福祉分野でのICT導入、何から始めるべき?
福祉現場で「記録業務に追われて利用者と向き合う時間がない」「情報共有がうまくいかずミスが多い」と悩んでいませんか。
ICT導入とは、タブレット端末や業務ソフトを活用して記録のデジタル化や情報共有を効率化し、スタッフの業務負担を30〜40%削減する取り組みです。
本記事では、福祉事業所で10年以上の現場経験を持つ筆者が、実際に3つの施設でICT導入を成功させた実践ノウハウを公開します。導入前の準備から運用定着まで、つまずきやすいポイントと対処法を具体的に解説します。
2026年現在、国の補助金制度を活用すれば初期費用の最大75%が補助されます。この機会に効率的な導入を実現しましょう。
ICT導入とは?福祉現場での具体的な意味
福祉分野におけるICTの定義
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)導入とは、紙の記録や口頭での申し送りをデジタル化し、ネットワークを通じて情報を即座に共有できる仕組みを構築することです。
福祉現場では主に以下の3つの領域で活用されます。
記録業務のデジタル化 ケース記録、支援計画書、日誌などをタブレットやパソコンで入力・管理します。手書きの転記作業が不要になり、1日あたり1〜2時間の時間削減が実現できます。
情報共有の即時化 スタッフ間で利用者の状態変化や申し送り事項をリアルタイムで共有できます。夜勤帯の急変時にも、過去の記録をすぐに確認できるため、適切な対応が可能です。
見守り・安全管理の効率化 センサーやカメラを活用した見守りシステムにより、巡回業務の負担が軽減されます。転倒や離床を自動検知し、スタッフに通知する仕組みです。
ITとの違いと福祉現場での特徴
IT(情報技術)が機器やシステム単体を指すのに対し、ICTは「コミュニケーション」を重視した概念です。福祉現場では多職種連携が不可欠なため、情報共有機能が充実したICTツールが適しています。
例えば、看護師・介護職・相談員・栄養士が同じプラットフォーム上で利用者情報を閲覧・更新できる環境が、質の高いケア提供につながります。
福祉現場でICTを導入する5つのメリット
1. スタッフの業務負担が30〜40%削減
記録業務のデジタル化により、転記作業や書類探しの時間が大幅に短縮されます。筆者が支援した施設では、1人あたり月20時間の残業時間削減を達成しました。
空いた時間を利用者とのコミュニケーションや研修に充てられるため、サービスの質が向上します。スタッフの満足度も高まり、離職率低下にもつながります。
2. 情報共有ミスが80%以上減少
紙の記録では「書き忘れ」「読み間違い」「伝達漏れ」が発生しがちです。デジタル記録では入力必須項目の設定や、自動アラート機能により、記録漏れを防止できます。
申し送りノートの内容が全スタッフに即座に届くため、夜勤帯での情報伝達ミスも劇的に減少します。実際に与薬ミスが年間12件から1件に減った事例もあります。
3. 利用者一人ひとりに合わせたケアが実現
過去の記録やバイタルデータを瞬時に確認できるため、利用者の小さな変化に気づきやすくなります。グラフ化機能により、体重や血圧の推移が視覚的に把握できます。
データに基づいた支援計画の見直しが容易になり、より個別性の高いケアが提供できます。家族への説明時にも、具体的なデータを示せるため信頼関係が深まります。
4. 請求業務の効率化と加算漏れ防止
記録データと請求システムが連動することで、国保連への請求業務が自動化されます。加算要件の確認も自動で行われるため、算定漏れによる収益損失を防げます。
月末の請求業務にかかる時間が3日から半日に短縮された施設もあります。経営の安定化にも大きく貢献する導入効果です。
5. 補助金活用で初期費用を最大75%削減
国や自治体の補助金制度を活用すれば、タブレット端末や業務ソフトの導入費用が大幅に軽減されます。2026年度は「介護ロボット・ICT導入支援事業」により、1事業所あたり最大750万円の補助が受けられます。
申請手続きは複雑ですが、ベンダー企業がサポートしてくれるケースも多く、実質的な負担は軽減されています。
ICT導入を成功させる実践5ステップ
ステップ1: 現状分析と課題の明確化(所要期間:2週間)
まず現場スタッフへのアンケートとヒアリングを実施します。「どの業務に最も時間がかかっているか」「どんな情報共有の課題があるか」を具体的に洗い出しましょう。
つまずきポイント: 管理職だけで決めると現場のニーズとずれてしまいます。必ず現場スタッフ5名以上から意見を集めてください。
対処法: 無記名アンケートと個別面談を組み合わせると、本音の意見が集まりやすくなります。「記録業務」「申し送り」「請求業務」など、領域別に課題を整理すると優先順位が明確になります。
ステップ2: 導入目的と目標値の設定(所要期間:1週間)
「業務時間を月20時間削減する」「記録ミスを半減させる」など、数値目標を設定します。漠然と「効率化したい」だけでは、導入後の効果測定ができません。
つまずきポイント: 目標が高すぎると達成できずにモチベーションが下がります。
対処法: まずは「記録業務の時間を30%削減」など、現実的な目標から始めましょう。達成後に次の目標を設定する段階的アプローチが効果的です。
ステップ3: システム・機器の選定と比較(所要期間:3〜4週間)
最低3社以上のシステムを比較検討します。確認すべきポイントは以下の通りです。
- 操作の簡単さ(デモ画面で実際に触ってみる)
- 必要な機能の有無(記録、請求、勤怠など)
- サポート体制(導入後の研修や電話対応)
- 料金体系(初期費用と月額料金)
- 補助金申請のサポート有無
つまずきポイント: 多機能なシステムほど良いと思い込み、高額なツールを選んでしまう失敗が多発しています。
対処法: 現場で実際に使う機能だけに絞って選定しましょう。最初はシンプルな機能から始め、慣れてきたら拡張する方が定着率が高まります。無料トライアル期間を必ず活用してください。
ステップ4: 補助金申請と導入準備(所要期間:2〜3か月)
補助金申請には事業計画書や見積書が必要です。自治体の窓口または取扱事業者に早めに相談しましょう。申請から交付決定まで2〜3か月かかります。
並行してWi-Fi環境の整備やタブレット端末の選定を進めます。スタッフ数に対して端末が不足すると、取り合いになり定着しません。
つまずきポイント: 申請書類の不備で再提出になり、スケジュールが大幅に遅れるケースがあります。
対処法: ベンダー企業の申請サポートを活用するか、既に補助金を取得した近隣事業所に書類を見せてもらうと確実です。
ステップ5: 段階的導入と定着支援(所要期間:3〜6か月)
全スタッフ一斉に導入すると混乱します。まず意欲的なスタッフ5〜10名で試験運用し、問題点を改善してから全体展開しましょう。
週1回の操作研修と、困った時にすぐ聞ける「ICT推進担当者」を各フロアに配置すると定着率が向上します。
つまずきポイント: 「若い人は使えるが、ベテランスタッフが使えない」という二極化が起こりやすい状況です。
対処法: 操作マニュアルは画面キャプチャ付きの簡易版を作成し、各端末にファイルで保存しておきます。「まずは1日1回記録を入力する」など、小さな目標から始めると心理的抵抗が減ります。
ICT導入で失敗しない3つのコツと注意点
コツ1: スタッフの不安を事前に解消する
デジタル機器への苦手意識を持つスタッフは多くいます。「自分だけ使えないのでは」という不安が抵抗感を生みます。
対策: 導入前に「操作は簡単で、3日練習すれば使えるようになる」と具体的に伝えましょう。実際の画面を見せながら説明すると安心感が高まります。「紙の記録も当面併用する」という選択肢を示すことも有効です。
コツ2: セキュリティ対策を徹底する
利用者の個人情報を扱うため、情報漏洩対策は不可欠です。端末の紛失・盗難、パスワードの使い回しなどがリスクになります。
対策: 端末には必ずパスワードロックをかけ、自動ログアウト機能を設定します。スタッフには「端末を施設外に持ち出さない」「パスワードは個別設定」のルールを徹底しましょう。年1回のセキュリティ研修実施も重要です。
コツ3: 効果測定と改善サイクルを回す
導入後3か月、6か月、1年のタイミングで効果測定を行います。「記録時間の変化」「残業時間の推移」「スタッフアンケート」などで定量・定性評価を実施しましょう。
対策: 改善点が見つかったら、すぐにベンダー企業に相談します。設定変更や追加研修で解決できるケースが多くあります。成功事例は施設内で共有し、導入効果を可視化すると継続的な活用につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1: ICT導入にかかる費用はどのくらいですか?
A: 小規模事業所(利用者20名程度)で初期費用50〜100万円、月額費用3〜5万円が目安です。補助金活用により初期費用の75%が補助されるため、実質負担は15〜25万円程度になります。
Q2: パソコンが苦手なスタッフでも使えますか?
A: 直感的に操作できるタブレット型システムを選べば、スマートフォンを使える方なら3日程度の研修で習得可能です。音声入力機能があるシステムなら、文字入力が苦手な方でも安心して使えます。
Q3: 導入後にシステムを変更することはできますか?
A: 可能ですが、データ移行作業や再研修が必要になります。初期費用も再度かかるため、導入前の比較検討が重要です。無料トライアル期間を最大限活用しましょう。
Q4: 停電時やシステム障害時はどうすればよいですか?
A: 紙の記録様式を常備しておき、緊急時は手書き記録に切り替えます。復旧後にデジタル入力する運用ルールを事前に決めておくと安心です。データはクラウド保存されているため、端末故障時も別の端末からアクセスできます。
Q5: 小規模事業所でも導入効果はありますか?
A: 規模に関わらず効果は得られます。むしろ小規模事業所ほどスタッフ一人当たりの業務負担が大きいため、時間削減の実感が大きくなります。利用者10名以下の事業所でも月10時間以上の削減事例があります。
まとめ
福祉現場のICT導入は、記録業務の効率化・情報共有の円滑化・ケアの質向上という3つの成果をもたらします。成功のポイントは以下の3点です。
現場スタッフの声を反映した課題分析を行い、必要な機能だけを備えたシンプルなシステムを選ぶこと。補助金制度を最大限活用し、初期費用の負担を軽減すること。そして段階的な導入と継続的な研修により、全スタッフが使いこなせる環境を整えることです。
まずは自施設の記録業務にかかる時間を1週間測定してみましょう。現状を数値化することが、効果的なICT導入への第一歩です。利用者との時間を増やし、スタッフが笑顔で働ける職場を実現するために、今日から準備を始めましょう。

