介護人材不足の深刻な現状とは?
厚生労働省が2024年7月に公表した「第9期介護保険事業計画」によると、介護職員は2026年度に約2.4万人、2040年度には約2.72万人が必要とされています。しかし、2022年時点で約2.15万人しかおらず、2026年に約25万人、2040年には約57万人の不足が見込まれる深刻な状況です。
この記事では、厚生労働省の最新データを基に、介護人材不足の現状、原因、そして施設・事業者が今すぐ実践できる5つの対策を具体的に解説します。データの背景や地域差も踏まえ、2040年問題に向けて何をすべきかが明確になります。
厚生労働省データで見る介護人材不足の全体像
2022年から2040年への時系列推移
厚生労働省の推計は、以下の時系列で介護職員の必要数を示しています。
- 2022年(令和4年): 約215万人(現状)
- 2026年(令和8年): 約240万人必要(+25万人不足)
- 2040年(令和22年): 約272万人必要(+57万人不足)
この推計の前提条件は、第9期介護保険事業計画に基づく「要介護認定者数の増加」と「介護サービス利用者の増加」です。特に、団塊ジュニア世代が65歳を超える2040年に向けて、介護需要が急激に高まることが背景にあります。
データが示す3つの深刻な事実
【事実1】有効求人倍率の異常な高さ
厚生労働省の職業安定業務統計によると、令和5年度の介護職の有効求人倍率は3.71倍で、全産業平均の1.16倍を大きく上回ります。つまり、1人の求職者に対して約4件の求人があり、人材確保が極めて困難な状況です。
【事実2】地域による格差
都市部では特に深刻で、有効求人倍率が4.91倍に達しています。一方、地方では施設数自体が少ないため求人倍率は低めですが、若年人口の流出により採用が困難な構造的問題を抱えています。
【事実3】離職率の高さ
令和5年度の介護職員離職率は13.6%で、全産業平均の13.9%とほぼ同水準ですが、入職1年未満の離職率は約20%と高く、定着支援が課題となっています。
介護人材不足が起こる5つの根本原因
【原因1】少子高齢化による構造的な需給ギャップ
日本の総人口は減少する一方で、65歳以上の高齢者人口は2040年にピークを迎えます。内閣府の推計では、2040年の高齢化率は約35%に達し、要介護認定者も増加し続けます。働き手となる生産年齢人口(15〜64歳)は減少するため、介護人材の確保はますます困難になります。
【原因2】賃金水準の低さと社会的評価
厚生労働省の調査によると、介護職員の平均月収は約27.7万円(令和5年度)で、全産業平均の34.6万円と比較して約7万円低い水準です。身体的・精神的負担が大きいにもかかわらず、賃金が見合わないと感じる人が多く、「3K」(きつい・汚い・危険)のイメージも根強く残ります。
【原因3】職場環境の厳しさ
夜勤や休日出勤が多く、肉体的・精神的負担が大きい職場環境が離職を招いています。厚生労働省の調査では、離職理由の上位に「人間関係の問題」「職場の雰囲気」が挙げられ、約34.3%が人間関係を理由に退職しています。
【原因4】キャリアパスの不透明さ
介護職のキャリアパスが明確でなく、将来的な昇進や収入増が見込みにくいことも、若年層の参入を阻む要因です。専門性を高める研修機会が限られ、スキルアップの実感を得にくい環境が続いています。
【原因5】デジタル化の遅れ
介護現場では手書き記録や紙ベースの業務が多く、ICT化が遅れています。業務効率が悪く、本来の介護業務に集中できない状況が、職員の不満や疲弊を招いています。
厚生労働省が推進する5つの人材確保対策
【対策1】処遇改善加算による賃金引き上げ
効果度:★★★★★ / 実施難易度:★★★☆☆ / 即効性:★★★★☆
厚生労働省は2019年10月から、介護職員の処遇改善に約2,000億円を投入し、平均月額5.7万円の賃金改善を実現しました。さらに、2024年度からは「介護職員等ベースアップ等支援加算」が新設され、基本給の引き上げを促進しています。
施設が取るべき具体的アクション:
- 処遇改善加算の算定要件を確認し、未取得の場合は速やかに申請
- 加算で得た財源を確実に職員の賃金に反映
- 職員に賃金改善の内訳を明示し、透明性を確保
- キャリアパス要件を満たす研修体系を整備
【対策2】多様な人材の確保と育成
効果度:★★★★☆ / 実施難易度:★★☆☆☆ / 即効性:★★★☆☆
厚生労働省は、未経験者、主婦層、シニア層、外国人材など多様な人材の参入を促進しています。「介護に関する入門的研修」を全国で実施し、介護未経験者が基礎知識を学べる環境を整備しています。
施設が取るべき具体的アクション:
- 入門的研修の修了者を積極的に採用
- 短時間勤務やフレックスタイム制度を導入し、主婦層やシニア層が働きやすい環境を整備
- 外国人材の受け入れ体制を構築(在留資格「特定技能」の活用)
- オンライン研修やeラーニングで、柔軟な学習機会を提供
【対策3】定着支援と労働環境の改善
効果度:★★★★★ / 実施難易度:★★★★☆ / 即効性:★★★☆☆
厚生労働省は、介護ロボットやICT機器の導入を支援し、業務負担を軽減する取り組みを推進しています。介護ロボット導入支援事業では、移乗支援機器や見守りセンサーの導入費用を補助しています。
施設が取るべき具体的アクション:
- 都道府県の介護ロボット・ICT導入支援事業を活用し、補助金を申請
- 記録業務のデジタル化(タブレット端末の導入など)で、業務時間を削減
- 職員のメンタルヘルスケア体制を整備(外部相談支援サービスの活用など)
- ノーリフティングケアを推進し、腰痛予防を徹底
【対策4】介護職のイメージ向上
効果度:★★★☆☆ / 実施難易度:★☆☆☆☆ / 即効性:★★☆☆☆
厚生労働省は「介護の日」(11月11日)や「福祉人材確保重点実施期間」(11月4日〜17日)を設定し、介護職の魅力を発信しています。また、若年層向けに介護体験イベントを開催し、介護職への理解を深める取り組みを行っています。
施設が取るべき具体的アクション:
- 職場体験や見学会を定期開催し、介護の魅力を直接伝える
- SNSやWebサイトで職員の声を発信し、リアルな職場の雰囲気を可視化
- 地域の学校と連携し、職業講話や出前授業を実施
- やりがいやキャリアアップ事例を社内報で共有
【対策5】外国人材の受け入れ環境整備
効果度:★★★★☆ / 実施難易度:★★★★☆ / 即効性:★★☆☆☆
厚生労働省は、EPA(経済連携協定)、在留資格「介護」、技能実習、特定技能の4つのルートで外国人材の受け入れを推進しています。特に「特定技能」は2019年に創設され、即戦力となる外国人材の確保が期待されています。
施設が取るべき具体的アクション:
- 受け入れルートを検討し、施設に適した制度を選択
- 日本語学習支援や生活サポート体制を整備
- 文化的背景への理解を深め、多文化共生の職場環境を構築
- 登録支援機関と連携し、受け入れ後のフォローを徹底
施設・事業者が今すぐ実践できる3つのステップ
ステップ1: 現状分析と優先課題の特定
まず、自施設の離職率、有効求人倍率、職員の満足度を数値で把握します。特に、入職1年未満の離職率が高い場合は、定着支援を最優先課題とします。
ステップ2: 活用可能な制度・補助金の確認
厚生労働省や都道府県が提供する補助金制度(処遇改善加算、ICT導入支援、介護ロボット導入支援など)をリストアップし、申請要件と締切を確認します。
ステップ3: 短期・中期・長期の実行計画を策定
短期(3ヶ月以内)は処遇改善加算の申請や職場環境の見直し、中期(1年以内)はICT導入や研修体系の整備、長期(2〜3年)は外国人材受け入れやキャリアパス構築を計画します。
よくある質問(FAQ)
Q1: 2040年に57万人不足という推計の根拠は?
厚生労働省の第9期介護保険事業計画に基づき、要介護認定者の増加率と介護サービス利用率を考慮した推計です。団塊ジュニア世代が65歳を超える2040年に需要が急増します。
Q2: 処遇改善加算は誰でも申請できますか?
介護サービス事業所であれば申請可能ですが、キャリアパス要件や職場環境等要件を満たす必要があります。都道府県の担当窓口に確認しましょう。
Q3: 外国人材の受け入れで最も手軽なルートは?
特定技能が比較的導入しやすく、即戦力が期待できます。ただし、登録支援機関との連携や日本語学習支援が必要です。
Q4: ICT導入に補助金はありますか?
都道府県ごとに介護ロボット・ICT導入支援事業があります。補助率や上限額は自治体により異なるため、地域の窓口に問い合わせてください。
Q5: 離職率を下げる最も効果的な方法は?
処遇改善と職場環境の改善を同時に進めることです。特に、人間関係の改善とキャリアパスの明確化が離職防止に有効です。
まとめ|2040年に向けて今すぐ動く
介護人材不足は、2040年に向けてさらに深刻化します。しかし、厚生労働省が推進する5つの対策を活用し、施設・事業者が具体的なアクションを起こせば、人材確保と定着は可能です。
今日から実践できる3つのアクション:
- 処遇改善加算の申請状況を確認し、未取得なら速やかに申請(難易度:中、効果:高)
- ICT導入支援事業の補助金情報を収集し、申請準備を開始(難易度:中、効果:高)
- 職員満足度調査を実施し、離職リスクの高い職員を早期にサポート(難易度:低、効果:高)
2040年問題は目前に迫っています。データに基づく戦略的な人材確保と定着支援で、持続可能な介護サービスの提供を実現しましょう。

