「うちの施設も人が足りない」「求人を出しても応募がない」──介護現場では、こうした悲鳴が日常化しています。
高齢化による介護士不足は深刻です。厚生労働省の推計では、2025年に約32万人、2040年には約57万人の介護職員が不足します。主な原因は、需要の急増・低賃金・身体的負担の3つです。
本記事では、厚労省データをもとに介護士不足の実態を解説し、都市部・地方、大規模・小規模施設別に実行可能な5つの優先対策を「費用・効果・即効性」で評価。今日から始められる3ステップも提示します。
介護士不足の現状|2040年に57万人不足の衝撃
需要と供給のギャップが拡大
厚生労働省「令和2年衛生行政報告例」によると、2020年時点で看護師の就業者総数は128万人。しかし、介護分野で働く職員はわずか約60万人に過ぎません。
一方、要介護認定者数は増加の一途を辿っています。2021年には約690万人に達し、2040年には約1,000万人を超えると推計されます。
厚労省の需給推計では、2025年度に約243万人、2040年度には約280万人の介護職員が必要とされる一方、実際の供給は2025年に約211万人(約32万人不足)、2040年には約223万人(約57万人不足)と見込まれています。
有効求人倍率は全産業平均の3倍超
介護分野の有効求人倍率は、2023年度時点で3.97倍。全産業平均の約1.3倍と比較すると、約3倍の高水準です。つまり、介護職1人の求職者に対し、約4つの求人が競合している状態です。
さらに深刻なのは、2023年10月時点の介護職員数が212.6万人と、前年度比2.8万人減少した点です。需要が増える一方で、供給は減少に転じています。
地域差も顕著
都市部と地方では、不足の様相が異なります。都市部(大都市圏)では高齢者数の急増による「需要急増型」不足が深刻化。一方、地方では若年層の流出により「供給枯渇型」不足が既に常態化しています。
介護士不足を招く5つの根本原因
①少子高齢化による需要急増と労働人口減少
日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は、2023年時点で29.1%。2040年には35%を超えると予測されます。一方、生産年齢人口(15〜64歳)は減少を続け、介護職の担い手となる若年層が構造的に不足しています。
②他業種と比較して低い賃金水準
厚労省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」によると、介護職員の平均月給は約27.7万円(常勤、処遇改善加算等を含む)。全産業平均の約32万円と比較すると、約4万円低い水準です。
この賃金差が、「介護の仕事に関心はあるが、生活を考えると選べない」という若者の声につながっています。
③身体的・精神的負担の大きさ
入浴介助、移乗介助など身体介護の負担は大きく、腰痛などの職業病リスクも高まります。また、夜勤や不規則なシフト、人間関係のストレスも離職要因となっています。
実際、介護職の離職率は約13.6%(令和4年度)と、全産業平均の約11%を上回ります。特に入職3年以内の離職が多く、「早期離職→人手不足の悪循環」を生んでいます。
④社会的評価の低さとネガティブイメージ
「きつい・汚い・危険」の3K職場というイメージが根強く、若者の就職先候補から外れがちです。また、専門性が正当に評価されず、「誰でもできる仕事」と誤解されるケースもあります。
⑤都市部と地方の格差
都市部では求人競争が激化し、「より高給与・好条件の施設」への人材集中が起きています。一方、地方では若年人口の減少と都市部への流出により、そもそもの求職者数が不足しています。
今日から始める5つの優先対策|費用・効果・即効性で評価
介護士不足への対策を
・費用(導入コスト)
・効果(不足解消度)
・即効性(効果が出るまでの期間)
の3軸で評価しました。
①処遇改善:賃金・福利厚生の見直し
【費用:中/効果:高/即効性:中】
具体策:
・処遇改善加算の最大限活用(月給3〜4万円アップ可能)
・資格取得支援制度の導入(受験料・研修費用の補助)
・住宅手当・交通費全額支給など福利厚生の充実
・昇給・賞与の透明化とキャリアパス明示
効果事例:
小規模特別養護老人ホーム(職員20名)では、処遇改善加算フル活用と資格手当増額により、離職率が18%→12%に改善。新規応募数も前年比1.8倍に増加しました。
注意点:
単に給与を上げるだけでは不十分。「将来的に〇〇円まで昇給可能」といった明確なキャリアパスの提示が重要です。
②働きやすい環境づくり:業務効率化とシフト柔軟化
【費用:低〜中/効果:高/即効性:高】
具体策:
・ICT導入による記録業務効率化(タブレット・音声入力等)
・シフトの柔軟化(短時間正社員、希望シフト制、夜勤専従スタッフ採用)
・職員の意見を反映した業務改善会議の定例化
・介護助手・清掃スタッフの活用で専門職の負担軽減
効果事例:
中規模デイサービス(職員15名)では、介護記録のタブレット化により記録時間が1日1時間→20分に短縮。残業が月平均15時間削減され、職員満足度が大幅に向上しました。
小規模施設向けのコツ:
ICT導入は補助金活用で初期費用を抑制可能(IT導入補助金で最大450万円補助)。まずは記録業務の電子化から始めましょう。
③外国人材の受入れ:EPA・技能実習・特定技能の活用
【費用:高/効果:中〜高/即効性:低】
具体策:
・EPA(経済連携協定)介護福祉士候補者の受入れ
・技能実習制度・特定技能制度の活用
・日本語学習支援・生活サポート体制の整備
・文化理解研修の実施(職員・利用者向け)
効果事例:
大規模特別養護老人ホーム(職員80名)では、EPA制度で外国人材3名を受入れ。手厚い日本語サポートと職場定着支援により、3年後の国家試験合格率100%を達成。現在7名が活躍中です。
失敗パターンと対策:
× 「来てもらえばなんとかなる」→ ○ 受入れ前の環境整備(言語サポート、指導担当者配置、生活相談窓口)が必須。初期投資(1人あたり50〜100万円)をケチると定着せず、結果的に高コストになります。
④未経験者・潜在介護士の掘り起こし
【費用:低/効果:中/即効性:中】
具体策:
・「未経験歓迎・資格取得支援あり」を前面に出した求人
・潜在介護士(資格保有・業界離脱者)向けの復職支援(ブランク研修、短時間勤務)
・地域の主婦層・シニア層への介護助手募集
・ハローワーク・福祉人材センターとの連携強化
効果事例:
地方の小規模グループホーム(職員12名)では、「未経験OK・週3日〜OK」の柔軟募集により、子育て中の主婦3名の採用に成功。介護助手として雇用後、資格取得支援で1年後に介護福祉士候補に成長しました。
⑤職場のイメージアップ・情報発信強化
【費用:低/効果:中/即効性:低】
具体策:
・SNS・ホームページでの職場風景・職員インタビュー発信
・職場見学会・体験イベントの定期開催
・地域の学校・大学との連携(職業体験受入れ)
・メディア掲載・表彰制度への応募
効果事例:
都市部の中規模特別養護老人ホーム(職員50名)では、SNS・動画配信で「1日の仕事の流れ」「先輩職員の声」を発信。ホームページ経由の応募が前年比2.5倍に増加しました。
小規模施設のコツ:
プロ並みの動画は不要。スマートフォンで撮影した「現場のリアル」の方が共感を呼びます。週1回、10分程度の作業で継続できます。
地域別・施設規模別の優先対策マトリクス
都市部×大規模施設(職員50名以上)
優先順位:①処遇改善→②働きやすい環境→③外国人材受入れ
- 求人競争が激しいため、賃金・福利厚生の充実が最優先
- ICT投資の体力があるため、大規模導入で効率化を図る
- 外国人材受入れ体制(研修担当者・サポート部門)を整備可能
都市部×小規模施設(職員20名未満)
優先順位:①働きやすい環境→②処遇改善→④未経験者掘り起こし
- 給与面で大手に勝てないため、「働きやすさ」で差別化
- シフト柔軟化・残業ゼロ・人間関係の良さをアピール
- 地域密着の強みを活かし、主婦層・シニア層を積極採用
地方×大規模施設
優先順位:③外国人材受入れ→①処遇改善→⑤イメージアップ
- 若年求職者の絶対数が不足しているため、外国人材が現実的
- 地域内で「あの施設は給与が良い」という評判づくり
- 地域の学校と連携し、将来の人材確保ルートを構築
地方×小規模施設
優先順位:④未経験者掘り起こし→②働きやすい環境→⑤イメージアップ
- 地域の主婦層・シニア層を介護助手として積極活用
- 「顔の見える関係」「アットホームな職場」を強みに
- 口コミ・地域イベント参加で認知度向上
FAQ|介護士不足に関するよくある質問
Q1. 小規模施設でも外国人材の受入れは可能ですか?
A. 可能ですが、ハードルは高めです。EPA・技能実習は受入れ人数や要件が厳しく、小規模では特定技能制度の活用が現実的です。
ただし、日本語学習支援や生活サポートの体制整備が必須で、初期費用は1人あたり50〜100万円程度。複数施設での共同受入れや、監理団体・登録支援機関の活用を検討しましょう。
Q2. 処遇改善の効果が出るまでどれくらいかかりますか?
A. 給与改善を実施してから、応募数の増加や離職率の低下が実感できるまで、3〜6ヶ月程度が目安です。
ただし、「昇給した」という情報が地域に広まるには時間がかかるため、求人サイトやSNSでの積極的な情報発信が重要です。同時に、既存職員への周知と納得感の醸成も忘れずに。
Q3. ICT導入の費用はどれくらいかかりますか?
A. 介護記録ソフトの場合、初期費用10〜50万円、月額利用料は職員1人あたり500〜2,000円が相場です。
ただし、IT導入補助金(最大450万円)やICT導入支援事業(自治体による補助)を活用すれば、実質負担を大幅に抑えられます。まずは自治体の窓口や福祉関連団体に相談を。
Q4. 未経験者を採用する際の注意点は?
A. 未経験者は即戦力にならないため、研修・OJT体制の整備が必須です。指導担当者を明確にし、「3ヶ月で基礎業務習得」など段階的な目標設定を。
また、初任者研修・実務者研修の受講費用を施設が負担する制度を作ると、採用しやすくなります。未経験者の成長を見守る余裕がない場合は、介護助手(資格不要業務のみ)からスタートする方法も有効です。
Q5. 地方で若者が全く応募してきません。どうすれば?
A. 若者に固執せず、ターゲットを多様化しましょう。
具体的には、
①子育てが一段落した40〜50代の主婦層
②定年後も働きたいシニア層(介護助手として)
③Uターン・Iターン希望者(住宅支援とセットで訴求)
④外国人材
の4つです。
また、地域の高校・専門学校と連携し、奨学金返済支援制度を設けるなど、長期的な人材確保ルートの構築も重要です。
まとめ|今日から始める3ステップ
高齢化による介護士不足は、2025年に32万人、2040年には57万人規模に達します。需要の急増、低賃金、身体的負担が主な原因です。
対策は
①処遇改善
②働きやすい環境づくり
③外国人材受入れ
④未経験者掘り起こし
⑤イメージアップ
の5つ。
費用・効果・即効性を踏まえ、自施設の状況に合わせた優先順位で取り組みましょう。
今日から始める3ステップ:
【今日】 自施設の離職理由を分析し、最優先課題(賃金?環境?人間関係?)を特定する
【今週中】 処遇改善加算の取得状況を確認し、未取得なら申請準備を開始。同時に、職員との1on1面談で「働きやすさ」の課題をヒアリング
【今月中】 優先対策(処遇改善 or 環境改善)の具体プランを作成し、職員に共有。並行して、ハローワーク・福祉人材センターに求人を出し直す
介護士不足は一朝一夕には解決しませんが、「できることから今日始める」姿勢が、1年後の状況を大きく変えます。

