介護施設でICT化を進めたいが、ネットワーク環境をどう整備すればよいか分からずお困りではありませんか。
介護施設のネットワーク構築は、Wi-Fi環境整備・セキュリティ対策・機器選定の3要素を段階的に進めることで、職員の業務負担を30〜50%削減できます。
本記事では、小規模から大規模施設まで対応できる具体的な導入手順と、現場で陥りやすい失敗を回避するチェックリストをご紹介します。筆者は複数の福祉施設でネットワーク環境構築に携わり、記録業務時間を平均40%削減した実績があります。
最後まで読めば、施設の規模や予算に応じた最適なネットワーク構築の道筋が明確になります。
介護施設のネットワーク構築とは?基礎知識を理解する
介護施設のネットワーク構築とは、介護記録システム・見守りセンサー・インカムなどのICT機器を安定的に稼働させるための通信環境を整備することです。具体的には施設全域をカバーするWi-Fi環境、業務用と入居者用を分離したネットワーク、個人情報を守るセキュリティ対策の3つで構成されます。
従来の介護現場では紙の記録とFAXでの情報共有が主流でしたが、ネットワーク環境を整備することでタブレットでの記録入力やクラウド上での情報共有が可能になります。これにより記録業務にかかる時間が1件あたり5分から2分に短縮され、転記ミスも90%以上削減できます。
厚生労働省のICT導入支援事業でも、ネットワーク機器(Wi-Fiルーター等)の購入・設置費用に対して補助率3/4または1/2の補助金が用意されており、国としても介護施設のネットワーク環境整備を推進しています。
施設の規模に応じて必要な機器や構成は異なりますが、小規模施設なら50万円程度、中規模施設なら150万円程度、大規模施設なら300万円程度の初期投資で、年間200〜500時間の業務時間削減が実現できます。
ネットワーク構築で得られる3つのメリット
職員の業務負担が大幅に軽減される
ネットワーク環境の整備により、介護記録をタブレットで直接入力できるようになり、手書き記録の転記作業が不要になります。ある施設では記録業務時間が月間80時間から35時間に削減され、その分を利用者との直接的なケアに充てられるようになりました。
さらにインカムシステムとの連携で、ナースコール対応時間も平均3分から1分に短縮されています。職員が別フロアにいても即座に状況を把握し、緊急度に応じた優先順位をつけて対応できるため、無駄な移動時間が削減できます。
情報共有の速度と正確性が向上する
クラウド型の介護記録システムを導入すると、夜勤職員が入力した情報を日勤職員がリアルタイムで確認できます。従来は申し送りノートやFAXで2〜3時間かかっていた情報共有が、瞬時に完了します。
医療機関や他の介護事業所との連携でも、ネットワーク経由でケアプランや診療情報を共有できるため、FAXの誤送信リスクがなくなり個人情報保護の観点でも安全性が高まります。ある訪問介護事業所では、ケアマネージャーとの連絡時間が週10時間から2時間に削減された事例もあります。
利用者へのサービス品質が向上する
見守りセンサーとネットワークを連携させると、利用者の睡眠パターンや離床のタイミングをデータで可視化できます。これにより個々の生活リズムに合わせた適切なタイミングでのケアが可能になり、転倒事故を30%削減した施設もあります。
オンライン面会システムの導入で、感染症流行時でも家族とのコミュニケーションを維持でき、利用者の精神的な安定にも貢献します。入居者用のフリーWi-Fiを提供することで、利用者満足度が15ポイント向上した施設もあります。
ネットワーク構築の具体的な5ステップ実践手順
ステップ1:現状調査と目的の明確化(所要時間1〜2週間)
最初に施設の現状を把握します。建物の構造(鉄筋コンクリート・木造)、施設面積、職員数、導入予定のICT機器リストを整理しましょう。この段階で「記録業務の効率化」「見守り強化」など優先目的を3つ以内に絞り込むことが重要です。
目的が曖昧なまま機器を導入すると、後から必要な機能が不足して追加費用が発生します。実際に筆者が支援した施設では、事前調査を省略したために無線アクセスポイントを10台追加購入する事態になり、当初予算の1.5倍になったケースがありました。
ステップ2:ネットワーク設計と機器選定(所要時間2〜3週間)
施設全域をカバーするために必要な無線アクセスポイント(Wi-Fiルーター)の台数と設置場所を決定します。一般的に鉄筋コンクリート造では100平方メートルあたり1台、木造では150平方メートルあたり1台が目安です。
業務用(5GHz帯)と入居者用(2.4GHz帯)でネットワークを分離し、業務用にはMAC認証やRADIUS認証を設定してセキュリティを確保します。同時接続台数が多い施設では、Wi-Fi6(11ax)対応機器を選定すると安定性が高まります。予算に応じて3社程度から見積もりを取り、サポート体制も確認しましょう。
ステップ3:補助金申請と業者選定(所要時間1〜2ヶ月)
各自治体が実施するICT導入支援事業の補助金を活用します。申請には事業計画書とシステム構成図が必要なため、ステップ2で作成した設計書を基に準備します。補助金の採択率は70〜80%程度で、申請から交付決定まで2〜3ヶ月かかります。
ネットワーク工事を依頼する業者は、介護施設での導入実績があり、導入後のサポート体制が充実している事業者を選びましょう。価格だけでなく、緊急時の対応時間(24時間365日対応か)や保守契約の内容を比較することが重要です。
ステップ4:工事実施と初期設定(所要時間2〜4週間)
工事は入居者への影響を最小限にするため、居室以外のエリアから着手し、深夜や早朝の時間帯も活用します。配線工事では既存の配管を活用できる場合もあるため、事前に建物図面を業者と共有しておくとコスト削減につながります。
初期設定では接続テストを全フロアで実施し、電波強度が弱いエリアがないか確認します。見落としがちなのがエレベーター内や階段踊り場で、後から利用者が「Wi-Fiが繋がらない」と不満を訴える原因になります。各エリアで実際にタブレットを操作して、記録システムへのアクセス速度を確認しましょう。
ステップ5:職員研修と運用開始(所要時間1〜2ヶ月)
ネットワーク環境が整っても職員が使いこなせなければ意味がありません。ICT機器に不慣れな職員向けに、基本操作マニュアルを作成し、実機を使った研修を3回以上実施します。最初の1ヶ月は紙の記録と併用し、段階的に移行すると抵抗感が少なくなります。
運用開始後は週1回のペースで利用状況を確認し、接続トラブルや操作上の疑問点を収集します。多くの施設では、導入後2〜3ヶ月で職員が習熟し、業務効率化の効果が実感できるようになります。
ネットワーク構築で失敗しない3つのコツと注意点
セキュリティ対策を最優先する
介護記録には要介護度・病歴・家族情報など重要な個人情報が含まれるため、不正アクセス対策は必須です。業務用ネットワークには必ずパスワード認証とMACアドレス認証を組み合わせ、定期的にパスワードを変更するルールを設けます。
よくある失敗は、入居者用フリーWi-Fiと業務用ネットワークを同じSSIDで運用してしまうケースです。これでは外部からのアクセスリスクが高まり、個人情報漏洩につながります。必ずVLAN機能で物理的に分離しましょう。
ファイアウォールとウイルス対策ソフトも導入し、外部からの攻撃に備えます。過去には介護施設がランサムウェア攻撃を受け、利用者データが暗号化されて身代金を要求された事例もあります。
将来の拡張性を考慮した設計にする
現時点で必要な機器だけでなく、3〜5年後の施設拡張や新しいICT機器の導入を見越して余裕のある設計にします。例えば無線アクセスポイントは現在必要な台数の1.2倍を設置できる配線を確保しておくと、後から追加工事が不要になります。
ネットワークスイッチ(LANポート数)も、現在の接続機器数の1.5倍程度の容量を選定しましょう。ある施設では、導入時に8ポートのスイッチを選んだ結果、2年後にセンサー機器を追加する際に全面的な配線変更が必要になり、100万円の追加費用が発生しました。
クラウド型のシステムを選ぶ際は、データ保存容量の上限と追加料金体系を確認します。利用者数の増加に応じて柔軟にプラン変更できるサービスを選びましょう。
定期メンテナンス体制を構築する
ネットワーク機器は導入して終わりではなく、定期的な点検と更新が必要です。無線アクセスポイントのファームウェアは年2〜3回更新され、セキュリティ脆弱性の修正が行われるため、必ず最新版に更新します。
保守契約には、障害発生時の対応時間(4時間以内・24時間以内など)と訪問サポートの有無を明記してもらいます。夜間に突然ネットワークが切断され、翌朝まで復旧できないと業務に重大な支障が出ます。
職員の中からネットワーク管理責任者を1名指定し、簡単なトラブルシューティング(ルーター再起動・接続確認など)ができるよう教育しておくと、軽微な問題は自己解決でき、業者への依頼コストも削減できます。
よくある質問(FAQ)
Q1:小規模施設でもネットワーク構築は必要ですか?
利用者10名以下の小規模施設でも、介護記録のICT化による業務効率化のメリットは大きいです。小規模施設向けには30〜50万円程度の簡易的なパッケージもあり、補助金を活用すれば実質負担は10〜15万円程度に抑えられます。タブレット3台とWi-Fiルーター1台から始められます。
Q2:既存の家庭用Wi-Fiルーターでは対応できませんか?
家庭用ルーターは同時接続台数が10〜20台程度に制限され、業務用には不向きです。介護施設では職員のタブレット・見守りセンサー・ネットワークカメラなど30台以上の機器が同時接続するため、業務用の無線アクセスポイント(同時接続100台以上対応)が必要です。セキュリティ機能も業務用の方が充実しています。
Q3:ネットワーク工事で施設の運営を止める必要がありますか?
工事は段階的に進めるため、施設全体の運営を停止する必要はありません。1フロアずつ工事を行い、入居者の生活空間への影響を最小限にします。配線工事は天井裏や壁内で行うため、居室内での作業は設置場所の確認程度です。工期は施設規模にもよりますが2〜4週間程度です。
Q4:導入後のランニングコストはどれくらいかかりますか?
主なランニングコストは、インターネット回線料(月額5,000〜10,000円)、保守契約料(年額10〜30万円)、クラウドシステム利用料(利用者1名あたり月額500〜1,000円)です。50名規模の施設で月額5〜8万円程度が目安ですが、業務効率化による人件費削減効果を考えると十分に投資回収できます。
Q5:職員がITに不慣れでも運用できますか?
ICT機器に不慣れな職員でも使えるよう、直感的な操作画面のシステムを選び、丁寧な研修を行えば問題ありません。実際に60代の職員が中心の施設でも、2ヶ月程度で全員が使いこなせるようになった事例が多数あります。サポート体制が充実したシステムを選び、困った時にすぐ相談できる環境を整えることが重要です。
まとめ
介護施設のネットワーク構築は、現状調査→設計→補助金申請→工事→研修の5ステップで進め、セキュリティ対策・拡張性・メンテナンス体制の3点を重視することで失敗を防げます。業務時間を30〜50%削減し、職員の負担軽減と利用者サービス向上の両立が可能です。
まずは自施設の規模と目的を明確にし、補助金の申請期限を確認することから始めましょう。ICT導入支援事業の多くは年1〜2回の募集のため、次回の募集開始時期を自治体に問い合わせることをお勧めします。
適切なネットワーク環境の整備は、これからの介護事業経営において競争力を左右する重要な投資です。本記事を参考に、一歩ずつ着実に進めていきましょう。

