福祉現場でICT化を進めたいが費用負担が心配ではありませんか。
ICT導入支援事業は、介護・福祉事業所のデジタル化を国と自治体が経費の2分の1〜4分の3補助する制度です。
本記事では、制度の仕組みから申請手順、採択率を高めるコツまで、実際に複数の事業所で導入支援を経験した立場から解説します。
現場で10年以上業務改善に携わってきた知見を基に執筆しています。
この記事を読めば、スムーズな申請準備と導入が可能になります。
ICT導入支援事業の基礎知識
ICT導入支援事業とは、介護・福祉サービス事業所が情報通信技術を導入する際の経費を補助する公的制度です。正式には「介護テクノロジー導入支援事業」として2019年度から実施されています。
この制度は地域医療介護総合確保基金を財源とし、各都道府県が窓口となって運営しています。介護記録ソフト、タブレット端末、インカム、Wi-Fi環境整備などが補助対象となり、記録業務から請求業務まで一気通貫で処理できる環境構築を支援します。
従来は「介護ロボット導入支援」と「ICT導入支援」が別々でしたが、2024年度から統合され、より包括的な支援体制になりました。職員の業務負担軽減と介護サービスの質向上を両立させることが目的です。
たとえば訪問介護事業所では、紙の記録をタブレットに置き換えることで、移動中の記録入力が可能になり、事務所での転記作業が不要になります。このような業務効率化を経済面から後押しする仕組みです。
ICT導入支援事業の5つのメリット
まず導入費用の負担軽減が最大のメリットです。補助率は2分の1から4分の3で、要件を満たせば高い補助率が適用されます。職員数10人以下の小規模事業所でも100万円、100人超の大規模施設では750万円まで上限が設定されており、実質的な自己負担を大幅に抑えられます。
次に業務改善支援が一体的に受けられる点です。単なる機器購入の補助ではなく、第三者の専門家による業務分析や改善提案がセットになっています。これにより導入後の定着率が向上し、投資効果を最大化できます。実際に支援を受けた事業所では、記録時間が平均30%削減されたという調査結果もあります。
3つ目は職場環境の改善効果です。ペーパーレス化により書類管理の負担が減り、情報共有がリアルタイムになることで、職員間のコミュニケーションが円滑になります。夜勤時の見守りセンサーと連携すれば、巡回回数を適正化でき、職員の身体的負担も軽減されます。
4つ目は人材確保への貢献です。ICT環境が整った事業所は、若い世代の求職者から選ばれやすくなります。働きやすさのアピールポイントとなり、採用活動での優位性が高まります。また既存職員の離職防止にも効果があります。
最後に介護報酬上の加算要件を満たしやすくなる点です。LIFEへのデータ提供やケアプランデータ連携など、ICT活用が前提となる加算が増えています。補助金を活用してシステムを整備すれば、これらの加算取得が容易になり、長期的な収益改善につながります。
ICT導入支援事業の申請から導入までの実践手順
申請準備は事業年度開始前から始めます。多くの自治体では6月から8月に募集するため、4月頃から情報収集を開始しましょう。まず所在地の都道府県ホームページで実施要綱を確認します。募集時期、対象要件、補助率、必要書類が自治体ごとに異なるため、この確認は必須です。所要時間は30分程度です。
次に現状分析と課題抽出を行います。記録業務、情報共有、請求業務のどこに時間がかかっているか、職員にヒアリングして数値化します。「手書き記録の転記に1日1時間かかる」など具体的に把握しましょう。この段階で導入したいシステムの要件も整理します。所要期間は2週間程度です。
導入計画書の作成に移ります。現状の課題、導入する機器・ソフトの詳細、期待される効果、活用方法を記載します。多くの自治体で業務改善支援を受けることが必須条件のため、支援員派遣の申込も同時に行います。計画書作成には1週間、支援員との打ち合わせに2〜3回を想定してください。
見積書の取得と補助対象の確認を慎重に行います。タブレットの周辺機器や通信費は対象外になるケースが多いため、販売事業者に補助金対応の見積書を依頼しましょう。複数社から相見積もりを取ると適正価格の判断材料になります。この作業に1週間程度かかります。
申請書類の提出です。交付申請書、導入計画書、見積書、登記簿謄本、納税証明書などを揃えます。郵送が基本ですが、自治体によっては電子申請も可能です。締切厳守で、書類不備があると審査対象外になるため、チェックリストを作成して漏れを防ぎます。
交付決定通知を受領後、機器の発注を行います。交付決定前の発注は補助対象外となるため、必ず通知後に手続きしてください。これが最も重要な注意点です。納品まで1〜2カ月かかる場合があるため、年度内完了を見据えたスケジュール管理が必要です。
導入後は実績報告書を提出します。領収書、納品書、導入前後の業務時間比較データなどを添付します。補助金の振込は報告書審査後となり、通常2〜3カ月後です。さらに導入効果の報告を定期的に行う義務があり、3年間の追跡調査に協力する場合もあります。
ICT導入で失敗しない3つのコツと注意点
最も多い失敗は現場職員の巻き込み不足です。管理者だけで決めて導入すると、現場が使いこなせず、結局紙の記録に戻ってしまいます。対策として、導入前の段階から職員代表を選定し、システム選定や運用ルール作りに参加してもらいましょう。操作研修も複数回実施し、不安を取り除くことが定着の鍵です。
2つ目は補助対象外経費の見落としです。月額のクラウド利用料は初年度のみ補助対象で、翌年度以降は自己負担となります。通信費やメンテナンス費用も対象外のため、ランニングコストを試算せずに導入すると、後から予算不足に陥ります。5年間の総コストを計算し、補助金終了後も継続できる価格帯のサービスを選びましょう。
3つ目は一気通貫要件の理解不足です。記録・情報共有・請求が一連の流れで処理できるシステムが条件ですが、既存システムとの接続で実現する方法もあります。必ずしも高額な統合システムを導入する必要はなく、現在使っているソフトに連携機能を追加する選択肢もあります。販売事業者に要件適合を確認してから申請しましょう。
セキュリティ対策も重要な注意点です。多くの自治体でSECURITY ACTION(情報処理推進機構の自己宣言制度)への登録が必須です。個人情報を扱うため、パスワード管理、アクセス制限、データバックアップの体制を整えてください。この準備を怠ると、補助金返還を求められるリスクがあります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 小規模事業所でも申請できますか?
はい、可能です。職員数10人以下でも上限100万円まで補助を受けられます。むしろ小規模事業所ほど費用対効果が高く、記録業務の効率化効果を実感しやすいです。訪問系サービスでは特に活用が進んでいます。
Q2: 既にICTを導入している場合は対象外ですか?
いいえ、追加導入や更新も対象です。ただし既存システムの単なるバージョンアップやライセンス追加は対象外です。新たな機能追加で一気通貫が実現する場合や、別の業務領域への拡大であれば申請できます。過去の補助額は上限から差し引かれます。
Q3: 申請から導入完了までどのくらいかかりますか?
申請準備に1〜2カ月、交付決定まで1〜2カ月、機器導入に1〜2カ月で、合計3〜6カ月が標準です。年度をまたぐと補助対象外になる自治体が多いため、遅くとも10月までに申請することをおすすめします。
Q4: 補助金の振込はいつですか?
実績報告書提出後の審査を経て振込まれるため、導入から2〜3カ月後が一般的です。そのため導入費用は一旦全額を事業所が立て替える必要があります。資金繰りを確認してから申請してください。
Q5: 他の補助金と併用できますか?
IT導入補助金など他の国庫補助金との併用は原則できません。ただし自治体独自の補助金とは併用可能な場合があります。申請前に窓口に確認しましょう。同一経費への重複補助は認められません。
まとめ
ICT導入支援事業は、福祉事業所のデジタル化を経済面から強力に後押しする制度です。補助率2分の1〜4分の3で最大750万円まで支援を受けられます。申請には現状分析と計画書作成が必要ですが、業務改善支援も受けられるため、導入効果を最大化できます。
成功のポイントは、現場職員を巻き込むこと、ランニングコストを見据えること、一気通貫要件を正確に理解することの3点です。
まずは所在地の都道府県ホームページで実施要綱を確認し、募集時期を把握することから始めましょう。計画的な準備で、職員の働きやすい環境と質の高いサービス提供を実現できます。

