介護DXを進めたいが、国の支援策をどう活用すればよいか分からず困っていませんか。
厚生労働省の介護DX施策は、ICT導入支援事業による補助金、LIFE(科学的介護情報システム)、生産性向上推進体制加算の3つを柱に、2040年の人材不足解決を目指す国家戦略です。
本記事では、厚生労働省が公式に示している介護DX推進の方針から、実際に使える補助金制度、LIFE活用のポイント、新設された加算の取得方法まで詳しく解説します。複数の介護事業所でDX導入支援を行ってきた実務経験をもとに、つまずきやすいポイントも具体的にお伝えします。
この記事を読めば、国の施策を最大限活用し、自事業所に最適なDX推進の道筋が分かります。
厚生労働省が推進する介護DXの全体像
厚生労働省が推進する介護DXとは、デジタル技術を活用して介護業務の効率化とサービスの質向上を実現し、2040年に向けた深刻な人材不足問題に対応するための国家戦略です。
厚生労働省の推計によると、2025年には約32万人、2040年には約69万人の介護職員が新たに必要とされています。しかし労働人口の減少により、この人材確保は極めて困難です。この危機的状況を打開するため、国はICT機器・介護ロボット・AI技術などのデジタル技術を活用した業務効率化を強力に推進しています。
厚生労働省の介護DX施策は、大きく3つの柱で構成されています。第一に「ICT導入支援事業」による財政支援、第二にLIFE(科学的介護情報システム)を通じたデータ活用基盤の整備、第三に2024年度の介護報酬改定で新設された「生産性向上推進体制加算」による事業所へのインセンティブ付与です。
さらに2026年度以降には、事業所・医療機関・自治体・利用者が必要な情報をオンラインで確認できる「介護情報基盤」の運用開始も計画されています。介護保険被保険者証のペーパーレス化やマイナンバーカード活用も段階的に進められており、介護DXは単なるIT化ではなく、介護保険制度全体のデジタル改革として位置づけられています。
厚生労働省は公式ホームページに「介護DXの推進」専用ページを設け、手引きやポイント集を無料公開しており、事業所の規模や状況に応じた支援体制を整備しています。
厚生労働省が示す介護DX推進の5つのメリット
深刻な人材不足問題への実効的な対応
厚生労働省の調査では、介護施設の36.1%、訪問介護事業所の58.9%が介護職員不足を課題に挙げています。介護職員の有効求人倍率は3.5〜4.5倍と他職種より高く、採用が極めて困難な状況です。
ICT導入により業務効率化を実現すれば、限られた人員でも質の高いサービス提供が可能になります。
実際に厚生労働省の「令和2年度ICT導入支援事業 導入効果報告まとめ」では、ICTを導入した事業所の90%以上が情報共有の改善を実感しており、月間で最大17時間の業務削減に成功した事例も報告されています。
科学的根拠に基づくケアの実現
2021年4月から厚生労働省が運用を開始したLIFE(科学的介護情報システム)は、全国の介護事業所から集めたケアの計画や内容を分析し、エビデンスに基づいた「科学的介護」を実現するための基盤です。
事業所がLIFEにデータを提出すると、厚生労働省が集計・分析した結果に基づく具体的なアドバイスを受けられます。これにより、従来の経験や勘に頼った属人的なケアから、データに裏付けられた質の高いケアへと転換できます。
全国データとの比較により、自事業所のケアの質を客観的に評価し、継続的な改善も図れます。
介護報酬加算による経営改善効果
2024年度の介護報酬改定で新設された「生産性向上推進体制加算」は、見守り機器等のテクノロジーを活用し、委員会設置や職員研修を通じて業務改善に取り組む事業所を評価する制度です。
インカムの導入による迅速な連携、タブレット端末を活用したリアルタイムな情報共有、AIを活用した介護記録の作成支援などが評価対象となります。
この加算により、DXへの取り組みが直接的な収益改善につながるインセンティブが生まれました。業務効率化によるコスト削減とあわせて、事業所の経営基盤強化に貢献します。
介護職員の身体的・精神的負担の軽減
介護労働者の約40%が「事務作業の多さ」を負担に感じており、これが離職の一因となっています。記録業務のデジタル化により、残業して記録を書くという状況が改善され、ワークライフバランスの向上につながります。
また、2024年6月に経済産業省と厚生労働省が「ロボット技術の介護利用における重点分野」を「介護テクノロジー利用の重点分野」へ名称変更し、対象を9分野16項目に拡充しました。
移乗支援ロボットやアシストスーツの活用により、職員の腰痛や筋骨格系の負傷リスクを削減できます。
事業継続性の確保と地域貢献
2025年問題により介護需要が爆発的に増加する中、DXで業務効率化を実現した事業所は、地域で選ばれる存在になれます。厚生労働省が推進する各種施策を活用することで、業務の標準化、新人教育の効率化、サービス品質の向上が図れます。
利用者・職員双方の満足度が高い事業所は、稼働率の向上と人材確保の両面で優位に立ち、持続可能な経営基盤を確立できます。
厚生労働省の介護DX施策を活用する5ステップ
ステップ1:ICT導入支援事業による補助金申請(所要時間:1〜2ヶ月、難易度:中)
まず、厚生労働省が実施する「ICT導入支援事業」の補助金を活用しましょう。この事業では、介護記録ソフト、情報共有システム、タブレット端末、PCなどの導入費用が補助対象となります。
補助率は導入経費の1/2〜3/4で、自治体によって異なります。申請窓口は事業所がある都道府県となるため、各自治体の公募要項を確認してください。申請時には、導入計画書、効果測定の方法、研修計画などの書類が必要です。
厚生労働省のホームページには「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」が無料公開されているので、必ず事前に確認しましょう。
つまずきポイント:
申請要件に「ICTリテラシー向上のための研修受講」が含まれる場合があります。厚生労働省のオンライン研修などを事前に受講しておくとスムーズです。申請期間が限られているため、締切の1ヶ月前には準備を始めましょう。
ステップ2:介護ロボット導入支援事業の活用(所要時間:1〜2ヶ月、難易度:中)
厚生労働省が実施する「介護ロボット導入支援事業」では、移乗支援、見守り、入浴支援といった特定の介護ロボットや、介護業務支援システムの導入費用が補助対象となります。
この事業も都道府県が窓口となるため、自治体ごとの公募要項を確認することが重要です。ICT導入支援事業と併用できる場合もあるので、両方の制度を組み合わせることで初期投資の負担を大幅に軽減できます。
2026年度には約50億円の新たなDX補助金も予定されており、マイナンバーカードリーダーの導入やパソコン設定のサポート費用も対象となる見込みです。
つまずきポイント:
補助金の公募時期は自治体により異なり、年に1〜2回の場合が多いです。情報を見逃さないよう、都道府県の介護保険担当部署のウェブサイトを定期的にチェックしましょう。
ステップ3:LIFE連携システムの導入と運用(所要時間:2〜4ヶ月、難易度:高)
科学的介護情報システム(LIFE)への対応は、厚生労働省の介護DX戦略の中核です。LIFEを利用することで、介護保険報酬の加算を受けることもできるため、事業所の経営にとっても重要です。
ただし、LIFEにケア内容を1件ずつ手入力するのは大変な手間がかかります。多くの介護ソフトはLIFEと連携しており、ソフトに入力した内容がLIFEに自動的に入力される機能があります。導入時はLIFE連携機能の有無を必ず確認しましょう。
厚生労働省が用意した専用Webページでの直接入力も可能ですが、介護記録ソフトのデータ提出機能を活用する方が効率的です。
つまずきポイント:
LIFE対応の加算を取得するには、計画的なデータ提出とフィードバックの活用が必要です。最初は少数の利用者から始め、運用に慣れてから拡大する段階的アプローチをお勧めします。
ステップ4:生産性向上推進体制加算の取得準備(所要時間:3〜6ヶ月、難易度:高)
2024年度介護報酬改定で新設された「生産性向上推進体制加算」の取得を目指しましょう。この加算を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。
テクノロジー(見守り機器、インカム、タブレット等)の導入、生産性向上のための委員会設置、職員研修の実施、業務改善計画の策定と実行などです。厚生労働省の公式資料「令和6年度介護報酬改定 生産性向上推進体制加算について」で詳細を確認できます。
加算取得により、DXへの取り組みが収益に直結するため、経営層の理解も得やすくなります。
つまずきポイント:
加算要件を満たすには、単なる機器導入だけでなく、組織的な業務改善の取り組みが必要です。委員会の定期開催や研修記録の保存など、継続的な活動が求められます。
ステップ5:介護情報基盤への対応準備(所要時間:継続的、難易度:中)
厚生労働省は2026年度以降、事業所・医療機関・自治体・利用者が必要な情報をオンラインで確認できる「介護情報基盤」の運用を開始する計画を進めています。
この基盤を活用するには、マイナンバーカードリーダーやオンライン環境の整備が必要です。2026年度の補助金でこれらの経費が支援される見込みですが、早めに準備を始めることで、制度開始時にスムーズに対応できます。
介護保険被保険者証のペーパーレス化も段階的に進められるため、将来を見据えたシステム選定が重要です。
厚生労働省施策活用の3つのコツと注意点
失敗例1:「補助金申請のみ」で終わり活用しない失敗と解決策
よくある失敗が、補助金を受けてシステムを導入したものの、十分に活用できず宝の持ち腐れになってしまうケースです。厚生労働省の調査でも、介護ソフトを導入していない理由として「導入効果が不明」「操作が難しそう」という声が多く挙げられています。
補助金で導入したシステムは、効果測定と継続的な改善が義務づけられている場合もあり、適切に活用しないと補助金の趣旨に反します。
対策:
導入前に「何のために導入するのか」という目的を明確にし、職員全員で共有しましょう。厚生労働省が公開している「ICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」を活用し、現場の課題に合ったシステムを選定することが重要です。導入後も定期的に効果を測定し、使い方を改善し続ける体制を作りましょう。
失敗例2:「LIFE対応」を目的化してケア改善につなげない失敗と解決策
LIFE加算を取得することが目的化し、データ提出だけで満足してしまうケースがあります。厚生労働省がLIFEを通じて提供するフィードバック情報を活用せず、形だけの対応では、科学的介護の実現という本来の目的が達成できません。
開始当初はシステム操作に慣れず、職員の入力負担が大きいという声も多く聞かれました。
対策:
LIFEから得られるフィードバック情報を、実際のケアプラン見直しに活用する仕組みを作りましょう。厚生労働省や各自治体が主催する活用事例の共有会に参加し、他事業所のノウハウを学ぶことも有効です。また、介護記録ソフトのLIFE連携機能を活用すれば、データ提出が容易になり、職員の負担も軽減できます。
失敗例3:「国の施策待ち」で主体的な取り組みをしない失敗と解決策
「国がもっと支援してくれるまで待とう」「制度が固まってから動こう」という姿勢では、DX推進が遅れ、他の事業所との差が開いてしまいます。2040年の人材不足は確実に訪れるため、早期の対応が必要です。
対策:
厚生労働省の施策は段階的に拡充されていますが、全てが整うのを待つのではなく、今できることから始めましょう。小規模な試験導入から始め、補助金が利用できるタイミングで本格展開する段階的アプローチが効果的です。厚生労働省のホームページで最新情報を定期的にチェックし、新しい施策が発表されたら速やかに対応する体制を作りましょう。
福祉分野特有の注意点として、厚生労働省が推進する介護DXは、あくまで「利用者の尊厳を保持し、自立した日常生活を営めるよう支援する」という介護保険法の理念の実現が目的です。
効率化やデータ収集が目的化し、利用者の個別性や尊厳を軽視することがあってはなりません。デジタル技術は手段であり、より良いケアの提供という本来の目的を常に意識することが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1: 厚生労働省の補助金は小規模事業所でも申請できますか?
A: 申請可能です。ICT導入支援事業や介護ロボット導入支援事業は、事業所の規模に関わらず申請できます。むしろ小規模事業所ほど、補助金を活用した初期投資の軽減効果が大きくなります。自治体によって要件が異なるため、都道府県の担当窓口に確認しましょう。
Q2: LIFEへの対応は義務ですか?
A: 義務ではありませんが、LIFE関連の加算を取得する場合は対応が必要です。厚生労働省はLIFE活用による科学的介護の推進を政策の柱としており、今後も加算の拡充が見込まれます。早期に対応しておくことで、将来的なメリットが大きくなります。
Q3: 生産性向上推進体制加算の算定要件を教えてください
A: 主な要件は、見守り機器等のテクノロジー導入、生産性向上委員会の設置と定期開催、職員研修の実施、業務改善計画の策定です。詳細は厚生労働省の「令和6年度介護報酬改定」の公式資料で確認できます。各サービス種別により細かな要件が異なるため、確認が必要です。
Q4: 2026年度の新しい補助金はいつ申請できますか?
A: 厚生労働省は2026年夏の支給を予定していますが、詳細な申請時期は現在検討中です。新設される専用ポータルサイトで申請受付が行われる予定です。最新情報は厚生労働省の「介護DXの推進」公式ページで公表されるため、定期的に確認しましょう。
Q5: 厚生労働省の手引きはどこで入手できますか?
A: 厚生労働省の公式ホームページ「介護現場におけるICTの利用促進」ページから無料でダウンロードできます。「介護ソフトを選定・導入する際のポイント集」「介護サービス事業所におけるICT機器・ソフトウェア導入に関する手引き」などが公開されており、実践的な内容が充実しています。
まとめ
厚生労働省の介護DX施策は、ICT導入支援事業による補助金、LIFE(科学的介護情報システム)、生産性向上推進体制加算の3つを柱に展開されています。
2040年の深刻な人材不足に対応するため、国を挙げて介護現場のデジタル化を推進しており、事業所はこれらの施策を最大限活用することが求められています。
まずは今日から、厚生労働省の公式ホームページで最新の補助金情報や手引きを確認してみてください。自事業所の課題に合った施策を見つけ、計画的に活用することで、DX推進が加速します。
国の施策は段階的に拡充されていますが、全てが整うのを待つのではなく、今できることから始めることが成功の鍵です。焦らず、着実に取り組んでいきましょう。

