訪問介護ステーションを開業したいが、何から始めればよいかわからない
訪問介護ステーションの開業は、法人設立から指定申請まで約3〜6ヶ月、初期費用は500〜1,000万円が目安です。管理者・サービス提供責任者・訪問介護員の3職種を配置し、都道府県の指定を受ければ開業できます。
本記事では、実際に事業所を立ち上げた経験をもとに、開業準備から収益化までの具体的手順を解説します。2026年の介護報酬改定にも対応した最新情報で、失敗しない開業のポイントをお伝えします。
筆者は福祉経営の現場で10年以上携わり、複数の訪問介護事業所の立ち上げに関与してきました。つまずきやすいポイントと対処法を知っているため、実践的なアドバイスができます。
この記事を読めば、開業までの道筋が明確になり、安心して準備を進められるでしょう。
訪問介護ステーション開業とは?基礎知識を押さえる
訪問介護ステーションの開業とは、介護を必要とする高齢者や障がい者の自宅へ訪問介護員(ホームヘルパー)を派遣し、身体介護や生活援助を提供する事業を始めることです。
訪問介護には「身体介護」と「生活援助」の2種類があります。身体介護は食事・入浴・排せつの介助など直接身体に触れる介護で、生活援助は調理・洗濯・掃除など日常生活のサポートです。
開業の特徴として、他の介護サービスと比較して初期費用が抑えられる点が挙げられます。デイサービスやグループホームは施設建設に数千万円かかりますが、訪問介護は賃貸事務所で開業できるため、500万円程度から始められます。
ただし、介護報酬は国が定めた単価で決まっており、価格競争による差別化はできません。そのため、サービスの質や利用者数の確保が収益の鍵となります。
例えば、月間訪問回数400回を超えると安定した収益が見込めるとされています。開業初期は200回程度からスタートし、半年から1年かけて400回以上に増やしていくのが一般的です。
訪問介護ステーション開業の5つのメリット
訪問介護ステーション開業には、他の介護事業にはない明確な利点があります。
少額資本で開業できる
初期費用が500〜1,000万円と、介護事業の中では最も低コストで始められます。施設型サービスと異なり、事務所の賃貸契約と車両があれば開業可能です。
自己資金150〜200万円に加え、日本政策金融公庫の創業融資を活用すれば、資金調達のハードルも高くありません。実際に融資審査では、介護業界の将来性が評価されやすい傾向があります。
法人設立費用も合同会社なら10万円程度で済み、株式会社でも25万円前後です。行政書士に指定申請を依頼しても10〜15万円が相場となっています。
社会貢献性が高く需要が安定している
2026年時点で日本の高齢化率は29%を超え、今後も介護需要は増加し続けます。厚生労働省のデータでは、訪問介護の利用者数は右肩上がりで推移しています。
地域の高齢者が自宅で安心して暮らせるよう支援する仕事は、社会的意義が大きく、やりがいを感じられます。利用者やご家族から直接感謝の言葉をいただける場面も多く、従業員のモチベーション維持にもつながります。
また、介護保険制度により報酬が保証されているため、景気変動の影響を受けにくい安定した事業モデルです。
小規模からスタートできる
最小構成は管理者1名、サービス提供責任者1名、訪問介護員2.5名(常勤換算)の合計4〜5名で開業できます。事務所も専有面積の規定がないため、20〜30㎡程度のコンパクトな空間で運営可能です。
開業後に利用者が増えてから段階的に人員を増やせるため、経営リスクを最小限に抑えられます。初期は管理者とサービス提供責任者を兼務することも可能で、人件費の負担を軽減できます。
実際に多くの事業所が5名体制でスタートし、軌道に乗ってから10名、15名と拡大しています。
柔軟な働き方を提供できる
訪問介護は利用者の都合に合わせた時間帯設定が可能で、従業員にも柔軟な勤務形態を提供できます。登録ヘルパー制度を活用すれば、子育て中の主婦や定年退職後のシニアなど、様々な人材を活用できます。
フルタイムで働けない方でも、午前だけ、午後だけといった働き方ができるため、人材確保の選択肢が広がります。これは施設型サービスのシフト勤務と比較した大きな利点です。
複数事業所展開で規模拡大しやすい
1つの事業所で収益モデルが確立すれば、同じノウハウで2号店、3号店と横展開できます。訪問介護は地域密着型サービスのため、各地域に事業所を設置することで市場を拡大できます。
管理本部を設置して複数事業所を統括する体制を作れば、さらに効率的な経営が可能になります。実際に成功している事業者は、5年で10事業所程度まで拡大している例もあります。
訪問介護ステーション開業の実践的5ステップ
ここでは開業準備から事業開始までの具体的な手順を、所要時間と難易度を示しながら解説します。
ステップ1:事業計画の策定と法人設立(所要期間:1〜2ヶ月/難易度:中)
まず取り組むべきことは、事業計画書の作成です。開業地域の高齢者人口、競合事業所数、想定利用者数、収支シミュレーションを具体的に数値化します。
金融機関から融資を受ける場合、この事業計画書が審査の重要資料となります。月間訪問回数の目標(開業3ヶ月後200回、6ヶ月後300回、1年後400回など)を設定し、それに基づく売上と経費を計算しましょう。
次に進むのは法人格の取得です。訪問介護事業は法人格がなければ開業できません。合同会社または株式会社を設立し、定款に「介護保険法に基づく訪問介護事業」を記載します。
設立登記は司法書士に依頼すれば2週間程度で完了します。自分で行う場合は法務局への書類提出から1週間程度です。
つまずきポイントは、事業目的の記載漏れです。定款に介護事業を明記していないと、後から変更登記が必要になり、時間とコストがかかります。必ず設立時に正しく記載しましょう。
ステップ2:資金調達と物件・設備の確保(所要期間:1〜2ヶ月/難易度:高)
まず着手するのは資金調達です。自己資金に加え、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」や「中小企業経営力強化資金」を活用します。
融資申込から実行まで1〜2ヶ月かかるため、早めに準備しましょう。必要書類は事業計画書、資金繰り表、見積書、履歴書などです。面談では介護業界での経験や事業への熱意をしっかり伝えることが重要です。
次に取り組むのは事務所の物件探しです。指定基準では事務室、相談室(パーティション等で区切られたプライバシー確保可能な空間)、手洗い設備が必要です。
賃貸契約時には「介護事業所として使用する」旨を貸主に伝え、承諾を得ましょう。住宅専用物件では事業利用が禁止されている場合があります。
設備としては、デスク・椅子、電話・FAX、パソコン、鍵付き書庫(個人情報保管用)、訪問用車両が必要です。合計で100〜150万円程度を見込みます。
つまずきポイントは、物件の用途制限です。契約後に事業利用が認められないと判明し、再度物件を探すケースがあります。必ず契約前に確認しましょう。
ステップ3:人材採用と資格要件の確認(所要期間:1〜2ヶ月/難易度:高)
最初に確保すべきは管理者とサービス提供責任者です。管理者は資格要件がなく、業務に専念できる常勤者であれば可能です(他事業所との兼務は原則不可)。
サービス提供責任者は以下のいずれかの資格が必要です。
- 介護福祉士
- 実務者研修修了者
- 介護職員初任者研修修了者で3年以上の実務経験者(ただし配置人数に制限あり)
次に採用するのは訪問介護員(ホームヘルパー)です。常勤換算で2.5名以上が必要で、以下の資格保有者に限られます。
- 介護福祉士
- 実務者研修修了者
- 介護職員初任者研修修了者
- 生活援助従事者研修修了者(生活援助のみ提供可能)
人材募集は求人サイト、ハローワーク、人材紹介会社など複数チャネルを活用します。特に地域の福祉人材センターは無料で求人掲載できるため、必ず活用しましょう。
つまずきポイントは、有資格者の確保難です。特にサービス提供責任者は人材不足が深刻です。開業3ヶ月前から採用活動を始め、余裕を持って準備することが重要です。
ステップ4:指定申請書類の作成と提出(所要期間:1ヶ月/難易度:高)
まず確認するのは都道府県または市区町村の申請窓口と提出期限です。多くの自治体では、事業開始希望月の前々月末が締切となっています(例:4月開業希望なら2月末締切)。
申請前に事前相談または事前協議が必須の自治体もあるため、必ず確認しましょう。
次に準備するのは以下の主要書類です。
- 指定申請書および付表
- 法人の定款・登記簿謄本
- 管理者・サービス提供責任者の資格証明書
- 従業員の雇用契約書・資格証明書
- 事務所の平面図・賃貸借契約書
- 運営規程
- 利用者からの苦情処理体制に関する書類
- 介護給付費算定に係る体制等の届出書
行政書士に依頼する場合、報酬は10〜15万円が相場です。自分で作成する場合でも、各自治体の手引きに沿って丁寧に記載すれば問題ありません。
つまずきポイントは、書類の不備による差し戻しです。特に運営規程の記載内容や、サービス提供時間の設定ミスが多いです。提出前に自治体の担当者に事前確認してもらうことをお勧めします。
ステップ5:指定後の準備と営業活動開始(所要期間:1ヶ月/難易度:中)
指定通知を受けたら、まず指定時研修を受講します(自治体によっては必須)。介護保険制度の仕組み、報酬請求の方法、運営基準の遵守事項などを学びます。
次に整備するのは業務に必要な帳票類です。重要事項説明書、契約書、サービス計画書、業務日報、訪問記録などのテンプレートを準備します。介護ソフトを導入する場合は、この段階で契約と初期設定を行いましょう。
最後に取り組むのは営業活動です。主な営業先は以下の通りです。
- 居宅介護支援事業所(ケアマネジャー)
- 地域包括支援センター
- 病院の医療ソーシャルワーカー
- 訪問看護ステーション
特にケアマネジャーへの営業が最重要です。パンフレットと名刺を持参し、事業所の特徴や対応可能なサービス内容を説明して回ります。最初は1日5〜10件を目標に訪問し、関係構築に努めましょう。
つまずきポイントは、営業活動の遅れです。指定を受けてから営業を始めると、利用者獲得まで時間がかかります。指定申請中から地域への挨拶を始め、開業と同時にスタートできる体制を整えましょう。
訪問介護ステーション開業成功のコツと注意点
開業後に安定経営を実現するためには、よくある失敗を避け、収益構造を理解することが不可欠です。
よくある失敗例と対策
失敗例1:利用者が集まらず収益が上がらない
開業後3ヶ月経っても利用者が10名以下という事業所があります。原因は営業活動の不足です。
対策として、開業前からケアマネジャーに事業所をアピールし、開業初月から20名以上の利用者を確保する目標を立てましょう。地域の介護事業者向け交流会にも積極的に参加し、顔を覚えてもらうことが重要です。
失敗例2:人材が定着せず離職が続く
訪問介護は孤独な業務になりやすく、サポート体制がないと離職率が高まります。特に新人ヘルパーは不安を抱えやすいです。
対策として、週1回のミーティング開催、同行訪問によるOJT、定期的な個別面談を実施しましょう。LINEやチャットツールでいつでも相談できる環境を整えることも効果的です。
失敗例3:資金繰りが悪化し運転資金が不足する
介護報酬は国民健康保険団体連合会(国保連)から入金されますが、サービス提供月から入金まで2ヶ月かかります。例えば4月のサービス提供分は6月末入金です。
対策として、開業後3〜6ヶ月分の運転資金(人件費・家賃など)を確保しておきましょう。初期投資を抑え、運転資金に余裕を持たせることが資金繰り悪化を防ぎます。
収益を最大化するためのポイント
加算の積極的な取得が収益向上の鍵です。特定事業所加算は、サービス提供責任者の配置体制やヘルパーの資格状況に応じて、基本報酬に20〜50%が加算されます。
要件を満たせば月間数十万円の増収になるため、計画的に体制を整えましょう。また、処遇改善加算も必ず取得し、従業員の給与アップと事業所の収益増加を両立させます。
効率的な訪問ルートの設計も重要です。訪問先を地域別にグループ化し、移動時間を最小化することで、1日あたりの訪問件数を増やせます。
理想は1人のヘルパーが1日5〜6件訪問できる体制です。訪問スケジュールを最適化するシフト管理ソフトの活用も検討しましょう。
法令遵守と品質管理の重要性
訪問介護は3年ごとに実地指導(行政による監査)があります。運営基準違反が見つかると、報酬返還や指定取消のリスクがあるため、日頃から適切な記録管理が必須です。
特に以下の点を厳守しましょう。
- サービス提供記録の適切な作成・保管
- 利用者への重要事項説明と同意取得
- 従業員の資格有効期限の管理
- 運営規程の遵守
品質管理では、利用者満足度調査を年1〜2回実施し、サービス改善に活かすことが大切です。クレームや事故が発生した場合は、速やかに記録し、再発防止策を講じる体制を整えましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 訪問介護ステーションは1人でも開業できますか?
A: 1人だけでは開業できません。最低でも管理者1名、サービス提供責任者1名、訪問介護員2.5名(常勤換算)の配置が必要です。管理者とサービス提供責任者の兼務は可能ですが、訪問介護員は別途確保する必要があります。実際には4〜5名体制でのスタートが一般的です。
Q2: 開業に必要な資格は何ですか?
A: 管理者には資格要件がありません。サービス提供責任者は介護福祉士または実務者研修修了者が必要です。訪問介護員は介護福祉士、実務者研修修了者、介護職員初任者研修修了者のいずれかの資格が必須となります。生活援助のみであれば生活援助従事者研修修了者でも可能です。
Q3: 開業から収益化まではどのくらいかかりますか?
A: 通常6ヶ月〜1年程度で収益が安定します。開業初月から黒字化するのは難しく、最初の3〜6ヶ月は利用者獲得期間と考えましょう。月間訪問回数が400回を超えると安定収益が見込めるため、この水準を目指して営業活動を続けることが重要です。運転資金は最低でも6ヶ月分を確保しておきましょう。
Q4: 競合が多い地域でも開業できますか?
A: 可能です。高齢者人口が多い地域では、競合が多くても需要が供給を上回っている場合があります。開業前に地域の要介護認定者数と既存事業所数を調査し、市場の余地を確認しましょう。差別化ポイントとしては、夜間対応、医療ニーズへの対応、特定の疾患への専門性などが考えられます。
Q5: フランチャイズと独立開業、どちらが良いですか?
A: それぞれにメリットがあります。フランチャイズは開業ノウハウや研修制度が整っており、未経験者でも始めやすいですが、加盟金やロイヤリティが発生します。独立開業は自由度が高く、利益をすべて自分のものにできますが、すべて自分で準備する必要があります。介護業界での経験が豊富なら独立開業、未経験ならフランチャイズを検討すると良いでしょう。
まとめ
訪問介護ステーションの開業は、500〜1,000万円の初期費用と3〜6ヶ月の準備期間があれば実現できます。成功の3つのポイントは、①有資格者の確保と早期の営業活動開始、②加算取得による収益最大化、③適切な記録管理による法令遵守です。
次のアクションとして、まず地域の高齢者人口と競合事業所数を調査し、事業計画書の作成から始めましょう。日本政策金融公庫への融資相談や、各都道府県の指定申請手引きの入手も並行して進めてください。
高齢化が進む日本において、訪問介護の需要は今後も増加し続けます。適切な準備と計画があれば、社会貢献と安定収益を両立できる事業です。あなたの開業が地域の高齢者の暮らしを支える大きな力となることを願っています。

