介護士不足は2040年に約57万人不足すると言われていますが、実は2026年にはすでに約28万人の不足が発生します。
本記事では、厚生労働省の最新データをもとに介護士不足の現状と根本原因を解説し、福祉経営者の視点から明日から実践できる具体的な解決策を紹介します。現場で15年以上人材育成に携わってきた実績から、小規模施設でも実施可能な低コスト施策に焦点を当てています。人材確保に悩む施設管理者や採用担当者に向けて、実践的なロードマップをお届けします。
介護士不足の深刻な現状とは?
2026年に28万人、2040年に57万人の不足が確実視
厚生労働省の「第9期介護保険事業計画」によると、2023年時点で約212万人の介護職員が働いていますが、2026年度には約240万人が必要とされ、約28万人が不足する見込みです。さらに2040年度には約272万人が必要となり、不足数は約57万人に達します。
これは10名体制が必要な現場に8名しか配置できない状況が常態化することを意味しています。
| 年度 | 必要数 | 不足数 | 不足率 |
| 2026年 | 約240万人 | 約28万人 | 約12% |
| 2040年 | 約272万人 | 約57万人 | 約21% |
都市部では有効求人倍率が5倍近くに
特に深刻なのが都市部です。東京都の介護職有効求人倍率は4.91倍に達し、求職者1人に対して約5件の求人がある状態です。全産業平均の1.27倍と比較すると、いかに競争が激しいかが分かります。首都圏全体で人材の奪い合いが起きており、地方でも2.5倍前後を推移しています。
離職率は改善傾向も定着が課題
介護職の離職率は2023年度で13.1%と、2019年度の15.4%から改善傾向にあります。全産業平均の15.4%と比較するとやや低い数値ですが、年間で約10人に1人が辞める計算となり、常に新規採用と教育を続けなければならない状況は現場の大きな負担です。
介護士不足の根本原因を徹底分析
少子高齢化による構造的な人材不足
介護士不足の最大の原因は、少子高齢化という日本社会全体の構造問題です。内閣府「令和6年版高齢社会白書」によると、2023年時点で65歳以上の人口は29.1%ですが、2040年には34.8%に達します。つまり3人に1人が高齢者という社会が到来します。
一方、15歳〜64歳の労働人口は2023年の7,395万人から、2040年には6,213万人へと約1,182万人も減少する見込みです。支える側が減り、支えられる側が増えるという構造的な問題が、介護士不足を深刻化させています。
賃金の低さと社会的評価の課題
厚生労働省の「令和6年賃金構造基本統計調査」によると、介護職員の月給は約271,000円で、全産業平均の約330,400円と比較すると約6万円も低い水準です。身体的・精神的に負担の大きい仕事でありながら、その対価が十分でないことが若い世代の参入を妨げています。
また、公益財団法人介護労働安定センターの調査では、「業務について社会的評価が低い」と感じる職員が20.4%に上ります。「きつい・汚い・危険」という3Kイメージが根強く残っていることも、人材確保を難しくしています。
離職の最大原因は人間関係の問題
興味深いことに、離職理由のトップは「給与の低さ」ではありません。公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、離職理由の第1位は「職場の人間関係に問題」(23.2%)で、「結婚・出産・妊娠・育児」(20.4%)を上回っています。「収入が少ない」は6番目にとどまっています。
上司との関係、同僚間の連携、評価制度の不透明さなど、職場内のコミュニケーション問題が離職を加速させています。小規模施設では特に職員同士の距離が近いため、一度人間関係がこじれると修復が難しく、連鎖的な離職につながるケースも見られます。
介護士不足を解消する3つの実践ステップ
ステップ1: 人間関係の見える化と相談体制の構築
人間関係の問題を放置せず、早期に発見・解決する仕組みを作りましょう。月1回の匿名アンケートで職場満足度を測定し、第三者が関与する相談窓口を設置します。定期的な1on1面談で個別の悩みをヒアリングし、問題が表面化する前に対処することが重要です。
介護労働安定センターの調査によると、相談窓口がある施設では「人間関係に悩みを感じていない」と答えた職員が42.1%に達した一方、窓口がない施設では22.9%にとどまり、19.2%の開きがありました。
つまずきポイント: 形だけの相談窓口では意味がありません。匿名性の保証と、相談内容が確実に改善につながる実績を示すことが重要です。
明確な評価基準を設け、介護技術やコミュニケーション力、リーダーシップなどを5段階評価します。評価結果を給与・賞与・昇格に反映させ、資格取得支援制度を設けることで、職員のモチベーションは劇的に向上します。
例えば、「3年以内に介護福祉士取得→リーダー候補→5年でユニットリーダー」といった明確なキャリアパスを示すことで、長期的なキャリア形成が可能になります。
ステップ2: ICT導入と「攻め」の採用戦略
記録業務のデジタル化、見守りセンサーの導入により、職員の身体的・時間的負担を大幅に削減できます。介護記録をタブレット・スマホアプリで入力し、見守りセンサーで夜間巡回の回数を削減しましょう。国や自治体の補助金制度を活用すれば、初期費用を抑えることも可能です。
つまずきポイント: ITツールの導入には職員の抵抗感がつきものです。操作が簡単なツールを選び、丁寧な研修とサポート体制を整えることが成功の鍵です。
採用面では、人材紹介会社に登録するだけの「待ち」の姿勢から脱却しましょう。施設の採用サイトに働く職員のインタビューや動画を掲載し、SNS(Instagram、X、TikTokなど)で職場の雰囲気を発信します。「介護はかっこいい」「やりがいがある」というポジティブなイメージを前面に出すことが大切です。
ステップ3: 外国人材の受け入れ体制整備
外国人材の受け入れは、若い労働力を確保できる有効な手段です。特定技能制度を活用すれば、即戦力となる人材を採用できます。特定技能「介護」の制度を理解し、送出機関や登録支援機関と連携して候補者を紹介してもらいましょう。
社宅・寮の確保、日本語学習支援、生活サポート体制を整え、既存職員向けに多文化理解研修を実施します。国や自治体の助成金・補助金制度を活用すれば、初期費用を抑えられます。
外国人材は訪問介護を含む身体介護と付随業務が可能で、技能実習生はできない一人夜勤も対応できます。技能実習生からの移行者が多く、日本での在住経験がある人材も採用しやすいのが特徴です。
つまずきポイント: 文化や習慣の違いによるトラブルを避けるため、受け入れ前の準備と、受け入れ後の継続的なサポートが不可欠です。
成功のコツと注意点
成功のコツ: 小さな改善を積み重ねる
大規模な改革を一度に実施するのではなく、職員の意見を取り入れながら小さな改善を積み重ねることが成功の秘訣です。「休憩時間を確実に取れるようシフトを見直す」「備品の配置を使いやすく変更する」といった小さな工夫でも、職員の負担軽減につながります。改善が目に見える形で実現されることで、職員の信頼感とモチベーションが向上します。
よくある失敗例1: 形だけの制度導入
評価制度や相談窓口を導入しても、運用が伴わなければ意味がありません。制度を作ったことに満足せず、定期的に見直し、職員からのフィードバックを反映することが重要です。「相談しても何も変わらない」「評価が不透明」と感じられれば、逆効果になるリスクがあります。
よくある失敗例2: ITツール導入で逆に業務が増える
操作が複雑なツールや、現場のニーズに合わないシステムを導入すると、かえって業務負担が増えてしまいます。導入前に現場職員の意見を聞き、トライアル期間を設けて使い勝手を確認しましょう。ベンダーによる研修とアフターフォローを確認することが大切です。
よくある失敗例3: 外国人材受け入れ準備不足
住居の確保、日本語教育、生活サポートなどの準備が不十分なまま受け入れると、外国人職員が孤立したり、早期退職につながったりします。多文化理解の研修を事前に実施し、受け入れ体制を整えましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: 小規模施設でもICTツールは導入できますか?
A: はい、可能です。低コストで利用できるクラウド型のシステムが増えており、国や自治体の補助金制度も活用できます。
Q2: 外国人材の受け入れにはどれくらいの費用がかかりますか?
A: 初期費用として30万円〜50万円程度、月々のサポート費用として2万円〜3万円程度が目安です。助成金制度を活用すれば負担を軽減できます。
Q3: 人間関係の改善にはどれくらい時間がかかりますか?
A: 相談窓口の設置など施策によっては1〜2ヶ月で開始できますが、組織文化の改善には半年〜1年程度の継続的な取り組みが必要です。
まとめ
介護士不足は2026年に約28万人、2040年に約57万人という深刻な人材不足が予測されており、待ったなしの経営課題です。その根本原因は、少子高齢化という構造問題に加え、賃金の低さ、人間関係の課題、評価制度の未整備など複合的な要因が絡み合っています。
解決のカギは、人間関係の見える化と相談体制の構築、ICT導入と攻めの採用戦略、外国人材の受け入れという3つの実践ステップにあります。小規模施設でも実施可能な低コスト施策から始め、職員の声を聴きながら小さな改善を積み重ねることが成功の秘訣です。
次のアクション: 現場職員へのアンケートを実施し組織課題を把握する、評価制度の見直しに着手する、国や自治体の補助金制度を調べICTツール導入を検討する、この3つから始めましょう。
介護の仕事は、人の人生を支える尊い仕事です。働く職員が誇りとやりがいを持ち続けられる職場づくりを、今日から始めましょう。

