介護業界のICT導入で業務を40%削減する実践的手順

AI/DX関連

介護現場では事務作業に週30時間以上を費やし、本来のケアに時間を割けない事業者が大半です。ICT(情報通信技術)を導入すると、記録業務を最大40%削減し、利用者への直接ケア時間を大幅に増やせます。

この記事では、実際の介護現場でICT化に成功した事業者がどのような手順で導入し、どのような工夫で職員に定着させたのかを解説します。競合調査では「導入メリット」の説明が多いものの、失敗を避けるための段階的実装方法職員世代別の対応策について詳しく書いている記事はほとんど見当たりません。本記事では、これらを詳細に紹介し、あなたの事業所が確実に成功するためのロードマップをお届けします。


ICT導入の基礎知識

ICTとは何か、介護現場での意味

ICTは「Information and Communication Technology」の略で、単なるシステム導入ではなく、情報活用と職員間の連携を効率化する技術を意味します。

従来のIT(情報技術)は「パソコンを入れて終わり」という導入に留まることが多いのに対し、ICTは「その後どう活用するか」まで考えた総合的なアプローチです。例えば、記録システムを導入しても職員が使いこなせなければ意味がありません。ICTは導入前の業務分析から、導入後の運用最適化まで、一貫性をもって進めることが重要です。

介護現場では、以下のような場面でICTが活躍しています。利用者情報の一元管理、訪問記録のモバイル入力、施設間での情報共有、シフト管理の自動化です。これらにより「二度手間」や「情報の分散」といった課題が解消されます。

厚生労働省の調査では、ICTを導入した事業者の52.8%が「業務効率が向上した」と報告しており、特に事務業務の時間削減効果は顕著です。


ICT導入の主要メリット5つ

1. 事務作業時間を30~40%削減

紙ベースの記録は「手書き→パソコン入力」という二度手間が常態です。モバイル記録システムを導入すれば、現場でタブレットに直接入力でき、その日のうちに請求業務に反映されます。

実例では、訪問介護事業所が紙記録を廃止した結果、1職員あたり週10時間の削減を実現しました。年間換算で520時間、つまり3~4人分の人件費相当の業務が削減されたのです。

2. 利用者情報の一元管理で安全性向上

複数の職員が異なるシステムで記録していると、情報が分散し「AさんはこのケアをしたがBさんは知らない」という事態が起こります。ICT導入で全職員が同じプラットフォームにアクセスすれば、誤った対応や重複したケアを防げます。

転倒事故の予防、薬の誤投与防止、利用者の最新の健康状態把握など、安全面での効果は極めて大きいです。

3. 職員のストレス軽減と離職率低下

事務作業に追われる職員は疲弊し、本来やりがいを感じるべき「利用者へのケア」に集中できません。ICTで事務業務を軽くすると、職員が利用者と向き合う時間が増え、仕事の満足度が向上します。

結果として、離職率が15~20%低下した事業所も報告されています。人材不足が深刻な介護業界では、この効果は極めて重要です。

4. リアルタイム情報共有で連携が円滑

異なる勤務シフトの職員間で情報を共有する際、従来は「申し送りノート」に頼っていました。ICTなら、タイムリーな情報更新で、誰でも最新の状況を把握できます。

ケアマネージャーや外部の医療機関との連携もスムーズになり、病院から退院した利用者の情報を即座に共有し、適切なケアプラン調整が可能になります。

5. 処遇改善加算の要件達成

令和6年度の処遇改善加算では「生産性向上への取り組み」が加算要件に加わりました。ICT導入はこの要件を満たす有力な方法であり、加算取得により職員給与を引き上げられます。


ICT導入の実践的な5ステップ

ステップ1: 現状分析(1~2週間)

まず「何が課題か」を可視化します。全職員にアンケートを取り、以下を確認しましょう。

  • 1日に記録作業に費やす時間
  • 情報が分散して困った経験
  • 現在使用しているシステム(Excel、紙、複数の有料ツールなど)

例えば、実際の調査では「1人1日平均2時間の記録業務」「情報共有に週5時間以上かかっている」といった課題が明確になります。数字が出ることで、経営層の理解も得やすくなります。

所要時間は1~2週間、難易度は低いです。つまずきポイントは「職員の回答率が低い」こと。管理職が直接対話して回答を促しましょう。

ステップ2: システム選定と予算確保(2~4週間)

多くの事業者が失敗するステップがここです。「安いから」という理由で導入すると、必要な機能がなく、かえって業務が増えることもあります。

選定ポイントは以下の通りです。自事業所のサービス形態に対応しているか(施設か訪問か)、モバイル対応の有無、外部機関との情報共有機能の有無。また、サポート体制が充実しているかも重要です。

予算は初期費用だけでなく、月額料金と保守費用を合わせて検討します。補助金制度(IT導入補助金など)の活用で初期費用を50~75%削減できるケースも多いため、必ず確認しましょう。

難易度は中程度で、複数のシステムを比較検討するため4週間程度必要です。つまずきポイントは「比較検討で時間が長引く」こと。3~4社に絞り、各社に実装例を見せてもらい、スピーディに決定することをお勧めします。

ステップ3: 導入準備と職員研修(3~6週間)

ここからは実装段階です。事業所内にICT導入リーダーを配置し、全職員向けに複数回の研修を実施します。

重要なのは「世代別対応」です。40代以上の職員はICTに苦手意識を持つことが多いため、1対1での個別指導時間を設けましょう。逆に若い職員はシステムを使いこなしやすいため、彼らを「チューター」として活用し、他の職員をサポートしてもらう仕組みが有効です。

所要時間は3~6週間(実装内容による)で、難易度は高めです。つまずきポイントは「導入初期の業務量増加」です。新システムと旧システムの並行運用期間は、一時的に記録作業が増えます。この時期に「やっぱり止めよう」と判断する事業所も少なくありません。事前に職員に「3~4週間は我慢の時期」と説明し、モチベーション維持が重要です。

ステップ4: 試験運用と改善(4~8週間)

1フロアまたは特定業務から始めることが鉄則です。全施設で一斉導入すると、システムトラブル発生時に対応できません。

試験期間中は、毎週職員にヒアリングし「うまくいったこと」「困ったこと」を集約します。その改善を次の週に反映させるPDCAサイクルを回します。

所要時間は4~8週間で、難易度は中程度です。つまずきポイントは「改善が遅い」こと。経営層がシステムベンダーの対応を急かし、迅速に改善案を実装することが成功の鍵です。

ステップ5: 全施設展開と最適化(2~4週間)

試験運用で成功したフロアから、段階的に全施設に拡大します。初期成功事例を職員に共有することで、抵抗感が減り、導入がスムーズになります。

展開完了後も、3ヶ月ごとに使用状況を分析し、さらなる効率化を検討します。例えば「このシステムはあまり使われていない」という機能を見つけ、代替案を提案するといった継続的な改善が重要です。

所要時間は2~4週間で、難易度は低めです。


ICT導入でよくある失敗と対処法

失敗例1: 職員トレーニング不足

事象: システムを導入したが、職員が使いこなせず、結局紙に戻った。

原因: 1回の集合研修で「完璧に理解できるはず」と考えていた。実際には、個人差が大きく、操作に不安がある職員が多い。

対処法: 複数段階の研修を設計する。①概要説明会、②操作デモ、③個別練習、④OJT(実務訓練)。特に不得意な職員には1対1サポートを用意しましょう。研修後も「困ったときのサポート窓口」を明確にしておくことが重要です。

失敗例2: システムと業務プロセスのミスマッチ

事象: 導入したシステムでは「この情報」がカスタマイズできず、結局別のツールで管理している。

原因: システム選定時に、自事業所の細かな業務要件をしっかり伝えなかった。

対処法: 導入前に、実際の業務フロー図を作成し、ベンダーに「ここの情報はどう管理するのか」と複数回確認します。試験運用中も、「このステップはシステムで管理できない」という課題が出てくるため、フレキシブルに対応する姿勢が必要です。

失敗例3: セキュリティ対策不足

事象: 利用者情報が漏洩し、トラブルになった。

原因: クラウドシステムだから「安全」と過信し、パスワード管理やアクセス権限の設定が甘かった。

対処法: システム導入時に「個人情報保護方針」を整備しましょう。パスワードの定期変更、外出先でのアクセス制限、夜間のシステムロック、アクセスログの定期確認などが必須です。年1回の情報セキュリティ研修も重要です。


カテゴリー別・介護現場での注意点

施設サービス(特別養護老人ホーム・老健)での注意点

24時間体制の記録が必要なため、夜間職員が簡単に入力できるシステムが不可欠です。タブレットの電源確保、ネットワークの安定性が課題になります。

また、面会者や外来診療者の増加に伴い、情報セキュリティの厳密な運用が求められます。

訪問系サービス(訪問介護・訪問看護)での注意点

職員が施設を出ていため、スマートフォン対応は必須です。オフライン機能(ネット環境がなくても入力できる機能)があると、使い勝手が大きく向上します。

報酬改定での「ペーパーレス化」推進により、請求業務とのシステム連携がスムーズなツール選定が重要です。


よくある質問(FAQ)

Q1: ICT導入にいくら費用がかかるのか?

A: 施設規模にもよりますが、初期費用は50~300万円、月額は5~30万円程度が相場です。介護報酬改定対応の補助金制度を活用すれば、初期費用を50~75%削減できるケースも多いため、必ず調べましょう。小規模事業所なら、月額10万円以下のクラウドシステムから始めるのも現実的です。

Q2: 導入後、職員が「やっぱり紙がいい」と反発したらどうするか?

A: この反発は多くの事業所で発生します。重要なのは、反発の理由を聞くこと。「操作が難しい」なら研修強化、「システムが遅い」なら通信環境改善、「入力項目が多い」なら簡潔化を検討します。完全に戻すのではなく、改善することで対応しましょう。

Q3: ICT導入で本当に業務時間は削減されるのか?

A: 厚生労働省調査では、導入事業所の平均で事務業務20~30%削減、直接ケア時間10~15%増加という結果が出ています。ただし、導入初期は並行運用で業務量が増えるため、3~6ヶ月後に効果が顕著になります。

Q4: 小規模事業所でもICT導入は可能か?

A: 可能です。むしろ、小規模事業所こそ、限られた人手を有効活用するためにICTが有効です。クラウドシステムなら初期投資も少なく、スモールスタートできます。

Q5: 外国人職員が多い場合、ICT導入に支障はあるか?

A: 言語対応のシステムを選べば問題ありません。2026年には多言語対応の記録システムも登場予定で、今後ますます外国人人材受け入れに対応したシステムが増える見通しです。


まとめ

介護現場のICT導入は、単なる「パソコン導入」ではなく、業務プロセス全体の見直しです。現状分析→システム選定→研修→試験運用→展開という5ステップを、焦らず丁寧に進めることが成功の鍵です。

特に重要なのは、職員の世代別対応と、失敗を想定した綿密な計画立案です。今の介護業界は人材不足が深刻ですが、ICTの活用で1人あたりの生産性を30~40%向上させることは十分可能です。

あなたの事業所でも、このロードマップを参考に、段階的にICT化を進めてみてください。最初の一歩は「現状分析」です。今週中に職員アンケートを実施することをお勧めします。

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