介護業界の人手不足データ徹底解析|有効求人倍率・統計から見る深刻度と対策

福祉経営

介護業界の有効求人倍率は全職業平均の3倍以上(3.6~3.9倍)であり、2025年に約32万人の職員不足が予測されています。地域による格差は最大で9倍以上あり、都市部ほど採用が困難な状況です。

介護業界の人手不足は「数字で見ると」どの程度深刻なのでしょうか。厚生労働省をはじめ複数の調査機関が公表するデータを分析すると、単なる「人手が足りない」というレベルではなく、構造的な危機が明らかになります。

本記事では、介護業界の人手不足に関する具体的なデータを、地域別・職種別・時系列で徹底解析します。統計数字の背景にある課題を理解することで、現場での適切な対策が見えてきます。業界従事者、経営者、求職者それぞれの視点から、データが示す現実と将来動向を解説していきます。

介護業界の人手不足を数字で理解する:有効求人倍率データの深読み

全職業との比較でわかる深刻度

介護業界の有効求人倍率は、統計開始以来最高水準にあります。厚生労働省の最新データ(令和5年=2023年時点)では、全職業平均1.15倍に対し、介護サービス職業従事者は3.88倍という驚異的な数字です。

これは「1人の求職者に対して4社近くの求人がある」という意味です。同じサービス業でも、飲食業の有効求人倍率が1.5倍前後であることを考えると、介護職の求人難の度合いが特異的であることが理解できます。

2019年度と比較しても、有効求人倍率は上昇傾向が続いており、この5年間で人手不足はさらに深刻化しているという実態があります。労働力不足が全業界で進む中で、介護業界だけが突出して高い数値を保ち続けている背景には、採用難と既存職員の離職という二重の課題があります。

地域別データが示す格差:最大9倍超の開き

有効求人倍率は全国平均で3.6倍を上回ていますが、地域による格差は極めて大きいという重要な特徴があります。2022年の調査によると、都道府県別に見ると以下のような大きなばらつきが存在します。

最も高い地域:
福岡県13.02倍、三重県10.83倍、秋田県9.52倍。これらの地域では求人数が極端に多く、採用競争が特に激しい状況です。

最も低い地域:
徳島県1.42倍、山口県1.89倍、香川県1.91倍。これらでも全職業平均を大きく上回っており、全国どこでも人手不足が深刻な状況であることがわかります。

東京都、愛知県、大阪府などの都市部では有効求人倍率が4倍以上と特に高く、人口集中地域ほど採用が困難な傾向が鮮明です。一方、地方でも決して低くはない数値が続いており、「人手不足は全国共通の課題」という構図が浮かび上がります。

この地域差は、介護業界への進出を考える法人や事業者にとって、採用戦略立案の際に重要な判断基準となります。

職種別データから見える不均等な人手不足構造

訪問介護と施設介護で最大3倍の開き

介護業界内部でも、職種によって有効求人倍率に大きな差があります。2019年度のデータを見ると、その差は顕著です。

施設介護員: 有効求人倍率4.31倍。利用者のケアを担当する主要な職種です。

訪問介護員: 有効求人倍率15.03倍。単独で高齢者宅を訪問するため、責任が重く心理的負担が大きいことが採用困難の要因と考えられます。

訪問介護員の倍率が施設介護員の3倍以上という数字は、単に「人手が足りない」のではなく、「特定の職種への適性がある人材が著しく不足している」という課題を示唆しています。

介護記録や報告業務の増加、利用者との信頼構築にかかる時間など、訪問介護の実務的な負担の大きさが、求人倍率の乖離に反映されていると考えられます。

ケアマネジャーと介護福祉士の高い倍率

ケアマネジャーや介護福祉士といった資格職も、一般的な介護職員と同様に求人倍率が高い傾向にあります。これらの職種は専門性が求められるため、採用にあたっては「単なる人手不足」ではなく「専門知識と経験を持つ人材の不足」という課題が存在します。

資格取得の負担が大きいことと、取得後の処遇が資格難易度に見合わないことが多いこと、これが人材流出につながっているという構造的問題があります。

2025年問題と介護人材の需給ギャップ:具体的な人数予測

32万人不足という数字が意味すること

厚生労働省が提示する「2025年に約32万人の介護職員不足」という予測値は、複数の調査機関による推計に基づいています。

2025年度には約243万人の介護職員が必要とされている一方、現在の介護職員数は211万人(2019年度実績)にとどまっています。つまり32万人の不足は、現在の約15%に相当する規模の人材が追加で必要という意味です。

この不足数は、毎月5千人以上の新規採用が必要という計算になり、全国の介護事業所で一斉に采用活動を進めても、供給が需要に追いつかない状況を示しています。

さらに2040年には約69万人の追加人材が必要という予測もあり、団塊第二世代の高齢化に伴い、問題はより深刻化することが確実視されています。

現在の採用困難さと将来予測のギャップ

現在でも約9割の介護事業所が「採用が困難である」と回答しているデータがあります。この困難さの中で、さらに32万人の追加採用が求められるという現実は、従来の採用方法では解決不可能な課題を示唆しています。

労働人口全体の減少が続く中での介護人材確保は、「業界内での人材奪い合い」を余儀なくされるか、「業界外からの人材流入」「外国人材の活用」といった抜本的な対策が不可避であることを、データが明確に示しています。

離職率データから見える「採用後の定着課題」

離職率は改善傾向だが、採用困難は解決していない

介護業界の離職率は、2007年の21.6%から大きく改善し、2021年には全業種平均並みの14.4%程度まで低下しています。

ステップ1:有効求人倍率が高いなら、介護職は採用されやすいのではないか?
この矛盾の理由は明確です。既存職員の定着が改善しても、「新規採用そのものができていない」という課題が解決されていないため、全体としての人手不足は深刻化し続けている構図です。

つまり介護業界の課題は、「既存職員を辞めさせない」という観点では改善しつつも、「新規採用を増やす」という観点では全く改善していない状況にあります。

離職理由データが示す根本課題

公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、介護職を辞める理由の第1位は「職場の人間関係に問題」(23.2%)です。

その他の主要な離職理由として、給与などの待遇の悪さ(20%前後)、身体的負担の大きさ(15~20%)などが続きます。

興味深い点は、給与改善の施策が進んでいるにもかかわらず、「待遇の悪さ」が依然として高い割合で挙げられていることです。これは給与の改善幅が、他業種との比較で依然として低いことを示唆しています。

厚生労働省の調査では、全産業の平均月給が約39万円であるのに対し、介護職員の平均月給は約32万円と、7万円以上の差があります。処遇改善加算などの施策にもかかわらず、この賃金格差は根本的な課題として残り続けています。

労働力人口の減少がもたらす長期的な人手不足構造

生産年齢人口減少の加速

日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少し続けており、この傾向は今後加速することが確実です。総務省の統計によると、2023年10月時点での65歳以上の人口割合は29.1%に達しており、2019年の28.1%からわずか4年で1ポイント上昇しています。

この「働き手の減少」と「介護が必要な高齢者の増加」という二つの逆方向の動きが同時進行することが、介護業界の人手不足を構造的に深刻化させている根本原因です。

労働力不足は介護業界だけではなく全業界で起こっていますが、介護業界の場合は需要(高齢化)が逆方向に動いているため、相対的に人材確保がより困難になるという特殊性があります。

採用競争の激化がもたらす地域格差

労働力不足が全業界で進む中、介護業界と他業界の間での「人材奪い合い」が激化しています。特に都市部では、製造業、サービス業、建設業など複数の業界が労働力を求めており、介護業界が相対的に魅力的でない職場として選別されやすい傾向があります。

その結果、採用可能性のある自治体や地域ごとに、大手企業が率先して良好な労働条件を提示し、中小の介護事業所には人材が流れにくいという「勝ち組と負け組」の分化が生じています。

このような採用競争の激化は、特に地方都市の中小事業所において、経営の継続性そのものを脅かす要因となっています。

よくある質問(FAQ)

Q1:有効求人倍率が高いなら、介護職は採用されやすいのではないか?

A: 一見矛盾しているように思えますが、有効求人倍率が高いということは「求人はたくさんあるが、その求人に応じる人材がいない」という意味です。

つまり介護職として「採用されやすい」のではなく、事業所側が「採用しにくい」状況を示しています。求職者にとっては職場を選べる立場にあり、労働条件が良い事業所に人材が集中する傾向があります。

Q2:地域別で有効求人倍率がこんなに違うのはなぜ?

A: 都市部では高齢化が進む一方で、労働力供給は製造業、サービス業など他業種との競争を受けます。また、都市部の方が給与や労働条件が相対的に良いため、人材がそこに集中する傾向があります。

地方でも人手不足は深刻ですが、都市部では求人数の増加が人の供給を大きく上回っているため、倍率がより高くなります。

Q3:2025年に32万人不足という予測は、実現するのか?

A: 現状のペースであれば、その可能性は高いと考えられます。既に現在の時点で約9割の事業所が採用困難を感じており、労働力人口の減少は確実に進んでいます。

ただし、外国人材の受け入れ拡大、処遇改善による職場改善、テクノロジー導入による業務効率化など、複数の対策を講じることで、不足幅を縮小することは可能です。

Q4:介護職の離職率が改善しているなら、なぜ人手不足は解決しないのか?

A: 離職率の改善は、「既存の職員が辞めにくくなった」ことを示していますが、「新規採用が増えた」ことを示していません。新規採用の減少や困難さが、既存職員の定着改善を上回ってしまうため、全体の人手不足は解決しません。

Q5:給与改善で人手不足は解決するのか?

A: 給与改善は必要な対策ですが、全産業平均との7万円の給与格差を完全に埋めるには、現在の処遇改善加算では不十分です。同時に、労働条件の改善、職場環境の整備、キャリアパスの明確化など、複合的な対策が必要です。給与だけでなく「働きやすさ」の改善も同等に重要です。

まとめ

介護業界の人手不足は、単なる「人数が足りない」という一次的な課題ではなく、労働力人口の減少、高齢化の加速、地域による格差、職種による不均等という複層的な構造を持つ課題であることが、データから明確に読み取れます。

有効求人倍率3.6倍超という数字、2025年の32万人不足予測、地域による最大9倍以上の開き——これらのデータは、従来の採用方法や処遇改善だけでは解決不可能な課題を示唆しています。

現在進行中の処遇改善施策や外国人材受け入れ拡大などの対策は、確実に効果を上げつつあります。ただし、構造的な課題に対応するには、より抜本的な施策展開と、複数対策の並行実施が不可欠です。

データに基づいた現実認識こそが、実効性のある対策へと導く最初の一歩となります。介護業界に関わるすべての関係者が、これらのデータを理解し、自らの立場からできる対策を講じることが、この課題を乗り越える道筋となるでしょう。

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