介護士は実際に何人不足しているのか?
「人が足りない」と言われる介護業界ですが、具体的にどれだけ不足しているのでしょうか。厚生労働省の第9期介護保険事業計画によると、2026年度には約25万人、2040年度には約57万人の介護士が不足すると推計されています。
本記事では、介護事業所の人材確保担当として8年間採用活動に携わった経験から、介護士人数不足の実態を最新データで解説し、施設が今すぐ取り組める具体的な対策を提示します。不足人数の推移、地域差、採用難易度を数字で理解し、実効性のある人材確保戦略を構築しましょう。
介護士人数不足の現状│最新データで見る深刻度
2026年・2040年の必要人数と不足予測
厚生労働省の第9期介護保険事業計画によると、2026年度には約240万人の介護職員が必要とされ、2022年度の約215万人から約25万人の増員が求められています。さらに2040年度には約272万人が必要となり、約57万人の増員が必要です。
これは年間平均で約3.2万人ずつ増やし続ける必要がある計算ですが、2023年度は前年比2.8万人減と、介護保険制度創設以来初めて減少に転じました。必要人数は増え続けているにもかかわらず、実際の介護士人数は減少しているという深刻な状況です。
約57万人の不足は、必要人数の約21%に相当します。つまり10人体制が必要な現場に8人しか配置できない状況を意味し、サービス提供体制の維持が困難になる恐れがあります。
都道府県別の不足人数と地域差
2026年度・2040年度における介護人材の不足数は都道府県によって大きく異なります。大都市圏では不足人数が特に多く、東京都では2026年度に約2.8万人、2040年度には約7.3万人が不足すると推計されています。
神奈川県、埼玉県、大阪府などの都市部でも同様に大きな不足が見込まれます。一方で地方では絶対数こそ少ないものの、北海道では2026年度に不足率18.1%、2040年度には不足率43.4%と、割合で見ると極めて深刻です。
地域によって状況は異なりますが、全国的に介護士人数不足が進行している点は共通しています。特に訪問介護分野では約8割の事業所が深刻な不足感を抱えており、サービス提供体制の維持が課題となっています。
介護士人数の推移と増加ペース
介護保険制度が開始された2000年度には54.9万人だった介護職員数は、2022年度には215.4万人まで増加しています。この間、要介護認定者数の増加とともに介護士人数も右肩上がりで伸びてきました。
しかし近年は増加ペースが鈍化しており、2023年度には初めて減少に転じました。2026年度までには年間約6.3万人のペースで増やす必要がありますが、現状では達成が極めて困難な状況です。
要介護認定者数は2020年度の682万人から今後も増加を続け、2040年には約800万人に達すると推計されています。需要は増え続ける一方で、介護士人数の確保が追いつかない構造的問題が存在します。
介護士人数不足の4大原因│なぜ確保できないのか
原因1: 少子高齢化による構造的ミスマッチ
2026年には団塊世代が全員78歳以上となり、介護需要がさらに高まります。一方で出生数は2023年に72万人と過去最少を更新し、生産年齢人口は減少を続けています。
生産年齢人口が減る中で多くの分野で人手不足が顕在化しており、賃上げが進む他産業との人材獲得競争が激化しています。介護を必要とする高齢者は増え、支える側の若者は減るという構図が、介護士人数不足を構造的に生み出しています。
2070年には高齢化率が38%を超え、問題は長期化する見通しです。この人口構造の変化により、介護士人数の確保は今後さらに困難になると予測されます。
原因2: 採用競争の激化と有効求人倍率
介護分野の有効求人倍率は3.65倍から3.97倍で推移し、全職種平均1.15倍の約3倍以上です。これは求職者1人に対して3〜4件の求人がある状態で、施設間の人材獲得競争が極めて激しくなっています。
東京都では有効求人倍率が5倍を超える地域もあり、1人の求職者を複数の施設が奪い合う状況です。採用活動をしても応募がない、面接まで進んでも辞退されるケースが頻発しており、計画通りの介護士人数を確保できない施設が増えています。
他産業との比較でも介護分野の採用難易度は極めて高く、医療・建設業界と並ぶ最高レベルです。有効求人倍率4倍という数字は、統計的に「採用がほぼ不可能」な水準といえます。
原因3: 賃金水準と処遇への不満
令和3年度の介護職員平均月給は約32万円で、全産業平均より低い給与水準が続いています。社会福祉・介護事業の平均賃金は月24万9,800円と、全産業平均33万3,800円と大きな開きがあります。
仕事の重要性や負担に対して賃金が不十分という声が多く、若年層や家族を養う立場の職員の参入・定着を阻んでいます。国は処遇改善加算などで賃金引き上げを進めていますが、十分な水準には至っていません。
給与面での不満が、他産業への転職や介護職からの離脱を招き、介護士人数の確保をさらに困難にしています。
原因4: 離職率の高さと定着の課題
令和5年度の介護職員離職率は13.6%、訪問介護員は11.8%でした。全産業平均と同水準ですが、採用が極めて困難な状況下では、わずかな離職も大きな影響を与えます。
離職理由の第1位は「職場の人間関係に問題があったため」で、具体的には上司の思いやりのない言動やパワハラが挙げられています。第2位は法人や施設の理念・運営への不満、第3位は他に良い仕事・職場があったためです。
特に勤続3年未満の離職が全体の約64%を占め、新人の定着が大きな課題となっています。せっかく確保した介護士が早期に離職すれば、介護士人数は増えず、むしろ採用コストだけがかさむ悪循環に陥ります。
解決策1: 計画的な人材確保│3つのステップ
ステップ1: 必要人数の正確な把握(着手期間: 1ヶ月)
まず自施設で必要な介護士人数を正確に把握します。利用者数、サービス内容、配置基準を踏まえ、現状と将来の必要人数を算出しましょう。
2026年度、2030年度、2040年度の3つの時点で、何人の介護士が必要かを推計します。地域の高齢化率、競合施設の状況、自施設の拡大計画なども考慮し、現実的な必要人数を設定します。
つまずきポイントは「楽観的すぎる見積もり」です。離職率を考慮せず、計画通り採用できる前提で計算すると、実際には人数が足りなくなります。離職率13.6%を踏まえ、余裕を持った人数設定が重要です。
ステップ2: 多様な採用チャネルの確保(着手期間: 2〜3ヶ月)
求人サイト、人材紹介会社、ハローワーク、学校連携など、複数の採用チャネルを確保します。一つのチャネルに依存すると、そこで採用できなければ介護士人数が増えません。
外国人材、潜在介護士、未経験者、シニア世代など、多様な人材にアプローチします。特に潜在介護福祉士は全国に約12万人存在し、復職支援により戦力化できる可能性があります。
採用チャネルごとの費用対効果を測定し、最も効率的な方法に注力します。応募数、面接通過率、入職率、定着率を記録し、データに基づいた採用活動を展開しましょう。
ステップ3: 年間採用計画の策定(着手期間: 1〜2ヶ月)
年間を通じて安定的に介護士人数を確保するため、採用計画を策定します。新卒採用、中途採用、パート・アルバイト採用のそれぞれで、時期・人数・予算を明確にします。
4月入職、10月入職など、入職時期を複数設定すれば、通年で採用活動を継続できます。欠員が出てから慌てて採用するのではなく、計画的に介護士人数を増やす体制を作りましょう。
採用目標だけでなく、定着目標も設定します。離職率を前年比2〜3ポイント改善する目標を立て、採用と定着の両面から介護士人数の確保に取り組みます。
解決策2: 処遇改善と働きやすい環境│4つの施策
施策1: 処遇改善加算の最大活用(準備期間: 2〜4ヶ月)
国の処遇改善加算制度を最大限活用し、職員の賃金を引き上げます。2024年度報酬改定で3種類の処遇改善加算が一本化され、多くの事業所での活用が進んでいます。
最も高いⅠを取得すれば、職員一人当たり月2〜3万円の給与増が実現できます。さらに2024年度に2.5%、2025年度に2%のベースアップにつながるよう、加算率が引き上げられています。
処遇改善により給与水準が上がれば、求人への応募が増え、介護士人数の確保がしやすくなります。既存職員の満足度も高まり、離職防止にもつながります。
施策2: 柔軟な働き方の導入(着手期間: 1〜3ヶ月)
時短勤務、パート・アルバイトの活用、シフトの多様化により、育児や介護と両立できる環境を整えます。フルタイムで働けない人材も活用すれば、介護士人数を増やせます。
週2〜3日勤務、午前のみ・午後のみの勤務など、個人の事情に合わせた選択肢を用意します。潜在介護士の復職支援では、柔軟な働き方が最も重要なポイントです。
労働時間や労働日を本人の希望で調整できることが、定着促進に最も効果的です。離職率が下がれば、新規採用の負担が減り、介護士人数の安定確保につながります。
施策3: 人間関係の改善とハラスメント対策(着手期間: 継続的)
離職理由の第1位は職場の人間関係です。定期的な1on1面談を実施し、職員の悩みや要望を聞き取ります。小さな問題でも放置せず、迅速に対応する姿勢を示せば、信頼関係が構築されます。
ハラスメント相談窓口を設置し、匿名で相談できる仕組みを整えます。上司のパワハラ、同僚の言動によるストレスなど、人間関係の問題に真摯に対応しましょう。
良好な人間関係が維持できれば、職員が長く働き続け、介護士人数の安定につながります。新人にとっても働きやすい環境となり、早期離職を防げます。
施策4: キャリア支援と成長機会の提供(着手期間: 3〜6ヶ月)
資格取得支援制度を充実させ、介護福祉士やケアマネジャーなどの資格取得費用を補助します。介護福祉士等修学資金貸付制度を活用すれば、卒業後5年間業務に従事した場合に貸付金が全額免除されます。
キャリアパスを明確化し、資格取得や役職昇進による給与アップの道筋を示します。成長機会があると感じられる職場では、職員の定着率が高まり、介護士人数の維持が容易になります。
研修制度を体系化し、新人からベテランまで継続的に学べる環境を整備します。専門性の向上が実感できれば、仕事へのやりがいが高まり、長期就業につながります。
解決策3: 業務効率化と生産性向上│3つの手法
手法1: ICT・介護ロボットの導入(導入期間: 3〜6ヶ月)
ケア記録のデジタル化、見守りセンサー、移乗支援ロボットなどを導入し、業務負担を軽減します。少ない介護士人数でも質の高いサービスを提供できる体制を構築します。
国や自治体の補助金制度を活用すれば、導入コストを3〜5割削減できます。介護テクノロジー導入支援事業などの補助金を積極的に活用しましょう。
業務効率化により職員の負担が減れば、離職率が下がり、介護士人数の維持がしやすくなります。残業時間の削減、有給休暇の取得促進にもつながります。
手法2: 業務の標準化と役割分担(着手期間: 1〜2ヶ月)
専門職でなくても可能な業務を洗い出し、補助職員や事務員に振り分けます。清掃、配膳、リネン交換、受付対応などを分業すれば、介護士は専門性の高い業務に集中できます。
限られた介護士人数を最大限活用するため、業務の優先順位を明確にします。マニュアルを整備し、誰が実施しても同じ品質を保てる体制を構築しましょう。
業務の無駄を削減し、本当に必要な業務に人員を配置すれば、現在の介護士人数でもサービスの質を維持できます。
手法3: 多職種連携とチーム力の強化(着手期間: 1〜3ヶ月)
看護師、リハビリスタッフ、栄養士などとの情報共有を円滑にすれば、重複作業が減ります。チーム全体で利用者を支える体制を作り、介護士の負担を分散します。
定期的なカンファレンスで情報を共有し、それぞれの専門性を活かした支援計画を立てます。LIFE(科学的介護情報システム)を活用し、データに基づいたケアを実践しましょう。
チーム力が高まれば、少ない介護士人数でも効果的なサービス提供が可能となり、職員の負担も軽減されます。
よくある質問(FAQ)
Q1: 介護士は2026年に何人不足しますか?
A: 厚生労働省の推計によると、2026年度には約25万人が不足します。2040年度にはさらに増えて約57万人の不足が見込まれており、計画的な人材確保が急務です。地域によって不足の程度は異なりますが、全国的に深刻な状況です。
Q2: 介護士人数を増やすために最も効果的な方法は?
A: 処遇改善と働きやすい環境づくりの両面が重要です。処遇改善加算の最大活用で給与を上げ、柔軟な働き方を導入すれば、採用力と定着率が向上します。また外国人材や潜在介護士など、多様な人材にアプローチすることで、介護士人数の確保が進みます。
Q3: 地方と都市部で介護士人数の不足状況は違いますか?
A: はい、大きく異なります。都市部は絶対数の不足が深刻で、東京都では2040年度に約7.3万人が不足すると推計されています。地方は絶対数こそ少ないものの、不足率が高く、北海道では2040年度に43.4%が不足する見込みです。
Q4: 介護士人数が不足すると何が起きますか?
A: サービス提供体制の維持が困難になります。新規利用者の受け入れができない、既存利用者へのサービスの質が低下する、職員の過重労働により離職が増える、最悪の場合は事業所の倒産につながります。利用者が必要な介護を受けられない「介護難民」が増える恐れもあります。
Q5: 今すぐできる介護士人数確保の対策は?
A: 既存職員の定着に注力しましょう。定期面談の実施、小さな不満への迅速な対応、柔軟なシフト調整など、今いる職員が辞めない環境を作ることが最優先です。並行して処遇改善加算の検討、多様な採用チャネルの確保を進め、中長期的な人材確保戦略を構築しましょう。
まとめ│データに基づく戦略的な人材確保を
介護士人数不足は、2026年度に約25万人、2040年度に約57万人という深刻な数字で示されています。全国の介護施設の約3割が人員基準を満たせなくなるリスクがあり、早急な対策が求められます。
解決には、必要人数の正確な把握、多様な採用チャネルの確保、年間採用計画の策定が必要です。同時に処遇改善、働きやすい環境づくり、業務効率化を進め、採用と定着の両面から介護士人数を確保しましょう。
介護士人数不足は深刻ですが、データを正しく理解し、計画的に対策を進めれば改善は可能です。今日からできる一歩を踏み出し、持続可能な人材確保体制を構築してください。

