訪問看護のICT化とは、電子カルテやタブレット端末で業務をデジタル化する取り組みです
「訪問先から戻ると記録に追われて残業が続く」「紙のカルテを持ち運ぶのが重くて大変」といった課題を抱えていませんか。
訪問看護のICT化は、記録業務の時間を最大80%削減し、スタッフの負担を大幅に軽減できます。全国訪問看護事業協会の調査では、すでに51.5%の事業所がICTを活用しており、記録時間の短縮や情報共有の円滑化などの成果を実感しています。
本記事では、ICT化の基礎知識から導入手順、よくある失敗の回避法まで、現場の実践例をもとに解説します。2026年現在、補助金制度も活用できるため、コストを抑えた導入が可能です。
訪問看護事業所の管理者として5年間ICT化を推進してきた経験から、実務に即した情報をお届けします。
この記事を読めば、あなたの事業所でもスムーズにICT化を進め、スタッフが利用者ケアに専念できる環境を整えられます。
訪問看護のICT化とは何か
ICTの定義と訪問看護での意味
ICT(Information and Communication Technology)とは情報通信技術のことで、デジタル機器とネットワークを活用して情報を受発信する技術です。訪問看護の現場では、紙ベースで管理していた記録や書類をデジタル化し、業務効率を高める取り組みを指します。
具体的には、訪問看護記録書や計画書、報告書などをタブレットやスマートフォンで作成・管理します。従来は事業所に戻ってから手書きで記録していた業務が、訪問先でその場で入力できるようになります。
ITとの違いは、ICTが「情報の共有・連携」を重視している点です。単なる機器の導入ではなく、スタッフ間や多職種間での情報伝達を円滑にすることが目的となります。
訪問看護業界でのICT化の現状
令和2年度の調査によると、訪問看護記録書の記入方法として、手書きが36.0%、ICT活用が51.5%、両方併用が11.1%でした。過半数の事業所がすでにICT化に着手しており、業界全体で推進されています。
大手事業所を中心に電子カルテや請求ソフトの導入が進んでいますが、小規模事業所では「費用面の不安」や「スタッフの抵抗感」から導入をためらうケースも見られます。しかし、国や自治体の補助金制度により、中小規模の事業所でも導入しやすい環境が整いつつあります。
厚生労働省も訪問看護計画書などの電子的情報連携の標準仕様を定め、多職種連携の推進を後押ししています。2025年以降、ICT化は訪問看護事業所の標準装備となっていく流れです。
訪問看護ICT化の5つのメリット
記録業務の時間が最大80%短縮される
ICT化による最大のメリットは、記録業務の劇的な効率化です。ある事業所では、紙カルテからタブレット入力に切り替えたところ、記録時間が従来の5分の1に短縮されました。
電子カルテのテンプレート機能やプルダウン選択により、入力作業が簡素化されます。また、訪問先でその場で記録できるため、事業所に戻ってから思い出しながら書く必要がなくなり、記録の正確性も向上します。
短縮された時間を新規利用者の受け入れや既存利用者へのケアの充実に充てることができ、事業所の収益向上とサービス品質の両立が実現します。一般的に、1日あたり30分から1時間の時間削減効果が報告されています。
スタッフ間の情報共有がリアルタイムで可能に
情報がクラウド上で一元管理されるため、複数のスタッフが同時に利用者情報にアクセスできます。緊急時や夜間対応時でも、自宅や訪問先から即座に必要な情報を確認できるため、迅速な対応が可能です。
紙カルテでは「記録を探す時間」や「引き継ぎミス」が発生しやすいですが、電子化により全員が最新情報を共有できます。バイタルサインの変化や医師からの指示事項など、チーム全体で把握すべき情報が漏れなく伝わります。
チャット機能を併用すれば、スタッフ間の連絡もスピーディーになります。電話をかけ直す手間が減り、訪問中でも必要な情報交換ができるため、業務の中断が最小限に抑えられます。
直行直帰が実現し働き方が改善される
タブレットやスマートフォンで記録や勤怠管理ができると、自宅から直接訪問先に向かい、そのまま帰宅する直行直帰が可能になります。事業所への出社が不要になることで、通勤時間が削減され、スタッフのワークライフバランスが向上します。
勤怠管理システムと連携すれば、訪問先で休憩を取った際もスマートフォンから打刻できます。朝礼やミーティングもオンラインで参加できるため、柔軟な働き方が実現します。
この働き方改革は人材確保の面でも効果的です。子育て中の看護師や地方在住の経験者など、多様な人材が働きやすい環境を提供でき、採用力の強化につながります。ある事業所では、直行直帰の導入後、応募者が2倍に増加した事例もあります。
ペーパーレス化でコストと保管スペースを削減
紙のカルテや書類を電子化することで、用紙代や印刷代などのランニングコストが削減されます。年間で数十万円の経費削減効果が見込めます。
また、保管スペースの確保も不要になります。法定保存期間が定められた書類も、電子データとして安全に保管でき、必要時に検索して即座に取り出せます。紙資料の場合に発生しがちな「どこに保管したか分からない」という事態も防げます。
さらに、利用者への書類提出時も電子署名機能を活用すれば、その場でデジタル完結できます。押印のために再訪問する手間が省け、利用者の負担も軽減されます。
経営分析とデータ活用が容易になる
電子カルテに蓄積されたデータを分析することで、訪問件数や収益の推移、サービス内容の傾向などを可視化できます。経営判断に必要な情報が自動的に集計され、月次レポートとして活用できます。
レセプト請求ソフトと連携すれば、収入の内訳や未収金の管理も効率化されます。制度改定時の対応も、システム更新により自動的に反映されるため、事務作業の負担が軽減されます。
さらに、スタッフの訪問実績や稼働率も把握しやすくなり、適切な人員配置やシフト調整に役立ちます。データに基づいた経営戦略により、事業所の安定的な成長が実現します。
訪問看護ICT化の導入5ステップ
ステップ1:現状の課題を整理する(所要時間:1週間)
まず、自事業所が抱えている具体的な課題を洗い出します。記録業務の時間、情報共有の遅れ、残業時間の増加など、現場スタッフの声を集めましょう。
課題を数値化することが重要です。「記録に1日平均何時間かかっているか」「月の残業時間はどれくらいか」といったデータを収集し、ICT化による改善効果を測定できる基準を設けます。
つまずきポイント:スタッフ全員から意見を聞かないと、一部の課題しか見えません。対処法として、無記名アンケートや個別面談を実施し、率直な意見を集める工夫が必要です。
ステップ2:必要なツールと予算を決定する(所要時間:2週間)
課題に応じて導入すべきツールを選定します。基本的には、電子カルテ、タブレット端末、レセプト請求ソフト、チャットツールの4つが必要です。
予算は、初期費用(端末購入、ソフトライセンス)と月額費用(クラウド利用料、保守費用)に分けて計算します。小規模事業所の場合、初期費用50万円から100万円、月額費用3万円から5万円程度が目安です。
補助金の活用を検討しましょう。IT導入補助金や自治体独自の補助制度を利用すれば、費用の最大75%が補助されるケースもあります。つまずきポイント:複数のシステムを別々に導入すると連携が難しくなります。対処法として、電子カルテとレセプト機能が統合されたオールインワン型を選ぶと効率的です。
ステップ3:システムを比較検討し選定する(所要時間:2週間)
複数の事業者から見積もりを取り、機能・価格・サポート体制を比較します。無料トライアルや デモンストレーションを活用し、実際の操作感を確認することが重要です。
選定時のチェックポイントは、操作の簡単さ、カスタマイズ性、セキュリティ対策、サポート体制の4点です。特に、現場のスタッフが使いこなせるかどうかを最優先に判断します。
訪問看護に特化したシステムを選ぶことで、テンプレートや帳票フォーマットが最初から用意されており、導入後すぐに活用できます。つまずきポイント:管理者だけで決めるとスタッフの抵抗が強くなります。対処法として、現場スタッフも選定プロセスに参加させ、意見を反映させましょう。
ステップ4:スタッフ研修と試験運用を実施する(所要時間:1ヶ月)
システム導入前に、全スタッフ向けの研修会を開催します。基本操作の習得に加え、トラブル時の対処法も共有します。年齢層によってICTスキルに差があるため、個別フォローの時間も設けましょう。
試験運用期間(2週間から1ヶ月)を設け、一部の利用者から段階的に電子化を進めます。この期間は紙と電子の併用とし、問題点を洗い出して改善します。
つまずきポイント:一度の研修では使いこなせないスタッフが出ます。対処法として、システムに詳しいスタッフを「ICTリーダー」に任命し、日常的にサポートできる体制を作ります。マニュアルも、文字だけでなく画像や動画を交えた分かりやすいものを用意しましょう。
ステップ5:本格導入と継続的な改善を行う(所要時間:継続)
試験運用の結果を踏まえ、全利用者への本格導入を開始します。最初の1ヶ月は週1回のミーティングを設け、困りごとや改善要望を共有します。
導入後も定期的に効果測定を行い、記録時間の短縮率や残業時間の変化を数値で確認します。目標に達していない場合は、運用方法の見直しやさらなる機能活用を検討します。
新機能のアップデートや制度改定への対応も継続的に行います。システム事業者のサポートを活用し、常に最新の状態を保ちましょう。つまずきポイント:導入して終わりになり、活用が進まないケースがあります。対処法として、3ヶ月ごとに振り返りミーティングを実施し、さらなる改善点を見つける習慣をつけます。
ICT化を成功させる3つのコツと注意点
段階的導入で現場の抵抗感を減らす
一度にすべてを変えようとすると、スタッフの負担が大きくなり、反発を招きます。まずは記録業務から電子化を始め、慣れてきたらスケジュール管理や請求業務へと範囲を広げる段階的アプローチが効果的です。
ベテランスタッフほど従来の方法に慣れているため、変化への抵抗が強い傾向があります。彼らの意見も尊重しながら、「記録時間が減って利用者と向き合う時間が増える」といったメリットを具体的に伝えます。
若手スタッフをICT推進の中心に据え、ベテランをサポートする体制を作ると、世代間の知識共有が進み、チーム全体のスキルアップにつながります。
セキュリティ対策を徹底する
利用者の個人情報や医療情報を扱うため、セキュリティ対策は最重要課題です。端末のパスワード設定、通信の暗号化、アクセス権限の管理を徹底します。
タブレットやスマートフォンの紛失・盗難リスクに備え、リモートロック機能やデータ消去機能を設定しておきます。また、スタッフには定期的にセキュリティ研修を実施し、情報漏洩のリスクと対策を共有します。
クラウドサービスを利用する場合は、事業者のセキュリティ認証(ISMSなど)を確認し、信頼できるサービスを選びます。万が一のトラブル時の補償内容も契約前に確認しましょう。
補助金を活用し費用負担を軽減する
国や自治体が提供する各種補助金制度を積極的に活用しましょう。IT導入補助金では、中小企業のITツール導入費用の一部が補助されます。医療法人や社会福祉法人も対象となるケースがあります。
申請には事業計画書や見積書の提出が必要なため、余裕を持ったスケジュールで準備します。システム事業者によっては、補助金申請のサポートを提供している場合もあるため、相談してみましょう。
自治体独自の補助制度もあるため、事業所所在地の自治体ホームページや商工会議所に問い合わせることをお勧めします。複数の補助金を組み合わせることで、実質的な負担をさらに減らせる可能性があります。
よくある質問(FAQ)
ICT化にどのくらいの費用がかかりますか?
小規模事業所(スタッフ5名程度)の場合、初期費用50万円から100万円、月額3万円から5万円が目安です。内訳は、タブレット端末(1台5万円から8万円×人数分)、電子カルテソフト(初期費用20万円から50万円、月額2万円から3万円)、レセプトソフト(月額1万円から2万円)となります。補助金を活用すれば、初期費用の50%から75%が補助されるケースもあり、実質負担は大幅に軽減できます。
パソコンが苦手なスタッフでも使えますか?
最近の訪問看護向けシステムは、タッチ操作で直感的に使える設計になっており、パソコンが苦手な方でも使いこなせます。音声入力機能を備えたシステムもあり、手入力の負担を減らせます。導入時の研修とICTリーダーによる日常的なサポート体制があれば、年齢を問わず活用できます。実際に60代のスタッフがICT化後に「紙より楽になった」と語る事例も多く報告されています。
既存の紙カルテからの移行は大変ですか?
過去の記録をすべて電子化する必要はありません。新規利用者から電子化を始め、既存利用者は一定期間紙と併用する方法が一般的です。基本情報のみ入力し、詳細な経過記録は新たな訪問分から電子記録とする運用で、移行の負担を最小限にできます。移行期間は事業所の規模にもよりますが、1ヶ月から3ヶ月程度で完了するケースが多いです。
停電やシステム障害時はどうすればいいですか?
タブレットやスマートフォンはバッテリー駆動のため、短時間の停電なら影響を受けません。長時間の障害に備え、紙の記録用紙を予備として用意しておく事業所も多いです。クラウドシステムの場合、データは自動バックアップされるため、復旧後に記録を参照できます。システム事業者の24時間サポート体制があるサービスを選ぶことで、トラブル時も迅速に対応できます。
多職種連携にも活用できますか?
ICT化により、医師やケアマネジャーなど多職種との情報共有が格段に効率化されます。厚生労働省が定めた標準仕様に対応したシステムを使えば、訪問看護計画書や報告書を電子的にやり取りできます。専用の情報共有ツールやチャット機能を活用することで、電話やFAXでのやり取りが減り、タイムリーな連携が実現します。利用者の状態変化時も迅速に関係者へ情報伝達でき、ケアの質向上につながります。
まとめ
訪問看護のICT化は、記録時間の大幅短縮、リアルタイムな情報共有、直行直帰の実現という3つの大きなメリットをもたらします。既に半数以上の事業所が導入し、業務効率化と働き方改革を同時に実現しています。
導入は、現状課題の整理から始め、ツール選定、スタッフ研修、段階的運用という5つのステップで進めます。セキュリティ対策を徹底し、補助金を活用することで、費用負担を抑えながら安全に導入できます。
まずは事業所の課題を整理し、スタッフと一緒にICT化の目標を設定することから始めてみましょう。小さな一歩が、スタッフの働きやすさと利用者へのケアの質を大きく向上させます。あなたの事業所でも、今日からICT化への準備を始めてください。

