深刻化する介護人手不足、あなたの事業所は大丈夫ですか?
介護人手不足は2026年度に約28万人規模でピークを迎え、事業継続が困難になる事業所が急増します。
少子高齢化による要介護者の増加、若年労働力の減少、そして都心部を中心とした深刻な人材の奪い合い。 現場では「求人を出しても応募がない」「職員が次々と辞めていく」という悲鳴が聞こえてきます。
実際に2025年の介護事業者倒産は176件と過去最多を更新し、特に訪問介護では人材確保の困難さが経営を直撃しています。
本記事では、福祉経営の最前線で戦う経営者・管理者の視点から、人手不足の本質的原因と即実践できる3つの対策を解説します。
私自身、複数の福祉事業所で人材確保と定着支援に携わり、離職率を15%から8%まで削減した実績があります。 大規模な投資は不要です。今日から始められる具体策で、あなたの事業所を守りましょう。
2026年がピーク|介護人手不足の深刻な現状
2040年まで続く人材不足の構造
厚生労働省の推計によると、介護職員の必要数と供給見込みには以下のギャップが生じます。
| 年度 | 必要数 | 現状推移の供給 | 不足数 | 不足率 |
| 2026年度 | 約243万人 | 約215万人 | 約28万人 | 約11.5% |
| 2040年度 | 約280万人 | 約211万人 | 約69万人 | 約24.6% |
特に注目すべきは2026年度までの毎年5万人規模の不足です。 これは「10人必要な現場に8〜9人しか配置できない」状況を意味し、現場の疲弊は限界に達します。
2040年以降は高齢者人口の減少により不足ペースは年3万人へ緩和されますが、それまでの約15年間が正念場です。
都心部では有効求人倍率4倍超の激戦
地域別に見ると、都心部の人材確保はさらに過酷です。
東京都では2026年度に約28,000人、2040年度には約73,000人の介護職員が不足すると推計されています。 有効求人倍率は4.91倍(全産業平均1.27倍)に達し、1人の求職者を5つの事業所が奪い合う状況です。
一方、地方では有効求人倍率2.5倍前後と相対的に低いものの、絶対的な人口減少により若年労働力そのものが枯渇しています。
都市部も地方も、それぞれ異なる形で人材確保の壁に直面しているのが現実です。
倒産件数過去最多、訪問介護が最も深刻
2025年の介護事業者倒産は176件と2年連続で過去最多を更新しました。 特に訪問介護は91件と全体の51%を占め、人材確保の困難さが経営を直撃しています。
背景には介護報酬改定の厳しさ、物価高騰、そして人材不足による「三重苦」があります。 求人を出しても応募がなく、既存職員の負担増加→離職→さらなる人手不足という負のスパイラルが加速しています。
人手不足は単なる人事課題ではなく、事業継続に直結する経営リスクなのです。
なぜ人が集まらないのか?人手不足の3大原因
原因①:仕事内容と賃金のミスマッチ
介護職の平均月給は約271,000円(令和6年賃金構造基本統計調査)で、全産業平均の約330,400円を約6万円下回ります。
身体介護による腰痛リスク、夜勤による生活リズムの乱れ、利用者・家族との感情労働。 これらの負担に対し「報酬が見合わない」と感じる職員は少なくありません。
特に若年層にとって、他業種と比較した際の賃金格差は就職先選択の大きな障壁となっています。
ただし、処遇改善加算の一本化(2026年度)により2%以上のベースアップが見込まれており、賃金改善の動きは加速しています。 経営者としては、この制度を最大限活用し職員に還元する姿勢が求められます。
原因②:離職の最大要因は「人間関係」
公益財団法人介護労働安定センターの調査では、離職理由のトップは「職場の人間関係に問題があった」(23.2%)です。 これは「結婚・出産・妊娠・育児」(20.4%)や「収入が少ない」(15.8%)を上回る結果でした。
なぜ人間関係が悪化するのか? 最大の原因は「評価制度の不在」です。
仕事ができる職員とそうでない職員の処遇が変わらず、努力が報われない環境では不満が蓄積します。 年功序列による昇格、あいまいな評価基準、マネジメント層の現場把握不足。 これらが職員間の摩擦を生み、ベテランと若手、正職員とパート職員の間に溝を作ります。
人間関係の悪化は、優秀な人材ほど早く見切りをつけて去っていく要因になります。
原因③:「3K」イメージと社会的評価の低さ
「きつい・汚い・危険」という3Kイメージは、いまだ介護業界に根強く残っています。
公益財団法人介護労働安定センターの調査では、20.4%の職員が「業務について社会的評価が低い」と感じていると回答しました。 排泄介助や入浴介助といった身体介護への抵抗感、不規則な勤務形態への不安。 これらのネガティブイメージが、未経験者や他業種からの転職者を遠ざけています。
現場で働く職員は誇りとやりがいを持っているにもかかわらず、外部からのイメージとのギャップが大きいのです。
SNSや採用ページで「介護の魅力」を発信する事業所も増えていますが、業界全体としてのイメージ改善にはまだ時間がかかります。
福祉経営者が今すぐ始める3つの実践対策
対策①:人間関係の「見える化」と評価制度の整備(最優先)
なぜ最優先なのか? 人間関係の改善は、離職防止と定着率向上に最も即効性があるためです。
具体的ステップ(所要期間:1〜3ヶ月)
【ステップ1】組織課題の可視化(2週間)
- 職員アンケートの実施(匿名・Googleフォームで可)
- 質問例:「職場の人間関係に満足していますか?」「上司に相談しやすい環境ですか?」「評価制度は公平だと感じますか?」
- 低コストのサーベイツール(従業員満足度調査ツール)を活用し、組織の「穴」を特定
【ステップ2】相談窓口の設置(即日〜1週間)
- 第三者相談員(外部カウンセラーや産業保健スタッフ)の配置
- 内部窓口(信頼できる中堅職員)の設置
- 相談窓口の存在を周知し「困ったら話せる」安心感を醸成
【ステップ3】評価制度の明文化(1〜2ヶ月)
- 「できる職員」と「そうでない職員」の基準を明確化
- 介護技術・コミュニケーション能力・チームワークの3軸で評価
- 評価結果を賞与・昇給・昇格に反映し、努力が報われる仕組みを構築
つまずきポイントと対処法:
- 「アンケートで不満が噴出したらどうしよう」→不満は既に存在しています。見えないリスクより見えるリスクの方がコントロール可能です。
- 「評価制度を作る時間がない」→最初は簡易版でOK。3段階評価(優・良・可)からスタートし、徐々に精緻化しましょう。
対策②:「待ち」の採用から「攻め」の採用へシフト
なぜ攻めが必要なのか? ハローワークや人材紹介会社に任せる「待ち」の採用では、数千件の求人に埋もれてしまいます。
具体的ステップ(所要期間:1〜2ヶ月)
【ステップ1】採用ページの魅力化(2週間)
- テキストだけのページを写真・動画付きに刷新
- 職員インタビュー「なぜこの仕事を選んだか」「やりがいは何か」を掲載
- 無料ツール(CanvaやiMovieなど)で作成可能
【ステップ2】SNS発信の開始(継続的)
- 現場の様子を週1〜2回発信(写真・短文でOK)
- 「介護の仕事はかっこいい」「こんな成長がある」といったポジティブメッセージ
- 採用コスト0円で若年層にリーチ可能
【ステップ3】人材紹介会社のマネジメント(月1回)
- 定期的なWeb面談(月1回・30分)で事業所の魅力を伝える
- 紹介会社担当者を現場見学に招待し、リアルな職場環境を体感してもらう
- 採用成功事例をフィードバックし、紹介精度を向上
つまずきポイントと対処法:
- 「SNSは若手職員しか使えない」→若手に任せましょう。現場のリアルな声が最も響きます。
- 「人材紹介会社に時間を割けない」→月30分の投資で紹介優先度が上がり、年間数十万円の採用コスト削減につながります。
対策③:外国人雇用と業務効率化ツールの戦略的活用
なぜ外国人雇用なのか? 若年労働力が枯渇する中、外国人材は「若い・意欲的・地方でも採用可能」という3つのメリットがあります。
具体的ステップ(所要期間:3〜6ヶ月)
【ステップ1】受け入れ体制の整備(1〜2ヶ月)
- 在留資格の選定(特定技能・技能実習・EPAなど)
- 住居・生活サポート体制の構築(社宅・自動車免許取得支援など)
- 助成金・補助金の確認(自治体により異なる)
【ステップ2】日本語教育・介護研修の実施(2〜3ヶ月)
- 日本語能力試験N3〜N2レベルを目標に外部講師を活用
- OJTによる介護技術習得(ベテラン職員がマンツーマン指導)
- 補助金を活用しコストを抑制
【ステップ3】業務効率化ツールの導入(1〜2ヶ月)
- 介護記録のタブレット化で記録時間を50%削減
- 見守りシステム導入で夜間巡回を効率化
- 勤怠・シフト管理アプリで事務作業を自動化
つまずきポイントと対処法:
- 「言葉の壁が不安」→利用者との会話は簡単な日本語で十分。むしろ外国人職員の明るさが現場を活性化します。
- 「ITツール導入が難しい」→操作は直感的で、1週間あれば慣れます。無料トライアルで試してから本格導入しましょう。

