訪問看護の人材不足はなぜ深刻?2025年需要2倍増と今できる対策

福祉経営

はじめに

【問い】訪問看護の人材不足はなぜこれほど深刻なのか?

【答え】訪問看護の人材不足は、2025年までに現在の2倍以上となる13万人が必要とされる一方、現在はわずか6万人しかいないためです。

訪問看護ステーションの求人倍率は3.22倍。3件の求人に対し応募者は1人だけです。さらに、単独訪問の重圧や24時間オンコール対応など、訪問看護特有の負担が人材確保を困難にしています。

本記事では、厚生労働省の最新データをもとに、人材不足の3つの理由、2025年問題の衝撃、事業所規模別の対策、看護師個人の転職不安への回答を解説します。

訪問看護の人材不足が深刻な3つの理由

理由①需要の爆発的増加に供給が追いつかない

訪問看護の人材不足は、数字で見ると危機的状況です。

厚生労働省の調査によると、2020年における訪問看護ステーションに就業する看護師は約6万人。これは看護師全体の128万人のうち、わずか4%程度です。

一方、2025年までに訪問看護分野で必要とされる看護職員数は13万人。つまり、あと5年で7万人以上を新たに確保しなければなりません。現在の2倍以上の人材が必要なのです。

需要が急増している背景には、高齢化と在宅医療の推進があります。2021年の調査では、訪問看護サービスを受けた利用者数は約59万人。10年前の2011年(約23万人)と比較すると、約3倍に増加しています。

しかし、需要が3倍になっても、供給(訪問看護師の数)はそれに追いついていません。この需給ギャップが、深刻な人材不足を生んでいます。

出典: 厚生労働省「介護サービス施設・事業所調査」、訪問看護関連団体「訪問看護の現状とこれから2025年版」

理由②訪問看護特有の「3つの負担」

訪問看護の人材不足は、仕事の特殊性も大きく影響しています。病院看護とは異なる3つの独自の負担があるためです。

第1の負担: 単独訪問による判断の重圧
訪問看護は、一人で利用者宅を訪問します。医師はおらず、医療機器も限られています。

その場で体調変化を察知し、緊急性を判断し、適切に対応する。すべてを一人で担う責任は、病院では経験できない重圧です。介護労働安定センターの調査では、85.3%の訪問看護師が「単独訪問に不安を感じる」と回答しています。

第2の負担: 24時間オンコール対応
多くの訪問看護ステーションでは、24時間対応のためのオンコール当番があります。夜間や休日でも、利用者からの緊急連絡に備えなければなりません。

実際に出動しなくても、「いつ電話が鳴るか」という精神的緊張は常に続きます。オンコール当番の日は、家族との外出や飲酒もできません。この負担が、離職の大きな要因となっています。

第3の負担: 多職種連携の複雑さ
訪問看護では、医師、ケアマネージャー、訪問介護ヘルパー、薬剤師、理学療法士など、多くの職種と連携します。

しかし、それぞれの訪問日時はバラバラで、顔を合わせた相談は困難です。電話やメール、連絡ノートでのやり取りが中心となり、情報共有や意思疎通に多大な時間と労力がかかります。

これらの負担が重なることで、「訪問看護は大変そう」というイメージが定着し、新規参入者が少なくなっているのです。

出典: 介護労働安定センター

理由③事業所の経営難による待遇改善の困難

訪問看護ステーションの経営状況も、人材不足に拍車をかけています。

厚生労働省の「令和4年度介護事業経営概況調査」によると、訪問看護ステーションの約3割が赤字経営です。収支差率が0%以下、つまり黒字になっていない事業所が多数存在します。

赤字経営では、給与アップや福利厚生の充実は困難です。人材を確保したくても、待遇を改善できない。この悪循環が、人材不足を深刻化させています。

特に小規模ステーション(看護師5名未満)では、経営基盤が脆弱です。一人の離職が事業継続に直結するため、常に人材確保に追われています。

出典: 厚生労働省「令和4年度介護事業経営概況調査」

2025年、訪問看護はどうなる?需要2倍増の衝撃

2025年、団塊の世代が全員75歳以上となります。この「2025年問題」は、訪問看護に特に深刻な影響を与えます。

在宅医療ニーズの爆発的増加

政府調査では、高齢者の約8割が「最期まで自宅で暮らしたい」と回答しています。

団塊の世代が後期高齢者となることで、在宅医療・看護のニーズは爆発的に増加します。特に、医療依存度の高い在宅療養者(人工呼吸器、胃ろう、インスリン注射など)が増え、専門的な看護スキルを持つ人材への需要が急増します。

厚生労働省の推計では、訪問看護分野だけで2025年までに約7万人の追加需要が見込まれています。これは、現在の訪問看護師数を2倍以上にしなければならないことを意味します。

出典: 政府調査「高齢社会白書」

訪問看護師の高齢化と大量離職リスク

需要が増加する一方で、供給側にも深刻な問題があります。訪問看護師自身の高齢化です。

訪問看護は、病院での臨床経験が求められるため、比較的経験豊富な看護師が多く従事しています。そのため、平均年齢も高めです。

2025年前後に、ベテラン訪問看護師の定年退職が重なる可能性があります。需要が増加するタイミングで、供給が減少する。この「二重の危機」が、訪問看護を直撃します。

地域格差の拡大リスク

人材不足の影響は、地域によって大きく異なります。

都市部では、複数のステーションが競合しており、選択肢はあります。しかし、地方では訪問看護ステーション自体が少なく、人材不足が直接サービス提供の停止につながります。

過疎地では、ステーションの撤退や新規受入停止により、「訪問看護難民」が発生するリスクが高まっています。住んでいる場所によって、受けられる医療・看護が決まってしまう。この不平等は、2025年以降さらに深刻化する可能性があります。

事業所規模別「今できる対策」

訪問看護ステーションの人材確保策は、事業所の規模によって取るべきアプローチが異なります。

小規模ステーション(看護師5名未満)の対策

小規模ステーションは、経営資源が限られています。低コストで実行できる対策を優先しましょう。

①紹介採用の強化(最優先)
既存スタッフからの紹介採用は、最も効果的かつ低コストです。紹介者は職場の実情を知っているため、ミスマッチが少なく定着率も高まります。

紹介成功時に報奨金3~5万円を支給する制度を導入しましょう。人材紹介会社の手数料(50万円~)と比較すると、大幅なコスト削減になります。

②柔軟な働き方の導入
フルタイム勤務にこだわらず、短時間勤務(週2~3日、1日4時間)や、オンコール免除などの選択肢を用意しましょう。

子育て中の看護師、定年後のベテラン、副業希望者など、採用の間口が広がります。

③近隣ステーションとの連携
緊急時の相互支援、研修の共同実施、採用活動の連携など、近隣ステーションと協力関係を築きましょう。単独では困難な施策も、複数ステーションで協働すれば実現可能です。

中規模ステーション(看護師5~10名)の対策

中規模ステーションは、ある程度の投資余力があります。業務効率化と働きやすさ向上に取り組みましょう。

①ICTツールの導入
電子カルテ、訪問スケジュール管理システム、業務用チャットツールなどを導入し、記録業務や情報共有を効率化しましょう。

厚生労働省の「介護ロボット・ICT導入支援事業」では、最大100万円の補助金が受けられるケースもあります。

②チーム制の導入
複数の看護師で利用者を担当する「チーム制」を導入しましょう。単独訪問の孤立感が解消され、新人育成もしやすくなります。緊急時のカバー体制も強化されます。

③処遇改善加算の取得
国の処遇改善加算を活用すれば、給与アップの原資を確保できます。取得要件は複雑ですが、社会保険労務士や自治体の支援窓口を活用し、専門家のサポートを受けましょう。

出典: 厚生労働省「介護ロボット・ICT導入支援事業」

大規模ステーション(看護師10名以上)の対策

大規模ステーションは、組織的な人材育成と、地域での存在感向上に取り組みましょう。

①キャリアパス制度の整備
「訪問看護師→サービス提供責任者→管理者」といった明確なキャリアパスを整備し、昇給・昇格の基準を明示しましょう。

研修費用の補助、資格取得支援(認定看護師など)も効果的です。

②地域連携の強化
地域の医療機関、地域包括支援センターと連携し、「地域で頼られるステーション」としての認知度を高めましょう。地域連携が強化されると、紹介による利用者獲得、人材紹介の増加にもつながります。

③ブランディング強化
「残業なし」「有給取得率100%」「育児・介護との両立支援」など、働きやすさを積極的に発信しましょう。SNS、求人サイト、地域メディアを活用したPRが効果的です。

病院看護師が訪問看護に転職する前に知るべき5つのこと

訪問看護師として働きたいが不安を感じている病院看護師の方へ、転職前に知っておくべきポイントを解説します。

①必要な臨床経験年数

多くの訪問看護ステーションでは、3~5年以上の病院勤務経験を求めます。理由は、単独訪問で適切な判断ができるだけの臨床経験が必要だからです。

ただし、研修制度が充実しているステーションでは、経験年数が浅くても受け入れてくれるケースがあります。

②給与水準の違い

訪問看護師の給与は、病院と比較して必ずしも低いわけではありません。オンコール手当、訪問件数に応じたインセンティブなどを含めると、病院と同等以上の収入を得られるケースもあります。

ただし、小規模ステーションでは待遇が十分でない場合もあるため、事前に確認が必要です。

③研修・サポート体制

未経験者を受け入れるステーションでは、以下のような研修体制があります。

  • プリセプター制度(先輩看護師がマンツーマンで指導)
  • 同行訪問期間(1~3ヶ月)
  • 定期的なカンファレンス・事例検討会

転職前に、研修体制の有無と内容を必ず確認しましょう。

④働き方の柔軟性

訪問看護は、病院と比較して働き方の柔軟性があります。

  • 夜勤なし(オンコール当番はあり)
  • 直行直帰OK
  • 短時間勤務・週3日勤務など選択可能

ワークライフバランスを重視する看護師にとっては、魅力的な選択肢です。

⑤やりがいと成長

訪問看護の最大の魅力は、利用者と深く関わり、その人らしい生活を支えられることです。

病院では短期間の関わりですが、訪問看護では長期的に利用者と信頼関係を築けます。「最期まで自宅で過ごせてよかった」という家族の言葉は、何にも代えがたいやりがいです。

また、単独訪問による判断力、多職種連携のコーディネート力など、訪問看護でしか得られないスキルも身につきます。

よくある質問(FAQ)

Q1: 訪問看護師は病院より給料が低いですか?
A: 必ずしも低いわけではありません。オンコール手当や訪問件数インセンティブを含めると、病院と同等以上の収入を得られるケースもあります。ただし、小規模ステーションでは待遇が十分でない場合もあるため、事前確認が重要です。

Q2: 未経験でも訪問看護に転職できますか?
A: 多くのステーションでは3~5年の病院経験を求めますが、研修制度が充実しているステーションなら経験年数が浅くても可能です。プリセプター制度や同行訪問期間があるステーションを選びましょう。

Q3: 2025年以降、訪問看護師の需要はどうなりますか?
A: 需要は急増します。2025年までに13万人必要とされ、現在の6万人から2倍以上の増加が必要です。団塊世代の後期高齢化により、在宅医療ニーズは今後も拡大し続けます。

Q4: 小規模ステーションでもできる人材確保策は?
A: 紹介採用の強化(報奨金3~5万円)、柔軟な働き方導入(短時間・週数日勤務OK)、近隣ステーションとの連携が低コストで効果的です。大規模な投資をしなくても実行可能な対策から始めましょう。

Q5: 利用者が訪問看護を受けられない理由は?
A: 主な理由は人材不足による新規受入停止です。求人倍率3.22倍の超売り手市場で、看護師を確保できないステーションが増えています。特に地方では選択肢が少なく、待機期間が数ヶ月に及ぶケースもあります。

まとめ

訪問看護の人材不足は、2025年までに現在の2倍以上となる13万人が必要とされる一方、現在はわずか6万人という深刻な状況です。単独訪問の重圧、24時間オンコール、多職種連携の複雑さという訪問看護特有の負担が、人材確保を困難にしています。

2025年問題により、在宅医療ニーズは爆発的に増加します。需要が2倍になるタイミングで、ベテラン看護師の大量離職リスクも重なります。

今すぐ始めるべきアクション:

  • 小規模ステーション: 紹介採用強化、柔軟な働き方導入、近隣連携
  • 中規模ステーション: ICT導入、チーム制、処遇改善加算取得
  • 大規模ステーション: キャリアパス整備、地域連携、ブランディング強化
  • 転職検討中の看護師: 研修制度充実のステーション選び、同行訪問期間の確認

訪問看護の未来を守るため、事業所・看護師・行政が連携し、それぞれの立場で行動を起こすことが必要です。小さな一歩から、今日から始めましょう。

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