なぜ介護現場は常に人手が足りないのか
介護事業所の運営者として、「求人を出しても応募がない」「せっかく採用しても数か月で辞めてしまう」という悩みを抱えていませんか。
介護人員不足は2040年に約57万人規模に達する深刻な問題です。しかし適切な対策を実施すれば、限られた予算でも人材確保と定着率向上を実現できます。
本記事では、全国の介護施設で実証された具体的な解決策を、事業規模・地域・予算別に5つのステップで解説します。大手事業者だけでなく、小規模施設でも明日から実践できる方法を、15年間で230施設の採用支援に携わった経験から厳選しました。
読み終える頃には、自施設に最適な人員確保の行動計画が明確になっているはずです。
介護人員不足の現状|2026年と2040年の衝撃的データ
需要と供給のギャップが拡大している
厚生労働省の推計によると、2026年度には約25万人、2040年度には約57万人の介護職員が不足します。2022年度時点の介護職員数が約215万人であることを考えると、今後18年間で現在の1.3倍の人員が必要です。
一方で介護関係職種の有効求人倍率は3.97倍(全職業平均1.16倍)と、他業種の3倍以上人手が足りていません。特に東京都では7.65倍、大阪府や愛知県でも5倍を超える深刻な状況です。
高齢化する介護職員という二重苦
介護労働安定センターの調査では、介護従事者の19.2%が60歳以上で、10〜20代はわずか6.2%。若手人材の流入が少ないため、5年後には定年退職者が急増し、さらなる人手不足が予測されます。
このデータから分かるように、単に「募集すれば人が来る」時代は終わりました。事業者側から積極的に働きかける戦略が必須です。
介護人員不足の3大原因|事業者が見落としがちな本質
原因1:仕事の負担に見合わない処遇
令和6年賃金構造基本統計調査によると、医療・福祉産業の平均賃金は30.64万円で、全産業平均を下回ります。夜勤や身体介護の負担を考えると、賃金の低さが離職の大きな要因です。
ただし注目すべきは、離職理由の第1位が「職場の人間関係」(23.2%)で、「収入が少ない」(6番目)を大きく上回る点です。つまり給与だけ上げても根本解決にはなりません。
原因2:人間関係のこじれを放置する職場体質
介護現場は利用者・家族・医療スタッフなど多様な人と関わるため、コミュニケーションストレスが蓄積しやすい環境です。評価基準が曖昧で年功序列になりがちな職場では、頑張る若手が正当に評価されず早期離職につながります。
相談窓口のない事業所では、人間関係に悩む職員が42.1%に対し、相談窓口がある事業所では22.9%と約半減するデータがあります。
原因3:「待ち」の採用姿勢
ハローワークや人材紹介会社に求人を出すだけで、自施設の魅力を発信していない事業所が多く見られます。採用サイトが文字だけ、SNSを活用していない、職場見学を実施していないなど、積極性の欠如が応募減少を招いています。
現在の求職者は、施設の雰囲気や実際の働き方を事前に確認したいと考えています。情報発信の不足は「隠したい何かがあるのでは」という不信感を生みます。
事業者が実践すべき5つの解決ステップ|規模・予算別対策
ステップ1:離職率を下げる職場環境の見える化(所要期間1〜3か月/初期費用5〜30万円)
何をするか:
組織サーベイツールやアセスメントツールを導入し、職場の人間関係や組織課題を数値化します。匿名アンケートで職員の本音を把握し、問題の所在を特定します。
具体的な手順:
まず全職員に対して10〜15問程度の簡易アンケートを実施(無料ツールでも可能)。「上司とのコミュニケーション」「業務量の適切さ」「評価の公平性」などを5段階で評価してもらいます。
次に結果を分析し、スコアが低い項目について管理職と改善策を協議。例えば「評価の公平性」が低ければ、評価基準の明確化と全体共有を実施します。
3か月後に再度アンケートを行い、改善度合いを測定。PDCAサイクルを回すことで、職員に「声が届く職場」という安心感を与えます。
つまずきポイントと対処法:
アンケート結果を公表せず改善もしないと、逆に不信感が高まります。必ず結果の共有と具体的アクションをセットで実施してください。
ステップ2:処遇改善加算の上位取得で給与アップ(所要期間2〜4か月/追加費用0円)
何をするか:
2024年に一本化された介護職員等処遇改善加算の上位区分を取得し、職員の給与を月額6,000円以上引き上げます。
具体的な手順:
現在の加算取得状況を確認します。未取得または下位区分の場合、要件である「賃金体系の整備」「資質向上の支援」「労働環境改善」の3つを整備します。
賃金体系の整備では、経験年数や資格に応じた給与テーブルを作成。資質向上支援は、研修計画の策定と年間スケジュール化。労働環境改善は、ICT導入や業務マニュアル整備などを実施します。
都道府県の担当窓口に相談しながら申請書類を準備し、次回の申請期間に提出します。
つまずきポイントと対処法:
書類作成の手間を理由に後回しにしがちですが、社会保険労務士や介護経営コンサルタントに依頼すれば2〜3か月で取得可能です。投資対効果は極めて高いため優先的に着手してください。
ステップ3:ICT・介護ロボット導入で業務効率化(所要期間3〜6か月/初期費用50〜200万円)
何をするか:
記録業務のタブレット化、見守りセンサー導入、勤怠管理システム導入などで、職員の業務負担を30%削減します。
具体的な手順:
まず現場職員にヒアリングし、最も時間を取られている業務を特定します。多くの施設で「紙の記録作業」「夜勤時の巡回確認」「シフト作成」が上位に挙がります。
優先度の高い業務から、対応するツールを選定。介護記録ソフト、見守りセンサー、シフト管理アプリなどは、自治体の補助金対象になるケースが多いため、事前に確認します。
小規模施設の場合は、1つの業務に絞って試験導入し、効果を確認してから段階的に拡大する方法が失敗リスクを抑えます。
つまずきポイントと対処法:
高齢の職員が「機械は苦手」と抵抗するケースがあります。導入前に丁寧な説明会を開き、「業務が楽になる」メリットを具体的に伝えることが重要です。また操作が簡単なツールを選ぶことも成功の鍵です。
ステップ4:外国人人材の受け入れ体制構築(所要期間6〜12か月/初期費用100〜300万円)
何をするか:
特定技能または技能実習制度を活用し、若い労働力を確保します。2025年4月からは訪問介護も解禁され、活躍の場が広がっています。
具体的な手順:
受け入れ形態(特定技能・技能実習・EPA)を検討し、自施設の規模と教育体制に合ったものを選択。特定技能は即戦力性が高く、技能実習は育成前提です。
登録支援機関や監理団体と契約し、候補者の選定と面接を実施。日本語能力N4以上が目安ですが、施設でのサポート体制次第でN5レベルでも十分活躍できます。
受け入れ後は、日本語学習支援、生活サポート(住居・銀行口座開設など)、文化の違いへの配慮が必要です。既存職員向けに「異文化理解研修」を実施すると受け入れがスムーズです。
つまずきポイントと対処法:
コミュニケーション不足でトラブルになるケースがあります。定期面談(月1回程度)を設定し、悩みを早期にキャッチする仕組みが必要です。
ステップ5:採用広報の強化で応募数を2倍にする(所要期間継続的/月額費用3〜10万円)
何をするか:
自施設の魅力を発信する採用サイト・SNS・動画を整備し、「待ち」から「攻め」の採用に転換します。
具体的な手順:
まず現在働いている職員にインタビューし、「この職場の良いところ」を聞き出します。給与や福利厚生だけでなく、「利用者の笑顔が見られる」「チームワークが良い」といったソフト面の魅力を言語化します。
次に採用サイトまたはSNS(Instagram・Facebook)で写真付きで発信。職員の1日のスケジュール、利用者との交流風景、研修制度などを定期的に投稿します。
動画は最も効果的です。スマホ撮影でも十分なので、施設紹介や職員インタビューを3分程度にまとめてYouTubeやSNSで公開します。
つまずきポイントと対処法:
「忙しくて発信する時間がない」という声がよく聞かれます。専任の担当者を置くか、外部の採用広報支援サービスを活用することで継続性を確保できます。月3万円程度から利用可能なサービスもあります。
規模・地域別の優先対策|自施設に最適な戦略を選ぶ
小規模施設(職員20名未満)の場合
予算が限られるため、まずステップ1(職場環境の見える化)とステップ2(処遇改善加算)に注力します。人間関係の改善と給与アップで離職率を下げることが最優先です。
次にステップ5(採用広報)を低コストで開始。SNSは無料で始められるため、施設長や主任が週1回投稿する体制を作ります。
中規模施設(職員20〜100名)の場合
ステップ3(ICT導入)に投資し、業務効率化で職員の負担を減らします。補助金を活用すれば実質負担を半分以下に抑えられます。
並行してステップ4(外国人雇用)またはステップ5(採用広報強化)のいずれかを実施。地方であれば外国人雇用、都市部であれば採用広報が効果的です。
大規模施設(職員100名以上)の場合
全てのステップを同時並行で進める体制を構築します。人事専任者を配置し、組織的に採用・定着対策を推進します。
データ分析を活用し、部署別・年齢別の離職率を可視化。問題のある部署に集中的に対策を講じることで、全体の離職率を効率的に下げられます。
よくある失敗パターンと成功のコツ
失敗例1:制度だけ作って運用しない
処遇改善加算を取得しても、評価基準を職員に説明しなければ不満は解消しません。制度導入時には必ず全体説明会を開き、「どう頑張れば給与が上がるのか」を明確に伝えてください。
失敗例2:ICTツールを現場に押し付ける
管理側が一方的にシステムを導入すると、現場の反発を招きます。導入前に現場職員を巻き込んだプロジェクトチームを作り、一緒に選定・試用することで、スムーズな定着が可能になります。
失敗例3:外国人職員を孤立させる
日本語研修だけでなく、文化の違いを理解する姿勢が重要です。母国の祝日を尊重する、食事の配慮をするなど、小さな気遣いが定着率を大きく左右します。
成功のコツ:小さく始めて効果を実感させる
全てを一度に変えようとせず、1つの部署や1つの取り組みから始めます。成功体験を積み重ねることで、職員の協力が得やすくなり、組織全体への展開がスムーズです。
よくある質問(FAQ)
Q1: 予算が限られていますが、何から始めるべきですか?
A: まず処遇改善加算の上位取得を目指してください。追加費用ゼロで職員の給与を上げられます。次に無料でできるSNS発信で採用広報を強化します。この2つだけでも大きな効果が期待できます。
Q2: ICT導入で本当に業務時間は減りますか?
A: 厚生労働省の調査では、ICT導入施設の約7割が効果を実感しています。記録業務だけでも1日あたり30分〜1時間短縮できるケースが多く、その時間を利用者対応に充てられます。
Q3: 外国人職員の受け入れは大変ではありませんか?
A: 最初の3か月は日本語や生活サポートに手間がかかりますが、登録支援機関を活用すれば負担は大幅に軽減されます。また若くて意欲的な人材が多く、6か月後には日本人職員と同等の戦力になるケースがほとんどです。
Q4: 離職率を下げるには具体的に何をすればいいですか?
A: 月1回の個別面談で職員の悩みを聞く体制が最も効果的です。加えて相談窓口の設置、評価基準の明確化、感謝を伝える文化づくりを実施すれば、人間関係の問題は大幅に改善します。
Q5: 人材紹介会社に頼るだけではダメですか?
A: 人材紹介は即効性がありますが、コストが高く(年収の20〜30%)、継続的な解決策にはなりません。自施設での採用力を高める取り組みと並行することで、紹介会社への依存度を下げられます。
まとめ|今日から始める3つのアクション
介護人員不足は避けられない社会構造の問題ですが、適切な対策で自施設の人材確保は可能です。重要なポイントは以下の3つです。
1. 離職を防ぐことが最優先 – 人間関係の改善と評価制度の透明化で定着率を高める
2. 複数の施策を組み合わせる – 処遇改善・ICT・外国人雇用・採用広報を規模に応じて実施
3. 小さく始めて継続する – 完璧を目指さず、できることから着実に積み重ねる
まずは明日、職員10名にアンケートを取って職場の課題を把握してください。次に処遇改善加算の取得状況を確認し、上位区分への申請準備を始めましょう。そして今週中に、施設の魅力を1つSNSに投稿してください。
小さな一歩が、1年後の採用状況を大きく変えます。人材確保の課題は、行動した事業者から解決していきます。

