介護現場の記録業務や情報共有に追われていませんか?
介護のICT化とは、タブレットやクラウドなどの情報通信技術を活用して、記録・情報共有・見守りなどの業務を効率化することです。人材不足が深刻化する介護業界で、スタッフの負担を減らしながら質の高いケアを実現する手段として注目されています。
本記事では、介護現場で20年以上の導入支援実績を持つ筆者が、ICT化のメリットから段階的な導入手順、よくある失敗を防ぐコツまで具体的に解説します。厚生労働省が推進する介護ICT導入支援事業の最新情報も含め、小規模事業所でも実現可能な方法をお伝えします。
本記事を読むことで、あなたの施設に最適なICT化の第一歩が明確になります。
介護のICT化とは?デジタル技術で業務を変革すること
ICT化の基本的な意味
介護のICT化とは、Information and Communication Technology(情報通信技術)を活用して、介護業務の効率化とケア品質の向上を実現することです。具体的には、紙の記録をタブレットに置き換える、スタッフ間の連絡をチャットアプリで行う、センサーで利用者を見守るといった取り組みを指します。
単なるパソコン導入ではなく、情報の「共有」と「活用」に重点を置くのがICTの特徴です。たとえば、訪問先でタブレットに入力した記録が、事務所にいるケアマネジャーのパソコンに即座に反映される仕組みがこれにあたります。
IT化・DX化との違い
よく混同される「IT化」は情報技術の導入そのもの、「DX化」はデジタル技術でビジネスモデル自体を変革することを意味します。ICT化は両者の中間に位置し、現場の業務プロセスを改善することに焦点を当てます。介護現場では、まずICT化で基盤を整え、将来的にDX化へ進むという段階的アプローチが現実的です。
2026年現在の介護ICT導入状況
介護労働安定センターの調査によると、2024年度時点でタブレット端末を活用した情報共有を行っている事業所は約32%、記録システムと請求を一括管理している事業所は約47%となっています。前年比で5〜8ポイント増加しており、着実に普及が進んでいます。
ただし、小規模事業所では導入率が20%未満にとどまるなど、規模による格差が課題です。
介護ICT化が必要とされる3つの背景
深刻化する人材不足への対応
厚生労働省の推計では、2040年には約69万人の介護職員が不足するとされています。団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題を経て、さらに介護需要が高まる一方、若年労働人口は減少し続けます。この構造的な人材不足を解消するには、限られた人員で質を落とさずにサービスを提供する仕組みが不可欠です。
ICT化により、1人のスタッフが担当できる利用者数を増やしたり、経験の浅いスタッフでも適切なケアができる支援体制を構築したりすることが可能になります。
記録・報告業務の増大
介護保険制度の複雑化に伴い、作成すべき書類は年々増加しています。ケアプラン、アセスメント、モニタリング、各種加算の記録、事故報告書など、スタッフは利用者と接する時間以上に書類作業に追われているのが実情です。
ある調査では、介護スタッフの業務時間の約30〜40%が記録・報告業務に費やされているという結果も出ています。ICT化により、この間接業務時間を半減させることが期待されています。
情報共有の遅れによるリスク
複数のスタッフが交代で利用者をケアする介護現場では、申し送りの不備が事故やケアの質低下につながります。紙の連絡ノートでは、誰が読んだか確認できない、急ぎの情報が埋もれる、夜勤者に伝わらないといった問題が頻発します。
リアルタイムでの情報共有が可能なICTシステムは、こうした伝達ミスを防ぎ、安全で質の高いケアを支える基盤となります。
介護ICT化で得られる5つのメリット
1. 記録業務の時間が50%以上削減
タブレットやクラウド型記録システムの導入により、手書き→転記→ファイリングという三重の手間が解消されます。現場で直接入力すれば、その場で記録が完了し、別途清書する必要がありません。定型文やテンプレート機能を活用すれば、文章作成が苦手なスタッフでも短時間で正確な記録を作成できます。
実際の導入事例では、1日あたりの記録業務時間が平均2時間から50分に短縮されたケースもあります。
2. スタッフ間の情報共有が即時化
チャットツールやクラウドシステムを使えば、訪問先や移動中でも最新情報にアクセスできます。「利用者の体調変化」「家族からの連絡」「急な予定変更」といった情報が、関係者全員に数秒で届きます。
従来の電話連絡では1人ずつかけ直す必要があり、1件の情報共有に15〜20分かかっていたものが、一斉送信により1分未満に短縮されます。また、履歴が残るため「言った・言わない」のトラブルも防げます。
3. ケアの質が向上し利用者満足度アップ
ICT化により、利用者一人ひとりの詳細な情報を全スタッフが把握できるようになります。「今日の朝食の摂取量」「排泄のタイミング」「夜間の睡眠状態」などのデータを分析することで、その人に最適なケアタイミングが見えてきます。
見守りセンサーやAI分析を組み合わせれば、体調変化の予兆を早期発見し、重大事故を未然に防ぐことも可能です。結果として、利用者やご家族の安心感と満足度が高まります。
4. スタッフの離職率が低下
業務効率化により残業時間が減り、精神的・肉体的負担が軽減されます。また、ICT機器の導入は「働きやすい職場づくりに取り組んでいる」というメッセージとなり、スタッフのモチベーション向上にもつながります。
ある施設では、ICT導入後1年間で離職率が23%から12%に半減した事例があります。人材定着は、採用コストの削減と技術の蓄積という二重のメリットをもたらします。
5. 経営面での収益改善
記録の正確性向上により、各種加算の算定漏れが防げます。また、業務効率化で生まれた時間を利用者対応に充てることで、サービス提供時間を延長したり、受け入れ可能人数を増やしたりできます。
さらに、ICT導入には国や自治体の補助金が活用でき、初期投資の最大75%が補助されるケースもあります。適切に導入すれば、1〜2年で投資回収が可能です。
介護ICT化の3つのデメリットと対処法
デメリット1:初期費用と導入の手間
タブレット端末、ソフトウェア、ネットワーク環境整備などで、小規模事業所でも50〜150万円程度の初期投資が必要です。
対処法:厚生労働省の「ICT導入支援事業」や自治体独自の補助金を活用しましょう。2026年度は補助率が拡充されており、事業所規模に応じて最大750万円の補助を受けられます。また、クラウド型サービスを選べば、大規模なサーバー投資が不要で月額制で導入できます。
デメリット2:スタッフの操作習得に時間がかかる
特に高齢のスタッフや機械が苦手な人にとって、新しいシステムへの適応は大きなストレスとなります。導入直後は操作に時間がかかり、かえって業務効率が下がる「導入初期の谷」が生じます。
対処法:まず一部の部門やスタッフで試験導入し、徐々に範囲を広げる段階的アプローチが効果的です。操作が簡単な機能から始め、成功体験を積み重ねることで心理的抵抗を減らせます。また、スタッフ内に「ICTリーダー」を設け、困ったときにすぐ相談できる体制を作りましょう。所要時間は3〜6ヶ月が目安です。
デメリット3:システムトラブルのリスク
ネットワーク障害、機器の故障、停電などで一時的にシステムが使えなくなる可能性があります。
対処法:最低限の紙の記録様式をバックアップとして保管しておく、複数のネットワーク回線を用意する、定期的にデータをバックアップするといった対策が必要です。また、導入時にサポート体制が充実したベンダーを選ぶことが重要です。24時間対応のヘルプデスクがあるサービスを選びましょう。
実践!介護ICT化の5ステップ導入手順
ステップ1:現状分析と課題の洗い出し(所要時間1〜2週間)
まず、現在の業務の中で何に最も時間がかかっているか、どこで情報伝達ミスが起きているかを可視化します。スタッフにアンケートを実施し、「記録作業」「申し送り」「シフト調整」など、困っている業務をリストアップしましょう。
つまずきポイント:漠然と「全部を効率化したい」と考えると、システム選定で迷走します。最も緊急性・重要性が高い課題を3つに絞り込みましょう。
ステップ2:優先順位と導入範囲の決定(所要時間1週間)
全業務を一度にICT化するのは現実的ではありません。まず「記録業務のタブレット化」や「スタッフ間のチャット導入」など、効果が見えやすく、比較的導入しやすい分野から始めます。
小規模事業所であれば、月額数万円のクラウド型記録システムから始めるのがおすすめです。成功体験を積んでから、見守りセンサーやAI分析などの高度な機能へ段階的に拡大しましょう。
難易度:★☆☆☆☆(やさしい)
ステップ3:補助金申請とシステム選定(所要時間2〜4週間)
都道府県のICT導入支援事業の申請スケジュールを確認し、必要書類を準備します。システム選定では、無料トライアルを活用して実際の操作感を確認しましょう。
選定基準は、①操作の簡単さ、②サポート体制、③既存システムとの連携、④価格の4点です。最低3社は比較検討し、デモンストレーションを受けましょう。
つまずきポイント:補助金申請は締切が厳格で、不備があると次年度まで待つことになります。早めに行政窓口に相談し、必要書類リストを入手しましょう。
ステップ4:試験導入とスタッフ研修(所要時間1〜2ヶ月)
まず特定のチームや時間帯に限定して試験運用します。この期間は紙の記録と並行運用し、スタッフが慣れるまでは無理をさせません。週1回の振り返りミーティングで、困りごとや改善要望を吸い上げます。
スタッフ研修は、座学よりも実際の業務で使いながら覚える「OJT形式」が効果的です。操作マニュアルは、写真付きで1ページ1機能の「クイックガイド」を作成しましょう。
難易度:★★★☆☆(やや難しい)
ステップ5:本格運用と継続改善(所要時間3ヶ月〜)
試験運用で問題がなければ、全スタッフ・全時間帯に拡大します。ただし、導入がゴールではありません。月1回のICT活用会議を設け、「もっと便利に使える機能はないか」「新たな課題は生じていないか」を継続的に検討します。
導入効果を数値化し、「記録時間が〇分短縮」「残業時間が△%減少」といった成果をスタッフにフィードバックすることで、継続的な改善意欲が高まります。
難易度:★★☆☆☆(ふつう)
介護ICT化を成功させる5つのコツ
コツ1:経営層とスタッフの両方を巻き込む
経営層だけが推進しても、現場の協力がなければ形骸化します。逆に現場が望んでも、経営層の予算承認がなければ導入できません。導入の初期段階から、経営層・中間管理職・現場スタッフの代表を含めた「ICT推進チーム」を結成しましょう。
コツ2:「便利さ」を実感できる成功体験を早期に作る
最初に選ぶ機能は、効果が目に見えやすいものが理想です。たとえば「朝の申し送り時間が30分から10分になった」「夜勤明けの記録作業がなくなった」など、スタッフが「確かに楽になった!」と実感できると、その後の展開がスムーズです。
コツ3:失敗を許容する文化を作る
ICT化の初期は、操作ミスやトラブルが必ず発生します。「間違えたら怒られる」という雰囲気では、スタッフは新しいシステムを避けるようになります。「最初はみんな初心者だから、失敗して当然」という前提で、安心して試行錯誤できる環境を整えましょう。
コツ4:既存の業務フローは思い切って変える
「今までのやり方にICTを足す」のではなく、「ICTに合わせて業務フローを再設計する」発想が重要です。たとえば、紙の記録を残したまま電子記録も入力させると、二度手間で逆効果になります。思い切って紙を廃止し、完全移行する決断が必要です。
コツ5:他事業所の見学や勉強会に参加する
自分たちだけで試行錯誤するより、すでに成功している事業所のノウハウを学ぶ方が効率的です。自治体や介護団体が開催する「ICT導入事例見学会」などに積極的に参加しましょう。同じ悩みを持つ仲間との情報交換も、大きな励みになります。
よくある質問(FAQ)
Q1:小規模事業所でも導入できますか?
A:可能です。月額1〜3万円程度のクラウド型記録システムなら、利用者10名程度の小規模事業所でも導入実績があります。補助金を活用すれば、初期費用も大幅に抑えられます。まずは記録業務のタブレット化とチャット導入から始めましょう。
Q2:機械が苦手なスタッフでも使えますか?
A:最近のシステムは直感的な操作を重視して設計されており、スマートフォンが使える程度のスキルがあれば十分です。また、音声入力機能を活用すれば、文字入力が苦手な方でも記録作成ができます。導入時の研修とサポート体制の充実が成功の鍵です。
Q3:セキュリティは大丈夫ですか?
A:適切な対策を講じれば、紙媒体より安全性は高まります。パスワード管理、データの暗号化、アクセス権限の設定などの基本対策に加え、医療・介護に特化したシステムは厚生労働省のガイドラインに準拠しています。定期的なセキュリティ研修も実施しましょう。
Q4:導入後のランニングコストはどれくらいですか?
A:システムの規模により異なりますが、クラウド型であれば月額1利用者あたり300〜1,000円程度が目安です。年間で見ると、業務効率化による人件費削減や加算算定の適正化により、コスト以上の効果が得られるケースが多いです。
Q5:既存の介護ソフトとの連携は可能ですか?
A:多くのシステムは、請求ソフトやケアプランソフトとのデータ連携機能を備えています。ただし、システムの組み合わせによって対応状況が異なるため、導入前に既存システムとの互換性を必ず確認しましょう。API連携に対応したシステムを選ぶと拡張性が高まります。
まとめ:段階的導入で介護の未来を変える
介護のICT化は、人材不足という構造的課題に対する現実的な解決策です。本記事でお伝えした主なポイントは以下の3つです。
- ICT化により記録業務50%削減、情報共有の即時化、ケアの質向上が実現できる
- 小規模事業所でも補助金活用と段階的導入で無理なく始められる
- 成功の鍵は、スタッフの心理的抵抗を減らし、早期に成功体験を作ること
明日からできる第一歩として、まずは現場スタッフに「どの業務が一番大変か」をヒアリングしてみましょう。その声を起点に、あなたの事業所に最適なICT化の道筋が見えてきます。
介護の質を落とさず、スタッフが笑顔で働ける職場づくり。その実現に向けて、ICT化という選択肢を前向きに検討してみませんか。あなたの一歩が、介護業界の未来を変える力になります。

