介護現場の労働者不足、本当に深刻なのか?
「募集をかけても人が来ない」「スタッフが次々と辞めていく」という悩みを抱える施設が増えています。2026年度には約240万人の介護職員が必要な一方、約25万人が不足すると推計され、現場の負担増加が避けられません。
本記事では、介護施設で15年働いた経験から、労働者不足の本質的原因と7つの具体的解決策を提示します。国の支援制度から明日できる職場改善まで、実行可能なアクションを段階別に解説し、持続可能な運営体制を築く道筋を示します。
介護労働者不足の実態│数字が示す厳しい現実
2026年・2040年の必要数と不足予測
厚生労働省の第9期介護保険事業計画によると、2026年度には約240万人の介護職員が必要とされています。しかし2023年度の実績は約215万人で、このままでは約25万人が不足する計算です。
さらに2040年度には約272万人が必要となり、約57万人の不足が見込まれています。これは全体の約21%に相当し、10人体制が必要な現場に8人しか配置できない状況を意味します。団塊ジュニア世代が高齢化する2040年問題により、労働者不足は長期化する見通しです。
有効求人倍率と地域格差の実態
介護労働者の有効求人倍率は3.65倍から3.97倍で推移し、全職種平均1.15倍の約3倍以上です。これは求職者1人に対して3〜4件の求人がある状態で、事業所間の人材獲得競争が激化しています。
地域別では東京都が7.65倍と極めて高く、都市部ほど深刻です。一方で地方でも高齢化率が高い地域では絶対数の確保が困難となっており、地域差はあるものの全国的に人材不足が広がっています。
離職率の推移と定着の課題
令和5年度の介護職員離職率は13.1%、訪問介護員は11.8%でした。全産業平均の15.4%より低い水準ですが、年間で1割以上の職員が離れている計算です。
採用率は16.9%と離職率を上回っているものの、新規採用にかかるコストと育成期間を考えると、既存職員の定着が最優先課題です。約7割の事業所が不足感を抱えており、特に訪問介護では約8割が深刻な不足を実感しています。
介護労働者不足の5大原因│なぜ人が集まらず辞めていくのか
原因1: 少子高齢化による構造的問題
2025年には団塊世代が全員75歳以上となり、国民の約5人に1人が後期高齢者となります。要介護認定者数は2015年度の620万人から2020年度には682万人に増加し、今後も増え続ける見込みです。
一方で出生数は2023年に72万人と80万人を割り込み、生産年齢人口は減少を続けています。介護を必要とする人は増え、支える側の労働者は減るという構図が、労働者不足を構造的に生み出しています。
原因2: 賃金水準と処遇の問題
令和3年度の介護職員平均月給は約32万円で、全産業平均39万円より約7万円低い状況です。仕事の重要性や負担に対して賃金が不十分という声が多く、若年層や他業種経験者の参入障壁となっています。
国は処遇改善加算などで賃金引き上げを進めていますが、十分な水準には至っていません。夜勤手当や資格手当があっても基本給が低く、キャリアアップによる昇給幅も限定的な事業所が少なくありません。
原因3: 業務負担と労働環境
介護職は身体的負担が大きく、移乗介助や入浴介助など体力を使う場面が多数あります。夜勤や早朝勤務などの不規則なシフトにより、十分な休息が取れない職員も存在します。
さらに記録業務や会議など間接業務の負担も大きく、ケア以外の作業に時間を取られる現状があります。人手不足により一人当たりの業務量が増加し、過重労働が常態化している職場も見られます。
原因4: 人間関係とコミュニケーション
令和5年度の調査で、離職理由の上位に「職場の人間関係に問題があった」が挙げられました。職員同士の関係だけでなく、利用者や家族とのコミュニケーション、上司との意見の食い違いなど、多様な人間関係のストレスが存在します。
感情労働の側面が強い介護職では、精神的負担が蓄積しやすい特性があります。相談窓口がない事業所では労働条件への悩みが多く、心理的安全性の低さが離職を促進しています。
原因5: ネガティブイメージと社会的評価
「きつい・汚い・危険」の3Kイメージが根強く残り、未経験者や若者の参入を阻んでいます。体力的にきつい、給与が低い、将来に不安があるといった情報が先行し、介護職の魅力が十分に伝わっていません。
実際には専門性の高いやりがいのある仕事で、働き方改革に取り組む事業所も増えていますが、ポジティブな情報発信が不足しています。社会的評価の低さが新規参入者の減少と定着率の低下を招いています。
解決策1: 処遇改善と働き方改革│3つのステップ
ステップ1: 処遇改善加算の最大活用(準備期間: 2〜4ヶ月)
国の処遇改善加算制度を最大限活用し、職員の賃金を引き上げます。加算には複数の区分があり、キャリアパス制度の整備や職場環境改善の取り組みが要件です。
加算取得により職員一人当たり月1〜3万円の給与増が実現でき、採用力と定着率が大幅に向上します。要件を満たすためのキャリアパス制度設計、評価基準の明確化、研修計画の策定を計画的に進めましょう。
つまずきポイントは「書類作成の煩雑さ」です。行政や専門家に相談し、他施設の事例を参考にすれば負担を軽減できます。
ステップ2: 柔軟な働き方の導入(着手期間: 1〜3ヶ月)
時短勤務、パート・アルバイトの活用、シフトの多様化により、育児や介護と両立できる環境を整えます。週2〜3日勤務、午前のみ・午後のみの勤務など、個人の事情に合わせた選択肢を用意します。
有給休暇の取得促進、連続休暇の取得支援、希望休の柔軟な対応なども効果的です。ワークライフバランスが実現できる職場と評価されれば、幅広い人材の獲得が可能となります。
ステップ3: 評価制度とキャリアパスの明確化(着手期間: 3〜6ヶ月)
頑張りが正当に評価される仕組みを構築し、職員のモチベーションを高めます。資格取得による昇給、役職によるキャリアアップ、専門性を活かした配置転換など、将来像を明示します。
定期的な個人面談で目標設定と達成度確認を行い、成長を支援します。評価基準を透明化し、公平性を担保することで、職員の納得感と達成意欲が向上します。
解決策2: 業務効率化とICT活用│4つの手法
手法1: 記録業務のデジタル化(導入期間: 2〜4ヶ月)
紙ベースの記録をタブレット端末やスマートフォンで入力できるようにし、記録時間を大幅に短縮します。リアルタイムで情報共有できるため、申し送りの負担も軽減されます。
音声入力機能を活用すれば、移動中や介助直後にも記録でき、後回しによる記憶の曖昧化を防げます。クラウド管理により、どこからでもアクセス可能となり、情報の一元化が実現します。
補助金制度を活用すれば導入コストを抑えられます。段階的に導入し、操作研修を丁寧に行うことで、ITに不慣れな職員も対応可能です。
手法2: 介護ロボット・センサーの導入(導入期間: 3〜6ヶ月)
見守りセンサーにより夜間巡回の負担を軽減し、利用者の異常を素早く検知できます。移乗支援ロボットを活用すれば、職員の腰痛予防と身体的負担の軽減につながります。
コミュニケーションロボットは利用者の話し相手となり、職員の心理的負担を分散します。排泄予測システムを導入すれば、適切なタイミングでの声掛けが可能となり、業務の効率化と利用者の尊厳維持を両立できます。
つまずきポイントは「初期投資の大きさと効果への不安」です。補助金を活用し、まず1台から試験導入して効果を確認しましょう。
手法3: 業務の標準化と役割分担(着手期間: 1〜2ヶ月)
専門職でなくても可能な業務を洗い出し、補助職員や事務員に振り分けます。清掃、配膳、リネン交換、受付対応などを分業すれば、介護職員は専門性の高い業務に集中できます。
マニュアルを整備し、誰が実施しても同じ品質を保てる体制を構築します。業務フローを可視化し、無駄な作業を削減することで、残業時間の短縮につながります。
手法4: オンライン会議・研修の活用(着手期間: 1ヶ月)
ビデオ会議ツールを活用すれば、場所や時間に制約されず情報共有できます。短時間の朝礼や申し送りをオンラインで実施し、移動時間を削減します。
外部研修もオンラインで受講できれば、シフト調整の負担が減り、より多くの職員が参加できます。録画機能を使えば、後日視聴も可能となり、学習機会が拡大します。
解決策3: 多様な人材の確保│3つのアプローチ
アプローチ1: 外国人材の受け入れ(準備期間: 6〜12ヶ月)
特定技能、技能実習、EPAなどの在留資格で外国人材を受け入れることができます。2025年4月からは訪問系サービスにも従事可能となり、在宅介護の人材不足緩和が期待されます。
外国人材は若く、給与と住居があれば地方でも採用しやすい傾向があります。日本語教育、生活サポート、文化理解の支援など、受け入れ体制を整備すれば、長期的な戦力となります。
既存職員への事前説明と理解促進が成功の鍵です。「一緒に働く仲間」として受け入れる文化を作り、メンター制度で丁寧にサポートしましょう。
アプローチ2: 潜在介護士の掘り起こし(着手期間: 2〜4ヶ月)
資格はあるが働いていない潜在介護士は多数存在します。結婚・出産で離職した元職員、他業界に転職した有資格者などにアプローチし、復職を支援します。
ブランク研修、短時間勤務、週2〜3日勤務など、復職のハードルを下げる施策を用意します。育児と両立できる勤務時間帯、フレキシブルなシフトなど、個人の事情に配慮した働き方を提示しましょう。
修学資金貸付制度や再就職準備金貸付など、国の支援制度も活用できます。資格取得後5年間介護職として働けば返済免除となる制度もあります。
アプローチ3: 未経験者・異業種からの転職者(着手期間: 継続的)
介護に関する入門的研修を実施し、未経験者が介護を知る機会を提供します。職場体験やマッチング支援を組み合わせ、研修から入職までつなげる一体的支援が効果的です。
他業種で培ったスキルを活かせる点をアピールします。接客業での対人スキル、営業職でのコミュニケーション能力、事務職での管理能力など、異業種経験が介護現場で活きる場面は多数あります。
解決策4: 職場環境の改善│3つの重点施策
施策1: 人間関係の改善とコミュニケーション活性化
定期的な1on1面談を実施し、職員の悩みや要望を聞き取ります。小さな問題でも放置せず、迅速に対応する姿勢を示せば、信頼関係が構築されます。
相談窓口を設置し、ハラスメントや人間関係の悩みに対応します。匿名で相談できる仕組みを整え、心理的安全性を高めましょう。チームミーティングで感謝を伝え合う文化を育て、お互いを尊重する雰囲気を作ります。
施策2: メンタルヘルスケアの充実
感情労働の負担を軽減するため、メンタルヘルス研修やカウンセリング機会を提供します。ストレスチェックを定期的に実施し、高ストレス者には個別支援を行います。
休憩時間の確保、リフレッシュルームの設置、職員同士の雑談時間の確保など、心身の回復を促す環境を整えます。疲労が蓄積する前に適切な休暇を取得できる体制を作りましょう。
施策3: 育成体制の整備と新人サポート
メンター制度やOJT研修を体系化し、先輩職員が丁寧に指導する仕組みを作ります。新人が早く現場に慣れ、介護のプロとして成長する意欲を育むことで、早期離職を防げます。
入職時に法人・事業所の理念を共有し、職場の状況や支援制度を丁寧に説明します。ミスマッチを防ぎ、長期的に働ける環境であることを伝えましょう。
解決策5: 情報発信と魅力アップ│2つの戦略
戦略1: 積極的な情報発信とイメージ改善
求人サイトやSNSで施設の魅力を具体的に発信します。現場で活躍する職員のインタビュー、やりがいエピソード、充実した研修制度などを紹介し、「働きたい」と思われる工夫をします。
3Kイメージを払拭するため、処遇改善の実績、働き方改革の取り組み、キャリアアップ事例など、ポジティブな情報を積極的に発信しましょう。見学会や体験会を開催し、実際の職場を見てもらう機会を作ります。
戦略2: 地域との連携と人材確保ネットワーク
地域包括ケアシステムの一員として、地域住民との交流を深めます。ボランティア受け入れ、地域イベントへの参加、介護教室の開催などを通じて、施設の認知度を高めます。
学校や職業訓練機関と連携し、実習生の受け入れを積極的に行います。良い実習体験が就職につながるケースも多く、将来の人材確保につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 労働者不足で今すぐできる対策は何ですか?
A: 既存職員との定期面談を即座に開始し、不満や要望を聞き取りましょう。小さな改善でも迅速に対応すれば離職防止につながります。次に業務を洗い出し、専門職でなくても可能な作業を補助職員に振り分けることで、即座に負担を軽減できます。
Q2: 外国人材受け入れの成功のポイントは?
A: 日本語教育と生活サポートが不可欠です。定期的な日本語研修、生活相談窓口、メンター制度を整備しましょう。既存職員への事前説明と理解促進も重要で、「共に働く仲間」として受け入れる文化を作れば、チーム全体が活性化します。
Q3: 処遇改善加算の取得は難しいですか?
A: 要件を満たすための準備は必要ですが、計画的に進めれば取得可能です。キャリアパス制度の整備、職場環境改善の取り組み、賃金改善の計画書作成などが求められます。行政や専門家に相談し、他施設の事例を参考にすれば、スムーズに進められます。
Q4: ICT導入の費用対効果はありますか?
A: 初期費用はかかりますが、記録時間の短縮により残業代が減少し、1〜2年で回収できるケースが多いです。補助金制度を活用すれば導入コストを3〜5割削減できます。まずは効果が出やすい記録システムから小規模で始め、段階的に拡大するのが賢明です。
Q5: 人間関係の問題を防ぐには?
A: 定期的な1on1面談、相談窓口の設置、チームビルディング研修が効果的です。管理者が職員の声に真摯に耳を傾け、小さな問題でも放置せず対応する姿勢が、信頼関係構築の鍵となります。感謝を伝え合う文化を育て、心理的安全性を高めましょう。
まとめ│7つの解決策で持続可能な運営を実現
介護労働者不足は、処遇改善、業務効率化、多様な人材確保、職場環境改善、情報発信という5つの軸で解決に近づきます。国の支援制度を最大限活用しながら、施設独自の魅力を高める取り組みを並行して進めることが重要です。
すべてを一度に実行する必要はありません。まず職員との対話、処遇改善加算の検討、業務の洗い出しなど、できることから始めましょう。小さな改善を積み重ねることで、職員が「この職場で働き続けたい」と感じる環境が生まれます。
2026年・2040年問題が迫る中、今日からできる一歩を踏み出してください。あなたの施設の未来は、今この瞬間の決断と行動で変わります。

