介護現場の人手不足に悩む経営者・管理者の方へ。解決策は「職員定着」「業務効率化」「採用強化」の3軸で段階的に進めることです。
2025年には約32万人の介護職員が不足すると予測される中、限られた予算と人員で成果を出すには、優先順位を明確にした実践が不可欠です。
本記事では、福祉経営の最前線で実際に効果が実証された5つの解決策を、即効性・コスト・実現可能性の3軸で評価。小規模施設(職員20名未満)でも即日着手できる具体的手順と、3ヶ月・6ヶ月・1年の段階的ロードマップを提示します。
筆者は福祉施設の経営支援を10年以上担当し、離職率40%から15%への改善実績を持つコンサルタントです。失敗パターンも含めた現場の生の声をもとに、「明日から動ける」実践知をお届けします。
介護人手不足の現状|2025年問題の本質を3分で理解
なぜ深刻化しているのか
厚生労働省の推計によれば、2025年度には約243万人の介護職員が必要とされる一方、現状のままでは約32万人の人材が不足します。この背景には3つの構造的要因があります。
需給ギャップの拡大
団塊世代が75歳以上となる2025年、国民の約5人に1人が後期高齢者となります。介護サービスの需要は爆発的に増加する一方、生産年齢人口(15〜64歳)は減少。需要と供給のバランスが崩壊しています。
離職率の高止まり
介護職員の離職率は13.1%(2023年度)。改善傾向にあるものの、依然として年間1割以上の職員が職場を去っています。主な理由は「人間関係」(28%)、「給与の低さ」(23%)、「身体的負担」(18%)です。
ネガティブイメージの根強さ
「きつい・汚い・危険」の3Kイメージが若年層の参入を阻害。介護福祉士の推定平均年収330万円は全業種平均440万円を大きく下回り、職業選択時の障壁となっています。
小規模施設が直面する特有の課題
職員数20名未満の小規模施設では、上記の一般的課題に加えて以下の困難があります。
- 1人の離職が現場に与える影響が甚大
- 採用予算・教育予算の確保が困難
- ICTシステム導入のコスト負担が重い
- 管理職が現場業務と経営業務を兼任せざるを得ない
これらの制約条件下で成果を出すには、費用対効果の高い施策を優先順位づけして段階的に実行することが鍵となります。
解決策の優先順位マトリクス|即効性×コストで選ぶ最適手順
闇雲に施策を打つのではなく、自施設の状況に応じた優先順位づけが重要です。以下のマトリクスで各解決策を評価します。
| 解決策 | 即効性 | コスト | 実現難易度 | 推奨開始時期 |
| 職員面談制度の構築 | ★★★ | 低 | 易 | 即日〜1週間 |
| シフト管理の最適化 | ★★★ | 低 | 易 | 1週間〜1ヶ月 |
| 処遇改善加算の最大活用 | ★★☆ | 中 | 中 | 1〜3ヶ月 |
| 低コストICTツール導入 | ★★☆ | 中 | 中 | 1〜3ヶ月 |
| 採用ブランディング強化 | ★☆☆ | 低〜中 | 中 | 3ヶ月〜半年 |
結論: まず「職員面談制度」と「シフト最適化」で離職予防の土台を作り、並行して「処遇改善加算」で給与水準を引き上げ、中期的に「ICT化」と「採用強化」で持続可能な体制を構築するのが最適ルートです。
解決策1|職員1on1面談制度で離職の芽を早期発見(即日開始可)
なぜ最優先なのか
人材不足対策の最重要ポイントは「今いる職員を辞めさせないこと」です。新規採用には平均1名あたり50万円のコストと3ヶ月の時間がかかりますが、離職防止は低コストで即効性があります。
離職理由の上位は「人間関係」と「仕事への不満」。これらは初期段階で適切に対処すれば防げるケースが大半です。定期的な1on1面談により、不満が深刻化する前にキャッチし対処できます。
具体的実践手順(所要時間:準備1時間+月2時間/人)
ステップ1:面談ルールの設定(30分)
- 頻度:月1回・20分/回
- 場所:プライバシーが確保できる個室
- 記録:面談シート(A4・1枚)に要点のみ記載
- 禁止事項:一方的な説教・業務指示のみの時間にしない
ステップ2:質問リストの準備(30分)
基本の3質問を軸に展開:
- 「今月の仕事で充実感を感じた瞬間は?」
- 「困っていること・悩んでいることは?」
- 「職場環境で改善してほしいことは?」
ステップ3:初回面談の実施(20分/人)
- 最初の5分:アイスブレイク(プライベートの話題OK)
- 次の10分:質問リストに沿って傾聴
- 最後の5分:次回までのアクション確認
つまずきポイントと対処法
よくある失敗例1:「忙しくて時間が取れない」
→ 対処法:朝礼後・夕礼前の10分間でも効果あり。完璧を求めず「短くても定期的」を優先。
よくある失敗例2:「職員が本音を話してくれない」
→ 対処法:初回から深い話を期待しない。3回目以降から徐々に信頼関係が構築される。「話したことで不利益が生じない」安心感の醸成が鍵。
よくある失敗例3:「管理職が面談スキル不足」
→ 対処法:「解決」より「傾聴」を重視。相手の話を遮らず「それは大変でしたね」と共感するだけで効果あり。
期待できる効果(3ヶ月後)
- 離職予備軍の早期発見率:80%以上
- 職員満足度スコア:平均15%向上
- 人間関係トラブルの顕在化:半減
ある小規模事業所では、面談制度導入後6ヶ月で離職率が年間30%から15%に半減。採用コスト削減額は年間約200万円に達しました。
解決策2|シフト管理の科学的最適化で残業3割削減
現場で起きている非効率の正体
多くの施設では「経験と勘」でシフトを組んでいますが、これが慢性的な残業と不公平感を生んでいます。以下の3つの非効率が典型例です。
非効率1:ピークタイムの人員不足
食事介助・入浴介助の時間帯に人手が足りず、他の時間帯の職員が残業でカバー。
非効率2:スキルバランスの偏り
特定のシフトに経験者が集中し、他のシフトは未経験者のみで対応困難。
非効率3:希望休の不均衡
「言ったもの勝ち」で希望休を取得する文化により、遠慮する職員に負担が集中。
データに基づくシフト最適化の3ステップ
ステップ1:業務量の可視化(所要時間:初回2時間)
- 1週間分のタイムスタディを実施
- 時間帯別の業務量(入浴人数・食事介助人数など)を記録
- ピークタイム(業務集中時間)を特定
ステップ2:必要人員数の算出(所要時間:1時間)
- 時間帯別の「必要最低人員数」を計算
- 例:食事介助時間は利用者10名につき職員2名配置
- バッファ(予備人員)として+1名を確保
ステップ3:シフトパターンの再設計(所要時間:2時間)
- 早番・日勤・遅番の開始時刻をピークタイムに合わせて調整
- 例:早番7:00→7:30に変更し朝食時間に集中配置
- 月間シフト作成時間を30分短縮できるテンプレート化
公平性を担保するルール設計
シフト最適化と同時に、希望休取得の公平性ルールを明文化します。
- 月間希望休の上限設定:正職員は月4日まで、パートは月6日まで
- 先着順から抽選制へ:希望が重なった場合は前月の取得回数が少ない人を優先
- 緊急対応の代休付与:急な欠勤対応には必ず代休を付与(3日以内)
失敗しないための注意点
注意点1:いきなり全面変更しない
まず1ヶ月間は「試行期間」として実施し、職員の意見を集めて微調整。納得感なき変更は反発を招きます。
注意点2:「なぜ変えるのか」を丁寧に説明
職員会議で現状の問題点(残業時間・不公平感)をデータで示し、改善目的を共有。
期待できる効果(1ヶ月後)
- 残業時間:平均30%削減
- 希望休取得率の平準化:バラつき50%改善
- シフト作成時間:50%短縮
解決策3|処遇改善加算のフル活用で給与を月3万円アップ
制度を使い切れていない施設が半数以上
介護職員処遇改善加算は、職員の給与を国の支援で引き上げられる強力な制度です。しかし厚生労働省の調査では、最上位の加算I取得率は約60%。4割の施設が取りこぼしています。
未取得の理由は「手続きが複雑」「要件を満たせない」という誤解がほとんど。実際には小規模施設でも十分に取得可能です。
加算取得の3つの必須要件と対策
要件1:キャリアパス要件I(職位・職責の明確化)
- 対策:「介護職員」「主任」「管理者」の3段階を明文化
- 所要時間:就業規則への追記で2時間程度
要件2:キャリアパス要件II(資質向上の仕組み)
- 対策:年2回の研修計画書を作成(外部研修参加でもOK)
- 所要時間:テンプレート活用で1時間
要件3:キャリアパス要件III(昇給の仕組み)
- 対策:「勤続年数に応じて昇給」のルールを明文化
- 所要時間:給与規程への追記で1時間
申請から支給までの実務スケジュール
| 時期 | 作業内容 | 所要時間 |
| 1ヶ月目 | 要件の確認と社内規程の整備 | 5時間 |
| 2ヶ月目 | 都道府県への届出書類作成・提出 | 3時間 |
| 3ヶ月目 | 加算算定開始(遡及適用あり) | – |
| 4ヶ月目以降 | 給与への反映と職員への説明 | 2時間 |
給与改善の具体例(職員20名規模の施設)
- 加算総額:月額約60万円(年間720万円)
- 1人あたり配分:月額3万円の給与アップ
- 費用対効果:申請作業10時間で年間720万円の収入増
よくある失敗と回避策
失敗例:「加算を取っても職員に配分していない」
→ 回避策:配分方法を事前に職員に説明し、給与明細に「処遇改善手当」として明記。透明性が信頼につながります。
解決策4|月額3千円以下の低コストICTで記録業務を半減
小規模施設でも導入できる現実的ICT戦略
「ICT導入=高額」は過去の常識です。現在は月額3千円〜1万円で使える介護記録ソフトが多数存在し、補助金を活用すれば初期費用は実質ゼロになります。
重要なのは「高機能=良い」ではなく、自施設の課題に合った最小限の機能を選ぶこと。過剰なシステムは使いこなせず、結局手書きに戻る失敗パターンが多発しています。
導入優先度の高い3つの機能
優先度1:記録のスマホ・タブレット入力(削減時間:1日30分/人)
- 効果:事務所への往復時間がゼロに
- 推奨ツール:クラウド型介護記録システム(月額5千円〜)
- 導入期間:1ヶ月
優先度2:シフト管理のデジタル化(削減時間:月5時間)
- 効果:希望休の集計と調整を自動化
- 推奨ツール:シフト管理アプリ(月額3千円〜)
- 導入期間:2週間
優先度3:請求業務の自動化(削減時間:月末10時間)
- 効果:記録データから請求データが自動生成
- 推奨ツール:介護ソフトの請求連動機能
- 導入期間:1〜2ヶ月
補助金活用で初期費用ゼロにする方法
IT導入補助金(経済産業省)
- 補助率:最大3/4
- 補助上限:450万円
- 対象:ソフトウェア購入費・導入費用
- 申請時期:年3〜4回の公募
介護テクノロジー導入支援事業(厚生労働省)
- 補助率:1/2
- 補助上限:1台あたり30万円
- 対象:タブレット・Wi-Fi工事費含む
- 窓口:各都道府県
導入失敗を防ぐ3つの鉄則
鉄則1:現場職員を巻き込む
トップダウンで決めず、実際に使う職員3名を選定チームに加える。操作性の評価は現場の声が不可欠。
鉄則2:デモ版で最低2週間試用
契約前に必ず無料トライアルで使い勝手を確認。「思っていたのと違う」は契約後では手遅れ。
鉄則3:段階的に機能を増やす
初月は記録機能のみ、2ヶ月目にシフト管理追加など、段階導入で混乱を防ぐ。
期待できる効果(3ヶ月後)
- 記録業務時間:50%削減
- 月末残業時間:70%削減
- 情報共有のタイムラグ:ゼロ化
解決策5|求人票改革で応募数を3倍にする採用ブランディング
「人が来ない」原因の8割は求人票にある
人材紹介会社や求人サイトに高額な費用を払っても応募が来ない施設の共通点は、求人票が魅力を伝えられていないことです。
求職者が求人票で見ているポイントは給与だけではありません。「この職場で働くイメージが湧くか」「自分の成長が期待できるか」が重要な判断基準です。
応募が増える求人票の5つの改善ポイント
改善1:仕事内容を「1日の流れ」で具体化
❌ 悪い例:「利用者の生活支援全般」
⭕ 良い例:「9:00 朝食介助→10:30 入浴介助(2名)→12:00 昼食準備→午後はレクリエーション企画」
改善2:給与は「手取り額」も併記
❌ 悪い例:「月給23万円」
⭕ 良い例:「月給23万円(手取り約18.5万円)+ 処遇改善手当3万円」
改善3:「働きやすさ」を数字で示す
❌ 悪い例:「残業少なめ」
⭕ 良い例:「平均残業月5時間・有休取得率85%・産休復帰率100%」
改善4:先輩職員の声を3名分掲載
- 入職1年目・3年目・5年目以上の3段階
- 「入職理由」「やりがい」「成長実感」の3項目
- 写真付きで親近感を演出
改善5:見学・体験の敷居を下げる
❌ 悪い例:「応募後に面接日程調整」
⭕ 良い例:「見学だけでもOK・服装自由・所要時間30分・毎週水曜10時〜/14時〜」
SNS活用で採用コストゼロで認知拡大
求人サイトへの掲載費用は1回30〜50万円が相場ですが、SNS発信は無料で継続的な認知拡大が可能です。
推奨プラットフォーム:Instagram + LINE公式アカウント
- Instagram:職場の雰囲気・日常業務の様子を写真で発信(週2回)
- LINE公式:見学予約の問い合わせ窓口として活用
投稿内容の例(月8回)
- 職員インタビュー:月2回
- 施設イベント紹介:月2回
- 利用者との交流エピソード:月2回
- 求人情報:月2回
失敗しやすいNG行動
NG1:施設の外観写真ばかり投稿
求職者が見たいのは「そこで働く人」。建物より職員の笑顔を優先。
NG2:堅苦しい文章
「です・ます」調でOK。絵文字も適度に使い、親しみやすさを重視。
期待できる効果(6ヶ月後)
- 求人への応募数:3倍増
- 見学申込み:月5件→15件
- 採用単価:50万円→15万円に削減
段階的実施ロードマップ|3ヶ月・6ヶ月・1年の行動計画
フェーズ1:緊急対策期(0〜3ヶ月)
目標:離職防止の土台構築
- 1週目:職員1on1面談制度の設計と初回実施
- 2〜4週目:シフト管理の現状分析とルール改定
- 2ヶ月目:処遇改善加算の要件確認と書類準備
- 3ヶ月目:加算申請提出 + ICTツールのトライアル開始
KPI(重要指標)
- 離職予備軍の発見件数:月3件以上
- 残業時間削減率:20%以上
フェーズ2:基盤強化期(4〜6ヶ月)
目標:業務効率化と給与改善
- 4ヶ月目:処遇改善加算の支給開始 + 職員への説明会
- 5ヶ月目:ICTツール本格導入(記録・シフト機能)
- 6ヶ月目:記録業務の標準化とマニュアル整備
KPI
- 給与改善額:1人あたり月3万円
- 記録業務時間削減:40%以上
フェーズ3:採用強化期(7〜12ヶ月)
目標:持続可能な採用体制確立
- 7〜8ヶ月目:求人票のリニューアル
- 9ヶ月目:SNSアカウント開設と投稿開始
- 10〜12ヶ月目:月2回の職場見学会開催
KPI
- 応募数:従来の2倍以上
- 見学から採用への転換率:30%以上
1年後の到達目標
- 離職率:15%以下(業界平均13.1%に接近)
- 職員満足度:70点以上(100点満点)
- 残業時間:月平均5時間以下
- 採用充足率:80%以上
よくある質問(FAQ)
Q1:小規模施設で予算がほとんどない場合、何から始めるべき?
A:まず「職員1on1面談」と「シフト最適化」からスタートしてください。どちらも金銭コストはゼロで、時間投資のみで効果が出ます。面談で離職を1名防げれば採用コスト50万円の削減に相当し、投資対効果は圧倒的です。
Q2:ICTツール導入に職員が抵抗を示す場合の対処法は?
A:「全員一斉導入」ではなく、まず前向きな職員3名で2週間試行し、その成功体験を共有する方法が有効です。「楽になった」という実感が広がれば抵抗は自然に解消します。また60代以上の職員には個別のサポート時間(30分×3回)を設けると安心感につながります。
Q3:処遇改善加算の申請が難しそうで不安です
A:社会保険労務士に依頼すれば10〜20万円で代行可能です。ただし要件自体は難しくなく、テンプレートを使えば自力申請も十分可能。都道府県の窓口で無料相談も受け付けています。年間数百万円の収入増につながるため、挑戦する価値は十分あります。
Q4:外国人材の受け入れは小規模施設でも可能?
A:可能です。特定技能制度では職員20名未満の施設でも受入実績が増えています。ただし日本語教育・生活支援の体制構築が必要で、初年度は管理コストが年間約50万円かかります。まず国内人材の定着・採用施策を優先し、それでも不足する場合の選択肢として検討することを推奨します。
Q5:求人に応募が来ても「条件が合わない」で辞退されます
A:辞退理由の聞き取りが重要です。「給与」「勤務時間」「通勤距離」のどれが原因かで対策が変わります。給与なら処遇改善加算の活用、勤務時間なら短時間正職員制度の導入、通勤距離なら近隣エリアへの求人露出強化が有効です。
まとめ|離職防止→効率化→採用の順で段階的に実行
介護人手不足の解決は一朝一夕ではありませんが、正しい手順で段階的に進めれば、小規模施設でも必ず成果が出ます。
今日から始める3つのアクション
- 来週から職員1on1面談を月1回実施する(20分/人)
- 今月中にシフトの業務量分析を1週間実施する
- 3ヶ月以内に処遇改善加算の要件を確認し申請準備を開始する
人材不足という危機は、組織を見直す好機でもあります。職員が「この職場で長く働きたい」と思える環境を作ることが、すべての解決策の根幹です。
最初の一歩は小さくても構いません。明日、最も話しやすい職員1名と20分の面談をすることから始めてみてください。
その積み重ねが、1年後の大きな変化につながります。

