深刻化する介護人材不足、経営への影響は?
「採用しても定着しない」「シフトが組めず夜勤が回らない」──こうした悩みを抱える介護事業者は年々増加しています。
2025年には約32万人の介護職員が不足すると厚生労働省が推計しており、2026年1月現在、この危機は現実のものとなっています。団塊世代が75歳以上の後期高齢者となり、要介護認定者が急増する一方で、働き手は確保できない状況です。
本記事では、介護業界で15年以上の現場経験と複数施設の運営支援に携わってきた知見をもとに、人材不足の実態と経営者が優先すべき具体的対策を解説します。特に中小規模の事業所でも実践可能な方法に焦点を当てています。
この記事を読めば、限られた予算とリソースの中で人材確保と定着率向上を実現するための明確な行動計画が得られます。
2025年介護人材不足の実態と経営へのインパクト
数字で見る深刻な人手不足
厚生労働省の第9期介護保険事業計画によれば、2025年度に必要な介護職員数は約243万人です。しかし2019年時点で約211万人しかおらず、年間約5万人ずつ増員しても約32万人が不足する計算となっています。
さらに注目すべきは有効求人倍率です。2023年時点で介護分野は3.71倍と、全業種平均の1.16倍を大きく上回っています。これは「求職者1人に対して約4つの求人がある」状態を意味し、採用競争の激化を物語っています。
待機者の問題も深刻です。特別養護老人ホームでは2019年時点で約29万人が入所を待っており、人材不足によりこの数字はさらに増加する見込みです。
事業所が直面する3つの経営リスク
人材不足は単なる採用難ではなく、経営の根幹を揺るがすリスクとなっています。
第一にサービス提供体制の崩壊リスクです。最低人員基準を満たせず、新規受け入れ停止や既存利用者へのサービス縮小を余儀なくされる事業所が増えています。入浴回数の減少やレクリエーション中止など、ケアの質低下は利用者満足度に直結します。
第二に既存職員の離職連鎖リスクです。人手不足により一人当たりの業務負担が増加し、疲弊した職員がさらに離職する悪循環が生まれます。厚労省調査では介護職の離職理由の第1位が「職場の人間関係」(34.3%)ですが、これは過重労働によるストレスが背景にあります。
第三に収益悪化と事業継続リスクです。人材不足で稼働率が低下すれば収入は減少します。一方で採用コストや残業代は増加し、経営を圧迫します。実際に人員確保困難を理由に閉鎖する施設も出始めています。
介護人材不足を招く5つの根本原因
原因1: 少子高齢化による労働人口の構造的減少
日本全体の生産年齢人口(15〜64歳)は減少の一途をたどっています。介護ニーズは増加するのに働き手は減るという構造的な問題です。これは介護業界だけでなく全産業で人材獲得競争が激化していることを意味します。
特に地方では若年層の都市部流出により、介護人材の確保がさらに困難になっています。地域によっては高齢化率が40%を超える場所もあり、地域格差が顕著です。
原因2: 低賃金と社会的評価の低さ
2023年の賃金構造基本統計調査によれば、介護職の平均月収は約27.7万円で、全業種平均の34.6万円と比較して約7万円低い水準です。処遇改善加算などの施策により改善傾向にはありますが、責任の重さに見合った水準とは言えません。
加えて「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージや「誰でもできる仕事」という誤解が根強く、社会的評価の低さが若年層の参入障壁となっています。
原因3: 身体的・精神的負担の大きさ
介護現場では移乗介助や入浴介助など身体的負担の大きい業務が多く、腰痛などの健康問題を抱える職員が少なくありません。夜勤や早番・遅番など不規則な勤務形態も身体への負担となります。
さらに認知症ケアや終末期ケアでは精神的負担も大きく、燃え尽き症候群(バーンアウト)のリスクが高い職種です。
原因4: 職場の人間関係とマネジメント不全
介護労働安定センターの調査では、離職理由の1位が「職場の人間関係」(34.3%)です。具体的には「上司のパワハラや配慮のない言動」(49.3%)、「上司の管理能力不足」(43.2%)、「同僚との軋轢」(38.8%)が挙げられています。
多職種連携が求められる介護現場では、コミュニケーション不全が業務効率とケアの質に直結します。適切なマネジメントとチームビルディングができていない事業所では、人材流出が止まりません。
原因5: 業務のデジタル化の遅れ
多くの介護現場では記録業務が手書きのままで、申し送りも口頭や紙ベースが中心です。これにより間接業務に多くの時間を取られ、利用者と向き合う時間が減少しています。
記録の二度手間、情報伝達の遅れやミス、非効率なシフト管理など、デジタル化の遅れが職員の負担を増やし、生産性を低下させています。
経営者が優先すべき5つの実践的対策
対策1: ICT・介護ロボット導入で業務負担を30%削減
まず取り組むべきは業務効率化です。記録業務のデジタル化だけで1日1人当たり30分〜1時間の時短が可能になります。
具体的には、タブレット端末での記録入力システム導入により、現場で即座に記録でき手書き転記の手間が不要になります。見守りセンサーやナースコール連動システムは夜勤の巡回負担を軽減し、職員の安心感向上にも寄与します。
移乗支援機器や入浴支援機器の導入は、身体的負担を大幅に減らし腰痛予防になります。初期投資は必要ですが、介護ロボット導入支援事業などの補助金制度を活用すれば負担を軽減できます。
つまずきポイント: 「高額で導入できない」と諦める前に、都道府県の補助金制度を必ず確認しましょう。補助率が2分の1から3分の2の制度も多く存在します。
対策2: 給与・処遇改善で同業他社との差別化
待遇改善は即効性のある対策です。介護職員処遇改善加算を最大限活用し、基本給や資格手当を引き上げます。月給制への移行や賞与の充実も効果的です。
キャリアパスを明確化し、「3年でリーダー、5年で主任」など昇進の道筋を示すことで、長期的に働くモチベーションを高めます。資格取得支援制度(受講料補助や勤務時間内の受講許可)も有効です。
柔軟な働き方の導入も重要です。短時間正職員制度、子育て・介護中の職員への配慮、連続休暇取得制度などを整備することで、多様な人材が働き続けられる環境を作ります。
対策3: 採用チャネルの多様化と潜在人材の活用
ハローワークと求人誌だけに頼る時代は終わりました。
SNS(Instagram、Twitter/X)での職場の日常発信、Indeed等の求人検索エンジン最適化、リファラル採用(職員紹介制度)の導入が効果を上げています。
職場見学会や1日体験イベントを定期開催し、仕事のリアルを知ってもらうことで応募へのハードルを下げます。オンライン説明会も遠方の求職者にアプローチできる手段です。
潜在的な人材層へのアプローチも重要です。子育てが一段落した主婦層、定年後のシニア層、他業種からのキャリアチェンジ希望者など、介護業界未経験でも意欲のある人材は多く存在します。入門的研修の活用で未経験者の受け入れ体制を整えましょう。
対策4: 職場環境改善と離職防止の仕組み構築
採用よりも定着が重要です。新人に対するプリセプター制度(専任の指導者配置)やメンター制度により、孤立を防ぎ早期離職を減らせます。
定期的な1on1面談(月1回15分でも効果あり)で悩みや不満を早期にキャッチし対処します。職員満足度調査を年1〜2回実施し、改善点を可視化することも有効です。
休憩室の環境整備、職員食堂の充実、感謝の言葉を伝える文化づくりなど、小さな配慮の積み重ねが働きやすさを生み出します。管理職のマネジメント研修も必須です。パワハラやコミュニケーション不全を防ぐため、リーダー層の育成に投資しましょう。
注意点: 「忙しいから面談は後回し」が離職を招きます。短時間でも定期的な対話の場を確保することが離職防止の鍵です。
対策5: 外国人材受け入れ体制の整備
特定技能制度の活用は有力な選択肢です。2019年に創設された特定技能1号(介護)により、即戦力となる外国人材の受け入れが可能になりました。
受け入れには準備が必要です。日本語学習支援(eラーニングツールや定期的な日本語教室)、生活サポート(住居確保、銀行口座開設、生活ルール説明)、文化理解研修(日本の介護観や利用者とのコミュニケーション方法)、母国語で相談できる窓口設置などが求められます。
登録支援機関と連携すれば、専門的なサポートを受けながら受け入れを進められます。初めての外国人材受け入れでも、適切なパートナーを選べば成功確率は高まります。
成功のコツ: 外国人材だけでなく日本人職員への異文化理解研修も実施し、職場全体で受け入れる体制を作ることが定着の鍵です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 小規模事業所でもICT導入は必要ですか?
A: はい、小規模だからこそ効率化が重要です。クラウド型の記録システムは月額数千円から利用でき、初期投資を抑えられます。補助金も規模に関わらず申請可能です。
Q2: 処遇改善加算を最大限取得するにはどうすればいいですか?
A: 加算Ⅰ〜Ⅴの要件を確認し、キャリアパス要件(職位・職責・資格等に応じた任用要件と賃金体系の整備)を満たすことが重要です。社会保険労務士や加算に詳しいコンサルタントへの相談も有効です。
Q3: 外国人材の受け入れにはどれくらいの費用がかかりますか?
A: 採用から受け入れまで1人当たり50〜80万円程度が目安です(紹介手数料、在留資格申請費用、住居準備費等含む)。登録支援機関への委託費用は月2〜3万円程度が相場です。
Q4: 離職率を下げる最も効果的な方法は何ですか?
A: 単一の方法はありませんが、「新人への丁寧なサポート」「定期的な面談」「適正な業務負担」の3つが基本です。特に入職後3ヶ月間の手厚いフォローが早期離職防止に効果的です。
Q5: 採用にSNSを使うコツはありますか?
A: 求人情報だけでなく、職員の笑顔や日常の様子、利用者との温かい交流など「職場の雰囲気」が伝わる投稿が効果的です。週2〜3回の定期投稿を継続することで認知度が高まります。
まとめ
介護人材不足2025年問題は、すでに現実の経営課題となっています。約32万人の人材不足という数字は、多くの事業所で「採用できない」「シフトが組めない」「サービスが維持できない」という具体的な困難として現れています。
しかし適切な対策を優先順位をつけて実行すれば、人材確保と定着は可能です。ICT導入による業務効率化、処遇改善、採用チャネルの多様化、職場環境改善、外国人材活用──これら5つの対策を自事業所の状況に合わせて組み合わせることが成功の鍵です。
まずは「現場職員の負担を減らす」ことから始めましょう。業務効率化と働きやすい環境づくりが、既存職員の定着率向上と新規採用の成功につながります。できることから今日一つ、明日もう一つと積み重ねていくことで、人材不足という経営危機を乗り越えることができます。
今すぐ行動を起こし、持続可能な介護事業経営の基盤を築きましょう。

