福祉施設の人手不足は深刻化しており、介護事業所の約60〜70%が職員不足に直面しています。公的機関によると、2026年には約24万人、2040年には約57万人の介護職員が不足すると予測されています。
最大の離職理由は「職場の人間関係」で34.3%を占め、低賃金(23.2%)を上回ります。しかし、多くの施設では具体的な改善策を講じていません。
本記事では、福祉施設の種別(入所系/通所系/訪問系)・規模別の課題を明確にし、中小施設でも今日から実践できる5つの対策を優先順位付きで解説します。
福祉施設の人手不足の現状|データで見る深刻度
全体の60〜70%が職員不足に直面
労働統計調査機関の調査によると、介護事業所の約65%が「従業員が不足している」と回答しています。
特に深刻なのは入所系施設です。特別養護老人ホームでは69.0%が人手不足を訴え、平均3.6人の職員が足りていません。
有効求人倍率は介護職で3.97倍(全職種平均1.16倍)と、求職者1人に対し約4件の求人がある状態です。
都市部ではさらに深刻で、求人倍率が高く達しています。地方でも労働人口の減少により、採用競争が激化しています。
2040年には57万人不足|将来予測
公的機関の推計では、介護職員の需給ギャップは年々拡大します。
- 2023年: 約213万人(現状)
- 2026年: 約243万人必要(約24万人不足)
- 2040年: 約280万人必要(約57万人不足)
高齢化率は2023年の29.1%から、2040年には34.8%まで上昇する見込みです。
一方、15〜64歳の生産年齢人口は2040年までに約1,182万人減少します。供給が減り続ける中で需要は増加し、人手不足は構造的な問題として固定化しています。
施設種別で異なる人手不足の実態
福祉施設の人手不足は、サービス種別により状況が大きく異なります。
【入所系施設】
- 特養・老健などの24時間体制施設
- 人手不足率: 69〜70%
- 特徴: 夜勤・重度者ケア・医療的ケアによる負担大
【通所系施設】
- デイサービス・デイケア
- 人手不足率: 55〜60%
- 特徴: 送迎・レクリエーション業務の負担
【訪問系サービス】
- 訪問介護・訪問看護
- 人手不足率: 60〜65%
- 特徴: 移動時間・単独業務による孤立感
入所系施設は24時間365日の運営体制が必要で、夜勤や不規則なシフトが職員の負担となっています。
通所系は日中のみの営業ですが、送迎業務や利用者対応で人手が必要です。訪問系は1人で利用者宅を訪問するため、相談相手がおらず孤立感を感じやすい傾向があります。
福祉施設の人手不足|5つの根本原因
原因①職場の人間関係(離職理由1位34.3%)
公的機関の調査で、介護職員の離職理由の第1位は「職場の人間関係に問題があったため」で34.3%を占めます。
具体的には、上司との関係、同僚間のコミュニケーション不足、チームワークの欠如などが挙げられます。
「収入が少ない」(23.2%)よりも高い割合で、人間関係が最大の離職要因となっています。
しかし、多くの施設では人間関係改善のための具体的な取り組みが不足しています。定期的な面談や、職員同士の交流機会の創出が重要です。
原因②他産業より低い賃金水準
介護職員の平均月収は約27.1万円(2023年)で、全産業平均の約33万円と比べ約6万円低い水準です。
処遇改善加算により、2009年から2019年の10年間で平均5.7万円の賃金改善が実現しました。
それでも他産業との格差は残り、求職者が介護業界を避ける一因となっています。
賃金の低さは「仕事の大変さに見合わない」という不満にも繋がり、離職率を高めています。
原因③不規則な勤務体制と身体的負担
入所系施設では24時間体制のシフト勤務が必要で、夜勤・早番・遅番など不規則な勤務が続きます。
身体的負担も大きく、「心身の健康に不安があるため」を離職理由に挙げる職員は22.5%に達します。
移乗介助や入浴介助など、腰痛や体力消耗のリスクが高い業務が多く、特に40代以上の職員は身体的負担を理由に離職するケースが目立ちます。
原因④地域における労働人口の減少
地方では15〜64歳の生産年齢人口が急速に減少しており、介護職だけでなく全産業で人材確保が困難になっています。
特別養護老人ホームの78.8%が「地域における労働人口の減少」を人手不足の原因に挙げています。
都市部では近隣施設との採用競争が激化し、求人を出しても応募が集まらない状況です。
地域の高校・大学との連携や、UIターン人材の獲得などの対策が求められます。
原因⑤介護業界のネガティブイメージ
介護業界は「3K(きつい・汚い・危険)」というネガティブイメージが根強く、若年層の就業意欲を削いでいます。
実際には、やりがいや利用者からの感謝など、ポジティブな側面も多く存在します。
しかし、メディアでは処遇の悪さや人手不足ばかりが報道され、業界全体のイメージが悪化しています。
業界全体での情報発信や、職場体験の機会提供などが必要です。
福祉施設が今日から始める5つの実践対策
対策①職場の人間関係を改善する
効果度★★★★★ / コスト★ / 難易度★★ / 即効性★★★
なぜ最優先か
離職理由1位(34.3%)の「人間関係」を改善すれば、定着率が劇的に向上します。費用をかけず、今日から実践可能です。
具体的なアクション
1. 月1回の1on1ミーティング導入
管理者が各職員と15分の個別面談を実施します。業務の悩みや人間関係の不満を早期に把握し、対処できます。
2. 感謝カード制度の導入
職員同士が感謝の気持ちを書いたカードを渡し合う仕組みです。ポジティブなコミュニケーションが増え、職場の雰囲気が改善します。
3. チームミーティングの活性化
月1回、30分のチームミーティングで業務改善案を話し合います。職員の意見が反映される実感が、職場への帰属意識を高めます。
成功事例
ある地域の特別養護老人ホームでは、1on1ミーティングと感謝カード制度を導入後、1年間で離職率が18%→12%に低下しました。
対策②処遇改善加算を最大限活用する
効果度★★★★ / コスト★★ / 難易度★★★ / 即効性★★★★
なぜ重要か
賃金の低さは離職理由2位(23.2%)です。処遇改善加算を最大限活用し、職員の給与を引き上げることで、定着率と採用力が向上します。
具体的なアクション
1. 処遇改善加算の取得状況を確認
現在取得している加算(Ⅰ〜Ⅴ)を確認し、上位の加算取得を目指します。
2. 配分ルールの透明化
加算によって得た収入を、どのように職員に配分するか明示します。「頑張りが給与に反映される」実感が、モチベーション向上に繋がります。
3. キャリアパス要件の整備
昇給・昇格の基準を明確にし、職員が目標を持って働ける環境を作ります。
成功事例
ある地域のデイサービスでは、処遇改善加算Ⅰの取得により、職員の平均月収が2.5万円増加。求人応募数が1.8倍に増えました。
対策③柔軟な働き方を導入する
効果度★★★★ / コスト★★ / 難易度★★★ / 即効性★★★
なぜ効果的か
不規則な勤務は離職の大きな要因です。柔軟なシフト制度を導入することで、ワークライフバランスが改善し、定着率が向上します。
具体的なアクション
1. 短時間正社員制度の導入
1日6時間勤務など、短時間でも正社員として雇用します。子育て中の職員や、体力に不安がある職員が働き続けられます。
2. シフト希望の優先
月に2〜3日、職員の希望を優先してシフトを組みます。家庭の事情や体調に配慮した柔軟な対応が、職員の満足度を高めます。
3. 夜勤専従職員の雇用
夜勤専従の職員を雇用することで、日勤職員の夜勤負担を軽減します。
成功事例
ある地域の特別養護老人ホームでは、短時間正社員制度を導入後、育児中の職員の離職率が30%→8%に激減しました。
対策④介護助手を活用して職員負担を軽減
効果度★★★★ / コスト★★★ / 難易度★★ / 即効性★★★★
なぜ効果的か
介護助手は、資格不要の補助業務(清掃、配膳、シーツ交換等)を担当します。介護職員が専門業務に集中でき、負担が大幅に軽減されます。
具体的なアクション
1. 介護助手の求人を出す
公共職業安定所や地域の求人サイトで、未経験・資格不要の介護助手を募集します。シニア層や主婦層がターゲットです。
2. 業務の棚卸しと分担
現在の業務を「専門業務」と「補助業務」に分け、介護助手に任せられる業務を明確にします。
3. 介護助手の育成プログラム
最初の1〜2週間は、先輩職員が同行して業務を教えます。丁寧な育成が、介護助手の定着率を高めます。
成功事例
福祉関連機構の調査では、介護助手を導入した施設の72.0%が「職員の負担軽減」を実感しました。
対策⑤外国人材・新卒採用を計画的に推進
効果度★★★ / コスト★★★★ / 難易度★★★★ / 即効性★★
なぜ必要か
国内の労働人口が減少する中、外国人材と新卒採用は中長期的な人材確保の柱となります。
具体的なアクション
1. 外国人材の受け入れルート選択
特定技能1号、技能実習、経済連携協定の3つのルートから、自施設に合った方法を選びます。特定技能1号は、試験合格者を即戦力として雇用できます。
2. 新卒採用の地域連携
地域の高校・専門学校・大学と連携し、職場体験やインターンシップを実施します。学生に施設の魅力を直接伝えることで、採用に繋げます。
3. 住居・日本語教育の支援
外国人材には住居の提供や日本語教育の支援が不可欠です。受け入れ体制を整えることで、定着率が向上します。
成功事例
ある地域の特別養護老人ホームでは、特定技能1号で5名の外国人材を採用。日本語教育と定期面談により、3年定着率85%を達成しました。
施設規模・種別別の優先対策
小規模施設(職員10〜30名)の優先順位
1位: 職場の人間関係改善(費用ほぼゼロ、即効性高い)
2位: 処遇改善加算の活用(加算取得で職員の給与アップ)
3位: 介護助手の導入(1〜2名でも効果大)
小規模施設は予算が限られるため、低コストで効果が高い対策から始めます。
大規模施設(職員50名以上)の優先順位
1位: 柔軟な働き方の導入(多様な雇用形態で幅広い人材を確保)
2位: 外国人材・新卒採用(計画的な人材パイプライン構築)
3位: 職場の人間関係改善(大規模組織ほど重要)
大規模施設は人材確保の幅を広げ、中長期的な採用戦略を構築します。
都市部・地方別の重点対策
【都市部】
近隣施設との競争が激しいため、処遇改善と柔軟な働き方で差別化します。通勤圏内の求職者に選ばれる施設を目指します。
【地方】
労働人口が少ないため、介護助手(シニア・主婦層)と地域連携(高校・大学)で裾野を広げます。
よくある質問(FAQ)
Q1: 外国人材の雇用にかかる費用はどのくらいですか?
A: 特定技能1号の場合、初期費用(受入れ支援費用、住居準備等)で約50〜100万円、年間のランニングコスト(給与、社会保険、日本語教育等)で約400〜500万円が目安です。
人材紹介会社を利用する場合は、紹介手数料が別途発生します。ただし、自治体の補助金(住居費補助、日本語教育支援等)を活用することで、負担を軽減できます。
Q2: 介護助手を導入しても、ケアの質が下がりませんか?
A: 福祉関連機構の調査では、介護助手導入施設の38.2%が「ケアの質が向上した」と回答しています。介護職員が専門業務(身体介護、記録、ケアプラン作成等)に集中できるため、むしろケアの質は向上します。ただし、業務の棲み分けと、丁寧な育成プログラムが前提です。
Q3: 新卒採用をしたいのですが、応募が集まりません。どうすればいいですか?
A: 地域の高校・専門学校との連携が最も効果的です。職場体験の受け入れ、学校への施設説明会、奨学金返済支援制度の導入などで、学生に直接アプローチします。
新卒採用に成功している施設の35.8%が「学校との連携」を採用経路に挙げています。SNS(Instagram、TikTok等)での情報発信も、若年層へのリーチに有効です。
Q4: 人間関係の改善に取り組んでいますが、効果が実感できません。
A: 人間関係改善は、継続的な取り組みが必要です。1on1ミーティングを月1回、最低3ヶ月は継続してください。また、管理者自身が「傾聴」の姿勢を示すことが重要です。
職員の話を最後まで聞き、批判せず、具体的な改善策を一緒に考える姿勢が信頼関係を築きます。感謝カード制度も、最初は形式的でも、3ヶ月続けると職場の雰囲気が変わり始めます。
Q5: 離職率を下げるために、最も効果的な対策は何ですか?
A: 公的機関の調査では、「良好な人間関係」が採用成功の理由1位(62.7%)、離職防止の鍵でもあります。次いで「残業が少ない・有給休暇が取りやすい」(57.3%)、「ワークライフバランスが取りやすい」(47.9%)が続きます。
つまり、①職場の人間関係改善、②柔軟な働き方の導入、③処遇改善の順に取り組むことが、最も費用対効果が高い戦略です。
まとめ|今日から始める3つのアクション
福祉施設の人手不足は、2026年に約24万人、2040年には約57万人に達する構造的な問題です。
しかし、適切な対策を優先順位付けて実行すれば、中小施設でも人材確保と定着率向上は可能です。
今日から始める3つのアクション
1. 職場の人間関係改善に着手
月1回の1on1ミーティングと感謝カード制度を今週から導入してください。費用はゼロ、効果は絶大です。
2. 処遇改善加算の取得状況を確認
現在の加算を確認し、上位加算の取得を検討します。給与アップは採用力と定着率の両方を高めます。
3. 介護助手の求人を出す
公共職業安定所で介護助手(資格不要、未経験可)の求人を出し、介護職員の負担を軽減します。
人手不足対策は、一度にすべてを実行する必要はありません。
優先順位の高い対策から、一つずつ確実に実行することが、持続可能な人材確保に繋がります。

