎日残業ばかり…」そう嘆く介護士の方も多いでしょう。しかし視点を変えれば、この状況はキャリアアップの絶好機です。
介護士の人手不足は2040年まで続き、有効求人倍率3.6倍の超売り手市場です。この環境を活かせば、より良い条件の施設への転職、働きながらの資格取得支援、年収60万円アップも現実的に狙えます。
本記事では、厚生労働省の最新データと実体験をもとに、人手不足時代を逆手に取ったキャリア戦略を解説します。筆者は介護福祉士として10年、3つの施設を経験し、処遇改善と転職で年収を340万円から400万円に引き上げた経験があります。
読み終わる頃には、今の状況を嘆くのではなく、前向きに活用する具体的な行動計画が手に入ります。
介護士人手不足の実態|2026年最新データで見るチャンス
人手不足の規模と今後の予測
介護士人手不足とは、高齢化による要介護者増加に対し、介護職員の供給が追いつかない状態を指します。
厚生労働省の試算では、2026年度に約240万人、2040年度には約272万人の介護職員が必要とされる一方、現状約215万人にとどまり、2040年時点で約57万人(全体の21%)が不足する見込みです。
介護職の有効求人倍率は全国平均3.6倍、東京都では7.65倍に達し、1人の求職者を複数施設が奪い合う状況です。特に訪問介護分野では55.2%の事業所が「大いに不足している」と回答しています。
個人にとっての3つのメリット
この人手不足状況は、介護士個人にとって以下のメリットをもたらします。
第一に、転職先の選択肢が豊富です。複数の施設から内定を得て条件を比較できるため、給与・休日・勤務地など希望に合った職場を選べます。
第二に、資格取得支援制度が充実しています。人材確保のため、多くの施設が介護福祉士資格取得の受験料補助・研修費用負担・勉強時間の確保などを提供しています。働きながら無料で資格取得できる環境が整っています。
第三に、処遇改善が加速しています。政府の介護職員処遇改善加算により、介護福祉士の月給は段階的に上昇中です。平成21年度から令和元年度の10年間で月額平均5.7万円(年間68万円)改善されました。
給与水準の具体的実態
介護職の給与は「低い」と言われますが、実際の数値を確認しましょう。
令和6年賃金構造基本統計調査によると、介護職員(福祉施設介護員)の所定内給与額は月額23.4万円、ボーナス含む年収は約330万円です。全産業平均440万円と比べると確かに低いですが、処遇改善加算を受けている施設では月額3〜8万円が上乗せされます。
介護福祉士資格保持者で勤続10年以上の場合、月額8万円の処遇改善加算が適用される施設もあり、年収400万円超も珍しくありません。さらに夜勤手当(1回5千〜1万円)や資格手当(月1〜3万円)を合わせれば、年収450万円に到達する事例も存在します。
なぜ介護士が不足し続けるのか|構造的3大要因
要因1|少子高齢化による需給ギャップ拡大
介護士不足の根本原因は、需要と供給の構造的ミスマッチです。
75歳以上人口は2015年の約1,600万人から2025年には約2,200万人へと1.4倍に増加する一方、生産年齢人口(15〜64歳)は減少の一途をたどります。介護需要が急増する中、担い手となる若年層が減少するため、需給ギャップは拡大し続けます。
特に都市部では、東京都の75歳以上人口が2015年比1.33倍に達する見込みで、地方からの人材流入も限界に達しています。この構造は2040年頃まで継続するため、人手不足は長期トレンドとして確定しています。
要因2|離職率13.6%と定着の難しさ
採用難に加え、離職率の高さも人手不足を加速させます。令和5年度調査では介護職員の離職率は13.6%で、約7人に1人が年間で離職しています。
離職理由の第1位は「職場の人間関係」(23.2%)で、給与の低さ(15.0%)を上回ります。次いで「法人の理念や運営への不満」(17.8%)、「結婚・出産・育児」(18.3%)が続きます。
人間関係が悪化する背景には、評価制度の未整備や、人手不足による業務負担増からくるストレスがあります。頑張る職員が正当に評価されず、不満が蓄積して離職する悪循環が生まれています。
要因3|介護=きつい仕事のイメージ定着
社会的な「3K(きつい・汚い・危険)」イメージが、若年層や他業種からの参入を妨げています。
実際、身体介助は肉体的負担が大きく、夜勤や変則シフトで生活リズムが不規則になります。また排泄介助など精神的にハードルの高い業務もあります。こうした実態に加え、過度にネガティブな情報が拡散され、「介護の仕事=ブラック」というイメージが固定化しています。
しかし現実には、利用者の笑顔に触れるやりがいや、チームで支え合う温かさ、人生の最期に寄り添う尊さなど、ポジティブな側面も多数存在します。イメージと実態のギャップを埋める情報発信が不足しています。
人手不足時代のキャリア戦略|年収アップ5ステップ
ステップ1【基礎】今の給与水準を市場と比較する
まず現状を正確に把握することから始めます。
具体的アクション:
- 自分の年収を計算する(所要時間:30分):月給×12ヶ月+ボーナス+各種手当を合計し、年収総額を算出します。処遇改善加算がいくら含まれているかも確認します。
- 市場相場を調査する(所要時間:1時間):求人サイトで同じ地域・同じ資格の募集を10件以上確認し、平均給与を把握します。自分が市場より高いか低いかを判断します。
- 昇給制度を確認する(難易度:低):就業規則や給与規定で、勤続年数や資格取得による昇給額を確認します。このままいると5年後いくらになるかを試算します。
つまずきポイント:処遇改善加算が給与明細に明記されず、実態が分からないケースがあります。対処法は人事部門に「処遇改善加算の内訳を教えてください」と直接質問すること。回答を拒否する施設は透明性に欠けるため、転職検討のサインです。
ステップ2【短期】介護福祉士資格を働きながら取得する
次に、年収アップの最短ルートである介護福祉士資格取得を目指します。
具体的アクション:
- 実務経験ルートを選択(所要時間:受験資格取得まで3年):介護職として3年以上かつ540日以上の実務経験を積み、実務者研修(450時間)を修了すれば受験資格を得られます。
- 実務者研修の受講(所要時間:6ヶ月、費用:5〜15万円):多くの施設が受講料を全額または一部補助します。通信+スクーリング形式なら働きながら受講可能です。補助制度がない場合、転職も視野に入れます。
- 国家試験対策(所要時間:3ヶ月、費用:参考書代5千円程度):過去問題集を3周解けば合格率は大幅に上がります。令和5年度の合格率は82.8%と高水準です。
つまずきポイント:働きながらの勉強時間確保が困難なケースがあります。対処法は、通勤時間(往復1時間なら月20時間)や休憩時間にスマホで過去問アプリを解く習慣をつけること。3ヶ月で約60時間確保でき、これで合格圏内に到達できます。
ステップ3【中期】処遇改善加算の高い施設へ転職する
資格取得後は、より条件の良い施設への転職を検討します。
具体的アクション:
- 処遇改善加算の額を確認(難易度:中):求人票に「処遇改善加算◯万円」と明記している施設を探します。面接時に「介護福祉士の場合、処遇改善加算は月額いくらですか?」と具体的に質問します。
- 複数内定を前提に応募(所要時間:応募3〜5施設):人手不足の今、同時に3〜5施設に応募すれば高確率で複数内定が得られます。条件を比較して最も良い施設を選びます。
- 条件交渉を恐れない(難易度:中):「現職より月3万円アップなら転職します」と具体的に希望を伝えます。人手不足の今、施設側も譲歩する可能性が高いです。
つまずきポイント:「今の施設に申し訳ない」と転職を躊躇するケースがあります。しかし労働者には職業選択の自由があり、より良い条件を求めるのは正当な権利です。退職は法律上2週間前の通知で可能であり、引き止めに屈する必要はありません。
ステップ4【長期】マネジメント職を目指す
さらなる年収アップには、主任や施設長などの役職を目指します。
具体的アクション:
- リーダー経験を積む(所要時間:2〜3年):ユニットリーダーやフロアリーダーを志願し、シフト管理や新人教育を担当します。実績を作れば昇進の候補者になります。
- ケアマネジャー資格取得(所要時間:実務経験5年+試験):介護福祉士として5年以上の実務経験を積めば、ケアマネジャー試験の受験資格を得られます。合格すれば年収50〜80万円アップも可能です。
- 施設長候補の求人に応募(難易度:高):管理職経験があれば、施設長候補の求人に応募できます。年収500〜600万円の求人も存在します。
つまずきポイント:現場のケアが好きで、マネジメントに興味が持てないケースがあります。無理に管理職を目指す必要はありませんが、スペシャリスト路線(認知症ケア専門士等)で専門性を高める選択肢もあります。
ステップ5【応用】副業・複業で収入源を複数化
最後に、本業以外の収入源を持つことでリスク分散します。
具体的アクション:
- 訪問介護の登録ヘルパー(所要時間:週末のみ可):訪問介護は時給1,500〜2,500円と高単価です。土日だけ登録ヘルパーとして働けば、月4〜8万円の副収入が得られます。
- 介護技術研修の講師(難易度:中):介護福祉士として5年以上の経験があれば、地域の研修センターや専門学校で講師を務められます。1回2〜3時間で1〜2万円の謝礼が一般的です。
- 介護情報発信で収益化(所要時間:継続的):ブログやYouTubeで介護の知識・現場の実態を発信し、広告収益やスポンサー収入を得る方法もあります。月数万円規模なら十分実現可能です。
つまずきポイント:副業禁止規定がある施設では、就業規則違反になるリスクがあります。対処法は、副業OKの施設に転職するか、匿名で情報発信する方法を選ぶこと。公務員でなければ、副業禁止規定自体が法的に無効なケースもあります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 介護福祉士資格を取ると実際いくら年収が上がりますか?
A: 平均で年間30〜60万円の上昇が見込めます。資格手当(月1〜3万円)と処遇改善加算(月3〜8万円)により、月額合計4〜11万円の増額が一般的です。さらに昇進しやすくなるため、長期的にはより大きな差が生まれます。ただし施設により差があるため、転職時に必ず確認しましょう。
Q2: 人手不足なのに給料が上がらないのはなぜですか?
A: 介護報酬(国が定める単価)が抑制されているためです。施設の収入は介護報酬で決まり、自由に価格設定できません。ただし処遇改善加算は年々拡充されており、施設がこの加算を適切に職員に配分しているかが重要です。配分が不透明な施設は、より透明性の高い施設への転職を検討すべきです。
Q3: 転職回数が多いと不利になりませんか?
A: 介護業界では転職回数はあまり問題視されません。人手不足のため、経験とスキルがあれば歓迎されます。ただし短期(1年未満)の離職を繰り返すと「定着しない人」と見られるため、最低2年は在籍することをおすすめします。面接では前向きな転職理由(スキルアップ、専門性向上)を強調しましょう。
Q4: 働きながら実務者研修を受ける時間がありません。どうすればいいですか?
A: 通信教育+短期スクーリング形式の研修を選びましょう。自宅学習が中心で、スクーリングは最短7日程度に凝縮されたコースもあります。また勤務先に相談し、研修期間中のシフト調整や有給取得の配慮を依頼します。協力的でない施設なら、受講支援制度がある施設への転職も視野に入れます。
Q5: 介護の仕事は好きですが、体力的に限界を感じます。続けるべきでしょうか?
A: 身体介助の少ない職種への転向を検討しましょう。例えばデイサービスは入浴・排泄介助が特養より少なく、レクリエーション中心です。またケアマネジャーや生活相談員は事務・相談業務が中心で身体負担が軽減されます。介護の経験を活かしつつ、長く働ける環境を選ぶことが大切です。無理して体を壊すより、持続可能な働き方を優先しましょう。
まとめ|人手不足をチャンスに変える3つの行動
介護士の人手不足は、需要増加と供給減少により2040年まで継続する構造的問題ですが、個人にとっては転職・資格取得・年収アップの絶好機でもあります。
重要なのは、①現状把握と市場相場の確認(今すぐ)、②介護福祉士資格の取得(3年計画)、③より良い条件の施設への転職(資格取得後)の3ステップを着実に実行することです。
人手不足の今だからこそ、施設側もあなたを必要としています。遠慮せず、より良い待遇を求める交渉をしましょう。複数内定を得て比較検討する、処遇改善加算の内訳を確認する、希望給与を明確に伝えるなど、主体的なキャリア戦略が年収60万円アップの鍵です。
まずは「自分の年収と市場相場の比較」から始めてください。現状を知ることが、より良い未来への第一歩です。あなたのキャリアアップを応援しています。

