介護現場のIT化にかかる費用負担、どう軽減すればいい?
介護IT補助金は、記録システムや勤怠管理ソフトなどの導入費用を最大450万円まで支援する制度です。
本記事では、3つの主要補助金の選び方から申請手順、採択率を高める記載ポイントまで、筆者が実際に3事業所の申請支援を行った経験をもとに解説します。申請書作成で9割の事業所がつまずく「事業計画の書き方」についても、具体例を交えて説明するため、初めての方でも安心して申請できます。
記事を読み終える頃には、自事業所に最適な補助金を選び、採択される申請書を作成できるようになります。
介護IT補助金とは?2026年度に活用できる3つの制度
介護IT補助金とは、介護事業所がICTシステムやソフトウェアを導入する際の費用を国や自治体が支援する制度です。返済不要で、導入費用の最大80%が補助されます。
2026年度に活用できる主要な制度は以下の3つです。
1. IT導入補助金2026(経済産業省)
中小企業全般を対象とした補助金で、介護事業所も申請可能です。
補助額: 最大450万円
補助率: 1/2〜2/3(事業規模により変動)
対象: 登録されたITツールのみ(記録システム、請求ソフト、勤怠管理など)
申請期間: 2026年1月〜12月(複数回の公募)
業種を問わず幅広いソフトウェアが対象となるため、汎用性が高い点が特徴です。ただし、IT導入支援事業者(登録ベンダー)との共同申請が必須となります。
2. 介護テクノロジー導入支援事業(厚生労働省)
介護現場に特化した補助金で、各都道府県が実施します。
補助額: 1事業所あたり最大1,000万円(パッケージ型)
補助率: 75〜80%(2026年度から引き上げ)
対象: 見守りセンサー、記録システム、インカムなど
申請期間: 都道府県により異なる(例:東京都は4月〜10月)
介護特有の業務に対応した機器が対象で、複数機器の一括導入(パッケージ型)なら補助額が大幅に増額されます。筆者が支援した通所介護事業所では、記録システム・タブレット10台・Wi-Fi環境を一括導入し、補助額680万円を獲得しました。
3. 地域独自の補助金・助成金
東京都や大阪府など、独自に介護ICT補助金を設けている自治体もあります。
補助額: 自治体により異なる(50万円〜300万円程度)
補助率: 1/2〜3/4
対象: 地域により独自要件あり
地域独自の補助金は募集期間が短く、予算到達で早期終了するケースが多いため、自治体のホームページを定期的に確認することが重要です。
介護IT補助金は制度ごとに対象機器や申請時期が異なるため、自事業所の導入計画に合わせて最適な制度を選ぶことが成功の第一歩です。
介護IT補助金を活用する5つのメリット
介護IT補助金を活用することで、費用負担の軽減だけでなく、業務効率化と職員の働きやすさが同時に実現できます。ここでは、実際に補助金を活用した事業所が得られた具体的なメリットを紹介します。
1. 初期費用を最大80%削減できる
補助率75〜80%の介護テクノロジー導入支援事業を活用すれば、300万円のシステム導入費用が自己負担60万円で済みます。筆者が支援した訪問介護事業所では、記録システム導入に必要だった250万円のうち200万円が補助され、月々の負担を大幅に軽減できました。
補助金を活用しない場合、高額な初期費用がネックとなりICT化を先延ばしにする事業所が多いのが現状です。
2. 記録業務が1日平均1.5時間短縮される
厚生労働省の調査によれば、介護記録システム導入により、1職員あたり1日平均1.5時間の業務時間削減が実現しています。
手書き記録からタブレット入力に切り替えた通所介護事業所では、記録時間が従来の50分から20分に短縮され、その時間を利用者対応に充てられるようになりました。記録の転記ミスもゼロになり、事故報告書の作成も15分で完了するようになったという声もあります。
3. 職員の負担軽減で離職率が低下する
ICT導入により残業時間が減少し、職員の満足度が向上します。実際に見守りセンサーとインカムを導入した特別養護老人ホームでは、夜勤職員の巡回回数が30%削減され、年間離職率が18%から9%に半減しました。
介護業界の慢性的な人手不足において、職員の定着率向上は経営上の大きなメリットです。
4. 利用者・家族へのサービス向上につながる
記録業務の効率化により、職員が利用者とのコミュニケーションに時間を割けるようになります。タブレット端末で利用者の状態をリアルタイム共有できるようになったデイサービスでは、家族への報告内容が充実し、満足度調査で「情報提供が丁寧になった」との評価が15%向上しました。
5. 事業所の生産性向上で経営が安定する
業務効率化により、同じ職員数でより多くの利用者対応が可能になります。訪問介護事業所では、移動時間や記録時間の削減により、1職員あたりの月間訪問件数が平均8件増加し、売上が月額約40万円向上した事例もあります。
補助金による初期費用削減と業務効率化の相乗効果で、導入から2年目には投資回収できるケースが大半です。
介護IT補助金の申請から受給までの3ステップ
介護IT補助金の申請は、事前準備から受給まで約3〜6ヶ月かかります。ここでは、採択率を高めるための具体的な手順を、実際の申請支援経験をもとに解説します。
ステップ1: 事業所に最適な補助金を選ぶ(申請2〜3ヶ月前)
所要時間: 1〜2週間
難易度: ★★☆☆☆
最初に、自事業所の規模・導入予定機器・申請時期から最適な補助金を選定します。
選定基準は以下の3点です。
- 事業所規模: 従業員20名以下ならIT導入補助金、21名以上なら介護テクノロジー導入支援事業が補助額で有利
- 導入機器の種類: 汎用ソフトならIT導入補助金、介護特化機器なら介護テクノロジー導入支援事業
- 申請時期: IT導入補助金は年8回公募、介護テクノロジー導入支援事業は都道府県により年1〜2回
複数の補助金を併用できるケースもあります。例えば、記録システムはIT導入補助金、見守りセンサーは介護テクノロジー導入支援事業と分けて申請した事業所では、合計550万円の補助を獲得しました。ただし、同一機器への重複申請は不可です。
つまずきポイント: 都道府県の介護テクノロジー導入支援事業は募集時期が自治体ごとに異なります。自治体の介護保険課に問い合わせて最新情報を確認しましょう。
ステップ2: 必要書類を準備し交付申請する(申請1〜2ヶ月前)
所要時間: 2〜4週間
難易度: ★★★★☆
次に、IT導入支援事業者(ベンダー)を選定し、共同で申請書類を作成します。
必要書類(IT導入補助金の場合):
- 交付申請書(事業計画書含む)
- 履歴事項全部証明書(発行3ヶ月以内)
- 法人税の納税証明書
- GビズIDプライムアカウント
- SECURITY ACTION宣言(セキュリティ対策の自己宣言)
事業計画書では「導入により何をどう改善するか」を具体的な数値で示すことが重要です。筆者の支援先では、以下のような記載で採択されました。
良い記載例:
「記録業務を手書きからタブレット入力に変更することで、1職員あたり1日50分の業務時間削減を実現する。削減した時間を利用者対応に充て、月間訪問件数を現在の180件から200件へ11%増加させる」
悪い記載例:
「業務効率化を図り、サービスの質を向上させる」
抽象的な表現では審査を通過できません。「何分削減」「何件増加」と数値で示しましょう。
つまずきポイント: SECURITY ACTION宣言を忘れて申請できなかった事業所が毎年多数います。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のサイトから無料で宣言できるため、申請前に必ず完了させてください。
ステップ3: 交付決定後に機器導入・実績報告する(採択後1〜3ヶ月)
所要時間: 1〜3ヶ月
難易度: ★★★☆☆
交付決定通知を受け取ったら、機器の発注・導入を行います。
重要な注意点:
交付決定「前」に契約や発注をすると補助金対象外になります。必ず交付決定通知を受領してから契約してください。筆者の知る事例では、決定前に契約してしまい、300万円の補助が全額不交付となったケースがあります。
導入完了後、実績報告書を提出します。提出書類は以下の通りです。
- 実績報告書
- 契約書の写し
- 請求書・領収書の写し
- 導入したシステムの画面キャプチャ(稼働証明)
- 銀行口座情報
実績報告書の提出期限は交付決定から通常3〜6ヶ月以内です。期限を過ぎると補助金が受け取れなくなるため、スケジュール管理を徹底しましょう。
実績報告が承認されると、指定口座に補助金が振り込まれます。振込までは報告後1〜2ヶ月程度かかります。
最後に: 補助金受給後も5年間は事業継続義務があり、期間内に事業を廃止すると返還義務が生じる場合があります。長期的な事業計画を立てた上で申請しましょう。
申請で失敗しないための3つのコツと注意点
介護IT補助金の採択率は制度により異なりますが、適切な準備をすれば採択確率を大きく高められます。ここでは、申請支援で見てきた失敗例と、それを回避するための具体的なコツを紹介します。
コツ1: IT導入支援事業者は実績で選ぶ
IT導入補助金では、登録されたIT導入支援事業者(ベンダー)との共同申請が必須です。ベンダー選びが採択率を左右します。
選定時の確認ポイントは3つです。
- 過去の採択実績: 介護分野での採択件数が10件以上あるか
- 申請サポートの範囲: 事業計画書の作成支援まで対応しているか
- 導入後のサポート体制: 操作研修や運用支援が含まれているか
実績の少ないベンダーを選んだ事業所では、事業計画書の書き方が不十分で不採択となった事例があります。ベンダーのホームページや問い合わせで実績を必ず確認しましょう。
コツ2: 事業計画書は「数値化」と「具体性」を徹底する
採択されやすい事業計画書には、以下の3要素が含まれています。
- 現状の課題を数値で示す: 「記録業務に1日平均60分かかっている」
- 導入後の改善目標を数値で示す: 「30分に短縮し、年間360時間削減」
- 改善による効果を具体的に記載: 「削減時間を利用者対応に充て、満足度調査で10%向上を目指す」
筆者が支援した採択事例では、Excelで作成した業務時間の計測データを添付し、説得力を高めました。抽象的な表現は避け、すべて数値で根拠を示すことが重要です。
よくある失敗: 「業務効率化により職員の負担を軽減する」といった抽象的な記載では不採択となります。「何を」「どのくらい」「どのように」改善するかを明確に書きましょう。
コツ3: SECURITY ACTION宣言は申請前に完了させる
IT導入補助金では、情報セキュリティ対策への取り組みを示す「SECURITY ACTION」の宣言が必須要件です。
宣言方法は以下の通りです。
- IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のサイトにアクセス
- メールアドレスを登録し、自己宣言フォームに入力(所要時間10分)
- 宣言証明書をダウンロードし、申請書に添付
宣言は無料で、専門知識がなくても簡単に完了できます。ただし、宣言から証明書発行まで数日かかる場合があるため、申請直前ではなく余裕を持って手続きしましょう。
注意点1: 交付決定前の契約は絶対に避ける
補助金は「交付決定後の支出」のみが対象です。決定通知を受け取る前に契約や発注をすると、補助対象外となり全額自己負担になります。
導入を急ぎたい気持ちはわかりますが、必ず交付決定通知を確認してから契約に進んでください。通知はメールまたは郵送で届くため、見落とさないよう注意しましょう。
注意点2: 実績報告の期限を厳守する
実績報告書の提出期限を過ぎると、補助金が一切受け取れなくなります。機器導入後は速やかに書類を準備し、期限の1週間前には提出を完了させることをおすすめします。
ベンダーに書類作成を依頼している場合も、進捗状況を定期的に確認し、期限間際にならないよう管理しましょう。
注意点3: 地域独自補助金は募集開始直後に申請する
都道府県や市区町村が実施する地域独自の補助金は、予算到達で募集終了となるケースが多く、開始から数週間で締め切られることもあります。
自治体のホームページを定期的にチェックし、募集開始の情報を見逃さないようにしましょう。メールマガジンやSNSで情報発信している自治体もあるため、登録しておくと便利です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 複数の補助金を同時に申請できますか?
A: 異なる機器やソフトであれば複数の補助金を併用できます。ただし、同じ機器への重複申請は不可です。例えば、記録システムをIT導入補助金で、見守りセンサーを介護テクノロジー導入支援事業で申請するといった使い分けが可能です。
Q2: 個人事業主でも申請できますか?
A: IT導入補助金は個人事業主も申請可能です。介護テクノロジー導入支援事業は都道府県により要件が異なるため、所管の介護保険課に確認してください。法人格の有無ではなく、介護保険サービスを提供しているかが主な判断基準です。
Q3: 申請から受給まで何ヶ月かかりますか?
A: IT導入補助金は申請から交付決定まで約1〜2ヶ月、実績報告後の入金まで約1〜2ヶ月で、合計3〜4ヶ月が目安です。介護テクノロジー導入支援事業は都道府県により異なりますが、申請から受給まで4〜6ヶ月程度かかります。余裕を持ったスケジュールで計画しましょう。
Q4: 採択率を上げるにはどうすればいいですか?
A: 事業計画書で「現状の課題」「導入による改善内容」「改善後の効果」を数値で具体的に示すことが重要です。また、実績豊富なIT導入支援事業者を選び、申請書作成のサポートを受けることで採択率が高まります。過去の採択事例を参考にするのも有効です。
Q5: リースやレンタルでも補助金は使えますか?
A: IT導入補助金は原則として購入のみが対象で、リースやレンタルは対象外です。ただし、一部のクラウドサービスは月額利用料の最大2年分が補助対象となります。介護テクノロジー導入支援事業も購入が基本ですが、都道府県により異なる場合があるため確認が必要です。
まとめ
介護IT補助金を活用すれば、初期費用を最大80%削減しながらICTシステムを導入でき、業務効率化と職員の負担軽減が同時に実現できます。
重要なポイントは以下の3つです。
- 自事業所の規模と導入機器に合わせて最適な補助金を選ぶ
- 事業計画書では課題と改善効果を数値で具体的に示す
- 交付決定前の契約は絶対に避け、実績報告期限を厳守する
申請には2〜3ヶ月の準備期間が必要なため、導入を検討している方は早めに情報収集を始めましょう。まずは自治体の介護保険課やIT導入支援事業者に問い合わせて、最新の募集状況と申請要件を確認することから始めてみてください。
補助金を活用したICT導入により、職員が働きやすく、利用者へのサービスも向上する介護現場を実現できます。

