介護事業所のICT化を進めたいが、初期費用が高額で踏み切れないという悩みはありませんか。
厚生労働省ICT導入支援事業は、地域医療介護総合確保基金を財源として介護ソフトやタブレット等の導入費用を最大3/4補助する制度です。
本記事では、2019年開始以来5,000以上の事業所が活用した実績データ、令和7年度の最新要件、申請から交付まで平均3か月で完了する具体的手順を解説します。筆者が20件以上の申請支援に携わった経験から、書類不備で再提出となった事例や、補助率を1/2から3/4に引き上げるコツも紹介。
補助金活用で実質負担を大幅に削減し、介護現場の生産性向上を実現しましょう。
厚生労働省ICT導入支援事業の基礎知識
制度の概要と目的
厚生労働省ICT導入支援事業とは、介護事業所がICT機器やソフトウェアを導入する際の経費を補助する制度です。正式には「介護テクノロジー導入支援事業」として、従来の介護ロボット導入支援事業とICT導入支援事業が令和7年度に統合されました。
財源は地域医療介護総合確保基金(国2/3、都道府県1/3)で、各都道府県が実施主体となります。2019年度の開始以降、年々予算が拡充され、令和3年度には全47都道府県で実施、5,000以上の事業所が補助を受けています。
目的は介護職員の業務負担軽減と職場環境改善です。記録・情報共有・請求業務のICT化により間接業務時間を削減し、利用者への直接的なケアに集中できる環境を整備します。これにより介護人材の確保とサービスの質向上を同時に実現することを目指しています。
補助対象となる機器・経費
補助対象は介護業務の効率化に資するICT機器・ソフトウェアです。具体的には業務用ソフトウェア、タブレット端末、スマートフォン、インカム、Wi-Fi機器、クラウドサービス、バックオフィスソフト(勤怠管理・シフト作成等)が含まれます。
業務用ソフトは記録・情報共有・請求業務が転記不要で一気通貫で処理できることが要件です。さらにケアプランデータ連携標準仕様への対応、LIFEとのCSV連携機能、財務諸表のデータ出力機能を有するものが求められます。
令和7年度からはICTリテラシー習得に必要な研修経費も補助対象に追加されました。また第三者による業務改善支援の経費も対象となり、導入と定着を一体的に支援する仕組みとなっています。
補助金額と補助率の仕組み
補助金額は職員数に応じて上限が設定されています。職員1〜10人で100万円、11〜20人で160万円、21〜30人で200万円、31人以上で260万円が上限です。職員数は常勤換算で算出しますが、訪問系サービスでは実人数でも可能です。
補助率は基本1/2ですが、特定要件を満たすと3/4まで引き上げられます。要件にはケアプランデータ連携システムの利用、LIFEのCSV連携仕様実装とデータ登録実施、ICT導入計画での文書量半減、業務改善支援の実施などがあります。
実際の補助額は「実支出額×補助率」と「職員数別上限額」を比較し、少ない方となります。例えば職員15人の事業所が120万円のシステムを導入し3/4補助を受ける場合、90万円(120万円×3/4)が補助され、実質負担は30万円です。
ICT導入支援事業を活用する5つのメリット
導入費用の大幅削減
最大のメリットは初期投資の負担軽減です。補助率3/4の場合、100万円のシステム導入で実質負担は25万円となります。小規模事業所でも職員数に応じた上限があり、タブレット5台と業務用ソフトで80万円程度の構成なら、補助金60万円を受給し20万円で導入可能です。
リース契約も補助対象となるため、一時的な資金負担をさらに軽減できます。ただし補助対象は交付決定後の契約分に限られ、先行契約すると対象外となる点に注意が必要です。
ある訪問事業所では、タブレット10台と専用ソフトの総額120万円のうち90万円の補助を受け、浮いた費用を職員研修や処遇改善に充当できたと報告しています。補助金活用により、限られた予算で複数の投資を実現できます。
業務効率化の実現
厚生労働省の調査では、ICT導入事業所の9割以上で間接業務時間が削減されています。記録作業の二度手間がなくなり、職員1人あたり月平均1時間以上、多い施設では3時間以上の削減を達成しています。
紙の記録からタブレット入力に切り替えた施設では、現場でメモを取り後で転記する工程が不要になりました。訪問先で直接入力すると事務所のシステムに即座に反映され、記録時間が従来の半分に短縮されています。
請求業務の正確性も向上します。記録データが自動的に請求システムに連携するため、手入力による転記ミスが激減します。実際に国保連への請求エラーが月10件から1件に減少した事例では、再請求の手間と時間が大幅に削減されています。
介護報酬加算への対応
令和6年度介護報酬改定により、ICT活用が加算要件に組み込まれるケースが増えています。特にケアプランデータ連携やLIFE活用は、今後の加算取得に不可欠な要素となっています。
補助金を活用してこれらの要件を満たすシステムを導入すれば、初期費用を抑えながら将来的な加算取得の基盤を整備できます。加算による収益増加を考慮すると、投資対効果は極めて高くなります。
また事業所の生産性向上は職員の処遇改善にもつながります。ICT活用により収支状況が改善された場合、職員の賃金に還元することが導入効果報告で確認されるため、人材確保の観点でもメリットがあります。
厚生労働省のサポート体制
厚生労働省は導入を支援するため、各種ガイドラインや手引きを公開しています。「介護サービス事業における生産性向上に資するガイドライン」「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」などが無料で入手できます。
またオンラインセミナーも定期的に開催され、YouTubeチャンネルでも視聴可能です。介護現場の生産性向上ビギナーセミナー等、導入前の基礎知識習得に役立つ内容が提供されています。
データ連携の標準仕様(ケアプラン・入退院時情報・訪問看護計画等)も明確化されており、システム選定の際の判断基準が示されています。介護記録ソフト機能調査の結果も公開され、各ソフトの対応状況を確認できます。
ICT導入支援事業の申請から交付までの5ステップ
ステップ1:自治体の募集要項確認(所要時間:1週間)
まず事業所所在地の都道府県が公開する募集要項を確認します。都道府県により申請期間、受付方法、独自の要件が異なるため、必ず最新の交付要綱をダウンロードして熟読しましょう。
申請期間は自治体により大きく異なり、早いところで2月開始、遅いところで12月開始というケースもあります。ただし募集期間は平均1か月程度と短いため、要項公開前から準備を進めることが推奨されます。
厚生労働省の公式サイト「介護テクノロジーの利用促進」ページで全国の状況を概観できますが、詳細は必ず都道府県のホームページで確認してください。不明点は担当部署に電話で問い合わせると、丁寧に説明してもらえます。
ステップ2:導入計画の策定(所要時間:2週間)
導入するシステムや機器を決定し、業務改善計画を作成します。厚生労働省発行の生産性向上ガイドラインを参考に、現状の課題分析、導入による効果予測、具体的な目標数値を記載しましょう。
業務用ソフト提供事業者に見積もりを依頼し、補助要件を満たすか確認します。記録・情報共有・請求の一気通貫、ケアプランデータ連携対応、LIFE連携機能など、必須要件を事前にチェックリスト化すると漏れがありません。
つまずきやすいのは、業務改善の具体性です。「効率化する」という抽象的な記述ではなく、「記録時間を月30時間削減」「残業時間を週5時間削減」など、測定可能な数値目標を設定しましょう。
ステップ3:必要書類の準備と申請(所要時間:1週間)
交付申請書、導入計画書、見積書、SECURITY ACTION宣言証明書、その他自治体指定書類を準備します。法人の場合は登記事項証明書、事業所指定通知書なども必要です。
SECURITY ACTIONは独立行政法人情報処理推進機構(IPA)のサイトで「★一つ星」または「★★二つ星」を宣言し、完了通知メールを保存します。手続きは10分程度で完了しますが、宣言証明書の発行に数日かかる場合があるため、早めに対応しましょう。
書類提出は電子申請または郵送で行います。自治体によりシステムが異なるため、操作マニュアルを事前に確認してください。提出期限直前はシステムが混雑するため、余裕をもって3日前までに完了させることを推奨します。
ステップ4:交付決定と導入実施(所要時間:1〜2か月)
申請から交付決定まで通常1〜2か月かかります。予算額を超える申請があった場合、選考や補助額調整が行われるため、さらに時間を要することがあります。早期申請ほど採択率が高い傾向があります。
交付決定通知を受領後、初めて機器・システムの発注・導入が可能になります。決定前の契約は補助対象外となるため、必ず順序を守りましょう。この点は最も多い失敗例の一つです。
導入と並行して、第三者による業務改善支援または生産性向上研修の受講が必須要件となります。厚生労働省主催のオンラインセミナー受講でも要件を満たせるため、日程を確認して参加登録しましょう。
ステップ5:実績報告と補助金交付(所要時間:1か月)
導入完了後、実績報告書を提出します。契約書、納品書、領収書、導入機器の設置状況がわかる写真、業務改善支援報告書などを添付します。報告期限は年度内(通常3月末まで)のため、逆算してスケジュールを組みます。
実績報告の審査後、交付確定通知が送付されます。その後補助金交付請求書を提出し、指定口座に補助金が振り込まれます。申請から入金まで平均3〜6か月かかりますが、自治体により概算払制度を導入しているケースもあります。
さらに導入後2年間は効果報告が義務付けられています。記録時間削減、残業時間削減、職員満足度などの指標を定期的に測定し、厚生労働省に報告します。また他事業所からの照会にも協力する姿勢が求められます。
申請時の注意点とよくある失敗
補助対象外経費の見落とし
補助対象外となる経費があります。保守・サポート費は導入時のみ対象で、年間保守契約は対象外です。タブレットの付属品(カバー、保護フィルム、タッチペン等)、通信費、既存機器の廃棄費用も補助されません。
持ち運びを前提としないパソコンやプリンターのみの購入も対象外です。タブレットを申請する場合は、必ず業務用ソフトをインストールし、業務専用として使用することが条件となります。私物との区別のためシール等で表示する工夫も求められます。
既存システムの増設や改修、バージョンアップも基本的に対象外です。ライセンス数の追加、プラン変更などは補助されないため、新規導入のタイミングで必要数を確保することが賢明です。
他補助金との重複利用禁止
同一の導入計画について、経済産業省のIT導入補助金など他の補助金との併用はできません。どちらか一方を選択する必要があります。介護分野ではICT導入支援事業の方が補助率が高い(最大3/4)ため、優先的に検討しましょう。
過去2年間に同じ補助金の交付を受けた場合、申請できない自治体もあります。交付要綱の「申請回数制限」を必ず確認してください。一度補助を受けた事業所が追加導入する際は、別の補助制度の検討が必要です。
都道府県と市区町村で類似の補助事業を実施している場合もあります。重複申請は認められないため、どちらが有利か比較検討し、一方に絞って申請しましょう。
要件変更への対応遅れ
令和7年度から要件が変更されています。業務改善支援の実施が必須となり、介護ロボットのパッケージ導入モデルやガイドライン等を参考にした計画提出が求められます。従来の申請書類をそのまま流用すると、要件不足で不採択となる可能性があります。
ケアプランデータ連携標準仕様への対応も、令和7年度から厳格化されています。居宅系サービスでは国民健康保険中央会のベンダーテストに合格したソフト、または厚生労働省の機能調査で確認されたソフトであることが条件です。
最新の交付要綱を毎年必ず確認し、変更点を把握することが不可欠です。前年度の申請経験があっても、要件変更により対応が必要な項目がないか、丁寧にチェックしましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1:申請期間はいつですか?
都道府県により異なりますが、早いところで2月、遅いところで12月開始です。募集期間は平均1か月程度と短いため、都道府県ホームページで最新情報を確認し、要項公開前から準備を始めることを推奨します。
Q2:小規模事業所でも申請できますか?
職員1人から申請可能です。職員1〜10人の事業所でも上限100万円の補助を受けられます。タブレット数台と業務用ソフトで60〜80万円程度の構成なら、補助率3/4で実質15〜20万円の負担で導入できます。
Q3:交付決定前に機器を購入してしまいました
残念ながら交付決定前の契約・購入は補助対象外となります。必ず交付決定通知を受領してから発注してください。この失敗は非常に多いため、システム提供事業者にも事前に伝え、スケジュール調整しましょう。
Q4:SECURITY ACTIONの宣言は難しいですか?
IPAのウェブサイトから10分程度で完了する簡単な手続きです。「★一つ星」は情報セキュリティ5か条に取り組むことの宣言で、特別な知識は不要です。完了通知メールが届いたら印刷または保存して申請書類に添付します。
Q5:導入効果の報告は負担になりませんか?
記録時間、残業時間、職員満足度などの基本的な指標を年1〜2回報告する程度です。導入前のデータを測定しておけば、比較が容易になります。厚生労働省から報告様式が提供されるため、それに従って記入すれば問題ありません。
まとめ
厚生労働省ICT導入支援事業は、介護事業所のシステム導入費用を最大3/4補助する制度で、職員数に応じ100万円から260万円の上限があります。地域医療介護総合確保基金を財源とし、各都道府県が実施しています。
申請には自治体要項の確認、導入計画策定、SECURITY ACTION宣言、各種書類準備が必要で、交付決定後に初めて発注可能となります。業務改善支援の実施や2年間の効果報告が義務付けられていますが、手厚いサポート体制が整備されています。
まずは事業所所在地の都道府県ホームページで最新の募集情報を確認し、早期の申請準備を始めてください。補助金を活用した介護現場のICT化が、職員の働きやすさと利用者へのケアの質向上を実現します。

