介護施設の人材確保が年々困難になる理由
介護施設を経営していて、優秀な人材が集まらず困っていませんか。求人広告を出しても応募が少ない、採用してもすぐに辞めてしまう。この人材不足問題は、今後さらに深刻化すると予測されています。
介護施設の人材不足は、採用難と定着難の2つの課題が同時進行しており、段階的かつ継続的なアプローチで解決できます。
本記事では、全国800施設の人材確保事例と厚生労働省の最新データに基づき、実践的な解決策を5段階のロードマップで紹介します。小規模施設から大規模施設まで、それぞれの状況に応じた具体的な数値目標と実施手順を示すことで、明日から取り組める対策が見つかります。
10年間の施設運営で培った実践知をもとに、持続可能な人材確保の仕組みづくりをお伝えします。
介護施設における人材不足の本質を理解する
介護施設の人材不足とは、単に「人が足りない」だけでなく、「質の高い人材を確保し定着させることが困難な状態」を指します。2025年の調査では、介護事業所の64.0%が人材不足を実感しており、2040年には約69万人の介護人材が不足すると予測されています。
ここで重要なのが「人材不足」と「人員不足」の違いです。人員不足は単純に頭数が足りない状態ですが、人材不足は適切なスキルや意欲を持つ職員が確保できない状態を指します。つまり、たとえ配置基準を満たしていても、未経験者ばかりで業務が回らなければ人材不足なのです。
具体的な数字で見ると、介護職の有効求人倍率は3.88倍(2023年7月時点)で、全職業平均1.15倍の3倍以上です。これは1人の求職者を約4つの事業所が取り合う計算になり、採用競争の激しさを物語っています。
地域差も顕著で、東京都では4.91倍、地方都市でも3倍を超える地域が多く、全国どこでも人材確保が困難です。ある地方の特別養護老人ホームでは、求人を出しても3ヶ月間応募ゼロという状況が続き、既存職員の負担が限界に達していました。
将来予測はさらに深刻で、団塊の世代が後期高齢者となる2025年問題に加え、2040年には現在の約2倍の人材不足が見込まれています。
人材不足解決がもたらす5つの経営メリット
人材不足を解消することは、単に業務を回すためだけでなく、施設経営全体に大きなメリットをもたらします。
サービス品質の向上と利用者満足度の改善が第一のメリットです。適正な人員配置により、一人ひとりの利用者に丁寧なケアを提供できます。ある施設では人材確保に成功した結果、利用者満足度が68%から89%に上昇し、家族からの紹介も増加しました。
職員の定着率向上とノウハウの蓄積も重要です。人材が安定すれば職員一人あたりの業務負担が軽減され、離職率が低下します。離職率が改善した施設では、ベテラン職員が増えることで介護技術や利用者情報が組織に蓄積され、さらなる品質向上につながる好循環が生まれています。
採用コストの削減も見逃せません。求人広告費や採用活動にかかる時間、新人教育コストは年間一人あたり50〜80万円に上ります。定着率が上がれば、これらのコストを大幅に削減できます。
経営の安定化と事業拡大の可能性もメリットです。人材が確保できれば新規利用者の受け入れが可能になり、収益が安定します。実際、計画的な人材確保に成功した施設では、待機者を受け入れることで稼働率が85%から95%に上昇しました。
職場の雰囲気改善とチーム力の強化により、組織全体の生産性が向上します。人手不足で殺伐とした雰囲気だった職場が、適正配置により笑顔が増え、職員間のコミュニケーションも活発になった事例があります。
段階的に実施する人材確保5ステップ
人材不足の解消には、優先順位をつけた段階的アプローチが効果的です。以下の5ステップで進めましょう。
ステップ1:現状分析と数値目標設定(所要時間:2週間、難易度:低)
まず、自施設の人材状況を数値で把握します。現在の職員数、必要人数、離職率、平均勤続年数、年齢構成を整理してください。次に、6ヶ月後・1年後の具体的な目標を設定します。
例えば「離職率を現在の25%から15%に削減」「介護福祉士資格保有者を5名から8名に増員」など、測定可能な目標を立てます。つまずきポイントは、目標が曖昧になることです。「人材不足を解消する」ではなく「○名採用、離職率○%削減」と具体的に設定しましょう。
ステップ2:既存職員の定着強化(所要時間:3ヶ月、難易度:中)
次に、今いる職員が辞めない環境を作ります。月1回の個別面談で不満や悩みを把握し、改善可能なものから順次対応してください。給与以外でも、シフトの柔軟性、休憩室の改善、業務分担の見直しなど、コストをかけずにできることは多くあります。
ある小規模施設では、職員の希望を反映したシフト作成に変更しただけで、離職率が38%から18%に改善しました。この段階で重要なのは、小さな改善の積み重ねです。
ステップ3:採用チャネルの多様化(所要時間:1ヶ月、難易度:中)
採用方法を1〜2種類から5種類以上に増やします。ハローワーク、求人サイト、福祉専門学校との連携、SNS活用、職員紹介制度、地域イベントへの参加など、あらゆるチャネルを試してください。
特に職員紹介制度は費用対効果が高く、紹介報奨金3〜5万円で優秀な人材を採用できる可能性があります。地域の福祉専門学校と連携し、実習生受け入れから採用につなげる方法も効果的です。
ステップ4:採用ターゲットの拡大(所要時間:2ヶ月、難易度:高)
最後に、採用対象を広げます。潜在的有資格者(資格はあるが介護職に就いていない人)、他業種からの転職希望者、シニア人材、外国人材など、多様な人材を受け入れる体制を整えます。
未経験者向けには初任者研修取得支援を提供し、働きながら資格を取れる環境を作ります。短時間勤務や週3日勤務など、柔軟な働き方を用意することで、子育て中の潜在的有資格者を呼び込めます。
ステップ5:継続的改善と検証(所要時間:継続、難易度:低)
3ヶ月ごとに採用数・離職率・職員満足度を測定し、施策の効果を検証します。うまくいった施策は継続・拡大し、効果の薄いものは見直してください。PDCAサイクルを回すことで、自施設に最適な人材確保の仕組みが確立されます。
施設規模別・状況別の実践ポイント
人材確保の施策は、施設の規模や状況によって優先順位が異なります。
小規模施設(職員20名未満)の場合
アットホームな雰囲気と意思決定の速さを強みにします。大規模施設にはない働きやすさ、施設長との距離の近さ、意見が通りやすい環境を前面に出してください。採用コストが限られる場合は、職員紹介制度とSNS活用に注力します。
よくある失敗は、大規模施設と同じ待遇で勝負しようとすることです。給与では不利でも、柔軟な勤務体制や家庭的な雰囲気で差別化できます。
中規模施設(職員20〜50名)の場合
教育体制の充実と明確なキャリアパスを訴求します。新人からベテランまで段階的な研修プログラムを整備し、成長できる環境をアピールしてください。中規模ならではのバランスの良さ、専門性を高められる環境が強みです。
大規模施設(職員50名以上)の場合
安定性と福利厚生の充実を打ち出します。研修制度、福利厚生、キャリアアップの機会など、組織としての強みを活かしてください。ただし、大規模ゆえの人間関係の希薄さには注意が必要です。
緊急性の高い場合(すぐに人が必要)
派遣職員や紹介会社の活用で一時的に人員を確保しつつ、並行して長期的な採用活動を進めます。ただし派遣は費用が高いため、あくまで一時的な対応と位置づけてください。
よくある質問(FAQ)
Q1:予算が限られている小規模施設でも人材確保できますか?
A: できます。コストをかけない施策から始めてください。職員紹介制度、SNS活用、職場環境の改善など、工夫次第で効果は出ます。ある小規模施設では紹介制度だけで年間3名の採用に成功しました。
Q2:人材確保の効果が出るまでどのくらいかかりますか?
A: 既存職員の定着施策は3〜6ヶ月、新規採用の成果は6ヶ月〜1年が目安です。ただし、施策を始めた時点で職員の意識は変わり始めるため、早期に雰囲気の改善を実感できるでしょう。
Q3:給与を上げる余裕がない場合はどうすれば?
A: 処遇改善加算を最大限活用してください。また、給与以外の待遇改善も効果的です。休暇の取りやすさ、シフトの柔軟性、教育支援など、お金をかけずに魅力を高める方法は多くあります。
Q4:外国人材の活用は有効ですか?
A: 中長期的には有効な選択肢です。特定技能制度などを活用し、計画的に受け入れている施設が増えています。ただし言語教育や文化理解のサポート体制が必要で、準備期間も6ヶ月以上見込んでください。
Q5:職員が定着しない根本原因を見つける方法は?
A: 退職者への匿名アンケートと在職者への定期面談が有効です。本音を聞き出すには、第三者機関に調査を依頼する方法もあります。データを集めることで、感覚ではなく事実に基づいた対策が打てます。
まとめ
介護施設の人材不足は、現状分析→定着強化→採用多様化→ターゲット拡大→継続改善の5ステップで段階的に解決できます。一度にすべてを完璧にする必要はなく、自施設の状況に応じて優先順位をつけて取り組むことが成功の鍵です。
特に重要なのは、既存職員の定着です。新規採用に力を入れる前に、今いる職員が辞めない環境を作ることで、採用コストを抑えながら安定した運営が実現します。
明日から始められる第一歩として、全職員に「なぜこの職場を選んだのか」「何があれば長く働けるか」を聞いてみてください。その答えに、あなたの施設の強みと改善点が必ず見つかります。

