介護現場のICT化、何から始めればいいのか
「記録業務に追われて利用者と向き合う時間が取れない」「情報共有のミスで引継ぎトラブルが起きる」こうした悩みを抱える介護現場は少なくありません。
介護のICT化とは、記録システムや情報共有ツール、センサー機器などのデジタル技術を活用して業務効率化と介護品質向上を実現することです。導入施設では記録時間が平均40%削減され、職員の負担軽減と利用者へのケア時間増加を両立しています。
この記事では、介護現場で10年以上ICT導入支援に携わった経験から、失敗しない導入手順と現場に定着させる実践的なコツを解説します。補助金を活用すれば初期費用の大半を抑えられるため、小規模事業所でも無理なく始められます。
導入後3ヶ月で記録業務の時間を半減させ、職員満足度を向上させた事業所の事例をもとに、明日から使える具体的なステップをお伝えします。
介護ICT化とは?デジタル技術で変わる現場の業務
介護ICT化とは、Information and Communication Technology(情報通信技術)を介護現場に取り入れ、記録・情報共有・見守りなどの業務をデジタル化することです。紙の介護記録をタブレット入力に変える、職員間の連絡をチャットアプリで行う、センサーで夜間の見守りを効率化するといった取り組みが該当します。
従来の介護現場では、手書きの記録を転記してパソコンに入力する二度手間や、申し送りノートでの情報共有による伝達ミスが課題でした。ICT化によってこれらの非効率な作業が削減され、職員は本来の介護業務に集中できるようになります。
厚生労働省の調査では、ICT導入施設の67.5%が介護記録ソフトを活用しており、業務効率化の中心的役割を担っています。特に訪問介護では移動時間にスマートフォンで記録を完結できるため、事務所への帰所が不要になり勤務時間の短縮につながっています。
ICT化は単なるデジタル化ではなく、職員の働きやすさと利用者へのケア品質を同時に高める手段です。2026年現在、人材不足が深刻化する介護業界において、限られた人員で質の高いサービスを提供するための必須の取り組みとなっています。
介護ICT化がもたらす4つのメリット
記録業務の時間が平均40%削減される
タブレットやスマートフォンで介護記録を直接入力することで、手書き→転記→パソコン入力という三重の作業が一度で完結します。ある特別養護老人ホームでは、1日1人あたり平均45分かかっていた記録業務が導入後18分に短縮され、その時間を利用者とのコミュニケーションに充てられるようになりました。
音声入力機能を活用すれば、ケアをしながら記録を残せるため、記録のための時間を別途確保する必要がありません。バイタルデータも自動連携できるシステムなら、手入力による数字の転記ミスも防止できます。
情報共有がリアルタイムで正確になる
複数の職員で同じ利用者を担当する介護現場では、情報共有の精度が介護品質を左右します。ICTツールを導入すると、ケア記録の更新が全職員の端末に即座に反映されるため、申し送りノートの読み飛ばしや伝達漏れが激減します。
夜勤職員が記録した利用者の体調変化を、朝出勤した日勤職員が即座に確認できるため、対応の遅れによる事故リスクも低減します。訪問介護では、訪問先での記録がリアルタイムでサービス提供責任者に共有されるため、緊急時の指示も迅速に行えます。
夜勤業務の負担と不安が軽減される
見守りセンサーやナースコールシステムの連携により、少人数での夜勤業務が安全に行えます。利用者のベッドからの離床をセンサーが検知して職員の端末に通知するため、定期巡回の頻度を減らしても転倒リスクに対応できます。
ある施設では、夜勤職員2名で50名の利用者を担当していましたが、センサー導入後は緊急性の高い場合のみ駆けつければよくなり、精神的負担が大幅に改善されました。職員の睡眠不足による疲労も軽減され、夜勤明けの事故リスク低下にもつながっています。
介護報酬請求業務のミスと手間が削減される
介護記録と報酬請求システムが連携すると、サービス提供記録から自動的に請求データが生成されます。手作業での転記や計算が不要になるため、請求ミスによる返戻や減算のリスクが低減し、月末の事務作業時間が平均30%削減されます。
加算要件の管理も自動化でき、算定漏れによる収益損失を防げます。実地指導の際も、電子記録で根拠資料をすぐに提示できるため、書類準備の負担が軽くなります。
失敗しない介護ICT化の導入3ステップ
STEP1:現場の課題を特定し導入目的を明確にする(所要時間2〜3週間)
ICT化の第一歩は「何を解決したいのか」を明確にすることです。記録業務の時間削減、夜勤の負担軽減、情報共有の改善など、優先課題を3つ以内に絞り込みます。
現場職員へのアンケートやミーティングで「最も困っている業務」を集約しましょう。管理者目線だけでなく、実際に介護を行う職員の声を反映することが定着の鍵です。ある訪問介護事業所では、「移動中のスキマ時間に記録を完結させたい」という職員の要望から、スマートフォン対応の記録システムを選定し、導入後の満足度が高まりました。
目的が曖昧なまま「とりあえずICT化」を進めると、使われない機能にコストをかける結果になります。「記録時間を1日30分削減する」「夜勤職員の巡回回数を20%減らす」など、数値目標を設定すると効果測定もしやすくなります。
STEP2:補助金を活用してシステム・機器を選定する(所要時間1〜2ヶ月)
導入目的が決まったら、課題解決に適したシステムを選定します。介護記録ソフト、情報共有ツール、見守りセンサー、インカムなど種類は多岐にわたるため、「必須機能」と「あれば便利な機能」を分けて優先順位をつけましょう。
複数の事業者からデモンストレーションや無料トライアルを受け、実際の操作感を確認することが重要です。画面の見やすさ、入力のしやすさ、サポート体制などを現場職員に体験してもらい、「これなら使える」という合意を得てから決定します。
都道府県や市区町村が実施する「ICT導入支援補助金」を活用すれば、導入費用の50〜75%が助成されます。申請には事業計画書の提出が必要なため、補助金の募集時期(多くは4〜6月)を確認し、早めに準備を始めましょう。補助金の対象機器や要件は自治体によって異なるため、事前に担当窓口に相談することをおすすめします。
STEP3:段階的に導入し現場に定着させる(所要時間3〜6ヶ月)
いきなり全職員・全機能を一斉に導入すると混乱が生じます。まずは「記録業務のみ」「日勤帯のみ」など限定的に開始し、慣れてから範囲を拡大する段階的導入が成功の秘訣です。
ICT操作に不慣れな職員向けに、1回30分程度の実践的な研修を複数回実施します。マニュアルを配布するだけでなく、実際の画面を見ながら操作練習を繰り返す時間を確保しましょう。特に60代以上の職員には、個別のフォローアップ時間を設けることで不安が解消されます。
「ICT推進リーダー」を各部署に1〜2名配置し、日常的な疑問にすぐ答えられる体制を整えると定着が早まります。導入後1ヶ月・3ヶ月のタイミングで職員アンケートを実施し、使いにくい点や改善要望を吸い上げて運用ルールを調整することも大切です。
ある施設では、紙の記録と並行運用期間を1ヶ月設け、職員が安心して移行できる環境を作ったことで、抵抗感なくICT化が進みました。焦らず現場のペースに合わせることが、長期的な定着につながります。
介護ICT化を成功させる5つの実践的コツ
職員の「面倒くさい」を取り除く工夫をする
ICT化で最も多い失敗原因は、職員の抵抗感です。「今までのやり方で問題ない」「新しいことを覚えるのが面倒」という声に対しては、導入のメリットを実感してもらうことが重要です。
記録時間の削減効果を具体的な数字で示す、早帰りできる日を増やすなど、職員個人にとっての利点を強調しましょう。導入初期は操作に時間がかかるため、一時的に業務が増えたように感じられますが、「慣れれば必ず楽になる」という見通しを共有し、我慢の期間を乗り越える支援が必要です。
すべての機能を使おうとしない
高機能なシステムほど使いこなせない機能が増えます。導入初期は「記録」と「閲覧」だけに絞り、慣れてから「データ分析」や「家族への情報共有」などの追加機能を段階的に活用しましょう。
欲張ってすべての機能を使おうとすると、職員が混乱し、結局どの機能も中途半端になります。「まずは記録時間を半分にする」という1つの目標に集中することが、早期の効果実感につながります。
高齢職員への配慮を忘れない
60代以上の職員の中にはスマートフォンやタブレット操作に不慣れな方もいます。「できて当たり前」と考えず、文字サイズを大きくする、よく使う機能だけを教える、操作手順を写真付きで掲示するなどの配慮が必要です。
若手職員に「教える側」として協力してもらうと、世代間のコミュニケーションも活性化します。「年齢を理由に導入を諦める」のではなく、「誰でも使える環境を整える」という姿勢が大切です。
システム障害への備えを準備する
ICTは便利ですが、停電やシステム障害で使えなくなるリスクがあります。緊急時の紙記録への切り替え手順を事前に決めておき、最低限の紙の帳票は保管しておきましょう。
インターネット回線が不安定な地域では、オフラインでも記録できるシステムを選ぶことが重要です。バックアップ体制の確認は、導入前の選定段階で必ず行いましょう。
効果測定を定期的に行い改善を続ける
導入して終わりではなく、効果を数値で測定し、改善を続けることがICT化の成功には欠かせません。記録時間の変化、残業時間の推移、職員満足度などを3ヶ月ごとに確認し、運用ルールを見直します。
「使われていない機能」や「不便に感じている点」を洗い出し、システムのカスタマイズや操作研修の追加を検討しましょう。PDCAサイクルを回すことで、ICT化の投資効果が最大化されます。
よくある質問(FAQ)
Q1:小規模事業所でもICT化は必要ですか?
はい、むしろ小規模事業所こそICT化の効果が大きいと言えます。少人数で多くの業務をこなす必要があるため、記録や情報共有の効率化による時間削減の恩恵が大きくなります。補助金を活用すれば初期費用も抑えられるため、規模に関わらず導入を検討する価値があります。
Q2:ICT化にかかる費用の目安を教えてください
介護記録システムの場合、初期費用10〜50万円、月額利用料1万〜5万円が一般的です。見守りセンサーは1台5〜20万円、インカムシステムは1セット20〜100万円程度です。ただし補助金を活用すれば実質負担は半額以下になるケースが多いため、まずは自治体の補助金情報を確認しましょう。
Q3:職員がパソコンやタブレットに不慣れでも大丈夫ですか?
大丈夫です。最近のシステムは直感的に操作できるよう設計されており、スマートフォンが使える程度のスキルがあれば問題ありません。導入時の研修や、操作に慣れた職員によるサポート体制を整えることで、年齢や経験に関わらず活用できます。
Q4:導入後にシステムが合わなかった場合、変更は可能ですか?
可能ですが、データ移行の手間やコストがかかるため、慎重な選定が重要です。そのため導入前に無料トライアルやデモを活用し、現場職員の意見を十分に聞いて決定することをおすすめします。契約期間や解約条件も事前に確認しておきましょう。
Q5:ICT化で介護の質が低下する心配はありませんか?
適切に導入すれば、むしろ介護の質は向上します。記録業務の時間が削減されることで、利用者と向き合う時間が増え、よりきめ細やかなケアが可能になります。情報共有の精度が上がることで、チーム全体で一貫した支援ができる点も質の向上につながります。ICTは介護を代替するものではなく、職員を支援するツールとして活用することが大切です。
まとめ:段階的導入で介護ICT化を成功させよう
介護ICT化は、記録業務の効率化・情報共有の精度向上・夜勤負担の軽減という3つの大きなメリットをもたらします。成功の鍵は、現場の課題を明確にし、補助金を活用してシステムを選定し、段階的に導入して定着させるという手順を守ることです。
職員の抵抗感に配慮しながら、まずは記録業務だけに絞って開始し、慣れてから機能を拡大していきましょう。導入後も効果測定と改善を続けることで、投資効果は最大化されます。
人材不足が深刻化する中、限られた職員で質の高い介護を提供するために、ICT化は今や選択肢ではなく必須の取り組みです。まずは自治体の補助金情報を確認し、無料デモやトライアルで操作感を体験することから始めてみてください。あなたの事業所でも、3ヶ月後には記録時間が半減し、職員が笑顔で働ける環境が実現します。

