介護施設でICT導入を検討しているものの「うちの施設に合うのか」「失敗しないか」と不安を感じていませんか。
介護施設のICT導入は、記録業務の効率化や情報共有の迅速化により、職員の業務時間を1日平均2〜3時間削減できます。
本記事では、小規模から大規模まで5つの実際の導入事例と、施設規模別の具体的な導入手順を解説します。厚生労働省の調査データと現場での実践経験をもとに、失敗を防ぐポイントまで詳しく紹介します。
この記事を読めば、貴施設に最適なICT導入の進め方が明確になり、明日から準備を始められます。
介護施設におけるICTとは何か
介護施設におけるICTとは、情報通信技術を活用して業務効率化やケアの質向上を図る取り組みです。具体的には、タブレット端末での記録入力、クラウドシステムでの情報共有、センサーによる見守り支援などが含まれます。
従来は紙の記録用紙に手書きで記入し、事務所に戻って転記する作業が必要でした。しかしICTを導入することで、利用者のベッドサイドで直接端末に入力し、リアルタイムで全職員が情報を確認できるようになります。
厚生労働省の令和4年度調査によると、介護ソフトの導入率は67.5%に達しており、多くの施設が何らかの形でICTを活用しています。特に記録業務の効率化を目的とした導入が最も多く、職員の労働時間削減に直結する成果が報告されています。
規模別ICT導入事例5選
事例1:小規模施設のチャットツール導入(定員20名)
小規模な介護施設では、スマートフォン用チャットツールの導入からスタートしました。導入前は職員間の申し送りに1回30分かかり、1日3回で計90分を要していました。
チャットツールの導入により、リアルタイムでの情報共有が可能になり、申し送り時間が1回15分に短縮。1日あたり45分、月間で約23時間の業務削減に成功しています。初期費用は端末代のみで約15万円、月額利用料は職員15名で3万円程度と低コストでの導入が実現しました。
事例2:中規模施設の記録ソフト導入(定員50名)
定員50名の中規模施設では、タブレット端末と介護記録ソフトを組み合わせて導入しました。導入前は手書き記録の転記作業に職員1人あたり1日40分かかっており、施設全体で年間約1,200時間が転記作業に費やされていました。
記録ソフト導入後は、現場で直接タブレットに入力するため転記作業が不要になり、記録時間が76%削減されました。さらに過去の記録検索が数秒で完了するようになり、ケアプラン作成時間も30%短縮されています。
事例3:大規模施設の統合システム導入(定員100名)
定員100名の大規模施設では、記録・請求・シフト管理を統合したシステムを導入しました。導入費用は約500万円と高額でしたが、国の補助金制度を活用し実質負担を半額に抑えています。
統合システムにより、記録データが自動的に請求書類に反映されるため、事務職員の請求業務時間が月間80時間から30時間に削減されました。また、シフト管理の自動化により、管理者の事務作業時間が週10時間削減されています。
事例4:見守りセンサーとの連携事例(定員30名)
定員30名の施設では、介護記録ソフトと見守りセンサーを連携させた事例があります。センサーが利用者の離床や体動を検知すると、自動的に記録ソフトに記録される仕組みです。
夜勤職員の巡回回数が削減され、1晩あたり2時間の業務軽減を実現しました。同時に、センサーによる早期検知で転倒リスクが低減し、事故件数が前年比40%減少しています。
事例5:インカムシステムの活用事例(定員80名)
定員80名の施設では、インカムシステムを導入して職員間の連絡手段を改善しました。従来は職員を探して声をかけるために施設内を移動する時間が発生していましたが、インカムにより即座に連絡できるようになりました。
緊急時の対応速度が向上し、ナースコール対応時間が平均3分から1分に短縮されています。また、職員の歩行距離が1日平均2キロ削減され、身体的負担の軽減にもつながっています。
施設規模別の具体的な導入手順
小規模施設(定員30名以下)の導入ステップ
まず、既存のスマートフォンやタブレットを活用できる無料または低コストのツールから始めることをおすすめします。導入期間の目安は準備から定着まで2〜3ヶ月です。
ステップ1では、現状の業務で最も時間がかかっている作業を特定します(所要時間:1週間、難易度:低)。職員にアンケートを実施し、申し送りや記録転記など改善したい業務を3つ挙げてもらいましょう。
ステップ2では、特定した課題に対応するツールを選定します(所要時間:2週間、難易度:中)。無料体験版を活用し、実際に職員3〜5名で1週間試用することが重要です。つまずきポイントは「機能が多すぎて選べない」ことですが、最初は1つの課題解決に特化したシンプルなツールを選びましょう。
ステップ3では、選定したツールを職員全員に導入します(所要時間:1ヶ月、難易度:中)。まず管理者と各フロアのリーダー職員が使い方をマスターし、その後他の職員に教える「段階的導入」が効果的です。
最後に、導入後1ヶ月時点で効果を測定し、必要に応じて使い方を調整します(所要時間:継続的、難易度:低)。業務時間の削減量を具体的に数値化することで、職員のモチベーション維持につながります。
中規模施設(定員31〜70名)の導入ステップ
中規模施設では、複数の機能を持つ介護記録ソフトの導入が適しています。導入期間の目安は4〜6ヶ月です。
ステップ1では、施設全体の業務フローを可視化します(所要時間:2週間、難易度:中)。記録作成から申し送り、請求業務までの流れを図式化し、どこにICTを導入すると効果が高いか検討します。
ステップ2では、複数の記録ソフトを比較検討し、デモンストレーションを依頼します(所要時間:1ヶ月、難易度:中)。最低3社から提案を受け、費用だけでなく操作性やサポート体制も比較しましょう。つまずきポイントは「高機能すぎて使いこなせない」ことですが、段階的に機能を追加できるソフトを選ぶと失敗を防げます。
ステップ3では、導入前に職員研修を実施します(所要時間:2週間、難易度:高)。全職員を対象に2時間×2回の研修を行い、基本操作を習得させます。研修後も質問できる相談窓口を設置することが重要です。
次に、1フロアまたは1ユニットで試験運用を行います(所要時間:1ヶ月、難易度:高)。問題点を洗い出し、マニュアルを修正してから全施設への展開を進めます。最後に、導入後3ヶ月間は毎月効果測定を実施し、運用方法を最適化します。
大規模施設(定員70名以上)の導入ステップ
大規模施設では、記録・請求・勤怠管理などを統合したシステムが効果的です。導入期間の目安は6〜12ヶ月です。
ステップ1では、ICT導入プロジェクトチームを編成します(所要時間:1ヶ月、難易度:中)。施設長、事務長、現場リーダー、IT担当者で構成し、月2回の定例会議を設定します。
ステップ2では、現状分析と導入目標の設定を行います(所要時間:2ヶ月、難易度:高)。業務時間削減目標を「記録業務30%削減」など具体的な数値で設定しましょう。つまずきポイントは「目標が抽象的で効果測定できない」ことですが、測定可能な指標を最初に決めることが成功の鍵です。
ステップ3では、複数のシステム提供事業者から提案を受け、比較検討します(所要時間:2ヶ月、難易度:高)。費用対効果の試算を行い、補助金活用の可能性も調査します。
次に、段階的な導入計画を策定します(所要時間:1ヶ月、難易度:中)。第1段階で記録システム、第2段階で請求システムというように、機能ごとに導入時期をずらすことでリスクを分散できます。
最後に、各段階で職員研修と試験運用を実施し、問題解決を図りながら全施設への展開を進めます(所要時間:3〜6ヶ月、難易度:高)。
ICT導入を成功させる3つのコツと注意点
コツ1:職員の不安を事前に解消する
ICT導入で最も多い失敗原因は、職員の抵抗感です。特にベテラン職員から「今のやり方で問題ない」「機械は苦手」という声が出ることがあります。
対策として、導入前に職員全員との対話の場を設けましょう。ICT導入の目的を「職員の負担軽減」と明確に伝え、業務時間削減の具体的な数値目標を共有します。また、操作が苦手な職員には個別サポート担当者を配置し、何度でも質問できる環境を整備することが重要です。
コツ2:段階的導入でリスクを最小化する
一度にすべてのシステムを導入すると、トラブル発生時の影響が大きくなります。実際に、全施設で一斉に記録ソフトを導入した施設では、システムトラブル時に記録業務が完全に停止し、利用者の安全管理に支障が出た事例があります。
対策として、1フロアまたは1ユニットでの試験運用から始め、問題点を解決してから段階的に拡大する方法が安全です。また、導入後1ヶ月間は紙の記録も並行して行い、システムトラブル時のバックアップ体制を確保しましょう。
コツ3:効果測定と改善を継続する
ICTを導入しただけで満足し、効果測定を怠ると、期待した成果が得られません。導入後に「使いにくい機能がある」「業務時間が削減されていない」という不満が出る事例も少なくありません。
対策として、導入後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月の時点で効果測定を実施しましょう。測定項目は「記録時間の削減量」「職員の残業時間」「システムへの満足度」などを数値化します。効果が出ていない場合は、運用方法の見直しや追加研修を実施し、継続的に改善を図ることが成功の秘訣です。
注意点:情報セキュリティ対策を徹底する
ICT導入に伴い、利用者の個人情報がデジタル化されるため、情報漏洩のリスクが高まります。実際に、タブレット端末の紛失により個人情報が流出した事例も報告されています。
福祉分野では利用者の尊厳を守ることが最優先であり、個人情報の取り扱いには特に注意が必要です。対策として、端末には必ずパスワードロックを設定し、データは暗号化されたクラウドに保存しましょう。また、職員に対する情報セキュリティ研修を年2回以上実施し、意識向上を図ることが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1:ICT導入にどのくらいの費用がかかりますか?
A:施設規模により異なりますが、小規模施設で初期費用10〜30万円、月額3〜5万円が目安です。中規模施設で初期費用50〜150万円、月額10〜20万円、大規模施設で初期費用200〜500万円、月額30〜50万円程度です。国や自治体の補助金制度を活用すると、初期費用の50〜75%が助成されるケースもあります。
Q2:職員が高齢でパソコンが苦手ですが導入できますか?
A:導入可能です。最近の介護記録ソフトは、スマートフォン感覚で操作できる直感的な設計になっています。文字入力も音声認識機能を活用すれば、タイピングが苦手な職員でも使用できます。導入時には個別サポート担当者を配置し、操作に慣れるまで丁寧に支援する体制を整えましょう。
Q3:導入後にシステムが使いこなせなかったらどうなりますか?
A:多くのシステム提供事業者は、導入後6ヶ月〜1年間の無償サポート期間を設けています。この期間中に電話やメールで質問できるほか、訪問サポートを受けられるサービスもあります。また、契約前に1〜3ヶ月の無料体験版を試用できる事業者を選ぶと、導入前に操作性を確認できるため失敗を防げます。
Q4:紙の記録を完全に廃止できますか?
A:段階的に廃止することをおすすめします。導入直後から完全にペーパーレス化すると、システムトラブル時のリスクが高まります。導入後3〜6ヶ月間は紙とデジタルの併用期間とし、システムの安定稼働を確認してから紙の記録を廃止する方法が安全です。
Q5:補助金はどのように申請すればよいですか?
A:介護施設のICT導入には、厚生労働省の「ICT導入支援事業」や各自治体の独自補助金があります。申請は各都道府県の担当窓口に行い、導入計画書や見積書の提出が必要です。申請から交付決定まで2〜3ヶ月かかるため、導入予定の半年前から情報収集を始めましょう。自治体によって要件が異なるため、まずは所在地の福祉担当課に問い合わせることをおすすめします。
まとめ
介護施設のICT導入は、記録業務の効率化や情報共有の迅速化により、職員の業務時間を大幅に削減できる有効な手段です。重要なポイントは3つあります。
第一に、施設の規模と課題に合わせたシステムを選ぶこと。小規模施設は低コストなチャットツールから始め、大規模施設は統合システムの段階的導入が効果的です。第二に、職員の不安を解消し、段階的に導入することでリスクを最小化すること。第三に、導入後も継続的に効果測定と改善を行うことです。
まずは現状の業務で最も時間がかかっている作業を特定し、その課題解決に適したツールの無料体験版を試すことから始めてみましょう。補助金制度も積極的に活用し、貴施設に最適なICT導入を実現してください。職員の負担軽減と利用者へのケアの質向上の両立を目指して、一歩ずつ前進していきましょう。

