介護業界の人手不足は、単一の原因ではなく、少子高齢化・低賃金・働き方の課題・ネガティブイメージ・離職率の高さが複雑に絡み合った構造的問題です。
2026年には約28万人、2040年には約57万人の職員不足が見込まれ、業界全体の84%が人材不足を実感しています。多くの施設が「給与を上げれば人が来る」と考えがちですが、実は最大の離職理由は「職場の人間関係」(23.2%)で、給与は5位以下。
原因を正しく理解しなければ、対策は効果がありません。本記事では、介護業界の人手不足を招く5つの根本原因、それぞれの構造的背景、対策への示唆を解説します。
介護業界の人手不足、統計データが示す深刻さ
現在と将来の不足数
厚生労働省の最新試算によると:
- 2026年度:
約240万人必要 vs 約212万人現状 → 28万人不足 - 2040年度:
約272万人必要 vs 約215万人見込み → 57万人不足(全体の21%)
これは「10名体制が必要な現場に8名しか配置できない」という深刻な状況を意味します。
また、介護労働安定センターの調査では、業界全体の84%が人材不足を実感。都市部では介護職の有効求人倍率が5倍を超える地域も存在し、採用競争が極めて激しい状況です。
介護業界の人手不足を招く5つの根本原因
原因1:少子高齢化による「需要と供給の構造的アンバランス」
最大の原因は、社会全体の人口動態です。
介護を必要とする高齢者は急増する一方、働き手となる若年層は減少。この不可逆的な構図が、介護業界の本質的な人手不足を生み出しています。
数字で見る現実:
- 2025年:65歳以上が3,653万人(全人口の約29%)、75歳以上が2,155万人
- 2060年:高齢化率が37.9%(国民の約4割が高齢者)
- 要介護認定者:2000年256万人 → 2023年708万人(2.8倍に増加)
一方、労働力人口(15~64歳)は2022年から減少が加速。出生数も2023年は過去最少を更新し、将来さらに減少が見込まれています。
この「需給ギャップ」は解決が困難です。
何らかの対策を講じない限り、2025年をピークに人手不足は深刻化し続け、2035年ごろまで悪化が続く見込みです。
原因2:給与水準の低さ(全産業平均より約70万円低い)
介護職の年収は約330万円で、全産業平均(約458万円)より約128万円低い水準が続いています。
さらに問題なのは、勤続年数による給与上昇が極めて小さいという点です。
給与上昇の現実:
- 勤続1年:年収約310万円
- 勤続10年:年収約370万円
- 昇給幅:約60万円(約19%の上昇)
他業種では同じ勤続年数で1.5~2倍に増える傾向です。つまり、「いくら経験を積んでも、給与が大幅に上がらない」という現実が、職員のモチベーション低下と離職につながっています。
国の処遇改善施策の効果は限定的:
2019年以降の処遇改善加算により、月額平均5.7万円の給与改善が実現しました。しかし、これでも他業種との格差は埋まっていません。
原因3:働き方の課題(長時間労働・不規則勤務・身体的負担)
介護職の離職理由の第2位は「身体的・精神的負担」です。
働き方が厳しい理由:
- 夜勤が必須(訪問介護員や施設職員)
- 残業が月80~100時間に達することもある
- 有給休暇の取得率が低い(平均9日程度)
- 腰痛などの身体的疾患による離職が多い
女性職員の割合が高い(80%超)中で、結婚・出産による離職も増加。ライフステージの変化に対応した働き方(時短勤務、柔軟シフト)を提供する施設は少ないのが現状です。
原因4:ネガティブなイメージの定着(「3K」のレッテル)
介護職に対する「きつい・汚い・危険(3K)」というイメージが根強く、新規参入者の確保を阻害しています。
イメージが悪い理由:
- メディア報道で労働問題や虐待事件が強調される
- SNS等で職場の劣悪な環境情報が拡散される
- 実際の業務の過酷さが伝わりやすい
- 業界としての魅力発信が不足している
結果として、未経験者や若い世代は介護業界に距離を置き、「代替職を選ぶ」という選択肢が増加。これが採用困難化につながっています。
原因5:離職率の高さと定着の難しさ(人間関係が第1位)
最大の離職理由は「給与」ではなく「人間関係」(23.2%)です。
介護職員の年間離職率は13.1~13.6%。採用しても定着しない「穴の開いたバケツ」状態が続いています。
離職理由ランキング(上位3位):
- 職場の人間関係に問題がある:23.2%
- 身体的・精神的にきつい:18.4%
- 施設・事業所の理念や運営方針に不満:15.6%
給与改善だけでは離職を防げません。むしろ、職場の「空気感」「上司との関係」「職員間の協力体制」といった目に見えない要素が、職員の定着を大きく左右します。
各原因が職員不足を悪化させるメカニズム
「負のスパイラル」が形成される構造
- 少子高齢化で需要増加 → 要介護者が増加、職員が必要
- 供給不足で既存職員の負担増加 → 残業が増え、有給が取得できない
- 働き方の過酷さが増す → 腰痛や心身の疲労が増加、離職が加速
- 人間関係が悪化 → ストレス蓄積、職場の雰囲気が悪くなる
- 優秀な職員から辞める → 残された職員の負担がさらに増加
- 新規採用が困難化 → イメージの悪さ、給与の安さで応募減
- さらに人手不足に → 元の状態に戻る(負のループ)
この悪循環が形成されると、施設側が「採用に頑張っても、採用した職員が定着せず、既存職員の負担が増加して離職する」という状況に陥ります。
よくある質問(FAQ)
Q1:給与を上げても人手不足は解決しないのか?
A: はい。離職理由の第1位は「人間関係」で、給与は5位以下です。給与改善は「最低限の条件」ですが、それだけでは不十分。相談窓口設置、職場環境改善と並行することで初めて定着につながります。
Q2:2025年以降、人手不足は改善されるのか?
A: いいえ。人手不足は2040年までさらに悪化する見込みです。2025年がピークとされるのは「政策効果が最大化する時点」という意味で、実際の人手不足は2040年まで深刻化が続きます。
Q3:なぜ女性職員の離職が多いのか?
A: 女性が業界全体の80%超を占める中で、結婚・出産・子育てによる離職が多い点が特徴です。ライフステージの変化に対応した働き方(時短勤務、柔軟シフト)を提供できる施設は少なく、これが女性職員の定着率を大きく左右しています。
Q4:「ネガティブイメージ」を払拭するには?
A: 業界全体のイメージ改善は国の課題ですが、個別施設では「働き方改革の実績」「職員のキャリアパス」「職場の人間関係の良さ」などを積極的に発信することが有効。採用広報で「実際の職場の雰囲気」が伝わるコンテンツが重要です。
Q5:地方と都市部で人手不足の深刻度に差があるのか?
A: はい。関東・近畿などの都市部では求人倍率が5倍を超えることもある一方、地方でも70%以上の施設が不足を感じています。都市部は「採用競争の激化」、地方は「絶対的な人口減少」という異なる問題を抱えています。
コツと注意点
よくある失敗例3パターン
失敗例1:給与改善に頼りすぎて、職場環境改善を怠る
給与を上げたが、職場の人間関係が改善されなければ職員は1年以内に辞めます。給与改善と職場改善は「両輪」。相談窓口設置やコミュニケーション活性化と並行実施が必須です。
失敗例2:採用に注力し、既存職員の育成を怠る
新規採用に頑張ったが、育成に手が回らず既存職員の負担が増加。その結果、既存職員が疲弊して辞める。優先順位は「定着→効率化→採用」の順です。
失敗例3:社会的問題として対策を立てず、個別施設の努力に頼る
少子高齢化は個別施設では解決できない構造的問題です。ただし「職場環境改善」「定着施策」など、施設レベルで対応できる部分はあります。対策の優先順位を正しく判断することが重要です。
福祉業界特有の注意点
介護職員の高年齢化が進行中です。業界全体の職員年齢が上昇し、60歳以上が21.6%に達しています。新規採用の若年層が減少する中で、シニア職員の定着・活用も課題となっています。
まとめ
1. 人手不足は「少子高齢化」という根本的な社会構造問題が主因。
給与改善だけでは解決できず、多角的な対策が必須です。
2. 離職理由は「給与」より「人間関係」が第1位。
職場環境改善と給与改善の両方を同時進行させることが重要。
3. 2025年から2040年にかけて、人手不足はさらに深刻化する見込み。
今から対策を開始する緊急性があります。
今すぐ、自施設の離職理由を分析し、最大の離職要因に対する対策から始めてください。給与改善と並行して、職場の「人間関係」「働き方」「魅力発信」に対する取り組みが、人手不足解決への最短ルートです。

