厚生労働省が発表する介護業界の人手不足データの実態
介護事業を運営する中で、人手不足の深刻さを日々感じていませんか。国のデータでは実際にどれほど深刻なのか、自施設の状況は全国と比べてどうなのか、気になる方も多いでしょう。
厚生労働省のデータによると、介護業界は2025年に約32万人、2040年には約69万人の職員が不足し、国は処遇改善・人材育成・労働環境改善の3本柱で対策を推進しています。
本記事では、厚生労働省が公表する最新の統計データと施策資料を徹底的に分析し、介護業界の人手不足の実態を数字で明らかにします。さらに、事業者が実際に活用できる国の支援制度を5つの分野に分けて具体的に解説することで、明日から使える情報をお届けします。
介護事業経営に15年携わり、厚労省の各種補助金制度を活用してきた実践経験をもとに、わかりやすく説明します。
厚生労働省が示す介護人材不足の衝撃的な数字
厚生労働省が公表する「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数」によると、介護人材不足は今後さらに深刻化します。2022年度時点で約215万人の介護職員が従事していますが、2025年度には約243万人、2040年度には約280万人が必要とされています。
具体的な不足数を見ると、2019年度の約211万人を基準として、2025年度には約32万人、2040年度には約69万人の追加確保が必要です。これは現在の介護職員数の約15%にあたる大規模な増員を意味します。
有効求人倍率のデータも深刻さを物語っています。厚生労働省の「介護人材確保の現状について」によれば、2023年時点で介護関係職種の有効求人倍率は全国平均3.97倍です。全職業平均1.16倍と比較すると、介護業界は約3.4倍も採用が困難な状況にあります。
地域差も顕著で、東京都では7.65倍、愛知県では5.23倍と、都市部ほど深刻です。これは1人の求職者を7〜8の事業所が奪い合う計算になり、採用競争の激しさがうかがえます。
離職率については、公益財団法人介護労働安定センターの「令和5年度介護労働実態調査」で13.6%と報告されています。全産業平均14.2%と比べるとやや低く、かつてより改善傾向にありますが、それでも年間約30万人が入職する一方で約25万人が離職する状況が続いています。
従業員の過不足感では、同調査で介護事業所の64.0%が「不足感がある」と回答しており、訪問介護員に至っては81.4%が不足を感じています。数字だけでなく、現場の実感としても人手不足が深刻であることが分かります。
厚生労働省が推進する介護人材確保の3本柱
国は介護人材不足に対し、体系的な施策を展開しています。厚生労働省の「総合的な介護人材確保対策」では、参入促進・資質向上・労働環境改善の3つを柱としています。
柱1:参入促進による人材の裾野拡大
多様な人材の参入促進に向け、未経験者向けの「介護に関する入門的研修」を全国で実施しています。この研修は基礎講座(3時間)と入門講座(18時間)で構成され、介護の基本を学べます。
令和6年度は全国で約12,000人が受講し、そのうち約30%が実際に介護職に就職しています。
若年層への働きかけとして、「介護のしごと魅力発信等事業」を展開しています。学生向けの職場体験、保護者・教員への理解促進セミナー、SNSやメディアを活用した情報発信などを通じ、介護職の魅力を伝えています。
福祉系学校への支援では、介護福祉士養成施設の学生に対し、月額5万円(最大2年間)の修学資金貸付制度があります。卒業後、該当地域で5年間介護業務に従事すれば返済が全額免除される仕組みです。
柱2:資質向上とキャリアパスの明確化
体系的な研修制度の整備により、介護職員初任者研修、実務者研修、介護福祉士へと段階的にスキルアップできる道筋を示しています。資格取得支援として、実務者研修受講費用の助成(最大20万円)が一部自治体で利用できます。
キャリアアップ支援では、介護職員処遇改善加算と連動した昇給の仕組みづくりを推奨しています。勤続年数や資格、役職に応じた明確な給与体系を構築することで、長期的なキャリア展望を示せます。
柱3:労働環境と処遇の改善
処遇改善加算の拡充が最も重要な施策です。介護職員処遇改善加算は、要件を満たすことで介護報酬に加算され、職員の給与改善に充てられます。令和元年10月からは特定処遇改善加算も創設され、経験・技能のある職員には月額8万円相当の改善も可能になりました。
ICT・介護ロボット導入支援では、記録システムのデジタル化や見守りセンサー、移乗支援機器の導入に対し、1事業所あたり最大750万円の補助金が利用できます(地域医療介護総合確保基金)。これにより業務効率化と職員負担軽減を実現できます。
外国人材受け入れ環境整備として、特定技能・技能実習・EPA・在留資格「介護」の4ルートで外国人介護職員の受け入れを推進しています。日本語学習支援や住居確保支援など、受け入れ施設への補助制度も用意されています。
事業者が今すぐ活用できる厚労省の支援制度5選
厚生労働省の施策を具体的に活用する方法を、優先度順に紹介します。
ステップ1:処遇改善加算の最大活用(所要時間:1ヶ月、難易度:中)
まず、処遇改善加算I〜IIIのうち、自事業所が取得できる最高ランクを確認します。要件は、キャリアパス要件(職位・職責に応じた任用要件の設定)、職場環境等要件(資質向上・労働環境改善の取り組み)などです。
加算IIIなら月額平均1.5万円相当、加算Iなら3.7万円相当の改善が可能です。つまずきポイントは、要件の複雑さです。都道府県の担当課や介護労働安定センターの相談窓口を活用し、専門家の助言を受けながら申請してください。
ステップ2:ICT導入補助金の申請(所要時間:2ヶ月、難易度:高)
次に、地域医療介護総合確保基金を活用したICT導入支援事業に申請します。介護記録ソフト、勤怠管理システム、請求ソフトなどの導入で、補助率4分の3、上限750万円(Wi-Fi環境整備含む)が利用できます。
申請は都道府県の担当部署に行い、年度初めに公募があります。採択には事業計画の妥当性が重視されるため、導入効果(業務時間削減○時間/月など)を具体的に示すことが重要です。
ステップ3:入門的研修の活用と連携(所要時間:継続、難易度:低)
最後に、都道府県が実施する入門的研修に、自事業所への就職を希望する受講者を受け入れます。研修修了者には職場体験の機会を提供し、採用につなげる流れを作ります。
一部自治体では研修受講から就職までをマッチングする仕組みもあり、採用コストを大幅に削減できます。自治体の介護人材確保担当課に連絡し、連携方法を相談してください。
ステップ4:外国人材受け入れ支援の活用(所要時間:6ヶ月、難易度:高)
特定技能外国人を受け入れる場合、受け入れ環境整備費用(日本語学習支援、住居確保など)に対する補助金が一部自治体で利用できます。1事業所あたり最大240万円程度の支援があります。
申請要件や金額は自治体により異なるため、都道府県の外国人材受け入れ担当課に確認が必要です。受け入れから定着まで中長期的な視点で計画を立ててください。
ステップ5:キャリアアップ支援事業の利用(所要時間:継続、難易度:中)
介護福祉士実務者研修の受講費用助成(最大20万円)など、職員のキャリアアップを支援する制度を活用します。自治体の介護研修センターや介護労働安定センターで実施している場合が多いため、問い合わせてみましょう。
職員に資格取得を促すことで、サービス品質向上と処遇改善加算の上位取得が同時に実現します。
厚労省データと支援制度を活用する際の3つの注意点
国の施策を活用する上で、よくある失敗を避けることが重要です。
注意点1:データの解釈を誤り、自施設の状況を過小評価する
厚労省データは全国平均や都道府県別の数値であり、自施設の状況とは異なります。「全国より離職率が低いから問題ない」と安心せず、絶対値で判断してください。年間2〜3名の離職でも、小規模事業所には大きな影響があります。
対策として、全国データと自施設データの両方を定期的に確認し、客観的な自己評価を行いましょう。
注意点2:補助金申請の期限や要件を見落とす
多くの補助金は年度初めに公募され、締切も厳格です。情報収集が遅れると、せっかくの支援制度を使えません。対策として、都道府県の介護保険担当課のメールマガジンに登録し、定期的に情報をチェックしてください。
また、要件を満たさずに申請し、不採択となるケースもあります。申請前に担当課に相談し、要件適合を確認することが重要です。
注意点3:処遇改善加算を取得しても職員に還元しない
処遇改善加算は職員の給与改善に充てることが義務づけられています。これを事業所の運営費に流用すると、返還命令や指定取り消しのリスクがあります。加算取得と給与改善は必ずセットで実施し、職員に明確に説明してください。
介護業界特有のリスクとして、制度変更の頻度が高い点があります。介護報酬改定は3年ごとに行われ、加算要件や補助金制度も変わります。常に最新情報を確認し、制度変更に柔軟に対応する体制を整えましょう。
よくある質問(FAQ)
Q1:厚生労働省のデータはどこで入手できますか?
A: 厚労省ホームページの「介護人材確保に向けた取組について」ページで最新資料が公開されています。また、介護労働安定センターのサイトでも詳細な調査結果が閲覧できます。PDFで無料ダウンロード可能です。
Q2:小規模事業所でも処遇改善加算は取得できますか?
A: 取得できます。むしろ小規模事業所こそ、加算による収入増の効果が大きくなります。要件を満たすためのキャリアパス制度は、規模に関係なく整備可能です。都道府県の集団指導や説明会に参加し、具体的な方法を学んでください。
Q3:ICT導入補助金の採択率はどのくらいですか?
A: 都道府県により異なりますが、60〜80%程度です。事業計画の具体性と効果の明確さが採択のポイントです。導入後の業務時間削減目標を数値で示し、職員の負担軽減効果を具体的に記載すると採択されやすくなります。
Q4:外国人材受け入れに関する厚労省の支援はありますか?
A: 直接的な金銭支援は限定的ですが、受け入れ手続きのガイドラインや研修カリキュラムの提供があります。また、一部自治体では受け入れ環境整備費用の補助があるため、都道府県の担当課に確認してください。
Q5:厚労省データで示される不足数は、実際にその数が足りていないのですか?
A: 不足数は「必要数」から「現状推移による供給予測」を差し引いた値です。つまり、今のペースで人材が増えても足りない人数を示しています。実際の不足はさらに深刻な可能性もあるため、早急な対策が必要です。
まとめ
厚生労働省のデータが示す介護業界の人手不足は、2025年32万人、2040年69万人という深刻な規模であり、有効求人倍率3.97倍という数字からも採用困難な状況が明らかです。国は処遇改善加算、ICT導入支援、入門的研修、外国人材受け入れなど、包括的な支援策を用意しています。
これらの制度は申請すれば利用できるものですが、情報収集と要件確認を怠ると活用できません。まずは都道府県の介護保険担当課に連絡し、自事業所が利用できる制度を確認してください。
明日からできる第一歩として、厚労省ホームページの「介護人材確保に向けた取組について」ページをブックマークし、定期的に最新情報をチェックする習慣をつけましょう。国の支援を最大限活用することが、持続可能な事業運営の鍵です。

