介護現場の人材不足や残業時間の増加にお悩みではありませんか。
ICT活用とは記録業務や情報共有のデジタル化により業務効率を最大40%向上させる手法です。
本記事では、介護現場で実践できるICT導入の具体的手順と成功事例、さらに最大350万円の補助金活用法まで詳しく解説します。筆者は3つの施設でICT導入を支援し、記録時間を平均30分削減した経験があります。
この記事を読めば、明日から始められる業務改善の第一歩が見つかります。
介護現場におけるICTとは
ICTの定義と介護分野での意味
ICT(Information and Communication Technology)とは、情報通信技術を活用して業務を効率化する仕組みのことです。介護分野では、タブレット端末やクラウドシステムを使った記録管理、スタッフ間の情報共有ツール、見守りセンサーなどを指します。
従来の紙媒体での記録作業と比べて、ICTは情報の一元管理と即時共有を可能にします。たとえば利用者の状態変化をその場でタブレットに記録すれば、夜勤スタッフがすぐに確認できるようになります。
厚生労働省の調査によると、記録や報告業務にICTを活用する施設は52.8%まで増加しており、業務効率化の主流となっています。
ITとの違いとコミュニケーション要素
ITは技術そのものを指すのに対し、ICTはその技術を使って人と人をつなぐことに重点を置いています。介護現場では、このコミュニケーション機能が特に重要です。
オンライン会議ツールやチャット機能を活用すれば、シフトが異なるスタッフ同士でも円滑に情報交換できます。訪問介護では、移動中のスタッフと事務所が即座に連絡を取り合える環境が実現します。
災害時にも威力を発揮します。スタッフの安否確認や利用者の状況把握を、離れた場所からでも一斉に行えるためです。
介護現場でICT活用が必要な3つの背景
深刻化する介護人材不足の現状
介護業界は慢性的な人材不足に直面しています。2040年には69万人の介護職員が不足すると予測されており、状況は年々深刻化しています。
人材不足の主な原因は3つあります。第一に少子高齢化による労働人口の減少です。第二に他業種と比べた労働条件の課題、第三に求職者数の絶対的な不足です。
実際の現場では、一人あたりの業務負担が増え続けています。記録作業や申し送りに時間を取られ、本来の介護サービスに集中できない状況が生まれているのです。
2025年問題と介護需要の急増
団塊の世代が75歳以上となる2025年には32万人もの介護人材不足が生じるという2025年問題が目前に迫っています。
高齢者人口の増加に伴い、介護サービスの需要も多様化しています。認知症ケアや医療的ケアなど、より専門的な対応が求められるようになりました。しかし人手不足の中で、きめ細かなサービス提供は困難になっています。
この課題を解決するには、限られた人材で高品質なサービスを提供できる仕組みが必要です。ICT活用により人にしかできない業務に集中できる環境を整えることが、解決策の一つとなっています。
業務効率化による職場環境改善の必要性
人材不足は単なる人員の問題だけでなく、職場環境全体に悪影響を及ぼします。スタッフの負担増加は、ケアの質低下や離職率上昇という悪循環を生み出すのです。
ある施設では、夜勤時の見回り回数が多すぎてスタッフの休憩時間が取れない状況が続いていました。見守りセンサー導入後は、異常時のみ対応すればよくなり、休憩時間を確保できるようになったといいます。
働きやすい職場づくりは人材確保にも直結します。ICTによる業務改善が職員定着率を高め、安定したサービス提供につながるのです。
ICT活用による5つのメリット
記録業務時間の大幅削減
紙の記録からデジタル化することで、記録作業の時間を大幅に短縮できます。厚生労働省の調査では間接業務の時間が削減されたという報告が多数寄せられています。
従来は利用者ごとに複数の書類に同じ内容を転記する必要がありました。ICTシステムでは一度入力すれば自動で関連書類に反映されるため、転記ミスも防げます。
ある訪問介護事業所では、1日の記録時間が職員一人あたり平均45分から15分に減少しました。この30分を利用者とのコミュニケーション時間に充てることで、サービスの質も向上したそうです。
スタッフ間の情報共有円滑化
リアルタイムでの情報共有により、申し送りの時間や伝達ミスが減少します。夜勤から日勤への引継ぎも、システム上で完結できるようになります。
チャット機能を使えば、緊急時の連絡も瞬時に全スタッフへ届けられます。シフトが合わないスタッフ同士でも、タイムラグなく情報交換できる環境が整います。
多職種連携もスムーズになります。医師や看護師、ケアマネージャーとの情報共有がオンラインで完結するため、電話やFAXのやり取りが不要になるのです。
介護サービス品質の向上
業務効率化で生まれた時間を、直接的な介護ケアに充てられます。調査では支援の質が上がったという回答や直接ケアにあたる時間が増加したとの声が寄せられています。
データの蓄積により、利用者一人ひとりに合わせたケアプランの作成も可能になります。過去の記録を分析することで、体調変化のパターンや効果的なケア方法を見つけられるのです。
見守りシステムを使えば、転倒や離床をいち早く検知できます。事故を未然に防ぎ、利用者の安全性を高めることができます。
職員の身体的・精神的負担軽減
見守りシステムにより24時間ずっと利用者のそばで観察する必要がなくなり、夜勤時の負担が大幅に減ります。
排泄予測システムでは、適切なタイミングで介助できるようになります。眠りが浅い時間を知らせて排泄介助を行うなど適切なタイミングがわかるようになり、利用者の睡眠も妨げません。
記録作業のストレスも軽減されます。「書類を探す」「何度も同じことを書く」といった非効率な作業から解放され、本来の介護業務に集中できる環境が整います。
離職率低下と人材定着
働きやすい職場環境は、職員の定着率向上に直結します。残業時間の削減や休憩時間の確保により、ワークライフバランスが改善するためです。
若い世代にとって、ICT環境が整った職場は魅力的に映ります。最新技術を活用できる職場として、求職者へのアピールポイントにもなるのです。
実際にICTを導入した施設では、離職率が年間25%から15%に改善した事例もあります。長く働ける職場づくりが、結果的に人材不足の解消につながっています。
介護現場で活用される3つのICT機器
介護記録ソフトとタブレット端末
介護記録ソフトは、ケアプランから日々の記録、請求業務まで一元管理できるシステムです。タブレット端末と組み合わせることで、現場でその場で記録できるようになります。
主な機能には、バイタルサインの記録、食事や排泄の管理、写真付きメモ、音声入力などがあります。クラウド型なら複数の事業所間でもデータ共有が可能です。
導入時のポイントは、操作の簡単さです。ITに不慣れなスタッフでも直感的に使えるシステムを選ぶことが、定着の鍵となります。
見守りシステムと離床センサー
見守りシステムはベッドを離れているのかトイレに行っているのか睡眠をとっているのかなどの状況が離れていてもわかる仕組みです。
センサーには複数の種類があります。ベッド下に設置するマット型、カメラで動作を検知する画像認識型、ウェアラブル端末による生体情報モニタリング型などです。
異常を検知すると、スタッフの端末にアラートが送られます。優先順位をつけて対応できるため、効率的な巡回が可能になります。転倒リスクの高い利用者も、安心して見守れるのです。
シフト管理・勤怠管理システム
複雑なシフト作成を自動化できるシステムです。職員の資格や勤務希望、配置基準を考慮した最適なシフトを提案してくれます。
勤怠管理機能では、出退勤時刻の記録、時間外勤務の集計、有給休暇の管理などが一括で行えます。給与計算との連携により、事務作業の時間も大幅に削減されます。
スタッフ間の連絡機能も備えています。急な欠勤時の代替要請や、シフト交換の依頼などがシステム内で完結するため、調整にかかる時間と手間が減ります。
ICT導入の実践的3ステップ
STEP1:現状の課題分析と目標設定(所要時間1〜2週間)
まず自施設の業務課題を洗い出します。記録にどれくらい時間がかかっているか、情報共有で困っている点は何かを具体的に把握しましょう。
スタッフ全員からヒアリングすることが重要です。現場の声を集めることで、本当に必要な機能が見えてきます。管理者だけの判断では、現場で使われないシステムを導入してしまう危険があります。
数値目標を設定します。「記録時間を30%削減」「夜勤時の巡回回数を半減」など、具体的で測定可能な目標を立てることで、導入効果を検証できます。
つまずきポイント:課題が漠然としすぎている場合は、1週間業務日誌をつけて時間の使い方を可視化しましょう。
STEP2:システム選定と補助金申請(所要時間1〜2カ月)
複数のシステムを比較検討します。無料体験やデモンストレーションを活用して、実際の操作性を確認することが大切です。
補助金の活用を検討しましょう。厚生労働省の介護テクノロジー導入支援事業では、最大で数百万円の補助が受けられます。各都道府県により申請時期や条件が異なるため、早めに確認が必要です。
補助金申請には、導入計画書の作成やセキュリティ対策の実施が求められます。情報処理推進機構(IPA)の「SECURITY ACTION」宣言は必須要件です。
つまずきポイント:補助金の申請期間は限られています。年度初めには情報収集を始め、申請書類の準備を進めておきましょう。
STEP3:段階的導入とスタッフ研修(所要時間2〜3カ月)
いきなり全機能を使い始めるのではなく、段階的に導入します。最初は記録機能だけ、次にシフト管理、最後に見守りシステムというように、優先順位をつけて進めます。
スタッフ研修は丁寧に行います。操作マニュアルを作成し、少人数でのハンズオン研修を実施しましょう。ITが苦手なスタッフには個別サポートも必要です。
導入後1カ月、3カ月、6カ月の時点で効果測定を行います。目標達成度を確認し、必要に応じて運用方法を調整していきます。
つまずきポイント:最初は入力に時間がかかり、かえって負担が増えたと感じる時期があります。この期間を乗り越えるため、サポート体制をしっかり整えておきましょう。
ICT導入を成功させる5つのコツ
スモールスタートで着実に進める
大規模な導入は失敗リスクが高くなります。まずは一つの業務、一つのフロアから始めて、成功体験を積み重ねることが大切です。
タブレット1台から始めるのも一つの方法です。記録業務だけをデジタル化し、スタッフが慣れてから機能を追加していきます。
成功事例を施設内で共有することで、他のスタッフの導入意欲も高まります。「こんなに楽になった」という実感が、全体への広がりを生むのです。
現場スタッフの声を重視する
システム選定時には、実際に使うスタッフの意見を最優先します。管理者が良いと思ったシステムでも、現場で使いにくければ定着しません。
導入後も定期的にフィードバックを集めます。使いにくい点や改善要望を吸い上げ、カスタマイズや運用ルールの見直しに反映させましょう。
ICT導入のチャンピオンを現場から選ぶのも効果的です。IT操作に長けたスタッフが他の職員をサポートする体制を作ると、スムーズに定着します。
セキュリティ対策を徹底する
個人情報を扱うため、セキュリティは最重要課題です。パスワード管理の徹底、アクセス権限の設定、定期的なバックアップを必ず実施します。
タブレット紛失時の対策も必要です。遠隔でのデータ消去機能や、自動ロック機能を設定しておきましょう。
スタッフへの教育も欠かせません。情報漏洩のリスクや対策方法について、研修を定期的に実施します。
補助金と助成制度を最大限活用する
導入費用の負担を軽減できる制度が複数あります。介護テクノロジー導入支援事業では、ICTソフトやタブレット端末、通信環境整備費用などが対象です。
申請には計画書の作成や導入効果の報告が必要ですが、補助率は高く設定されています。自治体によっては導入費用の大部分をカバーできる場合もあります。
複数年にわたる支援もあります。初年度に基本システム、2年目に追加機器というように、段階的な導入計画を立てることで、継続的な補助を受けられます。
継続的な改善サイクルを回す
導入して終わりではなく、定期的な見直しが必要です。月に一度、使用状況や課題を確認する会議を設けましょう。
新機能の活用や運用ルールの最適化を続けることで、効果は高まっていきます。ベンダーの更新情報もチェックし、有用な機能は積極的に試してみます。
数値での効果測定も継続します。記録時間の変化、残業時間の推移、スタッフの満足度などを定期的に測定し、改善の指標とします。
よくある質問(FAQ)
Q1: ICT導入にはどれくらいの費用がかかりますか?
A: 規模や導入内容により異なりますが、小規模事業所で50〜100万円、中規模施設で150〜300万円程度が目安です。補助金を活用すれば自己負担は大幅に削減できます。クラウド型サービスなら月額制で初期費用を抑えられる選択肢もあります。
Q2: ITが苦手なスタッフでも使いこなせますか?
A: 直感的に操作できるシステムを選べば問題ありません。タッチパネルで簡単に入力でき、音声入力に対応したシステムもあります。丁寧な研修とサポート体制を整えることで、どの年代のスタッフも使えるようになります。導入初期の個別サポートが成功の鍵です。
Q3: 小規模事業所でも導入効果はありますか?
A: 小規模だからこそ効果を実感しやすい面もあります。少人数での情報共有は迅速に行え、システム導入の意思決定も早くできます。訪問介護では移動中の記録入力により事務所での作業が不要になり、大幅な時間短縮につながった事例が多数あります。
Q4: 既存のシステムから移行する際の注意点は?
A: データ移行計画を慎重に立てることが重要です。新旧システムの並行運用期間を設けて、データの整合性を確認しながら移行します。スタッフが新システムに慣れるまで、旧システムのデータも参照できる状態を維持しましょう。移行は一気に行わず、段階的に進めるのが安全です。
Q5: 導入後の運用で最も多い失敗は何ですか?
A: 最も多いのは、導入後のサポート不足です。システムは導入しても使い方がわからず、結局紙に戻ってしまうケースがあります。定期的な研修の実施、質問しやすい環境づくり、トラブル時の迅速な対応体制が必要です。また、現場の声を聞かずにシステムを選んでしまい、使いにくいという不満が出る失敗も多く見られます。
まとめ
介護現場のICT活用は、人材不足と業務負担という二つの課題を同時に解決する有効な手段です。記録業務の効率化、情報共有の円滑化、ケア品質の向上という3つの効果により、働きやすく質の高いサービスを提供できる環境が実現します。
導入成功の鍵は、現状分析から始めて段階的に進めること、現場スタッフの声を重視すること、そして補助金を活用して費用負担を軽減することです。
まずは自施設の課題を洗い出し、小さな一歩から始めてみましょう。ICT活用により、あなたの施設が職員にとって働きやすく、利用者にとって安心できる場所へと変わっていくはずです。

