厚生労働省が公表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、2026年度に約240万人の介護職員が必要ですが、2022年度の約215万人から約25万人の増加が必須となります。この差分を埋めるには、年間約6万3,000人のペースでの人材確保が必要という、極めて厳しい数字です。
厚生労働省はこの危機に対応するため、処遇改善加算、介護入門研修、潜在人材復職支援など、複数の対策を整備しています。本記事では、厚労省が公開するデータと施策を、事業所がいかに実装するかを具体的に解説します。
厚生労働省が示す介護人材不足の現状と推計
2026年度に約240万人必要:厚労省統計の読み方
厚生労働省の推計では、2026年度(第9期介護保険事業計画の最終年)に約240万人の介護職員が必要とされています。これは各市町村の介護保険事業計画に記載されたサービス見込み量をベースに、都道府県が積み上げた数字です。
2019年度の実績約211万人から比較すると、7年間で約29万人の増加が必要です。しかし、現在の年間増加数は1~3万人程度に過ぎず、このペースでは2026年度時点で約20~25万人の不足が確定します。
年間6万3,000人のペースで人材確保が必須
厚労省は「2026年度までに年間約6万3,000人」の新規採用・育成が必要と試算しています。前年度の第8期計画では約5万5,000人が必要と推計されていたため、年間約8,000人の増加が追加されました。
この加速度の背景は、高齢化の進行スピードが予測より速いこと、及び要介護認定者数の増加が見込み以上であることです。
2040年度には約272万人、約57万人不足の見通し
さらに長期的には、2040年度に約272万人が必要とされ、現状推移での推計人数約215万人との差は約57万人に及びます。これは全体の約21%相当であり、10名体制が必要な現場に8名しか配置できない状況を意味します。
厚労省のデータから読み取れるのは、「今から2040年までの15年間が、最も深刻な人材不足時代である」という現実です。
厚生労働省が推進する5つの介護人材確保施策
施策1:処遇改善加算による給与底上げ(4段階制度)
厚生労働省は、給与格差を是正するため、処遇改善加算を段階的に整備しました。2024年度現在、以下4段階が存在します。
処遇改善加算Ⅰ(最高額):要件が最も厳しく、賃金上昇幅も最大。職場環境の改善、キャリアパス明示、研修体制整備など、複合的な取り組みが必須です。月額4,000~6,000円の加算が期待できます。
処遇改善加算Ⅱ・Ⅲ:要件の難度が段階的に下がり、取得しやすくなります。Ⅲでも月額2,000~3,000円程度の給与改善が可能です。
処遇改善加算Ⅳ:基本的な処遇改善に取り組む事業者向けで、要件が最も簡素。ただし上位区分と比べ加算額は限定的です。
各段階の取得要件を満たしているか確認し、段階的に上位区分を目指すことが、採用競争力の向上につながります。
施策2:介護に関する入門的研修による未経験者参入促進
厚生労働省が推進する「介護に関する入門的研修」は、未経験者の参入障壁を低くするためにデザインされています。自治体で無料または低額(数千円程度)で実施されており、修了後のマッチング支援も組み込まれています。
研修内容:基礎的な介護知識・技術を30~150時間の範囲で学習。コース選択により、受講期間が異なります。
事業所の活用方法:修了者を採用する際、追加研修の手間が減ります。自治体と連携し、修了予定者向けの説明会や職場見学を組み込むことで、修了から入職までのマッチング率が向上します。
厚労省は「介護の入門的研修から入職までの一体的支援モデル事業」を実施しており、自治体向けの事例集を公開しています。これらの成功事例を参考に、自事業所の採用プロセスに組み込むことが有効です。
施策3:潜在介護人材(離職経験者)の復職支援プログラム
介護福祉士資格を保持しながら、育児や転職で業界を離れた人材が全国に数百万人存在します。厚生労働省は、この潜在人材の掘り起こしと復職支援に注力しています。
再就職準備金貸付制度:離職経験者が介護施設で働く場合、都道府県社会福祉協議会から最大20万円の準備金が貸与されます。一定期間の継続勤務で返還が免除される仕組みです。
復職支援研修:ブランク期間後のスキル不安を払拭するため、無料または低額の実技研修が各都道府県で提供されています。厚労省の福祉人材センターに問い合わせることで、自地域の研修一覧が入手できます。
事業所の活用方法:潜在人材向けの採用枠を明示し、「ブランク者向けメンター配置」「復帰後の時短勤務対応」などの支援制度を整備することで、定着率が向上します。
施策4:人材育成等認証評価制度による事業所の差別化
厚生労働省は「人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度」を運用しており、都道府県が評価基準に基づいて事業者を認証します。
認証取得のメリット:採用広報時に「人材育成・職場環境改善に真摯に取り組む事業所」として差別化でき、応募者の質・量が向上することが実証されています。
認証要件(例):職員育成計画の策定、キャリアパス明示、資格取得支援、働き方改革への取り組みなど。要件は都道府県ごとにバリエーションがあります。
申請方法:都道府県の福祉人材センターまたは社会福祉協議会に相談し、自事業所が該当要件を満たしているか確認します。
施策5:外国人材受け入れ環境の整備(EPA・特定技能制度)
厚生労働省は、EPA(経済連携協定)に基づくインドネシア・フィリピン・ベトナム出身の介護人材受け入れ、及び「特定技能」資格による外国人材受け入れを支援しています。
EPA制度:公的な枠組による受け入れで、一定の資格・経験が必要です。受け入れ施設は厚労省の指定を受ける必要があります。
特定技能制度:2019年度から開始され、より広範な受け入れが可能。言語要件は比較的低く、実務経験が重視されます。
事業所の活用方法:外国人材受け入れを検討する場合、まず自治体の経済労働部門に相談し、支援体制(言語研修、生活サポート、技術指導)を確認することが不可欠です。
事業所が厚生労働省の施策を実装するための3段階ステップ
ステップ1:厚労省の施策情報を自事業所にマッピング(実施期間:1~2週間 / 難易度:低)
実行内容:以下の確認を行います。
現在、処遇改善加算をいくつ取得しているか、及び上位区分取得の可能性を検討する。厚労省サイトの「処遇改善加算実施要綱」から要件チェック表をダウンロードし、自事業所の現状と照合します。
都道府県社会福祉協議会に問い合わせ、利用可能な以下施策のリストアップを行います:潜在人材向け再就職準備金、復職支援研修、入門研修の実施状況、認証評価制度の取得方法、外国人材受け入れの相談窓口。
福祉人材センターのセミナーや研修に参加予約し、最新の厚労省施策についての説明を聴取します。毎年施策内容がアップデートされるため、定期的な情報収集が重要です。
ステップ2:採用チャネルと育成計画に施策を組み込む(実施期間:1~2ヶ月 / 難易度:中)
実行内容:採用ターゲットごとに厚労省の支援制度を活用した採用戦略を設計します。
未経験層向け:入門研修の修了者を採用ターゲットに追加。自治体が実施する入門研修の修了予定者向けに、説明会や職場見学を開催。修了後のマッチングをスムーズにする仕組みを構築します。
潜在人材向け:再就職準備金の制度を求人票に明記し、「最大20万円の貸与で再就職準備が整う」とアピール。ブランク者向けメンター制度を整備し、復帰後3ヶ月の手厚いサポートを実装します。
全職員向けキャリアパス整備:認証評価制度取得を目標に、職員のキャリアラダーを明確化。厚労省が示す「認知症ケア」「看取りケア」などの専門性別キャリアパスを参考に、自事業所版を作成します。
ステップ3:処遇改善加算上位区分の段階的取得を計画(実施期間:3~6ヶ月 / 難易度:高)
現在がⅢ以下の場合:まず現在の要件確認を行い、加算Ⅰ取得に向けた準備を開始します。
準備内容:職場環境改善計画の策定(28項目のチェックリストを厚労省が提供)、キャリアパス明示書の作成、研修実施計画の策定、賃金体系の明確化。
申請準備:毎年度の加算申請は3月中に完了する必要があるため、逆算スケジュール(前年度10月から準備開始)を設定。都道府県に相談しながら、要件漏れがないか確認します。
効果測定:加算取得後、給与改善が職員のモチベーションと定着率にどう影響するかを3ヶ月ごとに測定。改善実績を採用広報に活用します。
よくある質問(FAQ)
Q1:処遇改善加算の上位区分を取得すると、給与は本当に上がるのか?
A:上がります。加算Ⅰの場合、月額4,000~6,000円程度の給与改善が見込まれます。ただし、加算額をすべて給与に充当するわけではなく、職場環境改善費や研修費に一部充当することも可能です。毎年の加算改定により、金額は変動します。
Q2:入門研修修了者を採用した場合、追加研修が不要か?
A:入門研修は基礎知識習得であり、事業所独自の業務マニュアル教育や実技指導は別途必要です。ただし、介護職員初任者研修修了者と比べ、基礎教育時間が短いため、配置適応期間が若干長くなる可能性があります。入門研修修了者向けの育成プログラムを準備しておくことをお勧めします。
Q3:外国人材の受け入れは、小規模事業所でも可能か?
A:可能性はありますが、言語研修、文化適応支援、生活支援などの投資が必要です。特定技能資格を持つ外国人材であれば、一定の日本語能力(N4レベル)を保有しているため、比較的導入がしやすい傾向があります。まずは自治体の経済労働部門に相談することをお勧めします。
Q4:認証評価制度の取得に、どの程度の投資が必要か?
A:取得申請そのものは無料または数千円程度ですが、認証要件を満たすための投資(キャリアパス制度整備、研修体制構築、職場環境改善)が別途必要です。ただし、これらの投資は採用競争力強化や定着率向上につながるため、長期的には十分に回収可能です。
Q5:潜在介護人材の再就職準備金は、全員が利用できるのか?
A:自治体の設定した要件を満たす必要があります。例えば「過去3年以内に介護職を離職した者」「県内での就業を約束する者」などの条件が一般的です。詳細は都道府県社会福祉協議会に問い合わせが必須です。
まとめ
厚生労働省のデータが示す「2026年度240万人必要、年間6万3,000人の確保が必須」という現実は、単なる統計ではなく、事業所が今から対策を講じるための警告です。
処遇改善加算の上位区分取得、入門研修修了者の活用、潜在人材復職支援、認証評価制度取得、外国人材受け入れの検討——これら5つの施策は、すべて厚生労働省が整備した支援ツールです。事業所がこれらを戦略的に組み合わせることで、2026年度以降の人材確保が現実的になります。
今から準備を開始し、自地域の福祉人材センターや社会福祉協議会との連携を強化することが、経営継続と利用者サービス品質維持の鍵になります。

