介護現場の問題点は、人材不足・職員高齢化・情報共有不足の3層構造で進行しています
「人が足りない」「ケアの質が上がらない」「職員がすぐ辞めてしまう」——介護事業所の経営者が直面する課題は複雑に絡み合っています。
介護現場の問題点は、63%の事業所が人手不足を感じ、職員の平均年齢50歳、離職率14.3%という数字が示す通り、構造的な課題です。公益財団法人介護労働安定センターの令和4年度調査によると、問題の根本原因は「人材不足→業務過多→ケア品質低下→離職」という悪循環にあります。
この記事では、介護事業所で15年の経営実務経験をもとに、現場の7つの問題点を優先順位別に整理し、即効性のある解決策から中長期戦略までを段階的に解説します。
読み終える頃には、あなたの事業所で今月から実践できる具体的な改善アクションプランが手に入るはずです。
介護現場が抱える7つの問題点【構造別に整理】
【構造的問題①】要介護者の急増と介護需要の拡大
内閣府「令和5年版高齢社会白書」によると、2025年に団塊世代が全員75歳以上となり、高齢化率は30%に達します。75歳以上の後期高齢者では31.8%が要支援・要介護認定を受けており、前期高齢者(65〜74歳)の4.3%と比較して約7倍の認定率です。
2023年時点で要介護認定者は約690万人ですが、2040年には団塊ジュニア世代が高齢者となり、介護需要はさらに増加します。これに対し、15〜64歳の生産年齢人口は減少を続けており、介護の担い手不足は構造的に避けられない状況です。
この問題は、個別事業所の努力だけでは解決できません。しかし、需要拡大を事業機会と捉え、効率的な運営体制を構築することで、持続可能な経営が実現できます。
【構造的問題②】介護職員の深刻な人手不足
厚生労働省データによると、介護職の有効求人倍率は3.60倍で、全職業平均の1.13倍と比較して約3倍の人手不足です。東京都では7.39倍と全国最高水準に達しており、都市部ほど人材獲得競争が激化しています。
2023年度に必要な介護職員数は233万人に対し、2020年度時点で211.9万人と約21万人不足しています。2040年には約280万人の介護職員が必要と推計されており、今後20年間は慢性的な人手不足が続く見込みです。
人手不足の背景には、「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージ、給与水準の低さ、身体的・精神的負担の大きさなど、複合的な要因があります。単なる採用強化では解決せず、働き方改革と業務効率化の両面からのアプローチが必要です。
【運営課題①】職員の高齢化と若手不足
介護労働安定センター「令和4年度介護労働実態調査」によると、介護職員の平均年齢は50歳で、約7割の事業所が65歳以上の労働者を雇用しています。特に訪問介護員の平均年齢は54.4歳と最も高く、高齢化が顕著です。
一方、20代・30代の職員は全体の約2割にとどまり、若年層の確保が急務となっています。職員の高齢化は、身体介護業務の負担増、夜勤対応の困難化、ICT機器への適応力低下など、事業所運営に多面的な影響を及ぼします。
若手確保には、給与水準の改善だけでなく、キャリアパス制度の整備、教育研修体制の充実、ワークライフバランスの実現など、総合的な魅力づくりが求められます。
【運営課題②】給与・待遇の問題と処遇改善の遅れ
介護職員の平均給与は全産業平均と比較して低水準です。介護保険制度により報酬単価が決められているため、一般企業のように自由に給与を上げられない構造的制約があります。
処遇改善加算制度により段階的な改善は進んでいますが、男性職員の26.4%が「収入が低い」ことを離職理由に挙げており、特に家計を支える世帯主にとって不満が大きい状況です。
処遇改善加算(最大11.1%)、特定処遇改善加算(最大6.3%)、ベースアップ等支援加算(最大3.0%)を最大限活用すれば、職員1人あたり月額3.7万円の賃金改善が可能です。加算取得は経営者の重要な責務といえます。
【現場課題①】人間関係と職場環境の問題
令和4年度調査では、離職理由の第1位が「人間関係」(27.5%)で、前年の18.8%から大幅に増加しています。介護職はシフト制でチーム連携が多い仕事のため、人間関係の悪化は業務効率やケア品質に直結します。
第2位の「法人や施設・事業所の理念や運営の在り方に不満」(22.8%)も、広義の人間関係問題といえます。特に男性は30.3%とこの理由が最も高く、処遇面や運営方針への不満が強いことがわかります。
職場の人間関係改善には、定期的な面談・カウンセリング、チームビルディング研修、公正な評価制度の導入など、組織風土の改善が必要です。
【現場課題②】情報共有不足とケア品質のばらつき
多職種協働が前提の介護現場では、情報共有の不足は重大な問題を引き起こします。申し送りの漏れ、記録の不統一、職員間の対応のばらつきなどが、利用者の事故リスクを高め、ケア品質の低下を招きます。
紙ベースの記録管理では、情報の即時共有が困難で、転記ミスや記録漏れも発生しやすくなります。また、夜勤・日勤のシフト交代時に十分な引き継ぎ時間が取れないことも、情報共有不足の原因です。
ICT導入による記録のデジタル化とリアルタイム共有が、この問題の根本的な解決策となります。
【現場課題③】利用者事故の多発と予防対策の困難さ
介護施設内で最も多い事故は「転倒・転落・滑落」で全体の65.6%を占め、続いて「誤嚥・誤飲」(13%)です。人手不足による見守り不足、利用者の身体機能低下、環境整備の不備などが事故の主な原因です。
事故防止には、定期的なリスクアセスメント、環境整備(手すり・照明・床材)、見守りセンサーの活用、職員への安全教育などが必要です。しかし、人手不足の中で十分な対策を講じるのは困難な状況です。
事故が発生すると職員が罪悪感を抱き、離職につながるケースもあります。事故防止は利用者の安全確保だけでなく、職員のメンタルヘルス維持の観点からも重要です。
問題解決の優先順位と実践ロードマップ
【優先度★★★:即効性あり】処遇改善加算の完全取得
最優先で取り組むべきは、処遇改善加算の最大限活用です。職員1人あたり月額最大3.7万円の賃金改善が可能で、年収換算で約44万円のアップになります。
取得には、キャリアパス制度の整備(職位・職責・資格に応じた賃金体系)と職場環境改善計画の作成が必要です。社会保険労務士や介護コンサルタントに依頼すれば、3〜6ヶ月で取得できます。費用は20〜30万円程度ですが、加算収入で十分回収可能です。
給与明細に「処遇改善手当」として明記することで、職員のモチベーション向上と求人時のアピール効果が得られます。未取得の事業所は今すぐ着手しましょう。
【優先度★★★:費用対効果大】ICT導入による業務効率化
介護ソフト・タブレット端末の導入により、記録業務時間を最大60%削減できます。訪問先からリアルタイムで入力可能になるため、事務作業の残業が激減し、職員の負担軽減につながります。
ICT導入のメリットは、①記録時間の短縮、②情報共有の即時化、③転記ミス・記録漏れの防止、④スケジュール管理の最適化、請求業務の効率化など多岐にわたります。インカムを活用した音声入力で、週17時間の記録時間短縮に成功した事例もあります。
導入費用は1事業所30〜50万円程度ですが、ICT導入補助金(最大100万円)やIT導入補助金を活用できます。導入から効果実感まで3〜6ヶ月が目安です。
【優先度★★:定着率向上】職場環境改善と人間関係対策
離職理由第1位の人間関係問題への対策として、以下の施策を段階的に実施しましょう。
第1段階(1〜3ヶ月):定期面談制度の導入。月1回15〜30分の個別面談で、職員の不満や悩みを早期にキャッチします。管理者・サービス提供責任者が実施し、記録を残します。
第2段階(3〜6ヶ月):チームビルディング研修の実施。外部講師を招いたコミュニケーション研修や、職員同士の交流イベントを年2〜4回開催します。費用は1回5〜10万円程度です。
第3段階(6ヶ月〜):公正な評価制度の構築。職業能力評価基準を活用し、明確な評価軸を設定します。頑張りが正当に評価される仕組みが、モチベーション維持につながります。
【優先度★★:中期施策】教育研修制度の体系化
若手確保と職員のスキルアップには、体系的な教育研修制度が不可欠です。OJT(実地訓練)だけでなく、Off-JT(集合研修)も組み合わせましょう。
新人向け研修(入職〜6ヶ月):業務マニュアル整備、メンター制度導入、段階的な業務習得プログラム作成。離職防止に直結します。
中堅向け研修(経験2〜5年):専門知識・技術の向上、リーダーシップ研修、介護福祉士等の資格取得支援。キャリアパスを明確にすることが重要です。
管理職向け研修(5年以上):マネジメントスキル、労務管理、経営視点の習得。外部研修への参加支援(年1〜2回、費用5〜10万円)も効果的です。
【優先度★:長期戦略】外国人材・ワークシェアリング活用
EPA(経済連携協定)や特定技能制度を活用した外国人材の受け入れは、人手不足の根本的な解決策の一つです。ただし、言語サポート、住居確保、生活支援が必要なため、初めての場合は登録支援機関のサポートを受けましょう。受け入れまで6ヶ月〜1年の準備期間が必要です。
ワークシェアリングは、特定業務(送迎・入浴介助・食事介助など)を切り分けて、短時間勤務者を複数雇用する手法です。学生・主婦・シニアなど、フルタイム勤務が困難な層を取り込めます。
複数の事業所間で職員を共有する「人材シェアリング」も注目されています。地域の事業所と連携し、繁忙期に応援し合う体制を構築しましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1: ICT導入で高齢職員が使いこなせるか不安です
A: 60代・70代でもタブレット操作は十分可能です。導入時に1人2〜3時間の個別研修を実施し、操作が簡単なシステムを選べば問題ありません。むしろ手書き作業が減って楽になったと好評を得ている事例が多数あります。サポート体制が充実した介護ソフトを選ぶことが成功のカギです。
Q2: 処遇改善加算の取得は本当に効果がありますか?
A: 極めて効果的です。職員の給与が月額3万円以上アップすれば、求人への応募数が増加し、既存職員の定着率も向上します。給与明細に明記することで「頑張りが評価されている」と実感でき、モチベーション向上につながります。未取得なら今すぐ取得を検討すべきです。
Q3: 人間関係の問題はどう把握すればいいですか?
A: 月1回の個別面談と、年1〜2回の匿名アンケートを組み合わせましょう。面談では「困っていることはないか」「職場で改善したい点は?」と具体的に聞きます。匿名アンケートでは本音を引き出せます。問題の早期発見が離職防止につながります。
Q4: 小規模事業所でもICT導入は必要ですか?
A: 職員5名以下の小規模事業所こそICT導入のメリットが大きいです。少人数で多くの業務をこなす必要があるため、記録・請求業務の効率化による時間短縮効果が顕著に表れます。補助金を活用すれば実質負担は10〜20万円程度で導入可能です。
Q5: 問題解決で最も効果的な施策は何ですか?
A: 処遇改善加算取得とICT導入の組み合わせが最強です。給与アップで採用力を高めつつ、ICT化で業務効率化と残業削減を実現すれば、「高待遇で働きやすい職場」として人材が集まります。この2つを最優先で実施しましょう。
まとめ:今月から始める問題解決の3ステップ
介護現場の問題点は複雑に絡み合っていますが、優先順位を明確にして段階的に対策を講じれば、改善できます。
今月から始める3つのアクションがあります。まず(1)処遇改善加算の取得状況を確認し、未取得または一部のみ取得なら専門家に相談すること。次に(2)ICT導入の情報収集と補助金申請を開始し、3〜6ヶ月後の導入を目標にすること。最後に(3)月1回の職員面談制度を導入し、現場の声を把握する仕組みを作ることです。
小さな改善の積み重ねが、持続可能な介護事業所を実現します。利用者の尊厳と職員のやりがいを守るため、あなたの事業所でも今月から問題解決の取り組みを始めてみませんか?

