なぜ今、介護士は足りないのか?
介護業界では「人が集まらない」「すぐ辞める」という悩みが深刻化しています。2026年度には全国で約25万人の介護職員が不足すると厚生労働省が発表しており、10名体制が必要な現場に8名しか配置できない状況が現実となっています。
本記事では、人手不足の根本原因を3つの視点から分析し、経営者が今日から実践できる時間軸別の解決策を具体的に解説します。私自身が福祉施設の運営支援に10年以上携わってきた経験から、実際に効果が出た施策のみを厳選してお伝えします。
採用難・離職問題に悩む経営者や施設長の方が、明日から行動に移せる実践的な内容です。
介護士不足の深刻な現状|データで見る2026年問題
必要人数と実際の供給との大きなギャップ
介護士不足とは、介護サービスを提供するために必要な職員数に対し、実際に働く人材が大幅に不足している状態を指します。
厚生労働省の推計によると、2026年度には約240万人の介護職員が必要とされる一方、現状の推移では約215万人しか確保できず、約25万人(全体の約10%)が不足する見込みです。さらに2040年には約272万人が必要とされ、不足数は約57万人(約21%)まで拡大すると予測されています。
この数字を現場に置き換えると、50名の利用者を10名の職員で担当する計画が、実際には8〜9名でまわさざるを得ない状況です。東京都では2026年に約28,000人、大阪府では約15,000人の不足が見込まれ、都市部ほど深刻度が増しています。
地域差と施設形態による違い
訪問介護は最も深刻で、利用者の自宅へ移動する負担や不規則な勤務時間から、人材確保が特に困難です。一方、デイサービスや特別養護老人ホームなどの施設系サービスは比較的応募がありますが、夜勤や身体介護の負担から定着率に課題があります。
地方では若年層の都市部への流出により採用自体が困難で、都市部では高い生活費と賃金水準のミスマッチが問題となっています。
介護士が足りない3つの根本原因
原因1: 賃金水準の低さと生活設計の困難さ
介護職の平均月収は約26万円(2024年時点)で、全産業平均の約33万円と比較して月7万円、年間では約84万円の差があります。この賃金格差が、若年層の参入を妨げる最大の要因です。
特に20〜30代の子育て世代にとって、住宅ローンや教育費を考えると介護職を選択しにくい現実があります。実際に介護職員実態調査では、退職理由の第1位が「収入が少ない」(26.3%)となっています。
処遇改善加算などの制度はあるものの、事務負担の重さや要件の複雑さから十分に活用できていない事業所も多く、職員の手取りに直結していないケースが見られます。
原因2: 身体的・精神的負担と労働環境
介護業務には、利用者の移乗介助や入浴介助など身体への負担が大きい作業が含まれます。腰痛や肩痛を抱えながら働く職員は多く、これが長期的なキャリア継続を困難にしています。
さらに人手不足により一人当たりの業務量が増加し、休憩時間の確保が困難、夜勤回数の増加、残業の常態化といった悪循環が生まれています。退職理由の第2位は「職場の人間関係」(19.8%)、第3位は「法人や施設の理念・運営への不満」(18.2%)となっており、労働環境の厳しさが数字に表れています。
原因3: キャリアパスの不明確さと社会的評価
介護職は「誰でもできる仕事」という誤ったイメージが社会に根強く残っており、専門職としての評価が低い状況です。実際には認知症ケアや医療的知識、コミュニケーション技術など高度な専門性が求められますが、この点が十分に認知されていません。
また、入職後のキャリアパスが不明確な事業所が多く、「5年後、10年後にどんな役割を担えるのか」が見えにくいことも、若手の定着を妨げています。介護福祉士の資格を取得しても給与アップが限定的で、リーダーや管理職へのステップアップの機会が少ないことも課題です。
時間軸別の実践的解決策|今日から始める人材確保
【即効性】1〜3ヶ月で実行できる施策
ステップ1: 現職員の離職防止 まず着手すべきは、今いる職員が辞めない環境づくりです。月1回15分の個別面談を実施し、業務負担や人間関係の悩みを早期にキャッチします。所要時間は職員10名で月150分程度、難易度は低めです。
つまずきポイントは「形式的な面談になる」こと。対処法は、「最近困っていることは?」ではなく「先月と比べて負担が増えた業務は?」など具体的な質問をすることです。
ステップ2: 業務効率化の即時実行 記録業務のデジタル化やタブレット導入により、1日30分〜1時間の業務削減が可能です。導入コストは職員1名あたり月額3,000〜5,000円程度。手書き記録をやめるだけで、職員の残業時間が月10時間減少した事例もあります。
ステップ3: 紹介料を活用した即戦力採用 人材紹介サービスの活用で、2〜4週間で経験者を採用できます。紹介料は年収の20〜30%が相場ですが、欠員による機会損失を考えれば合理的な投資です。
【中期的】3〜6ヶ月で効果が出る施策
評価制度と給与体系の見直し 介護福祉士取得で月額2万円アップ、リーダー昇格で月額3万円アップなど、明確な給与テーブルを作成します。設計期間は2ヶ月、導入後3ヶ月で職員の目標意識が変化します。
処遇改善加算の申請書類作成を専門家に委託(費用10〜30万円)することで、確実に加算を取得し、職員の手取りを月1〜3万円増やせます。
働き方改革の実行 夜勤専従職員の採用や、短時間正社員制度の導入で、柔軟な働き方を実現します。子育て中の職員が「週3日・1日5時間」で働ける環境を作ることで、潜在的な人材を発掘できます。
外国人人材の受入れ体制構築 特定技能制度や技能実習制度を活用し、海外から人材を受け入れます。準備期間は4〜6ヶ月、受入れ費用は1名あたり50〜80万円(渡航費・手続き費用含む)が目安です。
【長期的】6ヶ月〜1年で組織を変える施策
独自の育成プログラム開発 入職後3ヶ月・6ヶ月・1年の段階別研修を体系化し、「この事業所で働けば確実に成長できる」という信頼を構築します。研修プログラム作成に3ヶ月、実施と改善に6ヶ月を要します。
地域との連携と採用ブランディング 地域の学校や職業訓練機関と連携し、見学会やインターンシップを実施します。年間20名の見学者から2〜3名の採用につながる事例が多く、長期的な採用基盤となります。
ウェブサイトやSNSで「職員の1日」「キャリアパス事例」を発信し、求職者が働くイメージを持てるようにします。月2回の情報発信で、応募数が3〜5割増加した事例があります。
人材不足解消のコツと避けるべき失敗
よくある失敗例と対処法
失敗例1: 採用だけに注力し、定着対策を怠る 新規採用に成功しても、既存職員が疲弊して辞めてしまえば意味がありません。採用と定着は両輪で進めることが不可欠です。対処法は、採用予算の30%を既存職員の待遇改善に充てることです。
失敗例2: 処遇改善加算を職員に還元しない 加算を取得しても事業所の運営費に充ててしまい、職員の給与に反映されないケースがあります。これは職員の不信感を招き、離職につながります。対処法は、加算の使途を明確に公開し、給与明細に反映させることです。
失敗例3: 経営者の思いだけで制度を作る トップダウンで制度を導入しても、現場のニーズと合わなければ機能しません。対処法は、職員アンケートや意見交換会で現場の声を収集し、優先順位を決めることです。
介護業界特有のリスク管理
人手不足が深刻化すると、サービスの質が低下し、事故やクレームのリスクが高まります。最低でも基準人員配置(利用者3名に対し職員1名など)を遵守し、安全を最優先する姿勢が求められます。
また、職員の過重労働は労働基準法違反のリスクだけでなく、評判の低下や行政指導につながる可能性があります。適切な労務管理と記録の保持が不可欠です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 小規模事業所でも外国人人材を受け入れられますか?
A: 受入れ可能です。監理団体や登録支援機関を活用すれば、小規模事業所でも対応できます。複数の事業所で共同受入れする方法もあり、費用負担を分散できます。
Q2: 給与を上げる余裕がない場合、何から始めるべきですか?
A: まず業務効率化と処遇改善加算の完全取得を優先します。記録業務のデジタル化で残業を削減し、加算を確実に職員給与に還元することで、実質的な待遇改善が可能です。
Q3: 介護未経験者を採用しても大丈夫ですか?
A: 十分に可能です。未経験者向けの研修制度を整備し、先輩職員によるOJT体制を作れば、3〜6ヶ月で基本業務を習得できます。むしろ介護への熱意がある未経験者は、長期定着する傾向があります。
Q4: 人手不足で研修の時間が取れません。どうすればいいですか?
A: オンライン研修や短時間動画による学習を導入し、職員が空き時間に自己学習できる環境を作ります。15分単位の動画教材なら、業務の合間に視聴可能です。
Q5: 採用活動をしても応募が来ない理由は何ですか?
A: 求人票の情報不足が主な原因です。「給与・シフト・休日・キャリアパス」を具体的に記載し、職場の雰囲気が分かる写真を掲載することで応募数は改善します。ハローワークだけでなく、求人サイトやSNSも併用しましょう。
まとめ|人材確保は「攻め」と「守り」の両立
介護士不足の解決には、①採用活動の強化(攻め)、②既存職員の定着支援(守り)、③業務効率化による負担軽減、の3つを同時に進めることが不可欠です。
まず今日からできることは、職員との個別面談で現場の声を聞き、離職の兆候を早期発見することです。次に1ヶ月以内に業務効率化の具体策を1つ実行し、職員の負担を目に見える形で削減しましょう。
人材不足は一朝一夕には解決しませんが、小さな改善の積み重ねが組織を変えます。職員が「この事業所で働き続けたい」と思える環境づくりこそが、最も確実な人材確保の道です。

