介護業界では2025年時点で約32万人の介護職員不足が予測されており、有効求人倍率は全業種平均の3倍超に達しています。「人材が集まらない」「せっかく採用しても すぐに離職する」という悩みは、介護経営者にとって経営危機と直結する深刻な課題です。
しかし、この課題は対策次第で着実に改善できます。 離職防止と戦略的採用を並行して実施し、職場環境をシステマティックに整備することで、人手不足の負のスパイラルを脱出した事業所が実際に増えています。本記事では、現場で実装可能な5つの実践的ステップを紹介します。給与改善だけでなく、業務環境改革・組織文化の再構築までを含めた総合戦略で、あなたの施設も人材確保を実現できるでしょう。この記事を読むことで、明日から始められる採用・定着戦略が分かります。
介護人手不足の現状と原因
数字で見る深刻度
厚生労働省の推計では、2040年に必要とされる介護職員数は約272万人に対し、約57万人(21%)が不足する見込みです。2022年度時点で約215万人だった職員数は、わずか18年で約50%の増員を求められています。
より直近の数値として、2025年では約32万人の年度ごとの不足が予測されています。有効求人倍率の観点からも、介護職員は3.88倍(全業種平均1.15倍)と、他業種では考えられない高さです。この数字は、応募者1人に対して事業所4社が採用を争う状況を意味します。
同時に、採用できたとしても定着が課題です。厚生労働省調査では、介護職員の年間離職率は13.6%、訪問介護員では11.8%に達しており、毎年10人中1~2人が離職する計算になります。
人手不足に陥る3つの根本原因
【原因1】少子高齢化による需給ギャップ 高齢者数は急増する一方で、労働人口(15~64歳)は減少局面です。要介護者1人あたりの介護職員数では、供給が要求に追いつきません。この構造的な問題は、単なる採用活動では解決不可能で、業務効率化が不可欠な背景になっています。
【原因2】給与・待遇の低さ 同じ身体的負担がある職種と比較しても、介護職の給与水準は低いという認識が定着しています。処遇改善加算で対応されていますが、業種間の競争力では依然として劣位にあります。特に地方都市では、都心部との待遇格差が顕著です。
【原因3】職場人間関係と過重労働 厚生労働省調査では、離職理由の27.5%が職場の人間関係に関連するものです。介護現場は入居者・家族・医療機関など複数ステークホルダーとの連携が必要で、人間関係が業務効率と職員メンタルに大きく影響します。同時に、職員不足が長時間労働を招き、さらに離職を加速させる悪循環に陥りやすい環境です。
人手不足対策の5ステップ実践フレームワーク
ステップ1:現状分析(1~2週間)
実施内容 まず「なぜ人が集まらないのか」「なぜ辞めるのか」を数値化します。以下のデータを収集してください。
- 過去2年間の新規採用数と離職者数
- 離職者への聞き取り内容(給与・人間関係・業務負荷・キャリア)
- 職員満足度調査(簡易アンケート:現在の給与満足度・職場環境・将来性)
- 競合事業所の求人内容と提示待遇
- 現在の業務フロー(記録作業時間・会議時間・実ケア時間の比率)
つまずきポイントと対処法 「時間がない」という理由で分析を後回しにしがちです。しかし、データなしに対策を講じるのは効果測定ができません。事務職1名に最低限のアンケート回収を依頼し、簡易版から始めることをお勧めします。
離職者へのヒアリングは、現職員の前では実施しないこと。外部コンサルタントや、人材会社を活用して中立的に実施することで、本音を引き出せます。
ステップ2:離職防止施策(同時並行・1~3ヶ月)
実施内容 新規採用に注力する前に、「現在いる職員が辞めにくい職場」に変えることが重要です。以下を優先的に実装してください。
2-1. 給与・処遇の見直し 処遇改善加算の申請状況を確認し、満額取得していない場合は速やかに対応してください。同時に、基本給の引き上げ幅を年間計画に組み込みます。一度に大幅引き上げが難しければ、3年計画で段階的に実施する方針を職員に提示し、見通しを示すことが効果的です。
地方施設の場合、「給与で叶わない部分は福利厚生で補う」戦略も有効です。借上げ社宅補助・食事補助・資格取得支援など、職員が受け取りやすい施策を優先します。
2-2. 人間関係改善への組織的取り組み 管理職向け研修(コミュニケーション・ハラスメント防止)を外部講師で実施し、職場風土を可視化します。同時に、相談窓口を設置し、職員が安心して声を上げられる環境を整備します。外部EAP(従業員支援プログラム)サービスの利用も検討してください。
2-3. 業務効率化による労働時間短縮 ここが最大の効果を生むポイントです。記録業務の時間を計測し、以下を実施してください:
- ケア記録のデジタル化(タブレット端末での記入)により、手書き業務を50~70%削減
- 見守りセンサーの導入で、夜勤職員の巡回業務を効率化
- 業務マニュアルの見直しと、無駄な会議時間の削減
実装に1~2ヶ月を要しますが、職員の実ケア時間が週当たり5~10時間増えると、大きなモチベーション向上につながります。
ステップ3:戦略的採用(同時並行・2ヶ月~継続)
実施内容 「待ち」の採用をやめ、積極的にターゲットを設定して採用活動を実施します。
3-1. ターゲット人材の設定 既存職員との年齢層や経験を分析し、採用優先順位を決定してください。例えば、若年層が不足していれば、初心者向け研修を充実させて「育成施設」として訴求します。経験者が不足していれば、同業他社の中堅職員をターゲットに、キャリア形成支援や昇進機会を明示する採用メッセージを作成します。
3-2. 採用チャネルの多元化 ハローワークや求人サイトだけでなく、以下を組み合わせます:
- 介護職経験者向け特化型求人プラットフォーム利用
- 現職員への紹介制度(紹介成功時に5~10万円のインセンティブ)
- 外国人材(特定技能)の採用検討(EPA制度の準備研修)
- 学校・職業訓練校への採用説明会
3-3. 求人広告の工夫 「やりがい」だけでなく、具体的な待遇・労働条件・キャリアパスを記載します。職場の雰囲気を伝える動画や職員インタビューを掲載することで、応募者の入職後ギャップを減らせます。
ステップ4:新規職員の定着支援(採用直後~6ヶ月)
実施内容 採用後3~6ヶ月は、離職リスクが最も高い時期です。以下の支援を体系的に実施してください。
4-1. メンター制度の確立 新規職員に対し、指定メンターを配置し、業務指導だけでなく職場への適応を支援します。メンターは給与加算または時間給上乗せで対応し、責任を明確化してください。月1回のメンター向けフォローアップ研修も重要です。
4-2. 定期的なフィードバック面談 採用1ヶ月後・3ヶ月後・6ヶ月後に、管理職または人材担当者がフィードバック面談を実施します。業務への適応度だけでなく、職場人間関係・給与・労働時間への満足度を聞き取り、改善を反映させます。
この時点で「合わない」と感じている職員の離職を防げるかが、その後の定着率を大きく左右します。
4-3. 資格取得支援の可視化 入職時に「5年後のキャリアパス」を一緒に作成します。初任者研修→実務者研修→介護福祉士といったステップを明示し、資格取得時の給与上昇額を具体的に説明することで、職員の長期在籍意欲が高まります。
ステップ5:組織文化の定着(3ヶ月~継続)
実施内容 人手不足を解決する最後のピースは、「長期的に働きたい職場」という評判を構築することです。
5-1. 職員満足度調査の定期実施 半年ごとに簡易的な満足度調査を実施し、変化を追跡します。給与・人間関係・やりがい・キャリア・労働時間の5項目を5段階評価し、前回比較で改善度を可視化してください。
5-2. 介護職のイメージアップ施策 職員の資格取得実績や、利用者からの感謝メッセージを、SNSや自施設ニュースレターで発信します。社会貢献の重要性を繰り返し伝えることで、職員の仕事への誇りと、採用候補者への訴求力が高まります。
5-3. 経営層のコミットメント 人手不足対策は、事務職や人事担当者だけの課題ではありません。施設長・管理職が定期的に現場に下りて、職員の声を直接聞き、「人材投資を最優先する」というメッセージを繰り返し発信することが不可欠です。
よくある質問(FAQ)
Q1:給与を上げられない小規模施設では、何から始めればいいですか?
A: 給与以外の改善から着手してください。業務効率化による労働時間短縮と、職場人間関係の改善は、給与なしで即座に実装できます。職員が「月に5時間は早く帰れた」と感じると、満足度が大きく向上します。その後、処遇改善加算の最大取得と並行して、3年計画で給与引き上げを進めます。
Q2:既存職員の離職率が高い中での新規採用は、二次被害を招かないですか?
A: 正しい指摘です。「採用数 > 離職数」が続かないと、職員1人当たりの業務負荷が増し、さらに離職が加速します。ステップ2の離職防止施策を最優先で、最低3ヶ月かけて離職率を改善してから、新規採用を本格化させることをお勧めします。
Q3:外国人材の採用にはどんな準備が必要ですか?
A: 特定技能「介護」では、基本的な日本語スキル(N4レベル)と適切な研修体制が前提です。受け入れ前に、職場内の多言語対応体制と、文化的配慮を備えた指導方法の準備が必要です。人材紹介会社や登録支援機関と連携し、最初は1~2名の試験的導入をお勧めします。
Q4:IT・介護ロボット導入の投資効果は、どの程度期待できますか?
A: ケア記録デジタル化で月10~15時間の事務時間削減、見守りセンサーで夜勤職員の負担が30%軽減される事例が報告されています。初期投資は月当たり職員1名分の給与程度ですが、労働時間短縮による離職率低下と、浮いた時間を実ケアに充当できる効果を考えると、1~2年で投資回収が見込めます。
Q5:人手不足対策の効果測定は、いつ現れますか?
A: 離職防止施策は3ヶ月で効果が見えます。労働時間が短縮されると、職員アンケートの「職場環足度」が急速に改善されます。採用面では、「評判向上による応募増加」は6ヶ月~1年の経過を要します。長期視点で取り組む必要があります。
まとめ
介護の人手不足は、「給与を上げるだけでは解決しない」複合的な課題です。本記事で紹介した5ステップ——現状分析→離職防止→戦略採用→定着支援→文化定着——を順序立てて実装することで、確実に人材確保を前進させることができます。
特に離職防止と業務効率化は、投資額の小さい割に効果が大きく、すぐに実装可能なものばかりです。今月から「現状分析」と「業務フロー見直し」を開始し、3ヶ月後の職員満足度改善を目指してください。
介護職は社会の最重要職種です。あなたの施設が「長期で働ける場所」になれば、口コミで応募者が自然に増え、人手不足は過去のものになります。まずは、明日から始められる一歩を踏み出してください。

