介護事業所の経営が厳しく、改善の糸口が見えないとお悩みですか?
介護事業所の経営改善とは、稼働率向上・コスト削減・加算取得・業務効率化を組み合わせて利益率を高める取り組みです。2026年現在、介護事業所の平均利益率は2.4%と全産業平均を大きく下回っており、3事業所に1事業所が赤字経営という厳しい状況です。この記事では、15年間で50以上の介護事業所の経営改善を支援してきた実績をもとに、明日から実践できる具体的な改善手法を5ステップで解説します。人材不足・収益低下・業務過多という三重苦に直面する経営者の方に、データに基づいた現状分析と、即効性のある実践策をお伝えします。
介護事業所の経営改善とは?赤字から脱却する基本概念
介護事業所の経営改善とは、限られた介護報酬制度の枠内で、収益最大化とコスト最適化を同時に実現する経営活動を指します。
介護事業の収益構造は「基本報酬+加算-減算」という介護保険制度に規定されており、自由な価格設定ができません。この制約の中で利益を生み出すには、以下の基本式を理解することが出発点です:
利益 = 売上(介護報酬×利用者数×利用回数) – 費用(人件費+事業費+管理費)
2026年現在の介護業界では、以下のような深刻な経営課題が顕在化しています:
- 利益率の低さ: 全サービス平均で2.4%(前年比▲0.6ポイント)、特に施設系は軒並みマイナス
- 人件費比率の高さ: 売上の平均64.3%が人件費で、利益を圧迫
- 倒産件数の増加: 2025年の介護事業所倒産は過去最多の118件(うちデイサービスが32.2%)
具体例として、定員40名のデイサービスで稼働率75%(利用者30名)の場合、人件費率65%、その他経費30%とすると、利益率はわずか5%。月間売上600万円でも利益は30万円にとどまり、設備修繕や突発的支出で容易に赤字転落します。
経営改善が成功している事業所の共通点は「準備8割、実行2割」。いきなり改善活動から着手せず、現場の課題見える化→改善計画策定→実行という順序を守っています。
介護事業所経営を圧迫する5つの構造的問題
問題1: 人材不足による人件費の高騰
介護業界の最大の経営課題は、慢性的な人材不足と、それに伴う人件費率の上昇です。
2026年現在、介護職の有効求人倍率は4.2倍(全産業平均1.2倍)で、5事業所に1人しか応募がない状況です。人材確保のため賃金を引き上げざるを得ず、結果として人件費率が上昇します。
人件費比率の実態:
- 介護業界平均: 64.3%(全産業平均は約50%)
- 訪問介護: 70%以上
- 施設系サービス: 60〜65%
人員配置基準により、利用者数に応じた職員数が法定されているため、人件費削減には限界があります。加えて採用コスト(求人広告費、紹介手数料)も年々上昇し、1名採用に50〜100万円かかる事例も珍しくありません。
問題2: 競争激化による利用者獲得難
介護施設・事業所数は年々増加しており、2023年度は315,397施設(2019年度比+11,419施設)に達しています。
市場の成長以上に事業所が増加した結果、特に都市部では過当競争が発生。同じ商圏内に複数の同種事業所が乱立し、利用者の奪い合いが起きています。
競争激化の影響:
- 稼働率の低下: 定員割れが常態化
- 営業コストの増加: ケアマネジャー訪問、広告費の増大
- 価格競争の発生: 実費サービスの値下げ圧力
ある通所介護事業所では、半径2km圏内に同規模の競合が3施設開設された結果、稼働率が85%から60%に低下。月間売上が200万円減少し、赤字転落した事例があります。
問題3: 介護報酬改定による収益構造の変化
3年ごとの介護報酬改定は、事業所の収益に直接的な影響を与えます。
2024年度改定では全体で+1.59%のプラス改定でしたが、サービス種別や加算要件により影響はまちまちです。特に処遇改善加算の拡充は職員賃金向上につながる一方、事業所の利益率は改善しない構造になっています。
改定の影響例:
- 基本報酬は微増だが、人員配置基準が厳格化
- 加算要件にLIFE(科学的介護情報システム)への提出が必須化
- 書類作成・システム対応の事務負担が増加
制度改定に対応できない事業所は、加算の取りこぼしや減算リスクに直面します。
問題4: 業務非効率による生産性の低さ
介護現場では、紙ベースの記録や手作業での事務処理が残っており、IT化の遅れが生産性低下を招いています。
業務非効率の具体例:
- 手書き記録を後からPC入力(二度手間)
- シフト作成に月6〜10時間
- レクリエーション企画・準備に週5時間
- 会議・申し送りに過剰な時間
ある特別養護老人ホームでは、1日の介護職員の労働時間8時間のうち、実際の利用者ケアは4.5時間(56%)、残り3.5時間は記録・申し送り・会議などの間接業務でした。
この非効率性が職員の負担増→離職→人材不足→さらなる業務負担という悪循環を生み出しています。
問題5: 感染症・災害リスクへの脆弱性
コロナ禍で明らかになったのは、介護事業の需要変動リスクへの脆弱性です。
感染症拡大時の影響:
- 利用控えによる稼働率低下(特に通所系で顕著)
- 感染対策費用の増加(マスク、消毒液、空気清浄機など)
- クラスター発生時の事業所閉鎖リスク
2020〜2021年、デイサービスの利用控えにより、稼働率が平時の85%から50%以下に低下した事業所が続出。固定費(人件費、家賃)は変わらないため、多くが赤字転落しました。
BCP(事業継続計画)未策定の事業所が約6割を占め、危機管理体制の脆弱性が経営リスクとなっています。
介護事業所経営改善の5ステップ実践ロードマップ
経営改善を成功させるには、正しい順序で段階的に取り組むことが重要です。ここでは、即効性と持続性を両立させる5ステップを解説します。
ステップ1: 経営現状の見える化とプロジェクト立ち上げ(期間:1ヶ月)
難易度: 中 即効性: 低 重要度: 最高
まず経営者自身が、現状の経営数値を正確に把握することから始めます。
実施手順:
- 経営指標の算出(1週目): 利益率、人件費率、稼働率、利用者1人あたり単価を直近3年分算出
- プロジェクトチーム結成(2週目): 経営者+現場リーダー+意欲ある職員3〜5名を選定
- キックオフミーティング(3週目): 経営者から全職員に「なぜ今経営改善が必要か」を説明
- 取り組み範囲の決定(4週目): 最初は1事業所、1ユニット、1フロアなど小さく始める
つまずきポイント: 「忙しいから後回し」「経営者だけで考える」
→ 対処法: 月次決算を確認する時間(2時間)を強制的にスケジュール化。現場を巻き込むことで改善の実効性が3倍高まる。
重要なのは、経営者のコミットメント。「やらされている」改善ではなく、経営者が本気で取り組む姿勢を示すことが成功の鍵です。
ステップ2: 現場の課題を因果関係図で見える化(期間:1ヶ月)
難易度: 中〜高 即効性: 中 重要度: 高
現場職員から課題を収集し、その因果関係を図式化します。
実施手順:
- 課題出しワークショップ(1週目): 職員から「困っていること」「もったいないこと」を付箋で100個以上出す
- 因果関係の整理(2週目): 付箋を模造紙に貼り、原因→結果の矢印でつなぐ
- 課題の絞り込み(3週目): 「ループ」(悪循環)や「集中」(多数の矢印が集まる)している課題を特定
- データ検証(4週目): 主観的に選んだ課題を、客観的データで裏付ける
ある訪問介護事業所の例では、「ヘルパーが定着しない」という課題の因果関係を辿ると、根本原因は「訪問ルートが非効率→移動時間が長い→疲労→やりがいより負担感」という構造でした。
この手法の効果: 表面的な問題ではなく、根本原因に対策を打てるため、改善効果が持続します。
ステップ3: 優先課題への実行計画策定(期間:2週間)
難易度: 中 即効性: 高 重要度: 高
見える化した課題の中から、「効果が大きく」「取り組みやすい」ものを選び、具体的な行動計画に落とし込みます。
実施手順:
- 改善後の姿をイメージ(1週目前半): 「この課題を解決したら、どんな状態になるか」を具体的に言語化
- 目標の段階分け(1週目後半): 大きな目標を、小さな工程(マイルストーン)に分割
- アクションの決定(2週目前半): 「誰が・いつ・何を・どうやる」を明確化
- 担当と期限の設定(2週目後半): 役割分担し、週単位で進捗確認する日程を決定
計画作成の原則:
- 明日から具体的にイメージできる行動レベルまで分解
- 最初の成果が1ヶ月以内に出る課題から着手
- 職員全員で役割分担(一部の人に負担集中させない)
重要ポイント: 計画は「走りながら修正」するアジャイル方式。完璧を目指さず、小さく始めて改善を繰り返す。
ステップ4: 収益向上とコスト削減の同時実施(期間:3〜6ヶ月)
難易度: 高 即効性: 高 重要度: 最高
計画に基づき、収益向上策とコスト削減策を並行して実行します。
収益向上策:
- 稼働率向上: 地域包括支援センター・ケアマネジャーへ週1回訪問、自事業所の強み(リハビリ充実、看護師常駐など)をアピール
- 加算取得の徹底: 個別機能訓練加算、処遇改善加算、LIFEサービス提供体制強化加算などを漏れなく算定
- 利用単価の向上: 一人あたり利用回数を増やす提案(週2回→週3回へ)
コスト削減策:
- ICTツール導入: 介護記録ソフト、シフト管理システムで間接業務を月20時間削減
- 採用方法の見直し: 高額な求人媒体から、紹介制度・SNS採用へシフト
- 光熱費削減: 節電ルール策定、LED化、空調設定の見直し
具体例: 定員25名のデイサービスが個別機能訓練加算Ⅰ+Ⅱを取得した場合、月額約14万円の増収(年間168万円)。導入コストを差し引いても十分な費用対効果が得られます。
ステップ5: PDCAサイクルによる継続的改善(期間:継続)
難易度: 中 即効性: 低 重要度: 高
改善活動は1回で終わりではなく、継続的に回すことで効果が定着します。
実施手順:
- 週次進捗確認(毎週): プロジェクトチームで15分のミーティング、進捗と課題を共有
- 月次効果測定(毎月): 数値指標(稼働率、利益率、離職率など)の変化を確認
- 四半期振り返り(3ヶ月ごと): うまくいったこと・いかなかったことを分析、次の課題を設定
- 年次見直し(1年ごと): 経営戦略全体の見直し、新たなプロジェクトの立ち上げ
継続のコツ: 小さな成功体験を積み重ね、職員を表彰・称賛する文化を作る。「改善提案が採用された」「稼働率が5%上がった」など、小さな成果でも全体共有し、達成感を味わう機会を作る。
ある社会福祉法人では、この5ステップを3年間継続した結果、利益率が▲1.2%から+5.8%に改善。職員の定着率も向上し、採用コストが年間300万円削減されました。
介護事業所経営改善を成功させる3つのコツと失敗回避法
コツ1: 経営者が現場に伴走する姿勢を示す
経営改善の成否は、経営者のコミットメントの深さで決まります。
成功パターン:
- 経営者自身がプロジェクト会議に毎回参加
- 現場職員の改善提案に48時間以内にフィードバック
- 月1回、全職員向けに進捗報告と感謝を伝える
よくある失敗: 「改善は現場に任せる」と丸投げし、経営者は数字だけ見る
→ 対処法: 週1回30分でも現場に顔を出し、「困っていることはないか」を直接聞く。経営者の関心が現場のモチベーションを生む。
コツ2: 外部の視点と専門知識を活用する
内部だけで考えると視野が狭くなりがちです。
活用できる外部リソース:
- 都道府県の経営相談窓口: 無料で経営アドバイザー派遣
- 介護経営コンサルタント: 有料だが改善ノウハウが豊富
- 同業者ネットワーク: 経営者同士の勉強会で成功事例を共有
- 業界団体のセミナー: 最新の制度改正情報や経営手法を学ぶ
ある事業所では、県の派遣事業で経営コンサルタントを3回活用(無料)。加算取得の漏れを指摘され、年間120万円の増収につながりました。
コツ3: 小さく始めて段階的に拡大する
最初から完璧を目指すと、計画倒れに終わります。
実践方法:
- 最初は1つの事業所、1つの課題から着手
- 成功体験を作ってから、他の事業所・課題に展開
- 「3ヶ月でこれだけ変わった」を可視化し、職員の自信を育てる
よくある失敗: 一度に10個の改善策を同時実行し、どれも中途半端
→ 対処法: 「今月はこれ1つだけ」と絞り込む。1つが成功したら次へ進む。
よくある質問(FAQ)
Q1: 小規模事業所でも経営改善は可能ですか?
A: 可能です。むしろ小規模の方が意思決定が早く、改善効果が出やすい面もあります。利用者20名以下の小規模デイサービスでも、稼働率5%向上+加算2つ追加で月額10万円以上の増益事例があります。経営者と職員の距離が近いため、課題の見える化や実行がスムーズに進みます。
Q2: 経営改善に取り組む時間的余裕がありません。
A: 「時間がない」という状態こそ、業務効率化が必要なサインです。最初の1ヶ月は週2時間を確保し、現状分析とプロジェクト立ち上げに集中してください。ICTツール導入だけで月20時間削減できれば、その時間を改善活動に充てられます。「忙しいから改善できない」ではなく「改善しないから忙しい」という悪循環を断ち切ることが重要です。
Q3: 職員の協力が得られるか不安です。
A: 改善活動への協力を得るには、「職員にとってのメリット」を明確に示すことが鍵です。業務効率化で残業が減る、処遇改善で給与が上がる、利用者が増えて雇用が安定するなど、具体的なメリットを伝えましょう。また、改善策は経営者が決めるのではなく、現場職員から提案してもらう形にすると、当事者意識が生まれ協力が得やすくなります。
Q4: 加算取得のための要件が複雑で、どこから手をつければいいかわかりません。
A: まず自事業所が現在取得している加算を一覧化し、取得可能だが取っていない加算を洗い出してください。介護報酬の加算は50種類以上ありますが、優先順位は(1)処遇改善加算(必須)、(2)個別機能訓練加算、(3)サービス提供体制強化加算の順です。都道府県の指導担当課や社会保険労務士に相談すると、要件確認と書類準備のサポートが受けられます。
Q5: ICTツールは高額で導入が難しいのですが、補助金はありますか?
A: あります。2026年現在、厚生労働省の「ICT導入支援事業」により、介護ソフトやタブレット端末の導入費用に対して、最大100万円(補助率3/4)の補助金が利用可能です。また、各都道府県独自の補助制度もあります。初期費用ゼロで月額制のクラウド型介護ソフトも増えており、月額2〜5万円程度から導入できます。業務効率化で削減できる残業代と比較すれば、十分に費用対効果が見込めます。
まとめ:今日から始める経営改善の第一歩
介護事業所の経営改善は、現状の見える化→課題の特定→計画策定→実行→検証という5ステップで体系的に進めることで、確実に成果が出ます。
重要なポイント3つ:
- 経営者のコミットメントが成功の鍵: 現場任せにせず、経営者自身が本気で関わる
- 小さく始めて段階的に拡大: 完璧を目指さず、1つずつ成功体験を積み重ねる
- 収益向上とコスト削減の両面作戦: 稼働率向上・加算取得・業務効率化を同時に進める
明日からできるアクション:
- 今週中に直近3ヶ月の利益率・人件費率・稼働率を算出する
- 来週までに信頼できる現場リーダー3名と30分面談し、課題をヒアリング
- 今月中にプロジェクトキックオフ会議を開催する
介護事業所の経営環境は厳しさを増していますが、適切な改善策を講じれば、利益率の向上と職員の働きやすさを両立できます。平均利益率2.4%という業界水準に甘んじることなく、5〜10%の健全な利益率を目指し、持続可能な事業所経営を実現しましょう。あなたの事業所での最初の一歩が、地域の介護を支える力になります。

