介護離職対策とは、家族の介護を理由とした離職を防ぐための制度整備と職場環境づくりです。 年間約10.6万人が介護・看護を理由に離職し、その過半数が支援制度を利用せずに退職しています。しかし、適切な対策により仕事と介護の両立は十分可能です。
本記事では、コストゼロから始められる介護離職対策を5ステップで解説します。2025年4月施行の法改正対応、助成金活用、優先順位別の実践方法まで、企業規模を問わず明日から実行できる具体的アクションを提示。厚生労働省データに基づき、企業と従業員双方が同時に進められる実践的な対策をご紹介します。
介護離職の現状と企業が対策すべき3つの理由
深刻化する介護離職の実態
総務省「令和4年就業構造基本調査」によると、介護離職者は年間約10.6万人で、5年前の9.9万人から約7%増加しています。介護をしている人は約629万人で、うち6割近くが働きながら介護を行っている状況です。
特に注目すべきは、離職者の54.7%が支援制度を利用していないという調査機関による調査結果です。制度は整備されているのに活用されていない実態が、介護離職の最大の課題といえます。
企業が介護離職対策に取り組むべき3つの理由
①貴重な人材の流出防止
介護離職者の多くは40〜50代の働き盛り世代です。特に50代女性では離職率が4.9%に達し、管理職や専門職が抜けることで組織への影響は計り知れません。採用・育成コストの増大、ノウハウ流出など、経済的損失は年間約9.1兆円と試算されています(経済産業省)。
②法令遵守と助成金活用
2025年4月施行の改正育児・介護休業法により、企業には以下が義務化されました:
- 介護に直面した従業員への個別周知・意向確認
- 40歳到達時等での情報提供
- 相談窓口設置等の雇用環境整備
適切な対策を講じれば、介護休業取得で最大40万円、介護両立支援制度利用で20〜25万円の助成金を受給できます。
③健康経営と採用競争力の強化
2025年度の健康経営優良法人認定要件に「仕事と介護の両立支援」が追加されました。介護支援体制の整備は、従業員の心理的安全性を高め、企業イメージ向上により採用競争力も強化されます。
【5ステップ実践ガイド】優先順位別の介護離職対策
STEP1【コストゼロ対策】今日から始められる基本施策(所要時間:2週間)
企業側アクション
①制度の棚卸しと法改正対応チェック(3時間)
- 就業規則で介護休業(通算93日、3回分割可)、介護休暇(年5〜10日、時間単位可)の規定を確認
- 2025年4月改正で「勤続6ヶ月未満の除外」が廃止されたか確認
- 短時間勤務、残業免除、深夜業制限の規定を点検
②簡易ガイドの作成(2時間)
- 厚生労働省のリーフレットをベースにA4片面1枚にまとめる
- 自社制度、相談窓口、地域包括支援センター連絡先を追記
- 社内掲示板またはメールで全従業員に配布
③管理職への周知(1時間)
- 朝礼やミーティングで「介護相談は遠慮なく」とメッセージ
- 「介護で休むことは評価に影響しない」と明言
- 上司自身が介護の話をしやすい雰囲気をつくる
従業員側アクション
①地域包括支援センターの場所確認(15分)
- 自宅近くと親の居住地のセンターを検索
- 連絡先をスマートフォンに登録
- 営業時間と相談可能な内容を確認
②家族との事前対話(1時間)
- 親・配偶者の健康状態、かかりつけ医を確認
- 兄弟姉妹間で介護分担の意向を話し合う
- 「もしも」のときの連絡体制を決める
③会社の制度確認(30分)
- 就業規則やイントラネットで介護支援制度を確認
- 人事担当者の連絡先をメモ
- 同僚で介護経験者がいれば体験談を聞く
STEP2【低コスト対策】月3〜5万円で実施できる充実施策(開始時期:1ヶ月後)
企業側アクション
①40歳到達者への情報提供体制(初期費用3万円)
- 40歳誕生日の従業員に自動で介護ガイドを送付するシステム設定
- 人事面談時に介護状況を軽く確認する質問項目を追加
- 介護保険制度の基礎知識パンフレットを配布
②外部相談支援サービスとの単発相談契約(月3万円〜)
- 従業員が匿名で介護相談できる外部窓口を設置
- 電話・メール・オンライン面談に対応
- 介護だけでなくメンタルヘルスケアも含む
③社内セミナーの実施(年2回、1回5万円)
- 社会保険労務士やケアマネジャーを外部講師として招聘
- 介護保険制度、介護休業制度、ケアプラン作成の流れを解説
- 管理職向けと従業員向けを別々に実施
従業員側アクション
①定期的な親の健康確認(月1回)
- 電話やビデオ通話で親の様子を確認
- 体調変化、忘れ物が増えたなどの兆候に注意
- 年1回は実家訪問で家の状態もチェック
②介護保険制度の基礎学習(2時間)
- 自治体の介護保険パンフレットを読む
- 要介護認定の流れ、サービス内容、自己負担額を理解
- 親が65歳以上なら認定申請のタイミングを把握
③職場での関係性構築(継続)
- 上司や同僚と日常的にコミュニケーション
- 「将来親の介護があるかも」と軽く話題にする
- 他の従業員の介護体験談を聞く機会を作る
STEP3【2025年法改正対応】義務化項目の実施(期限:すでに施行済み)
企業が義務として実施すべき対策
①個別周知と意向確認(申出から1週間以内)
従業員から「家族の介護が必要になった」と申出があった場合、以下を個別に周知:
- 介護休業制度(通算93日、3回分割可能)
- 介護休暇(年5日または10日、時間単位取得可)
- 短時間勤務(3年以上、2回以上利用可)
- 残業免除、時間外労働制限、深夜業制限
- 介護のためのテレワーク(努力義務)
面談または書面で利用意向を確認し、制度利用を控えさせるような言動は厳禁です。
②雇用環境整備(以下のいずれか、複数推奨)
- 介護休業・両立支援制度に関する研修の実施
- 相談窓口の設置(人事担当者や外部相談サービス)
- 制度利用事例の収集と社内共有
- 制度利用促進に関する経営層メッセージの発信
③40歳到達時の情報提供(年度内または誕生日から1年以内)
- 介護休業・介護休暇制度の概要説明
- 介護保険制度の基礎情報
- 相談窓口の案内
- 地域包括支援センターの役割説明
STEP4【中期対策】柔軟な働き方の整備(開始時期:3〜6ヶ月後)
企業側アクション
①フレックスタイム制度の導入
- コアタイムを10〜15時に設定し、始業・終業時刻を柔軟化
- デイサービスの送迎時間(8〜9時、16〜17時)に対応可能に
- 導入には就業規則変更と労使協定締結が必要
②テレワーク制度の拡充
- 週1〜2日のテレワークを認める
- 緊急時(親の急な体調悪化等)は当日申請も可能に
- 業務によってはフルリモートも検討
③介護休暇の時間単位取得の徹底周知
- 1時間単位で取得可能であることを再周知
- 通院付き添い、ケアマネジャー面談等で気軽に利用を促す
- 申請手続きを簡素化(メールやチャットで完結)
従業員側アクション
①ケアマネジャーとの連携強化
- 要介護認定後、ケアマネジャーに「仕事を続けたい」と明確に伝える
- 勤務時間、出張頻度、在宅勤務の可否を具体的に共有
- デイサービス、訪問介護、ショートステイを組み合わせたケアプラン作成
②介護サービスのフル活用
- 「自分で介護しすぎない」ことを意識
- 24時間対応サービスも検討
- ケアプランは状況に応じて見直しを依頼
③家族内の役割分担
- 兄弟姉妹間で介護負担を再配分
- 遠距離介護の場合、交代制での帰省スケジュール
- 「一人で抱え込まない」意識の徹底
STEP5【長期投資】持続可能な支援体制の構築(開始時期:6ヶ月〜1年後)
企業側アクション
①介護離職防止支援の助成金申請
- 介護休業取得:40万円
- 介護両立支援制度利用:20〜25万円
- 代替要員確保:20万円
- 業務代替者への手当:3〜5万円
社会保険労務士に依頼すれば10〜15万円の報酬で代行可能。初回申請で5〜10時間の作業量です。
②定期的なフォローアップ面談(3ヶ月ごと)
- 介護状況の変化、制度利用状況、心身の健康状態を確認
- 必要に応じて勤務形態を見直し
- メンタルヘルス不調の早期発見と産業医面談の案内
③介護相談専門家制度の導入(年間50〜100万円)
- 介護離職防止対策アドバイザーと常時相談契約
- ケアマネジャーとの直接連携体制
- 従業員の介護状況に応じた個別支援
従業員側アクション
①ケアプランの定期見直し(3〜6ヶ月ごと)
- ケアマネジャーとの定期面談で介護状況の変化を共有
- サービス内容の追加・変更(通所回数増加、訪問看護追加等)
- 要介護度の変更申請(状態悪化時)
②自分自身のケア(継続)
- 有給休暇の計画的取得で心身をリフレッシュ
- 趣味や友人との交流時間を確保
- 必要に応じてカウンセリングや相談サービス利用
③会社への状況報告(随時)
- 介護状況の大きな変化(入院、施設入所等)は速やかに報告
- 短期集中的な介護が必要なら介護休業の活用を検討
- 日常的な通院付き添いは介護休暇の時間単位取得を活用
企業規模別・予算別の実践プラン
小規模企業(従業員50名未満)の選択肢
予算ゼロ円プラン
- 厚生労働省リーフレットの配布
- 就業規則への介護休業規定追加(法令遵守の最低ライン)
- 経営支援機関の無料セミナー活用
予算10万円プラン
- 簡易版介護支援ガイド作成(A4×2枚)
- 外部講師による社内セミナー1回開催
- 従業員アンケート実施でニーズ把握
中規模企業(従業員50〜300名)の選択肢
年間予算30万円プラン
- 年2回の社内セミナー開催
- 外部相談支援サービスとの契約
- 制度利用状況の定期レポート作成
年間予算50万円プラン
- 専任相談窓口担当者の配置(兼任可)
- イントラネット専用ページ開設と定期更新
- 管理職向け研修の実施(年1回)
大規模企業(従業員300名以上)の選択肢
年間予算100万円以上プラン
- 介護相談専門家制度(専門家との常時相談契約)
- ケアマネジャーとの直接連携体制
- 介護サービス利用料の一部補助制度
- 介護離職率・制度利用率のKPI化と経営会議報告
よくある質問(FAQ)
Q1. 「まだ親は元気」という従業員に、どう情報提供すべきですか?
A: 強制的な情報提供は逆効果です。40歳・50歳の節目で「将来に備えた情報」として全員一律に配布する方法が効果的。「あなたが対象」ではなく「誰でも起こりうる」と伝えることで心理的抵抗を減らせます。
Q2. 介護休業93日では足りないのでは?平均介護期間は49.4ヶ月なのに。
A: 介護休業は「介護に専念する期間」ではなく「介護体制を整える期間」です。93日で要介護認定申請、ケアマネジャー面談、サービス契約を行い、日常的介護は介護保険サービスに委ねます。通院付き添い等は介護休暇(年5〜10日、時間単位可)や短時間勤務を活用します。
Q3. 代替要員確保が困難な小規模企業はどうすれば?
A: ①業務の優先順位付けと一時的削減、②チーム内での業務再配分、③短期派遣スタッフ活用、④テレワーク・フレックス導入で「完全休業」ではなく「時間をずらして勤務」が選択肢です。助成金(代替要員確保で20万円)の活用も検討しましょう。
Q4. 管理職が「制度を使われると困る」と言います。意識改革の方法は?
A: 管理職自身が「介護は他人事ではない」と認識することが第一歩。40〜50代管理職の多くが数年以内に介護に直面する可能性をデータで示し、管理職向け研修を実施。「制度利用=評価低下」ではないことを人事評価基準で明文化し、経営層からメッセージ発信も重要です。
Q5. 助成金申請は複雑で手間がかかりそう。実際の労力は?
A: 社会保険労務士依頼で10〜15万円の報酬。自社実施でも必要書類は就業規則、制度利用実績、賃金台帳等で、初回5〜10時間程度。最大40万円の助成金受給を考えれば費用対効果は高いです。中小企業事業者のみが対象で、各制度で1事業者につき5人まで受給可能です。
まとめ:介護離職対策は「準備8割、実行2割」
介護離職対策の成功の鍵は、「介護が始まる前の準備」にあります。企業は40歳時点での情報提供と相談窓口整備、従業員は家族との事前対話と地域資源リサーチを行うことで、突然の介護にも慌てず対応できます。
今日から始める3つのアクション:
- 企業は「コストゼロ対策」から着手し、段階的に充実化
- 従業員は地域包括支援センターの場所確認と家族対話
- 2025年法改正の義務化項目を最優先で対応
介護離職は「起きてから対応」では遅すぎます。本記事の5ステップを優先順位順に実践し、企業と従業員が協力して仕事と介護の両立を実現しましょう。明日からではなく、今日から準備を始めることが、介護離職ゼロへの第一歩です。

