はじめに
「ケアマネージャーからの依頼を断り続けている」「利用者を受け入れられず経営が悪化している」と悩んでいませんか。
ヘルパー人材不足は、有効求人倍率15.53倍、事業所の6割が「大いに不足」と回答する極めて深刻な状況で、訪問介護事業所の廃止理由の4割を占めています。
この記事では、訪問介護事業所の経営支援に15年携わってきた経験から、ヘルパー不足の実態と事業所が今日から実践できる具体的な人材確保策を解説します。実際の成功事例と最新データに基づく信頼性の高い情報です。
読み終える頃には、人材確保の具体的な道筋と経営安定化の方策が見えてくるでしょう。
ヘルパー人材不足の深刻な実態
ヘルパー人材不足とは、訪問介護員(ホームヘルパー)の需要に対して供給が著しく不足し、訪問介護事業所が新規利用者を受け入れられない状態を指します。介護職員の中でも訪問介護員の不足は突出しており、事業所の存続を脅かす構造的な問題となっています。
数字で見る危機的状況
2023年度の訪問介護員の有効求人倍率は15.53倍に達し、過去最高を記録しました。これは求職者1人に対して15件以上の求人がある計算で、施設介護職員の3.8倍と比較しても約4倍の開きがあります。
介護労働安定センターの調査では、訪問介護事業所の59.7%が「不足している」と回答し、そのうち「大いに不足」が32.1%を占めました。「大いに不足」が3割を超えたのは過去10年で初めてで、不足感は年々悪化しています。
さらに深刻なのが、2023年5月から2024年5月の1年間でヘルパーの数が約7.2%減少したという事実です。需要が増加する一方で従事者が減少する傾向が続いており、このままでは多くの事業所が存続困難に陥ります。
事業所廃止の実態
厚生労働省の調査によると、2024年3月に廃止した訪問介護事業所376件のうち、40.4%が「人員不足・高齢化等」を理由に挙げています。「利用者不足・経営不振等」の13.3%を大きく上回り、人材確保の失敗が直接的な廃止原因となっている実態が浮き彫りになりました。
実際の事例では、サービス提供責任者3人が同時期に退職し、補充できずに事業所を閉鎖したケースもあります。他の事業所から人員を異動させようにも、どこも余裕がなく対応できない状況です。
ヘルパー人材不足の4つの根本原因
原因1:賃金水準の低さと処遇の問題
最大の原因は賃金の低さです。ヘルパーの平均時給は1,500〜2,000円程度ですが、移動時間や記録作成時間は無給の場合が多く、実質的な時給はさらに低くなります。登録ヘルパーは働いた分しか給与が発生しないため、月収が不安定です。
介護職員処遇改善加算は訪問介護にも適用されますが、他産業と比較すると依然として低水準です。令和2年度の調査では、事業所の53.7%が「他産業に比べて労働条件等が良くない」ことが採用困難の原因と回答しています。
体力的にも精神的にも負担が大きい仕事であるにもかかわらず、その対価が見合っていないと感じる人が多いのが実情です。
原因2:ヘルパーの高齢化と引退の加速
現在従事しているヘルパーの24.4%が65歳以上、12.2%が75歳以上です。平均年齢は50.5歳で、40〜50代が中心となっています。今後5〜10年で大量の引退者が出ることが確実視されています。
実際に、ある事業所では80人のヘルパーの平均年齢が60歳近く、最高齢は80歳で、20代はゼロ、30代は1人という状況です。若手の新規参入がほとんどないため、年齢構成の偏りが極端になっています。
高齢ヘルパーは経験豊富で利用者からの信頼も厚いですが、体力的な限界や健康問題で突然退職せざるを得ないケースも増えています。
原因3:資格取得のハードルと参入障壁
ヘルパーとして働くには「介護職員初任者研修」の修了が必須です。130時間のカリキュラムを最短1ヶ月で受講し、費用は5〜10万円かかります。無資格・未経験から始められる他の仕事と比較すると、参入のハードルが高くなっています。
生活援助従事者研修(59時間)という簡易版もありますが、生活援助のみで身体介護ができないため、活躍の場が限られます。資格取得支援制度がない事業所では、自己負担で資格を取る必要があり、これが新規参入を妨げています。
原因4:1対1サービスの精神的負担
訪問介護は利用者宅で1対1のサービスを提供するため、施設介護と比較して精神的な負担が大きくなります。困ったときに相談できる同僚が近くにおらず、判断を一人で下さなければならない場面も多々あります。
利用者やその家族との関係構築に悩むヘルパーも少なくありません。過度な要求や理不尽なクレームに一人で対応しなければならず、ストレスから離職するケースもあります。移動時間も勤務時間に含まれず、天候に左右される点も負担となっています。
ヘルパー人材確保の6つの実践対策
対策1:賃金体系の見直しと処遇改善(難易度:中/効果:大)
給与水準を地域の相場より1〜2割高く設定することで、求人への応募率が大幅に向上します。登録ヘルパーの時給を1,800〜2,200円、常勤ヘルパーの月給を25〜30万円以上に設定している事業所では、採用成功率が高い傾向があります。
移動時間や記録作成時間にも賃金を支払う仕組みを導入しましょう。1件あたりの訪問に対し、移動・記録時間として30分程度を加算すると、実質的な時給が上がり魅力的な求人となります。
処遇改善加算や特定事業所加算を積極的に取得し、その増収分を直接ヘルパーの給与に還元する姿勢を明示します。賞与や退職金制度を整備し、長期的なキャリア形成が可能であることをアピールすることも効果的です。
対策2:柔軟な働き方の提供(難易度:低/効果:大)
週1日2時間からでも働ける超短時間勤務、午前のみ・午後のみの時間帯限定勤務、特定の曜日だけの勤務など、多様な働き方を用意します。育児や介護と両立したい主婦層、定年退職後の活躍の場を求めるシニア層など、幅広い層にアプローチできます。
訪問エリアを自宅から車で15分圏内に限定するなど、移動負担を軽減する配慮も有効です。利用者との相性を考慮した担当割り振りにより、精神的な負担を軽減します。
勤務開始時間を30分単位で調整できる、急な予定変更にも柔軟に対応するなど、働きやすさを追求した事業所は定着率が高くなります。
対策3:資格取得支援制度の充実(難易度:低/効果:中)
介護職員初任者研修の受講費用を全額補助し、受講中も時給を支払う制度を設けます。研修修了後、3ヶ月以上勤務すれば返済不要とする条件を設定することで、定着も促せます。
事業所内で定期的に研修会を開催し、実務に役立つスキルアップの機会を提供します。介護福祉士やケアマネジャーへのキャリアパスを明示し、長期的な成長イメージを持ってもらうことが重要です。
無資格者を「見習いヘルパー」として採用し、資格取得までの期間は生活援助や事務作業を担当してもらう方法も効果的です。この間に仕事内容を理解してもらい、資格取得後はスムーズに訪問業務に移行できます。
対策4:職場環境の整備とサポート体制強化(難易度:中/効果:大)
新人ヘルパーには必ず先輩ヘルパーがOJTで同行し、最低2週間は一人で訪問させない体制を作ります。初回訪問時の不安を軽減し、利用者との関係構築をサポートすることで、早期離職を防ぎます。
24時間365日対応の相談窓口を設置し、訪問先で困ったときにすぐサービス提供責任者や管理者に連絡できる体制を整えます。LINEやチャットツールを活用し、気軽に相談できる雰囲気を作ります。
月1回のヘルパー会議で、困難事例を共有し解決策をチームで検討します。孤立しがちな訪問介護の仕事でも、チームで支え合える環境があることが定着の鍵です。
対策5:ICTツール導入による業務効率化(難易度:中/効果:中)
タブレット端末やスマートフォンアプリを活用し、訪問先で直接記録入力できる仕組みを導入します。事業所に戻って記録作成する手間が省け、移動時間や拘束時間を削減できます。
訪問スケジュールの自動最適化システムにより、移動距離を最小化し、1日あたりの訪問件数を効率的に設定します。ヘルパーの負担を軽減しながら、収入を増やすことも可能になります。
国や自治体のICT導入補助金を活用すれば、初期投資を抑えながら業務効率化を実現できます。導入後3〜6ヶ月で効果が実感でき、ヘルパーからの満足度も向上します。
対策6:リファラル採用と潜在ヘルパーへのアプローチ(難易度:低/効果:中)
既存のヘルパーから友人や知人を紹介してもらうリファラル採用を推進します。紹介者に3〜5万円の報奨金を支払う制度を設ければ、積極的に紹介してもらえます。紹介での入職者は定着率が高い傾向があります。
介護資格を持ちながら従事していない潜在ヘルパーは全国に多数います。「ブランクOK」「丁寧な研修あり」「週1日2時間からOK」など、復職しやすい条件を明示した求人を展開します。
ハローワークや介護人材センターへの求人登録に加え、SNSでの情報発信、地域の掲示板への求人掲載など、多様なチャネルでアプローチします。
人材確保で失敗しないための注意点
注意点1:採用時の過度な期待値設定を避ける
求人広告で「高収入」「楽な仕事」など誇大表現を使うと、入職後のギャップで早期離職につながります。訪問介護の仕事の大変さも正直に伝え、その上でやりがいや魅力を説明することが長期定着の鍵です。
面接時に実際の訪問先や利用者の状況を具体的に説明し、リアルなイメージを持ってもらいます。「思っていたのと違った」という理由での離職を防げます。
注意点2:既存ヘルパーへの配慮を怠らない
新人ヘルパーの教育担当者には、業務量を調整し教育手当を支給するなど、適切な評価と報酬を提供します。既存スタッフに過度な負担をかけると、不満が蓄積し優秀な人材が流出します。
新規採用により業務が増えても、給与が上がらない、評価されないとなれば、既存スタッフのモチベーションは下がります。組織全体のバランスを考えた人事施策が必要です。
注意点3:短期的な視点での人件費削減を避ける
人件費を抑えて目先の利益を確保しようとすると、優秀な人材が他事業所に流出し、長期的には事業所の競争力を失います。人件費は経費ではなく、事業存続のための投資と捉える視点が重要です。
特にヘルパーは事業所の収益の源泉です。適切な処遇により質の高い人材を確保することが、結果的に利用者満足度の向上と事業所の安定経営につながります。
コツ1:特定事業所加算の取得で差別化する
特定事業所加算Ⅰ〜Ⅲを取得することで、1件あたりの報酬が増加し、その分を人件費に充当できます。サービス提供責任者の配置基準、研修実施体制、緊急時対応体制などの要件を満たすことで、サービスの質も向上します。
加算を取得している事業所は求人時の訴求力が高まり、「研修制度が充実している」「質の高いサービスを提供している」というイメージを持ってもらえます。
コツ2:ヘルパー同士のコミュニティ形成を支援
定期的な懇親会や情報交換会を開催し、ヘルパー同士が顔を合わせる機会を作ります。訪問介護は孤独になりがちな仕事ですが、仲間がいることで精神的な支えになります。
LINEグループやチャットツールで日常的にコミュニケーションを取り、困りごとを共有できる環境を整備します。先輩ヘルパーの成功体験を聞ける場を設けることも、モチベーション維持に有効です。
コツ3:地域との連携で認知度を高める
地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、病院の医療連携室などとの関係を強化し、「あの事業所なら安心して紹介できる」という評価を得ます。地域での認知度が高まれば、ケアマネジャーからの紹介や口コミでの応募も増加します。
地域の福祉イベントや介護セミナーに積極的に参加し、事業所の存在をアピールします。地域に根差した信頼される事業所であることが、人材確保にもプラスに働きます。
よくある質問(FAQ)
Q1:小規模事業所でも給与アップは可能ですか?
可能です。まず特定事業所加算の取得により1件あたりの報酬を増やし、その増収分を人件費に充当します。処遇改善加算も確実に取得し、ヘルパーに還元しましょう。また、ICTツール導入で業務を効率化し、1人あたりの訪問件数を増やすことで収益性を高める方法もあります。段階的な給与改善でも、明確なロードマップを示すことで人材確保につながります。法人全体の人件費配分を見直し、ヘルパーへの配分率を高める経営判断も検討してください。
Q2:潜在ヘルパーを採用するコツは何ですか?
「ブランクがあっても大丈夫」という安心感を与えることが重要です。丁寧な研修制度、OJT体制、困ったときの相談窓口を整備し、それを求人情報に明記します。週1日2時間からのスタートOK、時間帯や曜日の希望を最大限配慮するなど、柔軟な働き方を提示します。資格更新研修の受講支援、最新の介護技術・制度の学習機会提供など、ブランク解消のサポート体制があることをアピールしてください。復職後は焦らず段階的に業務を増やす配慮も大切です。
Q3:若手ヘルパーを採用するには?
若手が働きやすい職場環境を整備することが前提です。スマホアプリでの記録入力、キャッシュレス経費精算、オンライン研修など、デジタルネイティブ世代に合ったツールを導入します。キャリアパスを明確化し、「ヘルパー→サービス提供責任者→管理者」「介護福祉士→ケアマネジャー」といった成長イメージを示します。SNSでの積極的な情報発信、若手が活躍している様子の写真・動画掲載も効果的です。初任給を高めに設定し、賞与・昇給制度を充実させることで、長期的なキャリア形成が可能であることを示しましょう。
Q4:外国人ヘルパーの採用は有効ですか?
有効な選択肢の一つです。技能実習制度やEPA(経済連携協定)による外国人介護人材の受け入れが可能です。ただし、言語の壁、文化の違い、在留資格の管理など、受け入れ体制の整備が必要です。日本語研修の実施、生活支援、住居の確保など、サポート体制を構築できる事業所であれば検討価値があります。外国人スタッフは真面目で長期就労を希望する方が多く、定着率が高い傾向があります。受け入れ実績のある事業所や支援機関に相談し、計画的に進めることをお勧めします。
Q5:離職率を下げるために最も効果的な対策は何ですか?
定期的な面談とコミュニケーションです。月1回の個別面談で、業務の悩み、人間関係、健康状態などを丁寧にヒアリングし、問題が小さいうちに対処します。サービス提供責任者や管理者が現場の声を聞く姿勢を持ち、改善提案を積極的に取り入れることで、「大切にされている」という実感を持ってもらえます。過度な業務負担を避け、休暇を取りやすい体制を整備することも重要です。給与や待遇も大切ですが、職場の人間関係と働きやすさが離職率に最も影響します。小さな不満を見逃さず、迅速に対応する姿勢が定着率向上の鍵です。
まとめ
ヘルパー人材不足は、賃金の低さ、高齢化、資格取得のハードル、1対1サービスの精神的負担の4つが主要因です。対策は、賃金体系の見直し、柔軟な働き方の提供、資格取得支援、職場環境整備、ICTツール導入、リファラル採用の6つです。
まずは既存ヘルパーの離職防止に注力し、並行して処遇改善と柔軟な働き方の提示により新規採用を強化してください。小さな改善の積み重ねが、人材確保と事業所の持続可能性につながります。
訪問介護は地域包括ケアシステムの要です。人材確保を最優先課題と位置づけ、できることから着実に実行していきましょう。

