2025年には介護職員が約32万人不足すると厚生労働省が予測しており、介護業界の人手不足は社会全体の危機です。本記事では、事業者が実際に講じるべき対策を段階的に解説します。
採用強化だけでなく、既存職員の定着促進が同時に必要な理由と、優先順位付きの実行ステップを紹介します。介護現場での経験に基づく現実的なアプローチで、人手不足の解消を目指しましょう。
介護業界の人手不足が深刻である根拠
必要職員数と現実のギャップ
2025年度には約243万人の介護職員が必要とされていますが、現状では大幅な不足が生じています。厚生労働省のデータによれば、2019年度時点で211万人だった介護職員数を基準とすると、2025年までに約32万人、2040年には約69万人の追加確保が必要です。
これは単なる増加ではなく、高齢化による介護需要の急増と、少子化による労働人口減少が同時に進むため、解決が非常に難しい構造的問題です。
求人倍率から見る深刻度
有効求人倍率の観点から見ると、介護関係職種は全業種平均を大きく上回っています。特に東京都では1人の求職者に対して約5件の求人がある状況で、求人数が求職者数を圧倒的に上回っています。
つまり、事業者側が「求める人数を採用できない」状態が常態化しているのです。さらに離職率も13.6%と高く、新規採用だけでは間に合わない現実があります。
人手不足が生じる主要3つの原因と事業者の対応策
少子高齢化による構造的問題
日本全体で高齢者人口が増加する一方、若年層が減少しています。高齢化率は2025年に約30%を超え、2055年には38%に達すると予測されています。このため、介護を必要とする高齢者が増える一方で、それを支える労働力が減り続けます。
この要因は国レベルの対策が必要ですが、事業者サイドでできることは、多様な人材(高齢者・女性・外国人)の積極採用です。
職場の労働環境と待遇の課題
介護職員の平均月給は約31.7万円で、全産業平均より低い水準です。加えて、身体的・精神的負担が大きく、人間関係のストレスが多いため、離職につながりやすい環境です。
調査によると離職理由の上位は「人間関係」(27.5%)で、次に「仕事内容のわりに賃金が低い」が続きます。これは給与引き上げと同時に、職場環境の整備が不可欠であることを示唆しています。
介護職に対するネガティブイメージ
「きつい・汚い・危険(3K)」というイメージが定着しており、特に若年層が敬遠する傾向があります。
実際に、未経験者の多くは「身体的負担が大きい」(41.0%)や「健康面での不安」(31.7%)を理由に応募をためらいます。事業者としては、イメージ払拭と実際の働きやすさの創造が同時に必要です。
事業者が実行すべき5ステップ実行メソッド
ステップ1:現状把握と課題分析(1~2週間)
最初に取り組むべきは、自施設の実態把握です。以下の3つを実行します。
職員アンケートの実施:
現在の職員に対し、「仕事の満足度」「改善希望事項」「離職危険因子」を無記名で調査します。所要時間は15~30分程度です。結果から、給与問題なのか人間関係なのか労働時間なのかを特定します。
離職者分析:
過去1年の離職者に対し、離職理由を整理します。経営層が認識している理由と実際の離職理由がズレていることが多いため、できれば退職者に簡潔なインタビューを行うと効果的です。所要時間は職員1人あたり10分程度です。
採用・定着状況の確認:
求人応募数、内定辞退率、新人3か月定着率などの数字を集計します。これらの数字が業界平均(有効求人倍率3~5倍)と比べてどうなのか把握することが、対策の優先順位を決める鍵になります。
つまずきやすいポイント:職員アンケートで本音が聞き出せない場合があります。対処法として、管理職ではなく人事担当者や外部コンサルタントが実施すると回答率が上がります。
ステップ2:離職防止対策の設計(2~3週間)
新規採用の前に、既存職員の定着を強化することが重要です。「穴の開いたバケツに水を注ぐ」状態では、採用費用が無駄になるためです。
処遇改善の具体化:
給与引き上げが難しい場合、前払い給与サービスの導入や家賃補助の追加、研修参加時間の有給化などを検討します。現実的には月1~3万円の改善で、離職率が5~10%低下する施設事例があります。所要時間は検討会議3~4回程度です。
労働環境改善計画:
残業時間の削減目標を設定します。例えば「月平均10時間以内」という具体的なKPIを決め、シフト管理ツールを導入することで達成可能になります。有給休暇の取得率目標も同時に設定し、「年60日中40日以上」などの数字を掲げます。
ユニットケア導入検討:
10人程度を1ユニットとし、同じメンバーで生活・ケアを行う方式です。導入に6~12か月かかりますが、職員の人間関係改善と入居者満足度向上の両立が可能です。スモールスタートで1ユニットから始めるのが現実的です。
つまずきやすいポイント:既存システムとの矛盾が生じます。対処法として、1つの施設改革チームを作り、経営層・職員代表・事務職で定期的に進捗を確認する体制を整えます。
ステップ3:採用戦略の多元化(4週間)
採用チャネルを単一化せず、複数の手段を同時展開します。
求人広告の工夫:
タイトルに「未経験OK」「資格不問」など具体的条件を明記し、福利厚生の詳細(家賃補助額・研修制度内容)を記載します。職場の写真や職員インタビュー動画を掲載すると、応募率が30~50%向上します。所要時間は原稿作成2週間程度です。
採用チャネルの拡張:
ハローワークだけでなく、求人サイト(複数登録)、人材派遣、転職フェア、SNS発信などを組み合わせます。特に離職率が高い地域は5つ以上のチャネルを使い分けることが重要です。各チャネル管理に月10~15時間程度必要です。
職場体験・説明会の定期開催:
月1~2回程度、見学会や1日体験を実施します。「働くイメージが沸く」ことで、応募ハードルが大幅に低下します。実施コストは1回当たり2~3時間の職員時間です。
つまずきやすいポイント:採用の時間負荷が大きくなります。対処法として、採用事務を専任者1名に割り当てるか、人材派遣企業のサポートを活用し、施設はマッチング後の対応に集中します。
ステップ4:新人定着プログラム(3か月間)
採用後3か月が勝負です。この期間に辞めてしまう新人が全体の20~30%いるため、明確な定着施策が必要です。
OJTの構造化:
教育担当者を専任で配置し、週ごとの学習テーマを決めます。例えば「1週目:基本業務・施設ルール」「2週目:介護技術基礎」「3週目:実践的対応」といった順序で、進捗を記録します。所要時間は週5~10時間です。
メンターシップ制度:
先輩職員(メンター)を1人配置し、仕事面だけでなく人間関係面でのサポートを行います。週1回の面談(15~30分)で、悩みや課題を早期に把握し、離職予兆を察知できます。
資格取得支援:
実務者研修や介護福祉士試験対策を会社が費用負担・時間割当するプログラムを用意します。キャリアパス明示により、「3年で介護福祉士」などの目標が生まれ、定着率が向上します。
つまずきやすいポイント:
新人教育は多忙な現場では後回しになりやすいです。対処法として、教育時間を「業務」として明確に位置付け、シフトに組み込みます。加算金制度(キャリアアップ加算)を活用し、資格取得経費を捻出することも重要です。
ステップ5:業務効率化による負担軽減(1~3か月)
最後に、ITツール導入で職員の業務負荷を低減します。これは離職防止と採用促進の両面で効果があります。
介護記録システムの導入:
紙ベース・エクセル管理から、タブレットやクラウドシステムへの移行です。導入期間は2~3か月で、その後の月間管理時間が20~30時間削減できます。初期費用は10~30万円程度が多いです。
シフト管理ツールの導入:
職員の希望とバランスを取りながら、効率的なシフト作成が可能になります。作成時間が50~70%削減される事例が多く、導入コストは月5,000~15,000円程度です。
見守りロボット・IoT機器の活用:
夜間見守りロボット導入により、夜勤職員の身体的・精神的負担が大幅に軽減されます。特に1人夜勤の施設では、導入後の離職率低下が顕著です。
つまずきやすいポイント:
導入費用が大きく、職員の習熟に時間がかかります。対処法として、助成金制度(都道府県・市町村の介護職員処遇改善加算など)を活用し、段階的に導入します。また、導入前に職員研修を十分行い、現場の負担を最小化します。
よくある質問
Q1:小規模施設(20床以下)では5ステップ全て実行できますか?
A:段階的実行で対応可能です。
最初はステップ1(現状把握)とステップ2(離職防止)に集中し、人間関係改善と労働時間削減に3~6か月費やします。その後、採用戦略(ステップ3)に進むのが現実的です。
小規模施設は「既存職員の定着」がROI(費用対効果)が最も高いため、ここに経営資源を集中させることが効果的です。
Q2:給与が上げられない場合、どの対策から始めるべきですか?
A:職場環境改善(ユニットケア導入やシフト短縮)から始めます。
給与以外の満足度向上(人間関係改善・休暇取得促進・キャリアアップ機会)でも離職率は低下します。実際、給与据え置きで労働時間を月10時間削減した施設は、離職率が7%低下した事例があります。初期投資が小さく効果が高い対策から着手することが重要です。
Q3:外国人材の採用は現実的ですか?
A:中期戦略として有効です。
特定技能ビザで介護職員を採用する場合、受け入れ体制整備(言語研修・文化的サポート)が必須で、6~12か月の準備期間が必要です。
ただし、既存職員の定着が達成された後に検討する方が現実的です。順序としては「国内採用・定着→業務効率化→外国人材受け入れ」が効果的です。
Q4:どのくらいの期間で人手不足は解消されますか?
A:6~12か月で改善傾向が見られます。
ステップ1~2(現状把握・離職防止)を3か月で実行し、その後ステップ3(採用強化)を開始すると、6か月時点で採用難度が低下し始めます。ただし、完全解消には2~3年かかることが多いため、短期改善と中期対策の両立が必要です。
Q5:国の助成金制度は活用できますか?
A:複数の制度が利用可能です。
キャリアアップ助成金(資格取得支援)、処遇改善加算(給与引き上げ)、LIFE加算(科学的介護推進)などがあります。ただし、申請・実績報告の手続きが複雑なため、社会保険労務士や行政の窓口に相談し、計画段階から組み込むことが重要です。
まとめ
介護業界の人手不足解消は、採用強化と既存職員定着の両立が必須です。本記事で紹介した5ステップは、現状把握→離職防止→採用多元化→新人定着→効率化という段階的アプローチで、経営資源を効果的に配分できます。
最初の3か月は「今いる職員を大切にする」ことに集中し、その後「採用と効率化」に広げるという優先順位が、多くの施設で高い成果を生んでいます。スモールスタート(1つのユニットから)を心がけながら、段階的に全施設に広げていく粘り強い取り組みが成功の鍵となります。
介護職員の確保と職員満足度の向上は、結果的に利用者のサービス質向上にも直結します。
実行の第一歩として、まずはステップ1の職員アンケートから開始することをお勧めします。

