介護離職はなぜ企業にとって深刻な問題なのか?
家族の介護を理由に仕事を辞める「介護離職」は、年間約10万6,000人にのぼります。特に40代・50代の働き盛りが9割を占め、企業の中核人材が突然いなくなる危機です。この記事では、介護離職が企業にもたらす3つのリスク、従業員が離職を選ぶ5つの原因、そして今日から始められる5つの実践的対策を、厚生労働省データと先進企業事例をもとに解説します。助成金制度や2025年4月施行の法改正ポイントも網羅し、人事担当者が明日から動ける具体策を提示します。
介護離職の現状|データで見る深刻度
年間10万人超が離職する実態
総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、過去1年間に介護・看護を理由に離職した人は10万6,000人でした。このうち女性が約8万人と全体の75%を占めます。年齢別では、40代が33.7%、50代が41.5%と、企業の中核を担う世代で約75%を占める構造です。この世代は、豊富な業務経験と人的ネットワークを持ち、後輩育成の要でもあります。
さらに深刻なのは、2025年には高齢者人口が3,657万人に達し、要介護認定者も増え続けることです。内閣府の推計では、2030年には「仕事と介護を両立させる労働者」が318万人に達すると予測されており、介護離職のリスクは今後さらに高まります。
地域別・職種別の傾向
介護離職は地域差も顕著です。一部の地域は離職率が全国平均を大きく上回り、介護サービスの不足が背景にあります。職種別では、管理職や専門職など代替が困難なポジションほど、企業への影響は甚大です。
介護離職が起こる5つの原因
【原因1】介護休業制度の認知不足
厚生労働省の調査では、介護休業制度の存在を知っていても、具体的な利用方法を理解している従業員は限られます。特に男性従業員や若手層では、「自分には関係ない」と考え、必要になってから慌てるケースが多数です。企業が制度を整備しても、従業員への周知が不十分なため、結果的に離職を選んでしまいます。
【原因2】働き方の柔軟性不足
フルタイム勤務が前提の職場では、突発的な介護対応が困難です。特に「通院付き添い」「施設見学」「ケアマネジャーとの面談」など、日中の短時間対応が求められる場面で、休暇を取りづらい雰囲気が離職を後押しします。テレワークやフレックスタイムが整備されていない企業では、この傾向が顕著です。
【原因3】職場の理解不足と孤立感
介護の悩みを職場で相談できず、一人で抱え込む従業員が多数います。「迷惑をかけたくない」「キャリアに影響するのでは」という心理的ハードルが、早期の離職判断につながります。厚生労働省の調査でも、離職者の6割が「負担が増した」と回答しており、精神的・肉体的な孤立が深刻化しています。
【原因4】家族内での役割固定化
「長女だから」「妻だから」という固定観念で、特定の家族に介護負担が集中します。家族間で役割分担や外部サービス活用の話し合いが不足し、仕事との両立が限界に達して離職に至るケースが後を絶ちません。
【原因5】介護サービス情報の不足
地域包括支援センターやケアマネジャーなど、利用可能な介護サービスの情報を知らないまま、自力で介護を抱え込む従業員がいます。特に初めて介護に直面する従業員は、「何から始めればいいのか分からない」状態で、離職という選択肢しか見えなくなります。
介護離職が企業に与える3つの深刻な影響
【影響1】中核人材の喪失とノウハウ流出
40代・50代の離職は、単なる人員減少にとどまりません。長年培った業務知識、顧客との信頼関係、社内ネットワークが一度に失われます。例えば、ある製造業では、ベテラン技術者の介護離職により、特定工程のトラブル対応が属人化していたことが発覚し、生産ラインが一時停止する事態となりました。採用市場でも、同等のスキルを持つ人材確保は困難です。
【影響2】採用・育成コストの増大
経済産業省の試算では、介護離職による経済損失は年間約6,500億円とされています。企業レベルでは、1人の中途採用に数百万円、育成に数年のコストがかかります。さらに、採用した人材が職場に馴染むまでの「ミスマッチリスク」も無視できません。
【影響3】職場士気の低下と連鎖離職
介護離職が発生すると、残された従業員の業務負担が増加し、「次は自分かもしれない」という不安が広がります。職場の雰囲気が悪化し、離職の連鎖を引き起こすリスクがあります。実際に、ある企業では、1人の介護離職をきっかけに、同じチームから3人が連続して退職する事態となりました。
企業が実践すべき5つの介護離職防止対策
【対策1】介護休業制度の徹底周知と利用促進
効果度:★★★★★ / 難易度:★☆☆☆☆ / 即効性:★★★★☆
介護休業は、法律で最大93日間(3回まで分割可能)、休業中は賃金の67%が雇用保険から支給される制度です。しかし、制度の存在を知っていても、「取得しづらい」と感じる従業員が多数います。
具体的実践方法:
- 全従業員向けの定期説明会を年2回実施し、制度内容と申請手順を解説
- 社内イントラネットに「介護支援ガイドブック」をPDF掲載
- 管理職向けに「部下からの介護相談対応マニュアル」を配布
- 取得実績を社内報で匿名紹介し、利用のハードルを下げる
成功事例: ある大手企業は介護休業を無期限とし、従業員が安心して介護に取り組める環境を整備。離職率の低下に成功しています。
【対策2】柔軟な働き方の制度整備
効果度:★★★★★ / 難易度:★★★☆☆ / 即効性:★★★☆☆
2025年4月施行の育児・介護休業法改正により、企業はテレワーク導入が努力義務化されました。短時間勤務、フレックスタイム、時間単位の介護休暇など、多様な選択肢を用意することが重要です。
具体的実践方法:
- 短時間勤務制度(週30時間など)の導入
- フレックスタイム制度で、通院付き添い時間を柔軟に確保
- テレワーク環境の整備(セキュリティ対策含む)
- 時間単位での介護休暇取得を可能にする
- ジョブシェアリングで、複数人が業務を分担できる体制構築
成功事例: ある大手航空会社は、介護に直面した従業員向けに短時間勤務や在宅勤務を積極的に推奨し、両立支援を実現しています。
【対策3】相談窓口の設置と情報提供
効果度:★★★★☆ / 難易度:★★☆☆☆ / 即効性:★★★★☆
従業員が介護の悩みを気軽に相談できる窓口を設けることで、早期対応が可能になります。外部の専門家(社会保険労務士、介護支援専門員など)と連携することも有効です。
具体的実践方法:
- 人事部内に「介護相談窓口」を設置し、匿名相談も受け付ける
- 外部相談支援プログラムと契約し、専門カウンセラーによる相談を提供
- 地域包括支援センターやケアマネジャーとの連携をサポート
- 社内セミナーで介護保険制度や地域の介護サービスを紹介
成功事例: ある大手通信企業は、従業員向けに介護相談サービスを提供し、介護離職の未然防止に注力しています。
【対策4】職場の理解促進と支援文化の醸成
効果度:★★★★☆ / 難易度:★★★☆☆ / 即効性:★★☆☆☆
管理職や同僚の理解がなければ、制度があっても利用されません。介護に対する正しい知識と、支援する組織文化を育てることが不可欠です。
具体的実践方法:
- 管理職向けに「介護と仕事の両立支援研修」を義務化
- 社内報やイントラで「介護体験記」を連載し、当事者の声を共有
- チーム内で業務の属人化を解消し、互いにカバーできる体制を構築
- 介護休業取得者の復職時に、面談で業務調整を実施
【対策5】両立支援等助成金の活用
効果度:★★★☆☆ / 難易度:★★☆☆☆ / 即効性:★★★☆☆
厚生労働省の「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」を活用すれば、企業の負担を軽減しながら支援体制を整備できます。
助成金の内訳:
- 介護休業取得・職場復帰で40万円
- 介護両立支援制度の利用で20〜25万円
- 業務代替支援(新規雇用)で20万円、手当支給等で3〜5万円
申請のポイント:
- 事前に「介護支援プラン」を作成し、従業員と共有
- 介護休業取得前に、職場復帰後の業務内容を確認
- 助成金申請に必要な書類(勤務記録、面談記録など)を整備
- 自治体独自の支援制度も併用すれば、さらに手厚い支援が可能です
先進企業の成功事例に学ぶ
事例1:復職時の一時金支給
ある企業は、介護休業から復職した従業員に一時金を支給し、経済的不安を軽減。従業員が安心して休業を取得できる環境を整え、離職防止に成功しています。
事例2:最長2年の介護休業制度
ある企業は、法定の93日を大きく超える最長2年の介護休業制度を導入。長期的な介護ニーズにも対応できる柔軟性が評価されています。
事例3:柔軟な働き方とサポート体制
ある銀行は、短時間勤務やフレックスタイムを積極的に推奨し、従業員が介護と仕事を両立しやすい環境を構築。相談窓口も充実させ、早期対応を実現しています。
よくある質問(FAQ)
Q1: 介護休業は何日間取得できますか?
最大93日間を3回まで分割して取得可能です。休業中は賃金の67%が雇用保険から支給されます。
Q2: 介護離職後の再就職率はどのくらいですか?
厚生労働省の調査では、介護離職者の再就職率は約3〜4割にとどまります。年齢が上がるほど再就職は困難になります。
Q3: 企業が利用できる助成金制度は?
両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)が代表的です。介護休業取得で40万円、両立支援制度利用で20〜25万円が支給されます。
Q4: 2025年4月の法改正で何が変わりますか?
育児・介護休業法の改正により、テレワークが企業の努力義務となります。また、短期雇用者の介護休業取得制限が撤廃され、より多くの従業員が制度を利用できるようになります。
Q5: 従業員が介護離職を考えていると分かったら、まず何をすべきですか?
まず、人事担当者や管理職が個別面談を実施し、具体的な介護状況と本人の希望を確認します。その上で、利用可能な制度を提案し、両立プランを一緒に作成しましょう。
まとめ|今日から始める介護離職防止の3ステップ
介護離職は、企業にとって中核人材の喪失と採用・育成コストの増大をもたらす深刻な経営課題です。しかし、適切な対策を講じることで防止可能です。
今日から実践できる3つのアクション:
- 全従業員向けに介護休業制度の説明会を開催(難易度:低、効果:高)
- 人事部内に介護相談窓口を設置(難易度:中、効果:高)
- 両立支援等助成金の申請要件を確認(難易度:中、効果:中)
2025年問題が目前に迫る今、介護と仕事の両立支援は企業の成長戦略そのものです。従業員が安心して働き続けられる環境を整備し、持続可能な組織づくりを進めましょう。

