訪問看護ステーションの求人倍率は4.18倍と、医療業界で最も深刻な人材不足に直面しています。採用難の時代に、採用できても「3~6ヶ月で離職する」という問題に直面する事業所が多いです。
この記事では、小規模ステーションでも採用可能な採用戦略と、採用後の「定着させる仕組み」の双方を解説します。2025年に向けた実践的アプローチで、人材不足を乗り越えましょう。
訪問看護の人材不足がこれほど深刻な理由
需要増と供給のギャップが拡大中
訪問看護の需要は急速に増加しており、2020年の6.8万人から2025年には11.3万人の需要が見込まれています。この4.5万人の需要増は、全医療職種の中で最大です。
一方、全国訪問看護事業協会の調査によると、2025年度の訪問看護ステーション数は15,697件。そしてこれらのステーションに配置される看護師数は、需要に対して大きく不足しているのが現状です。
求人倍率4.18倍という異常な状況
公益社団法人日本看護協会の2023年度調査では、訪問看護ステーションの求人倍率が4.18倍と報告されました。この数字が何を意味するか、具体的には「看護師1人に対して約4つの求人がある」ということです。
比較すると、病院(20~199床)の求人倍率は2.64倍、大規模病院は1.72倍。訪問看護での人材確保の困難さが一目瞭然です。
採用できても「定着しない」深刻性
採用が難しい中、ようやく採用できても、訪問看護師の離職率は15.0%(病棟看護師は12.6%)と病院より高いのが特徴です。原因は個別訪問による孤独感、責任の重さ、オンコール対応の負担、医療依存度の高い利用者増による業務負担増です。
「採用→入職3~6ヶ月→退職」というパターンが多発しており、採用費用の回収ができない事業所も増えています。
訪問看護での採用難の三つの根本要因
要因1:賃金・待遇が低く、病院との競争に負ける
厚生労働省の令和4年度介護事業経営概況調査結果によると、訪問看護ステーションの約3割が赤字経営です。赤字では給与を上げられず、採用競争では必ず病院や施設に負けます。
人件費率が78%と業界内で最も高く、80%を超えると経営破綻のリスクが高まるため、給与改善の余地が極めて限定的なのが実態です。
要因2:訪問看護の「認知不足」と新卒からの敬遠
看護学生の多くが「訪問看護は敷居が高い」「一人で判断しなければならない」と感じており、就職先の選択肢から外す傾向が強いです。
病院での臨床経験を5年以上積まないと訪問看護に転職する気がない、という看護師も多く、新卒採用がほぼ不可能な現状があります。
要因3:オンコール対応と緊急時の不安感
訪問看護は24時間対応が求められる場合が多く、オンコール当番による待機時間の心理的・身体的負担が大きいです。また、利用者の緊急時に「一人で対応しなければならない」というプレッシャーが、離職につながる主要な理由となっています。
訪問看護での人材確保|実践的な6つの採用・定着戦略
ステップ1:採用前の「現状把握」で戦略を立案(期間:2~3週間)
採用活動を開始する前に、自ステーションの立場を正確に把握することが重要です。
まず、同地域の競合ステーション、病院の求人内容を調査。給与、勤務時間、福利厚生、働きやすさをベンチマークし、自ステーションの強みと弱みを明確にします。
その上で「何が違うのか」という独自の訴求ポイント(例:オンコール手当の手厚さ、先輩との同行期間の長さ、キャリアパスの明確化)を決定することで、限られた求人予算を効果的に活用できます。
ステップ2:未経験者・経験浅い層への教育体制の整備(期間:1~2ヶ月)
求人倍率4倍の現在、経験者の獲得は困難です。むしろ「未経験者を育成できる体制」を整備する方が現実的です。
具体的には、入職後3~6ヶ月間の先輩看護師との同行訪問制度を確立。新人が一人で訪問するまでに十分なOJT期間を設けることで、新人の不安感が大幅に軽減されます。
また、月1回の新人フォローアップ面談、困ったことを即座に相談できる体制(チャット、電話相談窓口)を整備することで、離職を防げます。
ステップ3:オンコール対応の「見える化」と心理的サポート(期間:継続)
採用面接時に「オンコール対応があります」と説明しても、入職後に実際の負担を知ってギャップが生じるケースが多いです。
対策として、オンコール対応時の実際の事例(月何件程度、どんな対応が多いか)を示し、「その場で対応できない場合は、管理者や24時間対応の医師に相談できる」という具体的なバックアップ体制を説明することが重要です。
ICT(チャット、テレビ電話システム)を活用し、一人で抱え込まない仕組みを構築することで、訪問看護の孤独感を大幅に軽減できます。
ステップ4:キャリアパス・給与テーブルの明確化(期間:1~2ヶ月)
「3年後、5年後、自分がどうなっているか」が見えない職場からは、優秀な人材は去っていきます。
初任者研修修了→認定看護師取得→管理職昇格といった段階的なキャリアパスを図示し、各段階での給与・待遇の向上を数字で示すことで、長期就業へのモチベーションが生まれます。
特に小規模ステーションの場合、「5年後に月給〇万円に達する」といった現実的な見通しを示せば、採用面接での説得力が格段に高まります。
ステップ5:柔軟な勤務体制と福利厚生の充実(期間:継続)
育児中の看護師、介護を抱える看護師、兼業を希望する層など、多様なライフスタイルに対応する勤務体制を整備することで、採用母数が広がります。
週3日勤務、時間短縮勤務、オンコール当番の選択制など、一律的ではない柔軟性が、特に子育て世代の看護師にとって大きな訴求力になります。
また、職場の雰囲気や先輩看護師の顔がわかる企業ホームページ、SNS発信、YouTube動画(1分以内)なども、採用へのプラス要因になります。
ステップ6:赤字改善による「給与向上の余裕」確保(期間:3~6ヶ月)
採用・定着の根本的な課題は「給与が上げられない」ことです。赤字を改善し、給与改善余裕を生み出すことが急務です。
具体的には、営業活動の強化(新規利用者獲得)、介護保険請求業務の効率化、訪問ルートの最適化による移動時間削減などで、売上を向上させながら経費を削減します。
また、「業務改善助成金」(生産性向上に投資し、事業場内最低賃金を引き上げた場合に経費の一部を助成)など、国の支援制度を活用することで、給与改善を実現できます。
よくある失敗事例と対処法|採用後に人材が定着しないパターン
失敗例1:採用直後は良好だが、1~3ヶ月で離職するケース
原因:
採用面接時の説明と、実際の業務のギャップ(オンコール回数の多さ、利用者の医療依存度の高さ、移動時間の長さなど)が、新人を予期しないストレスに追い込みます。
対処法:
入職前の「職場見学」を複数回設定。実際にステーションに来訪させ、既存スタッフとの面談を通じて、職場の実態をできるだけ正確に伝えることが重要です。また、入職後1ヶ月は週1回の面談を実施し、困っていることを早期に発見・対応することで、離職を防ぎます。
失敗例2:経験者を採用したのに、組織に馴染まないケース
原因:
前職の習慣や考え方で行動し、ステーションの業務フローや方針に従わないため、既存スタッフとの軋轢が生じます。採用面接時に「スキル」を重視し、「文化適合性」の確認が不十分だったパターンです。
対処法:
採用面接時に「なぜ訪問看護をしたいのか」という動機を深掘りし、理念共鳴度を測定します。スキルだけでなく、ステーションの理念・方針に共感する人材を採用することで、長期的な定着が実現します。
失敗例3:採用費用の重い負担で採用頻度を減らすケース
原因:
人材紹介会社の手数料が年収の20~30%と高額なため、採用を控える。しかし、これが恒常的な人手不足を固定化させ、既存スタッフの過重労働→離職という負のループに陥ります。
対処法:
人材紹介会社以外の採用方法を多角化します。ハローワーク、福祉人材センター、自社ホームページでの直接募集、職場見学会の開催、看護学校への訪問説明など、低コストの採用チャネルを組み合わせることで、採用費用を削減できます。
訪問看護の人材不足 | よくある質問(FAQ)
Q1:小規模ステーション(常勤3名以下)でも採用は可能ですか?
A: はい、可能です。むしろ小規模だからこそ「手厚い教育」「困ったときに即相談できる環境」といった訴求力があります。
採用面接時に、新人教育の充実ぶりを詳しく説明し、「大規模より丁寧に育てる」というメッセージを伝えることが重要。さらに、複数の小規模ステーションが共同で採用説明会を開催することで、採用母数を広げられます。
Q2:未経験者の育成期間(OJT)はどの程度必要ですか?
A: 目安は3~6ヶ月です。最初の1~2ヶ月は先輩との同行訪問を毎回実施し、3~4ヶ月目から時々同行、5~6ヶ月目から独立という段階的なステップを組みます。
ただし、利用者の医療依存度によって期間は変動します。医療依存度が高い利用者を担当する場合は、同行期間を延長することが必須です。
Q3:赤字ステーションでも給与は改善できますか?
A: はい、工夫で改善できます。全体給与を上げられない場合は、処遇改善加算の活用、新規利用者獲得インセンティブの強化、オンコール手当の充実など、部分的な改善で対応。
また、業務改善助成金(生産性向上投資で給与引上時に経費助成)を活用すれば、赤字でも給与改善が可能になります。厚労省や自治体に相談し、制度活用を検討しましょう。
Q4:オンコール対応が多い地域では、新人教育をどう工夫すべきですか?
A: オンコール対応の多い地域では、採用面接時から「月の対応件数、典型的な対応内容」を具体的に説明し、期待値を合わせることが先決。
入職後は、オンコール対応時に「判断に迷ったら、管理者や医師に相談すること」という相談しやすい環境を強調。ICT(チャット等)で24時間相談可能な体制を整備すれば、新人の心理的負担が軽減され、定着率が向上します。
Q5:経験者採用と未経験者採用、どちらに力を入れるべきですか?
A: 両方が必要です。経験者は即戦力として業務遂行でき、新人教育の負担も軽い。一方、未経験者は長期の人材育成を通じて、ステーションの文化を体現する人材になります。
理想的なバランスは、経験者2~3割、未経験者7~8割(その後の育成で経験者化)。ただし、人員体制に余裕がない場合は、まず経験者採用を優先し、体制整備後に未経験者育成体制を構築する順序で進めます。
Q6:採用後の離職を防ぐために、最も効果的な施策は何ですか?
A: 入職後1ヶ月の定期面談です。困っていること、不安なこと、職場への不満を早期に吸い上げることで、軽微な問題が深刻化する前に対応できます。
同時に、先輩との関係構築が進む時期なので、職場への帰属意識も高まりやすい。この1ヶ月を丁寧に過ごせば、その後3~6年の長期就業につながる傾向が強いです。
まとめ|人材不足時代は「採用戦略」より「定着戦略」
訪問看護ステーションの求人倍率4.18倍という現実から目をそむけることはできません。採用は難しい時代です。
しかし、だからこそ重要なのが「採用した人材をいかに定着させるか」という定着戦略です。採用できても3~6ヶ月で退職する負のループから脱却するためには、手厚いOJT、オンコール対応への心理的サポート、キャリアパスの明確化が必須です。
同時に、赤字体質を改善し、給与改善の余裕を生み出すことで、初めて「働きたい職場」として他の事業所との競争に勝つことができます。
次のアクションとして、まず自ステーションの「採用後の定着率」を数値化してみてください。新人の平均勤続年数は何年か、何ヶ月で退職が多いか、退職理由は何か。これが見える化できれば、改善すべき優先順位が明確になります。
その上で、OJT体制、キャリアパス、給与テーブルのいずれかから改善を開始し、「採用しやすく、働き続けやすい訪問看護ステーション」へと変革しましょう。人材不足は深刻ですが、戦略的に対応すれば、乗り越えることは十分に可能です。

