AIが守る「その人らしい暮らし」――福祉施設に広がる予防的見守りの新潮流

福祉ニュース

利用者の自立を尊重しながら安全を確保する。矛盾しがちな二つの目標をAIカメラ技術が橋渡しする取り組みが、静岡県の老舗福祉法人で始まっている。


「捜索」から「予防」へ――現場が抱えていたジレンマ

介護・福祉施設における安全管理の難しさは、利用者の行動を制限すれば安全になる一方で、自立支援という本来の使命と相反してしまう点にある。

社会福祉法人 聖隷福祉事業団が運営する「聖隷厚生園讃栄寮」でも、こうした課題は長年の悩みだった。単独での安全な外出が困難な利用者が施設外に出てしまうケースがあり、職員が長時間にわたって所在確認や捜索に追われる場面が繰り返されていた。

かといって、外出そのものを一律に制限することは、同施設が大切にする「利用者一人ひとりの意思や生活リズムの尊重」という理念に反する。

この二律背反を解消するヒントとして浮上したのが、AI顔認証カメラを活用した早期検知の仕組みだった。


玄関に設置された「小さな目」が変えたこと

2026年2月、聖隷厚生園讃栄寮は愛知県名古屋市に本社を置くスタートアップ企業・株式会社Opt Fitが開発した介護業務支援サービス「KaigoDX」のAI離設検知サービスを正式に導入した。

仕組みの核心はシンプルだ。玄関付近に設置した2台のAIカメラが、あらかじめ登録された利用者の顔を認識し、外出の動きを検知した瞬間にスタッフの端末へ通知を送る。これにより、施設外への移動が完了してから気づくのではなく、外に向かう段階で職員が状況を把握できるようになった。

導入後の変化は顕著だった。これまで「何かが起きてから対応する」という事後対応が中心だったのに対し、現在は異変が生じる前に声かけや付き添いといった働きかけができるようになっている。

また、AIが情報を自動で職員間に共有するため、ベテランの経験や勘に頼らずとも、複数のスタッフが同一の情報をもとに冷静に判断できる環境が整った。


テクノロジーは「管理」でなく「寄り添い」のために

この取り組みで注目すべきは、技術の使い方の哲学にある。AIカメラは利用者の行動を監視・制限するためではなく、変化にいち早く気づいて安心につなげるために使われている点だ。

施設側は導入後、利用者・職員ともに外出に関する心理的な不安が和らいだと評価している。職員にとっては「何かあったらどうしよう」というプレッシャーが軽減され、ケアの本質的な部分により集中できる環境が生まれている。

Opt Fitは、KaigoDXを通じて見守りを「管理」ではなく「寄り添い」として再定義し、事故や不安が顕在化する前に介入できる「予防的見守り」モデルを社会に広めることを目指している。同社は2020年3月の設立以来、人とテクノロジーが調和する福祉現場の実現をミッションに掲げており、従業員数は2026年2月時点で33名に達している。

人手不足や高齢化が進む日本の介護・福祉分野において、AIが現場スタッフの「目」と「判断」を補う取り組みは今後さらに広がりを見せそうだ。


参照元:
PR TIMES「聖隷福祉事業団がOpt FitのAIカメラ『離設検知サービス』を導入。福祉施設のDXを加速し『予防的見守り』を実現。」(株式会社Opt Fit、2026年2月24日配信) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000059.000055404.html

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