厚生労働省ICT補助金完全ガイド|介護事業者が知るべき申請から活用まで

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介護現場のICT化を進めたいが、導入コストに悩んでいませんか。厚生労働省の介護テクノロジー導入支援事業(ICT補助金)は、最大260万円、補助率2分の1〜4分の3で機器導入費用を支援する制度です。

本記事では、福祉業界で15年以上のICT導入支援経験を持つ筆者が、補助金の具体的な申請方法から効果的な活用まで実践的に解説します。2026年1月時点の最新要件に基づき、申請から交付までの全プロセスを分かりやすく紹介しますので、初めて申請する事業者でも安心して取り組めます。

ICT補助金の基礎知識と制度の仕組み

ICT補助金とは何か

厚生労働省が管轄する介護テクノロジー導入支援事業は、介護施設や事業所のICT化を財政的に支援する制度です。この制度は地域医療介護総合確保基金を財源としており、各都道府県が窓口となって運営しています。

具体的には、介護記録用ソフトウェア、タブレット端末、スマートフォン、インカム、Wi-Fi環境整備など、業務効率化に必要なICT機器の購入費用を補助します。2019年から本格的に開始され、現在では全都道府県で実施されており、2023年度には5,000以上の施設が活用しました。

この補助金の最大の特徴は、単なる機器購入支援だけでなく、導入に伴う研修費用や業務改善支援も対象となる点です。これにより、ICTに不慣れな職員が多い施設でも、段階的に導入を進められます。

補助対象となる機器とサービス

補助対象は大きく3つのカテゴリーに分かれます。第一に、介護業務支援ソフトウェアです。記録、情報共有、請求業務が一気通貫で処理できるシステムが条件となります。ケアプランデータ連携標準仕様に対応したソフトウェアなど、国が推奨する機能を備えたものが該当します。

第二に、情報端末です。タブレット、スマートフォン、インカムなどが含まれます。ただし、一般的なパソコンやプリンターは対象外となるため注意が必要です。端末は介護ソフトのインストールを前提としており、私用との区別を明確にする必要があります。

第三に、通信環境整備費用です。Wi-Fi機器の購入や設置工事、業務効率化に資するバックオフィスソフト(勤怠管理やシフト管理など)も補助対象に含まれます。さらに、ICTリテラシー習得のための研修費用も新たに対象となりました。

補助金額と補助率の詳細

補助上限額は施設の職員数によって段階的に設定されています。職員1〜10人の施設は100万円、11〜20人は160万円、21〜30人は200万円、31人以上は260万円が上限です。一部の都道府県では一律250万円とする場合もあります。

補助率は取り組み内容により変動します。文書量半減計画の策定、ケアプランデータ連携システムの利用、LIFEのCSV連携仕様を実装した介護ソフトの使用など、特定要件を満たす場合は4分の3が下限となります。要件を満たさない場合は2分の1が下限です。

例えば、職員20人の施設が160万円分のICT機器を導入し、文書量半減計画を策定した場合、補助率4分の3で120万円の補助を受けられる計算になります。自己負担は40万円で済み、導入のハードルが大幅に下がります。

補助金申請の3つのメリットと活用効果

導入コスト削減による財政負担軽減

ICT化の最大のハードルは初期投資です。介護ソフト、タブレット端末、通信環境整備を一式揃えると、小規模施設でも100万円以上かかるケースが少なくありません。補助金を活用すれば、この負担を2分の1〜4分の3削減できます。

ある訪問介護事業所では、補助金を活用して総額130万円のシステムを導入しました。補助率4分の3の適用により、実質負担は32万5,000円に抑えられ、導入初年度から記録業務の時間が約半分に短縮されました。削減できた人件費を考えると、1年半で投資回収できたと報告されています。

さらに、補助金には研修費用も含まれるため、職員教育にかかるコストも軽減されます。外部講師を招いた研修や、ICTコンサルタントによる業務改善支援も対象となり、定着までのサポート体制を整えやすくなります。

業務効率化と職員負担の軽減

ICT導入により、最も効果が表れるのは記録業務です。従来は手書きで記入していた介護記録をタブレットで入力できるようになり、転記作業が不要になります。ある特別養護老人ホームでは、記録作業時間が1日あたり職員1人につき30分短縮され、その時間を直接的なケアに充てられるようになりました。

情報共有もスムーズになります。紙のバインダーを回覧する必要がなくなり、リアルタイムで全職員が最新情報を確認できます。夜勤者への申し送りも効率化され、口頭での伝達ミスが減少したという報告が多数あります。

請求業務の効率化も見逃せません。介護記録から国保連への請求データまで自動連携するシステムを導入すれば、月末の請求作業が大幅に軽減されます。事務職員の残業時間削減につながり、人件費の抑制効果も期待できます。

介護サービス品質向上と人材確保

業務効率化で生まれた時間を利用者へのケアに充てることで、サービスの質が向上します。職員が記録作業に追われることなく、利用者とのコミュニケーション時間を増やせるようになり、満足度向上につながります。

ICT化は職員の働きやすさ向上にも貢献します。残業が減り、休憩時間を確保しやすくなることで、離職率の低下が期待できます。実際に、ICT導入施設では職員の定着率が向上したというデータも報告されています。

また、ICTに対応した職場環境は、若い世代の求職者にとって魅力的です。募集時に「最新のICTシステム完備」とアピールできることで、採用活動が有利に進むケースも増えています。慢性的な人手不足に悩む介護業界において、これは大きなメリットといえます。

補助金申請の具体的な5ステップ

ステップ1:事前準備と要件確認(所要期間1〜2週間)

申請前にまず確認すべきは、自施設が所在する都道府県の募集要項です。都道府県によって申請期間や条件が異なるため、ホームページで最新情報を入手します。多くの自治体では6月〜8月に募集を開始しますが、早い地域では4月から受付を始めるところもあります。

次に必須となるのが、SECURITY ACTIONの宣言です。これは独立行政法人情報処理推進機構が実施する情報セキュリティ対策の自己宣言制度で、「一つ星」または「二つ星」のいずれかを宣言する必要があります。オンラインで無料で登録でき、5分程度で完了します。

導入したい機器やソフトウェアの選定も重要です。補助対象となる機能(記録・情報共有・請求の一気通貫処理など)を満たしているか、ベンダーに確認しましょう。複数社から見積もりを取り、比較検討することをお勧めします。

ステップ2:導入計画書の作成(所要期間1〜2週間)

導入計画書は補助金申請の核となる書類です。現状の課題を明確にし、ICT導入でどう改善するかを具体的に記述します。例えば「記録業務に1日2時間かかっており、これをICT化で1時間に短縮する」といった数値目標を設定します。

文書量半減計画を盛り込むと、補助率が4分の3に引き上げられる可能性が高まります。具体的には「現在月間300枚の紙記録を、ICT化により150枚以下に削減する」といった内容を記載します。実現可能な目標設定が重要です。

業務改善計画書も必要です。厚生労働省が提供する標準様式を使用し、導入前の業務フロー、導入後の予定フロー、期待効果を記入します。第三者による業務改善支援を受ける計画も含めると、申請の通過率が上がります。

ステップ3:申請書類の提出(所要期間1週間)

必要書類を揃えて都道府県の窓口に提出します。一般的な提出書類は、交付申請書、導入計画書、業務改善計画書、見積書、事業所の概要を示す書類、SECURITY ACTION宣言の証明書などです。都道府県によってはオンライン申請が可能な場合もあります。

提出前に書類の不備がないか、複数人でチェックすることが重要です。記載漏れや計算ミスがあると審査が遅れたり、差し戻されたりする可能性があります。特に金額の計算間違いには注意が必要です。

締切間際の提出は避けましょう。予算の上限に達すると、期間内でも受付終了となるケースがあります。また、質問がある場合は早めに担当窓口に問い合わせることで、スムーズな申請につながります。

ステップ4:交付決定後の機器導入(所要期間1〜3ヶ月)

交付決定通知を受け取った後に、初めて機器の発注や契約が可能になります。交付決定前に契約すると補助対象外となるため、必ず通知を待ってから手続きを進めてください。一部の都道府県では事前着手届を提出すれば、通知前の導入も認められる場合があります。

機器の納品と設置を完了させ、職員研修を実施します。導入初期は現場に混乱が生じやすいため、段階的な導入を心がけましょう。まずは一部の職員やサービスで試験運用し、問題点を洗い出してから全体展開すると定着しやすくなります。

導入完了後は指定の期限内に支払いを済ませる必要があります。多くの都道府県では年度内(3月31日まで)の事業完了が条件となっているため、スケジュール管理が重要です。遅延すると補助対象外となるリスクがあります。

ステップ5:実績報告と効果検証(所要期間継続的)

事業完了後30日以内または翌年度4月中旬までに実績報告書を提出します。実際に購入した機器の明細、支払証明書、導入状況を示す写真などを添付します。報告内容が申請時の計画と大きく乖離していないか確認が行われます。

補助金の実際の交付はこの実績報告の承認後となります。つまり、導入費用は事業者が一旦立て替える形になります。一部の都道府県では概算払い制度があり、交付決定後に一部を先払いで受け取れる場合もあるため、資金繰りが厳しい場合は確認してみましょう。

導入効果の報告は2年間継続して求められます。業務効率化の実績、文書削減量、職員の負担軽減効果などを定期的に報告します。この報告は単なる義務ではなく、自施設の改善状況を客観的に把握する良い機会と捉えましょう。

ICT補助金活用の3つの注意点と失敗しないコツ

注意点1:交付決定前の契約・発注は対象外

最も多い失敗は、交付決定前に機器を購入してしまうケースです。申請したからといって必ず採択されるわけではなく、予算超過で不採択になる可能性もあります。交付決定通知を受け取る前に契約すると、全額自己負担となってしまいます。

一部の都道府県では事前着手届を提出すれば、4月1日以降の契約を認めているところもあります。ただし、これは内示を保証するものではないため、リスクを理解した上で判断する必要があります。基本的には交付決定後の着手が安全です。

見積もりの取得や情報収集は交付決定前でも問題ありません。むしろ、申請段階で複数のベンダーから詳細な見積もりを取っておくことで、交付決定後にスムーズに発注できます。準備は早めに、契約は決定後というタイミング管理が重要です。

注意点2:年度内完了と期限管理の徹底

多くの都道府県では年度内(3月31日まで)に機器の導入と支払いを完了させることが条件です。冬季に申請が通った場合、納品までの期間が短くなり、間に合わないリスクが高まります。特に年度末は納品が集中し、メーカーや業者の対応が遅れがちです。

対策としては、交付決定後すぐに発注手続きを開始することです。ベンダーには納期を明確に確認し、余裕を持ったスケジュールを組みましょう。もし期限内の完了が難しくなった場合は、早めに都道府県の担当窓口に相談することで、変更承認などの対応が取れる可能性があります。

実績報告の期限も見落としがちです。事業完了後30日以内という期限を過ぎると、補助金が交付されないケースもあります。導入完了の目途がついた時点で、必要書類の準備を始めておくことをお勧めします。

注意点3:2年間の効果報告義務と職員還元

補助金を受けた施設には、導入から2年間にわたる効果報告義務が課されます。業務効率の向上度合い、文書削減量、職員の負担軽減状況などを定期的に報告する必要があります。この報告を怠ると、次回以降の補助金申請に影響が出る可能性があります。

また、ICT活用により収支状況が改善された場合は、その効果を職員の賃金に還元することが求められています。これは導入効果報告で確認されるため、賃金改善計画も併せて検討しておくとよいでしょう。

効果測定のためには、導入前のデータをきちんと記録しておくことが重要です。例えば「記録業務にかかる時間」「月間の紙使用量」「職員の残業時間」などを数値化しておけば、導入後との比較が容易になり、報告書作成もスムーズです。

よくある質問(FAQ)

Q1:すでにICT機器を導入している場合、補助金は使えますか?

既に導入済みの機器は補助対象外となります。補助金は「交付決定後に新規購入する機器」に限定されているためです。ただし、既存システムの更新や追加機器の導入は対象となる場合があります。

例えば、介護ソフトは導入済みでも、新たにタブレット端末を追加購入するケースなどです。都道府県によって解釈が異なる場合があるため、事前に窓口に確認することをお勧めします。

Q2:IT導入補助金との併用は可能ですか?

ICT導入支援事業とIT導入補助金の併用は、原則として認められていません。同一の機器や費用に対して複数の補助金を重複して受けることはできないためです。ただし、対象が異なる場合は別です。

例えば、介護記録システムはICT補助金で、会計ソフトはIT導入補助金でというように、用途を分ければ併用できる可能性があります。

Q3:小規模事業所でも申請できますか?

職員数1人からでも申請可能です。補助上限額は職員数に応じて設定されており、1〜10人の小規模事業所でも最大100万円の補助が受けられます。

むしろ小規模事業所こそ、限られた人員で効率的に運営する必要があるため、ICT化のメリットは大きいといえます。ただし、導入計画では実現可能な範囲での目標設定が重要です。

Q4:申請が不採択になるケースはありますか?

予算の上限に達した場合、要件を満たしていても不採択になる可能性があります。多くの都道府県では先着順や抽選で採択を決定しています。また、書類不備や計画内容が不十分な場合も不採択となります。採択率を上げるには、早期の申請準備、詳細な導入計画書の作成、事前セミナーへの参加などが有効です。

Q5:補助金申請の代行サービスはありますか?

介護ソフトのベンダーや専門コンサルタントが申請支援サービスを提供しているケースがあります。導入計画書の作成サポート、必要書類の準備支援、申請手続きの代行などを行ってくれます。

ただし、サポート費用が別途かかる場合があるため、費用対効果を検討する必要があります。信頼できるベンダーを選ぶことが重要です。

まとめ

厚生労働省のICT補助金は、介護現場のデジタル化を強力に後押しする制度です。最大260万円、補助率最大4分の3という手厚い支援により、導入コストの大幅削減が可能になります。申請には事前準備、導入計画作成、書類提出、機器導入、効果報告という5つのステップがあり、各段階で適切な対応が求められます。

特に重要なのは、交付決定前の契約禁止、年度内完了の期限管理、2年間の効果報告義務という3つの注意点です。これらを理解し、計画的に進めることで、補助金を有効活用できます。

まずは自施設の所在する都道府県の募集要項を確認し、SECURITY ACTIONの宣言を行いましょう。早めの準備が採択への近道です。ICT化により業務効率が向上し、職員が利用者ケアに集中できる環境を実現しましょう。

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