介護施設の職員不足は「訪問介護」「施設介護」で異なる─地域別データと対策

福祉経営

介護施設の職員不足は訪問介護と施設介護で深刻度が異なり、同じ対策では効果がありません。 2026年度時点で全国で約28万人の職員不足が見込まれていますが、その内訳は訪問介護81.4%、施設介護65.9%と職種で大きく異なります。

さらに関東・近畿では訪問介護員不足が83%に達する一方、地方では低い傾向。

この記事では、職種別・地域別の職員不足の実態、不足による現場の具体的リスク、施設種別に応じた対策を解説します。自施設の状況を正確に把握し、優先順位を決めて対応することで、職員定着と採用の効率が劇的に向上します。

介護施設の職員不足、訪問介護と施設介護で大きく異なる

職種別の不足率の違い

介護労働安定センターの2023年度調査によると、全介護施設の64%が職員不足を感じています。しかし、その中身は職種で異なります。

訪問介護職員:81.4%の施設が不足を報告
訪問介護は移動負担が大きく、夜間や早朝勤務も多いため、離職率が高い傾向です。また、訪問先での利用者との人間関係ストレスも施設勤務より大きい傾向があります。

結果として、採用しても定着しないという悪循環に陥っており、一部の地域では「求職者1人に対し求人10件以上」という極端な人手不足に直面しています。

施設介護職員:65.9%の施設が不足を報告
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設などの施設職員の不足は相対的に緩和傾向です。理由は、施設職員は常勤化率が高く、給与・福利厚生面で改善が進みやすいためです。

ただし、中小規模施設(定員30~50名)は依然として深刻な不足に直面している施設が多く、規模別で対策の優先度が異なります。

地域別の職員不足の実態

地域による職員不足の深刻度には大きな差があります。

訪問介護職員の不足率(地域別)
関東:83%(求人倍率が全国平均を大きく上回る)
近畿:81.4%
東北:79.2%(都市部より若干低い)
四国:79.9%

都市部での求人倍率は3~5倍に達し、採用競争が極めて激しい状況です。地方でも70%以上の施設が不足を感じており、全国どの地域でも深刻な課題であることがわかります。

施設介護職員の不足率(地域別)
北海道:73.1%(最も深刻)
・関東:70%前後
中部・近畿:60~65%
九州:相対的に低い傾向

北海道の深刻さは、高齢化率が全国で2番目に高い一方、労働人口が南下傾向にあることが要因と考えられます。

職員不足が施設運営にもたらす実害とリスク

リスク1:利用者サービス品質の低下

職員不足により、1人あたりの利用者対応時間が減少すると、介護の質が著しく低下します。

例えば、入浴介助は本来1人20~30分をかけるべき業務ですが、職員不足下では1人10分程度に短縮されることもあります。

その結果:
転倒・転落事故が増加(疲労による注意散漫)
利用者のADL(日常生活動作)が低下(体動補助不足)
クレーム・苦情が増加(対応時間不足)
施設の評判低下につながる

介護報酬にも直結し、質の低い施設は新規入居希望者が減少、収入悪化という負のスパイラルに陥ります。

リスク2:既存職員の過労と連鎖的な離職

人手不足で既存職員の負担が増加すると、その職員の離職につながり、さらに人手不足が深刻化するという悪循環が生まれます。

具体的には:
残業が月80~100時間に増加(本来40時間程度)
有給休暇が取得できず、疲労蓄積
腰痛・肉体疲労による健康問題(介護職の離職理由第2位)
メンタルヘルス悪化(離職理由第1位は「職場の人間関係」)

職員1人の離職で、その職員の業務が2~3名に分散されるため、残りの職員の負担がさらに増加し、次々と離職する「負のスパイラル」が形成されます。

リスク3:実施できないサービス提供の拡大

職員不足により「提供すべきサービスができない」という状況が生まれます。

例えば:
要介護度が高い利用者の受け入れを制限
夜勤体制の維持が困難(特に訪問介護)
レクリエーション・リハビリが実施できない
入浴回数の制限(週1~2回に)

結果として、施設の収入は利用者数×介護度 の関数となるため、受け入れできる利用者の介護度が低下するとサービス報酬も低下します。

職員不足の根本原因とそれぞれの対策

原因1:賃金水準の低さ(勤続年数別分析)

介護職員の平均給与は全産業平均より約70万円低い330万円程度です。さらに問題なのは、勤続年数による給与差が極めて小さい点です。

勤続年数別給与差
・勤続1年:年収約310万円
・勤続10年:年収約370万円
・給与差:約60万円(約20%の上昇)

対比すると、他業種では同じ勤続年数で年収が1.5~2倍に増える傾向です。つまり、介護職は「いくら経験を積んでも、給与が大きく上がらない」という現実が、職員のモチベーション低下につながっています。

対策:国の処遇改善加算の活用
厚生労働省の「介護職員等処遇改善加算」「介護職員特定処遇改善加算」により、2019年以降月額平均5.7万円の給与改善が実現しています。

実装方法:
1.処遇改善加算Ⅰ~Ⅲの算定率向上:全施設の81.7%が算定しているが、居宅系サービスでは57.9%にとどまる
2.キャリアパス制度の整備:資格取得者への手当増額、役職手当の明確化
3.勤続10年以上職員への月額8万円処遇改善:2024年4月より適用

    これらを活用すれば、新規採用職員と経験職員の給与差を広げられ、職員の定着を促進できます。

    原因2:職場の人間関係(最大の離職理由)

    介護労働安定センターの調査では、介護職員の離職理由第1位は「職場の人間関係に問題があった」(23.2%)です。

    給与以上に、「同僚や上司との関係が悪い」「施設の方針や運営に不満がある」といった職場環境が、職員の離職を招きます。

    対策1:相談窓口の設置
    相談窓口がない施設は、労働条件に関する悩みが蓄積しやすく、離職につながりやすい傾向です。

    実装方法(3段階):
    1.第1段階:外部相談窓口の利用(費用:月5~10万円)→ 秘密性が保たれ、職員の相談しやすさが向上
    2.第2段階:施設内相談員の配置(研修費:5~20万円)→ 日常的なアクセスが容易
    3.第3段階:定期面談制度の導入(費用:ほぼ0)→ 管理職が主導的に職員の悩みを聴取

    対策2:ユニットケアの導入
    入居者10名程度を1ユニットとし、同じメンバーの職員がケアに当たる「ユニットケア」の導入により、従来の大規模集団ケアの閉鎖的な人間関係が改善されます。

    効果:職員間のコミュニケーションが自然に増え、孤立感が減少。職場の人間関係が改善された施設では、人間関係を理由とした転職希望者が「0名」になった事例もあります。

    導入期間:3~6ヶ月、初期投資:施設改修で数百万円~数千万円

    原因3:肉体的・精神的負担(3K のイメージ)

    介護職は「きつい・汚い・危険」という3Kのイメージが根強く、新規参入者が減少しています。

    実際の離職理由には「腰痛などの身体的疲労」「メンタルヘルス悪化」が上位を占めます。

    対策1:福祉用具・介護ロボットの導入
    介護記録の電子化、移乗支援ロボット、見守りセンサーなどの導入により、職員の身体的負担が30~50%削減されます。

    例:
    電子記録化で記入時間30%削減(月30~40時間削減)
    見守りセンサー導入で夜間巡回を40%削減
    移乗支援ロボット導入で腰痛発症率を30%低減

    初期投資:月5~15万円(リース)

    対策2:労働時間の適正化と有給休暇取得の促進
    シフト管理アプリの導入により、職員の希望休暇・制約条件が自動反映され、無理なシフトが減少。結果として有給休暇取得率が向上し、職員の心身疲労が軽減されます。

    効果:有給休暇取得率が年30日以上の施設は、離職率が平均より20%低い傾向が報告されています。

    よくある質問(FAQ)

    Q1:訪問介護と施設介護の不足対策は同じ?

    A: いいえ、異なります。訪問介護は移動・時間制約が大きいため、「柔軟な勤務時間」や「交通費補助」が有効です。施設介護は「職場の人間関係改善」と「キャリアパス整備」が有効。職種に応じた対策設計が必須です。

    Q2:給与を上げても、職員が定着しないのはなぜ?

    A: 離職理由の第1位は「職場の人間関係」で、給与は5位以下です。給与改善と同時に「相談窓口設置」「職場環境改善」「キャリアパス整備」を並行実施しることが重要。給与だけでは不十分です。

    Q3:中小施設(定員30名以下)でも、ユニットケア導入は可能?

    A: 可能です。ユニットケアは10名程度を1グループとするため、中小施設むしろ導入しやすい傾向です。ただし、管理体制や職員研修が必要(3~6ヶ月)。段階的導入で対応可能です。

    Q4:地方の施設が都市部と同じ給与を出すことは難しいが、どうするべき?

    A: 給与以外の「働きやすさ」「人間関係」「成長機会」をアピールすることで、採用競争で差別化できます。都市部職員の「Uターン採用」「子育て中の親向けの時短勤務」など、給与以外の福利厚生強化が有効です。

    Q5:職員不足で「サービス提供できない」状況は改善できるのか?

    A: はい。相談窓口設置(2週間)→ユニットケア導入検討(1ヶ月)→業務改善(3ヶ月)→採用強化(継続)という段階的アプローチで、3~6ヶ月で改善の兆候が見られます。相談窓口設置が最初のステップです。

    コツと注意点

    よくある失敗例3パターン

    失敗例1:給与改善に頼りすぎて、職場環境改善を怠る
    処遇改善加算で給与を5万円上げた施設でも、職場の人間関係が劣悪なら職員は1年以内に辞めてしまいます。給与改善と職場環境改善は「両輪」が必須。

    対策:処遇改善と同時に相談窓口を設置。職場改善施策と給与改善施策を同期させる。

    失敗例2:採用に注力し、既存職員の負担が増加する
    採用を頑張ったが、新人育成に手が回らず、既存職員の負担が増加。その結果、既存職員が疲弊して辞めてしまう。

    対策:「定着→効率化→採用」の優先順位を守る。新規採用数より既存職員の定着を優先。

    失敗例3:施設規模に合わない対策を実施
    大規模施設向けの「見守りロボット導入」を中小施設で実施しても、費用対効果が低い。施設規模に応じた現実的な対策が必須。

    対策:相談窓口・シフト管理アプリなど、費用対効果が高い施策から開始。

    福祉業界特有の注意点

    介護職員の高年齢化が進んでいます。60歳以上の職員が業界全体の21.6%に達する中、「シニア向けの働き方」設計が重要になります。

    例:短時間正職員制度、デスク業務への配置転換、体動支援が少ない配置調整など。

    まとめ

    1. 職員不足は訪問介護(81.4%)と施設介護(65.9%)で異なり、地域別にも大きな差がある。
    自施設の状況(職種・地域・規模)を正確に把握することが、対策立案の第一歩です。

    2. 離職理由は「給与」より「人間関係」が第1位。
    給与改善と同時に相談窓口設置・職場環境改善が必須。給与だけでは職員定着につながりません。

    3. 優先順位は「定着→効率化→採用」の順。
    相談窓口設置(2週間)から始め、3~6ヶ月で改善効果が見られます。今すぐ相談窓口設置を検討してください。

    職員不足は一朝一夕には解決しません。しかし、優先順位を決めて段階的に実行すれば、3~6ヶ月後には確実に改善が見られます。自施設の現状を分析し、次のアクションを決めることから始めましょう。

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